IMF、所得税減税の効果疑問視 日銀に「段階利上げ」促す
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA08E290Y4A200C2000000/
『2024年2月9日 13:25 (2024年2月9日 18:37更新)
国際通貨基金(IMF)は9日、日本政府が6月に実施する所得税と住民税の定額減税について「成長に及ぼす影響は限定的と予想される」との見解を表明した。物価上昇率が日銀目標の2%程度に落ち着くと見込み、大規模な金融緩和を終わらせ、段階的な利上げに踏み切るよう促した。
年に1度の対日経済審査を終え、声明を公表した。
日本の財政政策に関して、厳しい見方を示した。経済が引き続き回復していることから、歳出抑制など引き締め策に軸足を移すべきだと提起した。
なかでも、岸田文雄首相が打ち出した所得税減税は債務状況を悪化させると指摘。2023年11月にまとめた経済対策を「妥当でない」として、ガソリン補助金を低所得層に的を絞った給付金に置き換えるといった具体案を示した。
補正予算を毎年編成する慣行も改めるべきだと訴えた。本来の趣旨に沿って「予期せぬ大きな経済ショックが発生した場合」にだけ予算を組むよう求めた。
金融政策では長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の即時の撤廃を要請した。「(13年に始めた)量的・質的金融緩和(QQE)を終わらせ、その後は短期政策金利を段階的に引き上げることを検討すべきだ」と主張した。
YCCとQQEはインフレ期待を引き上げるといった本来の目的を「すでに成功裏に達成している」との考えを明らかにした。
生鮮食品とエネルギーを除いた物価上昇率は「25年後半までは物価目標の2%を上回る水準で推移する」との見通しを記した。日銀は展望リポートで25年度は2%を下回るとみており、日銀よりも強気の見方となる。
予測が実現する場合、日銀は3年間にわたって段階的に利上げをすべきだと訴えた。
名目賃金が上昇し、需要と供給の差である需給ギャップが解消しつつあるとして「インフレの上振れリスクがここ1年間で顕在化している」とも指摘した。
日銀には金融緩和の出口に向けて「明確かつ効果的なコミュニケーション戦略」の必要性を説いた。賃金が十分上昇していることを確認できていることなどを丁寧に説明することが、円滑な政策転換のカギになると強調した。
米国や欧州はインフレを抑制するため金融引き締めを続け、利下げに転換するタイミングを探る局面にある。マイナス金利政策は主要中銀で日銀だけが継続しており、金融政策の正常化は周回遅れの状況にあるといえる。
日銀はマイナス金利政策の解除を射程圏内に入れ、市場との対話は詰めの段階に入っている。海外の市場関係者も含め、日銀がいつ解除に動くかに関心が集まっている。
日銀の内田真一副総裁は8日、マイナス金利を解除した後に「どんどん利上げをしていくようなパスは考えにくく、緩和的な金融環境を維持していくことになる」と述べた。政策修正後の姿を示すことで、市場の混乱を避けながら金融正常化を進める構えだ。
【関連記事】
・IMF報道官「日銀は短期金利の引き上げ用意を」
・期限付き減税、失敗の過去 98年は開始から廃止まで8年
対日審査団長・サルガド氏「物価2%目標達成、確信強める」
インタビューに答えるIMFのラニル・サルガド氏=IMF提供
IMFの対日経済審査団長を務めるアジア太平洋局長補のラニル・サルガド氏は9日、都内で日本経済新聞とテレビ東京の共同インタビューに答えた。主なやりとりは以下の通り。
――日銀が3月か4月にもマイナス金利政策を解除するとの見方が強まっています。
「私たちは賃金と物価の好循環が伴う形での(2%の)物価目標が持続可能な形で達成されるという確信を深めている。100%の自信ではないが、日銀より少し自信を持っている。政策金利の引き上げは緩やかにとどめるべきだが、次のステップに進むべき時だ」
「(具体的な今後の金利水準は)データの出方次第だ。まず春季労使交渉がどうなるかを見極めなければいけない。個人消費がより回復することも確認したい。実現すれば、日銀が徐々に政策金利を引き上げていくだろう」
――日本の(景気に中立的な金利水準である)中立金利はどの程度でしょうか。
「実質でマイナス0.5%程度と推計している。物価上昇率が2%で固定されれば、名目の中立金利は1.5%程度だ」
――岸田文雄政権の財政運営は負担増の議論を避けているように見えます。
「日本経済は底堅い。需給ギャップも解消しつつある。財政政策は引き締められるべきで、昨年秋の経済対策での的を絞らない所得税などの減税策は必要なかった」
「長期的には安全保障やグリーントランスフォーメーション(GX)、子育て政策のための歳出が必要であることに異論はない。いずれかの段階で持続可能な税収を確保することを検討する必要がある」
――日本の中長期的な潜在成長率はどの程度と見込んでいますか。
「中期的な日本の潜在成長率は現時点で0.5%程度だとみている。遅れているデジタル化や労働市場の改革は生産性を高めることにつながる。潜在成長率を1%か、それ以上に高めていくことが重要だ」
経済・社会保障 最新情報はこちら
多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
永浜利広のアバター
永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
コメントメニュー
分析・考察
一般的に給付金や所得減税分の一部は貯蓄に回ることから、所得減税の乗数は低くなります。
事実、内閣府の短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)の乗数をもとに、所得減税と消費減税の5兆円減税効果を比較すれば、消費減税の方が1年目に2倍以上も大きくなります。
さらに迅速な還元を優先するのであれば、給付金のほうに分があったでしょう。
そして、そもそも増税イメージの払しょくを最優先するのであれば、一時的な減税よりもインフレによる恒常的税収上振れを活用して将来の増税を抑制するほうが効果的だったでしょう。
2024年2月9日 15:04 』