テイラー・スウィフト現象、日本の「もしトラ戦略」に影

テイラー・スウィフト現象、日本の「もしトラ戦略」に影
風見鶏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1014O0Q4A210C2000000/

『米国大統領として初めて広島の原爆資料館に訪れるという歴史的事業は残したものの、南シナ海で人工島建設などを進める中国にどこまで強い姿勢を示すかには相違があった。
トランプ氏が大統領に就任する前の11月。訪米した安倍氏はニューヨークでの会談で構想を実行に移した。「中国は軍事力を40倍に増やしている」「米国の第7艦隊を狙っている」。米国にとっての中国のリスクをとうとうと説いた。

それから8年。「ほぼトラ」といった言葉が飛び交うように、トランプ氏再登板の可能性は高まってきた。あのときと同じ戦略は通用するのか。

注目すべきは米国の人気歌手テイラー・スウィフトさんだ。若年層を中心に熱狂的なファンを持ち、インスタグラムのフォロワーは2億8000万人。

スウィフトさんに促されたら投票にいくと答えた若者が2割いたとの調査結果もある。その影響力は「スウィフト現象」と呼ばれる。無党派層に与える力を軽視できないとみたのか、トランプ氏は11日、自らのSNS(交流サイト)でスウィフトさんに言及した。

「米国史上最悪で最も腐敗した大統領であるバイデンを彼女が支持するわけがない」

背景には米社会の変質がある。米ギャラップが今年1月に報じた世論調査をみると、スウィフトさんを支持する若者らに多い無党派は43%。14年調査に並んで2000年以降でもっとも高い水準に達した。民主党と共和党の支持層は27%にとどまる。

早大の中林美恵子教授は「トランプ氏の出現以来、世論が陰謀論や極左、極右といった過激な意見に流されやすくなり、結果として無党派層が存在感を増した」と語る。

中林氏は「トランプ氏のように世論を動かす人物がでてくると振り子が大きく振れる土壌が米国に定着した」と指摘する。これは安全保障を米国に頼ってきた日本に重くのしかかる。

トランプ氏は国防費を負担しない北大西洋条約機構(NATO)の加盟国は守らないとの発言で各国に衝撃を与えた。NATOはそれでも集団防衛の仕組みがあるが、日本の防衛を条約上認めているのは米国しかいない。

自衛隊トップの吉田圭秀統合幕僚長は「これからは抑止力の米軍依存が大きすぎると米国内で費用対効果を問う声が出てくる」と警鐘を鳴らす。その声がトランプ氏やスウィフトさんのようなインフルエンサーに増幅されれば止めることは難しいかもしれない。

ポスト冷戦期が終わりを告げ、国際政治はグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国が発言力を強める時代に入った。日米同盟の維持・強化に努めながら欧州やインド、韓国といった同志国との安全保障協力も急ぐ必要がある。

米国で振り子が揺れて内向き志向が強まれば、8年前と同じトランプ戦略が奏功するとは限らない。

ひるがえって日本の国内政治をみると与野党は政治資金問題の論争に終始する。政治への信頼を回復する取り組みは必要とはいえ、そうしている間に大統領選まで残り9カ月を切った。構想を練る時間はあまりないことを認識すべきだろう。(重田俊介)

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