インドGDP8.4%増、10〜12月内需堅調 製造業振興遅れ

インドGDP8.4%増、10〜12月内需堅調 製造業振興遅れ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM28AJP0Y4A220C2000000/

『【ニューデリー=岩城聡、ムンバイ=花田亮輔】インド政府は29日、2023年10〜12月期の実質国内総生産(GDP)の成長率が8.4%だったと発表した。13四半期連続のプラス成長で、内需がけん引し高成長が続いている。製造業振興の遅れなどの課題も残る。

政府はこれまで23年7〜9月のGDP成長率を7.6%と公表していたが、今回8.1%に修正した。23年4〜6月期も従来の7.8%から8.2%にした。2…

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『23年4〜6月期も従来の7.8%から8.2%にした。23年10〜12月期はこれを上回る。

各産業の付加価値を積み上げた実質ベースの粗付加価値(GVA)成長率をセクター別にみると、金融・不動産サービスは7.0%、貿易・ホテル・通信関連が6.7%だった。GVAのうち高い割合を占めるサービス部門が下支えした。

一方で、政府支出の伸び率は7.8%だった。9〜10%程度だった前の2四半期に比べて低い。インド財務省は23年9月、23年度の財政赤字を抑える目標は達成可能との見解を示していた。そこに合わせる形で10月以降の大型インフラ事業への新たな支出を抑制したと見られる。

政府は29日、23年度(23年4月〜24年3月)の成長率について、主要国で最高水準の7.6%とする予測を示した。これまで7.3%としていたが、上方修正した。5月までに予定される5年に1度の総選挙を前に、再選を狙うモディ首相の追い風になるとみられる。

インド準備銀行(中央銀行)のダス総裁は2月、「インフレが鈍化傾向にあるなか、成長は加速し大方の予測を超えている」と手応えを示した。

インドの人口は中国を抜いて世界一となり、60年代半ばまで増加が見込まれる。膨大な内需が経済成長の原動力となる。都市部を中心に、所得水準の向上を反映した光景が広がる。

23年4月、ムンバイで米アップルの直営店が同国で初めてオープンした。開業初日には平日にもかかわらず数百人の人々が列をつくった。

同11月にもムンバイで大手財閥リライアンス系の新たな商業施設が開業した。「グッチ」や「ロレックス」などが軒を連ね、ブランドに身を包んだ現地の富裕層が行き交う。

安価な小型車が中心だった自動車市場でも、中間層の台頭により多目的スポーツ車(SUV)などの人気が高まっている。首都ニューデリーで2月に開催された国際自動車ショーでも、各社がSUVや電気自動車(EV)を展示していた。

インドの新車販売は23年に500万台を超え、2年連続で日本を上回った。スズキはインドにおける四輪の年産能力を30年度に400万台と、現在の2倍弱に増やす計画だ。内需向けの生産だけでなく、インドからの輸出も拡大していく方針だ。

「私たちはインドの競争力に自信を持っている」。現地子会社であるマルチ・スズキのラフル・バルティ執行役員は業界の先行きに自信を示す。「29年には世界一の自動車生産ハブになる」(ガドカリ道路交通・高速道路相)との強気の声もみられる。

官民ともに「製造業主導の成長」に自信をみせるが、経済統計における製造業の存在感は依然として薄い。世界銀行のデータによると、インドは22年のGDPに占める製造業の比率が13.3%に過ぎず、中国(27.7%)やベトナム(24.8%)と比べて低い。

モディ政権は14年の発足直後、産業振興政策「メーク・イン・インディア」を掲げた。当初はGDPに占める製造業の割合を22年までに25%に引き上げるとしていたが、未達成となっている。

政府が29日発表した製造業のGVA成長率は11.6%だった。だが全体への寄与度はまだ小さい。

平均年齢が約28歳のインドでは、毎年約1000万人から1200万人が労働市場に加わる。製造業は雇用創出を通じて内需拡大を促しやすいが、すそ野の広がりが乏しいと結果的に家計消費拡大の妨げになる。

インドは東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)から離脱したほか、メガ自由貿易協定(FTA)などに及び腰で、対外開放路線にかじを切ってこなかった。

「インドの製造業には競争優位性がなく、機会損失につながっている」と、インディア・レーティングス・アンド・リサーチのエコノミスト、スニル・クマール・シンハ氏は指摘する。

構造改革に十分なメスを入れてこなかった点も、成長の阻害要因になりかねない。インフラ開発を阻む硬直的な土地収用法の改正や、中小・中堅企業の解雇規制の緩和を含めた労働法制改革などの経済改革が求められる。

第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミストは「インドは米中摩擦などを背景にしたデカップリングやデリスキング(リスク軽減)を追い風に、海外直接投資の対象として耳目を集めているが『期待先行』の域を出ない」と分析する。

国際通貨基金(IMF)によると、名目GDPでは26年に日本などを抜き世界3位に浮上する見通しだ。モディ氏は22年8月、独立100周年を迎える47年までにインドを先進国入りさせると宣言している。

インドでは5月までに総選挙が実施され、与党・インド人民党を率いるモディ氏が3期目を目指す。「ビジネスのしやすさ」につながる構造改革が進まなければ、インドへの期待が一転して萎むリスクを抱えかねない。』