安保インフラ、南西対処に重点 政府が16空港・港湾整備

安保インフラ、南西対処に重点 政府が16空港・港湾整備
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA288GR0Y4A320C2000000/

『2024年4月1日 15:24 (2024年4月1日 20:45更新)

政府は1日、防衛力強化に向けて整備するインフラ施設として7道県の計16空港・港湾を指定した。自衛隊や海上保安庁が有事に使用するのを前提に国が改修し、訓練や物資輸送をしやすくする。東アジアの安全保障で要衝となる南西地域に重点を置いた。

16空港・港湾は北海道、香川、高知、福岡、長崎、宮崎、沖縄の7道県にある。台湾有事を念頭に取り組む南西諸島の防衛や邦人退避を想定し、九州と沖縄の施設が7カ所を占めた。自衛隊の部隊が多く、弾薬の7割程度を置く北海道からは5港湾を選んだ。

いずれの空港・港湾も普段は民間用として使われている。現状では防衛用途の使い勝手が悪いため、順次施設を改修していく。

「特定利用空港・港湾」として関係閣僚会議の持ち回りで決めた。

複数年をかけて整備する想定で、2024年度予算の公共事業費から370億円を充てる。22年末にまとめた国家安全保障戦略に基づき、省庁間の縦割りを排して防衛強化に取り組む事例にあたる。

政府は指定に先立ち、対象として10道県の計33施設を調査した。沖縄県内が12施設と最も多かったが、今回、県内で指定したのは那覇空港と石垣港の2カ所にとどめた。指定を見送った与那国空港や宮古空港、中城湾港などは県や地元自治体などからの同意を得られなかった。

具体的な改修作業として、空港なら戦闘機や輸送機の離着陸ができるように滑走路を延伸したり駐機場を整備したりする。港湾の場合、大型輸送艦の接岸を可能にするため岸壁の増築や海底の掘り下げを計画する。

万が一、東アジア周辺で軍事衝突が起これば自衛隊や海保も物資輸送や邦人退避などにあたる事態が想定される。特定公共施設利用法に基づき有事に民間向けの空港・港湾を優先的に使える仕組みはあるものの、平時は使用を裏付ける規定がない。

普段から訓練などで使用していない空港・港湾では自衛隊の即応性が担保できないとの指摘が出ていた。改修にあたり政府と施設を管理する自治体などの間で、合理的な理由がある場合は自衛隊などが施設を使えるよう新たなルールを定めた。

中国の軍事力増強と海洋進出を受け、政府は防衛力の南西シフトを進めている。22年には中国の弾道ミサイルが与那国島近くに飛び、日本の排他的経済水域(EEZ)内に初めて落下した。南西方面の安保環境は年々厳しくなっている。

日本は米欧と比べ公共事業予算のなかで防衛目的の割合が小さい。全国各地で空港・港湾を整備する一方で、有事に安保目的で利用することを想定した備えに欠く。

政府は今回、沖縄県や地元自治体の同意を得られなかった空港・港湾に関し、自治体側に軍民共用や自衛隊の拠点化を進めるものではないと説明していた。

沖縄県の玉城デニー知事は1日、「整備に係る予算計上方法や整備後の運用など不明な点が残されている。引き続き国に確認を行う」とのコメントを発表した。県側には有事に攻撃対象にならないかとの懸念があり、自衛隊の使用頻度が示されないことも不安視する。
政府は引き続き理解を求めていく。林芳正官房長官は1日の記者会見で「丁寧に調整を進め、早期に了解いただけるよう努める」と語った。

特定利用空港・港湾の整備の意義についても「日本への攻撃を未然に防ぐための抑止力や対処力を高め、日本への攻撃の可能性を低下させ、日本国民の安全につながる」と強調した。

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