「ほぼトラ」と中ロ蜜月の変調 指導者の寿命が起こす波
政策報道ユニット長 吉野直也
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA086PG0Y4A200C2000000/




『2024年2月16日 5:00
中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領㊧、米国のトランプ前大統領(写真はいずれもロイター)
トランプ前大統領(77)が11月の米大統領選の共和党候補指名を確実にしつつある。不測の事態がない限り、前回2020年と同じトランプ氏とバイデン大統領(81)の再戦となる。米世論調査の数字から「もしトラ」ではなく「ほぼトラ」ではないか、との見方も出ている。世界はどう変わるのか。
トランプ、バイデン両氏の「持ち時間」は4年
政治を動かすのは各国の指導者の持ち時間である。米国憲法は大統領の任期を原則2
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』
『ロシア人男性の平均寿命は68.2歳で、プーチン氏は現状で上回っている。指導者の寿命は一般の国民よりも長い傾向なので、一概に持ち時間はいえない。
それでも日本人男性の平均寿命81.5歳をプーチン氏に当てはめて計算すると、日本人でいう80歳代半ばとみることもできる。
旧ソ連時代も権力者が共産党書記長などの地位を放さず、マレンコフとフルシチョフらを除き死去によって移譲した。
プーチン氏が最初に大統領に就いたのは2000年。「お手盛り」の選挙で3月に再選されれば任期は30年までとなる。事実上の最高権力者たる期間は旧ソ連時代のスターリンにほぼ並ぶ。プーチン氏は78歳となり、日本人男性でいう90歳を超える。
プーチン氏が年齢から来る焦りでウクライナ侵略に突き進み、侵略後の想定外の遅れがさらなる焦りを生む。トランプ氏の再登板に飛びつきたい心境だろう。』
『経済軽視のツケが忍び寄る習氏の足元
同じ専制国家、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席(70)の持ち時間はどうか。
中国人男性の平均寿命は74.7歳。最高指導者のまま死去したのは毛沢東だけだ。鄧小平氏は85歳、江沢民氏は76歳、胡錦濤氏は69歳で最高指導者を退いた。任期制限を自らの手で撤廃した習氏の持ち時間は寿命に近似するとの観測がある。
独裁色を濃くする習氏の足元の中国経済には不動産不況が直撃している。経済軽視のツケが徐々に忍び寄る。
トランプ氏は中国に一律60%超の関税を課すことを検討していると表明した。再登場となれば習氏に追い打ちをかけかねない。
60%超の関税になれば、中国経済の苦境は加速する。中国は「よりまし」論でバイデン氏に心情的に傾いていくのか。トランプ氏でも「4年の我慢」と達観し、台湾に関心が乏しい点をプラス要因と思い込もうとするのか。』
『トランプ氏再登場なら中ロ間にさざ波
トランプ氏の再登場を巡るプーチン氏と習氏の心理的な負担の違いは、中ロの蜜月関係に変調をもたらす可能性がある。
冷戦下のソ連時代、経済力で中国を引き離していたが、いまや逆転されたうえにロシアと中国の差は歴然。国際通貨基金(IMF)の統計によると、22年のドルベースの名目GDPは中国(18兆ドル)がロシアのおよそ8倍だった。
ソ連崩壊直後から中国が優位に立ち、その差はワニの口のように広がった。中国はさらに伸びる余地がある。経済力は軍事力にも直結する。
ウクライナを侵略したプーチン氏は習氏に軍事支援を求めたものの、中国は正面から応えなかった。これがプーチン氏の北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記への接近の背後にある。
専制国家陣営の中国「1強」にはロ朝の沈殿した複雑な心情がある。トランプ氏の再登場は中ロ間にさざ波を起こすかもしれない。』
『リスクにも内向きな日本
日本にも影響は及ぶ。日本の首相選びと米大統領選は連動しないはずだが、関連付けて語られるのも今回のトランプ現象の一つだ。
安倍晋三元首相は1期目のトランプ氏と強固な関係をつくり、日米同盟の深化にむすびついた。世界の経済成長の拠点で、地政学的な要衝でもあるアジアの重要性を理解できないトランプ氏の気まぐれは、日本にもアジアにもリスクであり続けている。
政局の焦点は岸田文雄首相(66)が9月に任期満了を迎える自民党総裁の再選をめざし、総裁選前に衆院解散・総選挙に踏み切るかどうかにある。トランプリスクに対処するうえで政局の流動化は回避したいところだ。
自民党の麻生太郎副総裁(83)は1月に訪米した。トランプ氏との面会を探ったが、実現しなかった。ポスト岸田不在の折、麻生氏本人に意欲があるのか、と永田町は疑心暗鬼になった。
「ほぼトラ」を見据えて米国の外交・安保と経済の様変わりに身構える世界と、派閥とカネの問題に多くの時間を割く日本の国会。この好対照は内向きな日本と世界からの劣後に重なってみえる。
【関連記事】
・次の米大統領「バイデン氏がいい」 プーチン氏の真意は
・[FT]トランプ氏、米外交に打撃 ウクライナより自分優先
・「トランプ2.0」正しく恐れよ 民主主義の変質に先手を
吉野直也(よしの・なおや) 政治記者として細川護熙首相から岸田文雄首相まで15人の首相を取材し、財務省、経済産業省、金融庁など経済官庁も担当。2012年4月から17年3月までワシントン駐在、12年と16年の米大統領選を現地で報じた。政治部長を経て23年4月から現職。ラジオNIKKEIのポッドキャスト番組「吉野直也のNIKKEI切り抜きニュース」を配信中 』
『神保謙のアバター
神保謙
慶應義塾大学総合政策学部 教授
コメントメニュー
分析・考察 中国やロシアなどの権威主義国家において指導者への権力集中が進むと、法体系・制度・組織よりもリーダー個人を焦点に分析せざるを得ない。
法・制度・組織は長期に存続するが、人には寿命がある。
しかしバイデン大統領が81歳で再選を狙う(=85歳まで大統領)とすれば、プーチン大統領と習近平主席があと10年間は権力に居続ける可能性を念頭に置くことも重要となる。
なお習近平の父の習仲勲は88歳で他界、母は97歳で健在だ。
2024年2月16日 13:26いいね
45
柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
コメントメニュー
分析・考察 国家戦略について重要なのは戦略性である。あってはならないのは政治指導者の個人的な好き嫌いで政策を決めることである。
この二点について、トランプはいずれもダメな大統領といえる。
ただし、トランプ支持者は国家の将来よりも、現状に対する不満からトランプを支持。
無責任な指導者は無責任な国家を作る。アメリカの国力は弱くなる可能性が高い。結果的に世界は不安定化する
2024年2月16日 6:14』