スリランカ救済、脱中国依存へ日本が主導 外相が会談

スリランカ救済、脱中国依存へ日本が主導 外相が会談
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA302030Q4A430C2000000/

『2024年5月4日 11:00 (2024年5月4日 21:15更新)

上川陽子外相は4日、訪問先のスリランカでサブリ外相と会談した。海外から借りたインフラ整備資金などを返済できずデフォルト(債務不履行)に陥る同国の救済策を話し合った。日本は主要な債権国として、融資の中国依存からの脱却を促す。

スリランカのサブリ外相(右)と会談する上川外相(4日、コロンボ)=外務省提供・共同
公平で透明性のある債務再編の重要性を伝えた。債務再編に向けた2国間合意の締結への意思が確認できれば、円借款事業を再開すると説明した。

スリランカはインド洋の島国で中東・アフリカとアジアを結ぶシーレーン(海上交通路)の要衝に位置する。日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」の実現に欠かせない国だ。

上川氏は海図の作成に使うソナー(水中音波探知機)を搭載した船舶を供与すると伝達した。

スリランカは内戦状態にあった国を立て直すためインフラ強化を重視し海外から資金を調達してきた。中国の広域経済圏構想「一帯一路」を支持して道路や空港、港湾の開発で巨額の融資を受けてきた。

日本は資金の返済に窮して主要インフラの権益を中国に奪われる「債務のワナ」を問題視する。スリランカは2017年に99年間におよぶ港の運営権を中国に譲渡した。22年5月にデフォルト状態に陥った。

今も中国による製油所の建設などの融資案件が進行している。インフラを奪われれば安全保障に直結する懸念がある。

スリランカの対外債務残高は23年末時点で373億㌦にのぼる。対外債務のうち2国間で最大の債権国が中国で、全体の4割を占める。日本は2割程度と続く。

上川氏は債務を計画的に返済し透明性の高い開発をすべきだと訴えた。スリランカは日本、インド、フランスが共同議長を務める「債権国会合」と返済猶予や金利減免で合意したが、中国は同会合でオブザーバーにとどまる。

会談に先立ち、上川氏は能登半島地震で被災した石川県の伝統工芸品「輪島塗」のボールペンをサブリ氏に手渡した。ウィクラマシンハ大統領とも会談した。

23年7月に当時の林芳正外相、24年1月に鈴木俊一財務相がスリランカを訪問し、緊密な意思疎通を続けている。日本が持続可能な発展に貢献すると強調し、中国による影響力が高まる事態を防ぐ。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察日本がスリランカの債務軽減に動くのは、

第一にこのまま債務不履行状態が続くと、スリランカの資産をさらに奪われる恐れがあるため、それを防ぐためには返済を可能にしなければならないこと。

第二に、日本がここでスリランカとの関係を深めることで、自由で開かれたインド太平洋という状況を推進することが出来ること。

第三に、多額の借款をしながら救済に向かわない中国の貸し手としての信頼感を失わせること。

日本は戦略的にスリランカの立て直しに協力せざるを得ない状況ではあるが、インドと共に、これを戦略的投資と考えて、日スリランカ関係を再構築していくことが求められる。
2024年5月5日 23:01 』