分断G20、ロシア経済の反転許す 中印の輸入急増

分断G20、ロシア経済の反転許す 中印の輸入急増
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB228QM0S4A220C2000000/

『ロシアが高い経済成長を保っている。ウクライナ侵攻後、西側諸国から経済制裁を科されたが、代わりに中国やインド、ブラジルなど制裁に参加していない国との貿易を増やして補っているためだ。20カ国・地域(G20)内の分断がロシア経済の反転を許している構図が浮かび上がる。

ロシアの2023年の国内総生産(GDP)は前年比3.6%増えた。国際通貨基金(IMF)は1月、ロシアの24年のGDP成長率を2.6%に上…

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『国際通貨基金(IMF)は1月、ロシアの24年のGDP成長率を2.6%に上方修正した。同時期の主要7カ国(G7)の平均成長率の約1.0%を大きく引き離す。

背景にはロシアを含めたブラジル、インド、中国、南アフリカで構成するBRICS内の貿易増加がある。

「中国の企業からロシアへの武器や軍事生産用の材料・部品の移転について懸念を表明する」。24日開いたG7首脳会合の共同声明ではこう明記した。

日本、米国、欧州連合(EU)、英国のロシアからの輸入額はこの2年間で約7割、金額にして計1841億ドル(約27.6兆円)減った。

一方、各国政府の統計などを集計したところ、BRICSにインドネシア、トルコを加えた新興国6カ国のロシアからの輸入額は21年から23年の2年間で計1244億ドル増えた。日米欧の減少分の7割を新興国6カ国の輸入増が補った計算だ。

対ロシア制裁で中立の実利外交を貫くインドの輸入額は7倍に膨らみ、中国は6割増、G20議長国のブラジルも8割増えた。いずれも過去最高になった可能性がある。ロシア産の石油やディーゼル燃料などの輸入も増加した。

G7などは22年12月にロシア産原油の価格に上限を設ける措置を導入したが、これもロシアのエネルギー収入を断つ仕組みにはなっていない。ロシア産原油の流通量を確保しなければ、原油高がインフレに拍車をかけたり、供給不安が途上国経済の逆風になったりする懸念があるためだ。

米財務省によると23年1〜9月にはロシアの石油税収が前年同期比40%落ち込んだ。ブラジル・サンパウロで開かれているG20財務相・中央銀行総裁会議に先立って27日に記者会見したイエレン米財務長官は「価格上限を導入して以来、ほかの国々は安定と価格低下の恩恵を受けている」と成果を強調したが、供給量の確保と制裁という二兎(にと)を追う戦略はロシアの戦費調達を断つ決定打になっていない。

侵攻直後に西側諸国が急いだ金融規制網もロシア経済を封じ込めるには不十分だった。国際銀行間通信協会(Swift、スウィフト)からロシアの主要銀行を遮断したものの、資源金融を手掛けるガスプロムバンクは対象外のままだ。

液化天然ガス(LNG)などロシア資源への依存を完全に断ち切ることができず、ガスプロムバンクは依然としてロシアの資源輸出の代金を受け取るハブ銀行として機能している。
むしろ新興国はロシアとの結びつきをさらに強めている。中国はロシアとの取引拡大に向け、人民元決済を広げた。

ロイター通信によると、インドはロシアと自由貿易協定(FTA)を締結する協議に入っている。

西側諸国にとって最大のリスクは米国の政治情勢だ。米連邦議会はウクライナ支援の継続をめぐり紛糾している。11月の米大統領選を控え、トランプ前大統領に近い共和党の保守強硬派が反対しているためだ。

27日の記者会見でイエレン米財務長官は「ウクライナが英雄的な抵抗を続けられるよう、下院は予算確保に行動しなければならない」と米国内に呼びかけた。

G7のGDPは世界の4割ほどに縮小している。いまやBRICSは世界人口の4割を占め、24年1月からエジプトなどが新たに加わり、今後も高い経済成長が見込まれる。G20の足並みがそろわない中では、ドル経済圏からロシアを締め出しても兵糧攻めの効果には限界がある。
米議会の混乱などウクライナへの「支援疲れ」も目立ってきた。ロシアも参加するG20では侵攻後、踏み込んだ合意がまとまらなくなっており、今回も直接的な言及は難しいとみられる。

(サンパウロ=五艘志織、高見浩輔、ロンドン=山下晃)』