国連安保理、北朝鮮制裁調査延長できず ロシアが拒否権

国連安保理、北朝鮮制裁調査延長できず ロシアが拒否権
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN28EFM0Y4A320C2000000/

『2024年3月29日 8:23 (2024年3月29日 8:49更新)

【ニューヨーク=三島大地】国連の北朝鮮包囲網に綻びが生じている。

安全保障理事会は28日、北朝鮮への制裁状況を調査する専門家パネルの任期を延長する決議案を否決した。

北朝鮮との兵器の取引を指摘されているロシアが拒否権を行使したためで、日米韓などからは強い反発の声が上がっている。

北朝鮮への武器輸出発覚、拒否権の理由か

北朝鮮が2006年に初めて核実験を行って以降、国連は安保理決議に基づき北朝鮮に制裁…

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『北朝鮮が2006年に初めて核実験を行って以降、国連は安保理決議に基づき北朝鮮に制裁措置を科している。09年には制裁状況を調査・監視する専門家パネルを設置し、以後、年2回報告書を作成してきた。

専門家の任期は1年で、毎年更新されてきた。28日の安保理では専門家の任期を延長する決議案が採決にかけられたが、常任理事国であるロシアの拒否権行使で否決された。日本や米国など13カ国は賛成票を投じ、中国は棄権した。

06年の安保理決議は北朝鮮に①弾道ミサイルや核関連活動を直ちに停止すること、②ミサイルの発射や核実験、その他の挑発を行わないこと③完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法で(核兵器などを)放棄すること――を求めている。

その後も北朝鮮が決議違反を繰り返したことで、安保理は計11回にわたり制裁決議案を全会一致で採択してきた。専門家パネルも14年にわたり延長されてきたものだ。

ロシアが反発を強める契機となったのが、3月に公開された23年の専門家パネルの報告書だ。北朝鮮とロシアの間で武器の取引があった可能性を指摘する内容が盛り込まれていた。

北朝鮮からの兵器購入は制裁違反に当たる。議長国である日本の山崎和之国連大使は会合で「北朝鮮から調達した軍需品をウクライナへの侵略に使用しており、安保理決議の明白な違反にあたる」と非難した。

ロシアのネベンジャ国連大使は拒否権行使の理由として「(専門家パネルは)制裁体制の状況について冷静な評価を打ち出すことができない」ことを挙げた。無期限とされている制裁措置の期限を毎年更新に見直すべきだとの持論も展開した。

制裁は継続
他の理事国は反発する。韓国の黄浚局(ファン・ジュングク)大使は「ロシアはまったく容認できない条件を主張し、それを口実に拒否権を行使した」と批判。イギリスのウッドワード大使も「この拒否権は北朝鮮の人々への配慮を示すものではなく、ウクライナに使用する武器を求めて制裁を破り、侵略する自由を得たロシア自身のためのものだ」と強調した。

延長案が否決されても、北朝鮮への制裁措置自体の効力は失われない。会合後、スイスのベリスヴィール大使は「すべての扉が閉ざされているわけではない」として交渉を続ける考えを示した。近日中に拒否権発動の是非を問う国連総会も予定される。

もっとも、ロシアが延長を拒否し続ければ専門家による調査は継続できなくなる。その間にも北朝鮮はサイバー攻撃によって獲得した暗号資産(仮想通貨)などを元手に核やミサイル開発を続ける懸念がある。

調査が打ち切りになれば、こうした実態を国際社会に明らかにするすべは失われる。山崎大使は「我々は今、大量破壊兵器の不拡散を将来にわたって確保するための歴史的な岐路に立っている」と危機感をあらわにする。

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植木安弘
上智大学グローバル・スタディーズ研究科 教授
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ひとこと解説 ロシアは、北朝鮮制裁専門家パネルの任期延長拒否というこれまでの安保理決議を自ら翻すという無責任な行動を取っている。

北朝鮮との武器取引は明らかな制裁違反であり、ウクライナへの侵略をはじめ、安保理決議も無視する行為で、国際秩序規範を自ら
破っている。

安保理の常任理事国としての資格失格と言えるが、安保理改革は進まない。

来る国連総会での説明責任時に、出来るだけ多くの国々がこのような態度を糾弾する必要がある。

2024年3月29日 11:52いいね
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竹内舞子のアバター
竹内舞子
経済産業研究所 コンサルティングフェロー、CCSIアジア太平洋 CEO
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ひとこと解説 21年まで5年間パネル委員を務めました。

パネルの活動は安保理決議に基づいていて、各国がパネルの調査に協力すべきことも決議で定められているので、有志国の調査やシンクタンクなどとは違う強力な権限があります。各国のあらゆる事例を、中立の立場で調査し、証拠と共に報告書で公表してきました。
これまでも、北朝鮮制裁をめぐる対立はあったものの、ロシアは、安保理常任理事国として安保理決議は尊重する立場を取ってきました。

今回、ウクライナ戦争のため北朝鮮の支援を得るという国益を優先し、自ら安保理の権能を弱体化させる決定を行ったことは深刻です。

パネルの監視がなくなれば、北朝鮮はさらに制裁違反を進めるでしょう。

2024年3月29日 10:01 』