〈TikTokと日本製鉄〉米国が敵対する2社の大きな違い、理解されていない日本製鉄によるUSスチール買収のメリット

〈TikTokと日本製鉄〉米国が敵対する2社の大きな違い、理解されていない日本製鉄によるUSスチール買収のメリット
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33525

『2024年4月15日

2024年3月20日付の英フィナンシャル・タイムズ紙社説が、米国政府のTikTokへの対応と日本製鉄によるUSスチール買収への対応の間には矛盾があると批判している。
TikTok禁止法案が米下院で可決した(CFoto/アフロ)

 米国の非グローバリゼーションの傾向は一段と加速している。米下院は、中国の所有者が動画アプリを売却しない限り、TikTokを米国で事実上禁止する法案を可決した。

 その僅か24時間後、バイデンは日本製鉄によるUSスチール買収提案(149億ドル)に反対を表明した。これら二つの事案は、国家安全保障上の問題とされているが、その一つは寧ろ粗野な選挙政治のように見える。

 中国所有のTikTokが、米国の安全保障に脅威を与える可能性はある。米当局は、中国がこのアプリを悪用して1700万人の米国の使用者を監視し、またはプロパガンダや誤った情報を拡散することを長い間懸念してきた。

 対照的に、日本企業によるUSスチール買収は、どう考えても国家安全保障上の脅威にはならない。日本は長年の同盟国であり、中国の影響力抑制という利益を共有している。USスチールは、軍への直接供給企業でもない。

 バイデンは、この買収に懸念を表明した際、国家安全保障には言及することなく、「米国の鉄鋼労働者によって支えられる強力な米国の鉄鋼企業を維持する必要がある」と述べた。しかし、バイデンは米国の産業基盤保護のために安全保障概念を拡大しようとしている。日本製鉄による買収は、米国経済にとり脅威となるものではなく、むしろその強化に成るものだ。

 日本製鉄は、USスチールに投資し、その技術の強化を図ると述べている。日本は生産や米国の雇用を海外に移さないこと、または米鉄鋼労組との協定を守ると約束している。しかし、米鉄鋼労組は米国の鉄鋼企業クリーブランド・クリフスがより労組寄りだと見做し、早い段階で一層低額な同社の入札を支持していた。

 USスチールの本社は、11月の大統領選挙で重要なペンシルベニア州にある。トランプは、日本の取引を阻止すると述べ、それはバイデンにジレンマとなった。』

『バイデンは、もしTikTok法案が議会を通れば、それに署名すると述べた。恐らく、この法案が超党派の支持を得ているとみたのだろう。しかし、日本製鉄に関してバイデンは、本当の経済利益よりも短期的な選挙を優先させている。

 例え、大統領府は単に選挙以降まで日本との取引を遅らせようとしているだけであっても、かかる介入は不可欠な海外からの投資を阻害する。さらに、バイデン政権は「フレンド・ショアリング」を強調し、同盟国との供給網構築に集中している。フレンド・ショアリングは双方向であるべきだ。

 米経済の将来を守る最善の手段は、グローバリゼーションからの撤退ではない。必要な時には競争相手国に対し思慮分別のある国家安全保障セーフガードを発動するとともに、同盟国との一層の統合深化が必要である。

*   *   *
全米鉄鋼労組の反対理由

 この社説が述べる以上の正論はない。勇気づけられる論調だ。

 社説は、TikTokが米国の安全保障上の脅威となる可能性があるとして、規制が必要なことに同意するが、日本製鉄については、「日本企業によるUSスチール買収は、どう考えても国家安全保障上の脅威にはならない。日本は長年の同盟国であり、中国の影響力抑制という利益を共有している」、「USスチールは、軍への直接供給企業でもない」、「日本製鉄による買収は、米国経済にとり脅威となるものではなく、寧ろその強化に成るものだ」と主張する。

 バイデン政権は仮に「単に選挙以降まで日本との取引を遅らせようとしているだけであっても、かかる介入は不可欠な海外からの投資を阻害する可能性がある。更に、バイデン政権は『フレンド・ショアリング』を強調し、同盟国との供給網構築に集中している。フレンド・ショアリングは双方向であるべきだ。米経済の将来を守る最善の手段は、グローバリゼーションからの撤退ではない」と述べる。

 「必要な時には競争相手国に対し思慮分別のある国家安全保障セーフガードを発動するとともに、友邦国との一層の統合深化を続けていくことが必要である」という最後の一文が印象的である。』

『全米鉄鋼労組(USW)は反対を強めている。3月18日、USW会長マッコールは、CNBCとのインタビューで、改めて反対を主張した。

 「労働協約の署名者や雇用の保証などについて不満がある」という。また、「問題なのは取引主体だ。(組合との間で結ぶ)労働協約の署名者となるのは日鉄ではなく、同社の米子会社となるため(グループの)財務状況が報告されない」、「労働者への利益分配が適切に実施されているか検証しにくくなる恐れがある」、「日本は同盟国であるのは確かだが、経済面ではそうではない。日本は(鉄鋼製品で)ダンピング(不当廉売)をしてきた」と言い、「日本は鉄鋼分野で過剰生産能力を抱えているとの懸念も明らか」にするとともに、「日鉄も含め、日本と中国の製鉄会社が共同企業体(JV)を設けていることを問題視している」とも述べた。

 今回買収される予定のUSスチールや米経済の全体にとっての経済的メリット(他の方法では満たされない)が、米国の関係者により十分に理解されていないことに懸念を覚える。3月14日付のウォールストリート・ジャーナル紙社説(「日本製鉄に対する大失敗」)は、日本製鉄の買収を全面的に支持するとともに、バイデンの対応を批判している。これも的を射た社説である。

TikTokを許した米国の問題点

 米下院は、3月13日、中国の親会社バイトダンスに対し、6カ月以内にTikTokの議決権株式を売却しなければ、米国でのアプリ販売を禁止するとした法案(「米国民を外国敵対勢力管理アプリケーションから保護する法律」)を超党派で可決した。なお、成立には上院での可決と大統領の署名が必要となる。但し、トランプが法案に反対のため、上院での見通しは不透明だともみられる。

 なぜ、米国でここまでTikTokが巨大になるのを許したのか、なぜ米企業で同種のアプリが開発されなかったのか、不思議である。安全保障以前の問題があるようにも思える。』