メキシコ投資、1〜2月258億ドル ニアショアリング勢い
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN130430T10C24A3000000/
『2024年3月28日 2:00
【メキシコシティ=市原朋大】メキシコ経済省は、2024年1〜2月の2カ月間に公表された国内外企業の直接投資が258億ドル(約3兆8000億円)に達したと明らかにした。2023年通年の外国直接投資の7割を超える規模で、ペソ高の逆風下でも巨大市場・米国の近くに生産拠点を置く「ニアショアリング」の勢いが続く。
60%超が米国から
同省によると、1〜2月に発表された投資件数は52件。投資額がトップだっ…
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『60%超が米国から
同省によると、1〜2月に発表された投資件数は52件。投資額がトップだったメキシコ地盤のFEMSAはコカ・コーラのボトラーも手掛ける多国籍企業で、コンビニエンスストアの「OXXO(オクソ)」も傘下に持つ。メキシコでは今後5年間で99億ドルを投じ、生産や店舗網を拡充する。
投資額の2位は米アマゾン(49億ドル)、3位には独DHLサプライチェーン(40億ドル)が続いた。アマゾンはケレタロ州のデータセンターに投資する方針だ。4位にテルニウム(アルゼンチン)の製鉄所投資、5位には独フォルクスワーゲン(VW)によるプエブラ工場への追加投資が食い込んでいる。
経済省は国別では全体の61%が米国からの投資、とした。FEMSAの本拠地はメキシコだが、コカ・コーラのボトラーとして米国資本に含めたカテゴリー分類にも起因する。国別の2位はドイツ(20%)、3位にはアルゼンチン(7%)が入り、4位は中国(6%)だった。』
『EV大手も進出計画
業種別では製造業が62%を占めた。表明された新規雇用の合計は2万8000人あまりで、47%は自動車関連産業だった。電気自動車(EV)普及が遅れているメキシコだが、米国向けのEV輸出拠点としては世界大手が選択肢に残す。基準をクリアすれば関税をゼロにできる「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」の恩恵が大きい。
電気自動車(EV)世界大手の米テスラは23年にメキシコ進出を発表し、中国・比亜迪(BYD)も工場の建設を検討していると明らかにした。テスラはヌエボ・レオン州に進出予定で、BYDもハリスコ州など北部地域が有力候補に挙がる。自動車産業は雇用インパクトも大きく、メキシコ北部では人件費の上昇が続く。』
『「メキシコ経由」に警戒
メキシコは23年まで3年連続で直接投資が増えた。11月に予定される米大統領選挙で、共和党の候補指名を決めたトランプ前大統領は当選した場合に中国からの輸入製品に6割を超える関税を課すと明言している。民主党の指名を決めたバイデン大統領も、中国企業がメキシコを迂回して米国に製品を送り込む動きに警戒感を隠さない。
トランプ氏はさらに、中国企業によるメキシコ経由の輸出には100%の関税をかけると踏み込んだ。英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、23年1〜9月に中国からメキシコに輸出されたコンテナは前年同期比3割弱増えた。米国への直接投資や輸出による先行きリスクを避け、メキシコを利用しようとする中国企業の思惑は鮮明だ。
バイデン氏とトランプ氏はそれぞれ民主党、共和党の指名を獲得した。本選ではどちらが当選しても、米国による中国企業への締め付けは厳しくなると見る向きが多い。』
『投資拡大に2つの「追い風」
24年はメキシコでも大統領選が予定されているが、立候補した3氏はいずれも海外直接投資の誘致に積極的な姿勢を見せる。
左派のロペスオブラドール現大統領の企業政策は自国中心の色が強く、同じ左派でも新政権ではこうした姿勢が改善すると見る向きが多い。何よりも、国境を接する米国との関係でメキシコの投資妙味が増しているのが相次ぐ進出の原動力といえる。
通貨ペソは1ドル=17ペソを割り込み、対ドルで2015年以来の高値圏にある。米国企業にとってメキシコ投資の負担感は重いものの、メキシコの最低賃金は都市部の日給が米大都市圏の時給と同程度。米国とメキシコの賃金の隔たりはなお大きい。
23年には全米自動車労組(UAW)をはじめ、多くの有力組合が賃金の引き上げを求めてストライキに打って出た。メキシコでも物価上昇(インフレ)は続いているものの、ストはまだ全国的な動きにはなっていない。人件費コストの格差にくわえ、地政学リスクという2つの要素を考慮して外国からの投資が進む。』
『日本企業の進出には、まだ勢いがない。ある日系商社の幹部は「中国勢はいつも市場を作りに来る。日本企業はまずコストありき」と違いを指摘する。テスラやBYD向けの供給を狙うサプライヤーもこれから続々と進出を狙っているとみられ、メキシコへの投資熱は当面やみそうもない。
中国メディアによると、中国南方航空は4月にメキシコシティへ中国から直行便を開設する。中国に代わって米国との貿易額でもトップに立ったメキシコには、中国企業の関心も高い。逆風下の投資拡大の流れが続きそうだ。』