違法太陽光発電149件、2割是正されず 指導後9年経過も

違法太陽光発電149件、2割是正されず 指導後9年経過も
ソーラーの死角 NIKKEI Investigation
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE194ZW0Z10C23A6000000/

『森林の無許可開発など法令違反の太陽光発電施設が固定価格買い取り制度(FIT)の認定を取り消されぬまま稼働し続ける事例が相次ぐ。森林法違反は少なくとも149カ所に上り2割が是正されていない。行政の連携不足から情報が国に共有されないケースも多く、運用改善が不可欠だ。

都道府県、経済産業省各拠点への情報公開請求で森林法違反に関する資料(2018〜22年度)を日本経済新聞が調べた。149カ所の内訳は1万…

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『ゲーム理論では、互いにとって最適な行動が、相手の行動に依存する状況を設定する。この状況で自分の行動を決定するには、相手の行動を予想する必要がある。しかし、相手も自分の行動を予想するので、相手の予想を予想することも必要となる。この「予想の予想」の帰結を分析するのがゲーム理論だ。

予想の予想を使った社会の仕組みの一つが貨幣である。私たちは労働の対価として紙切れにすぎない日銀券を受け取る。受け取った日銀券をスーパーなどで使えるからだ。ではなぜ、スーパーは商品の対価として日銀券を受け取るのか。それは、仕入れ先への支払いに日銀券を使えるからだ。私たちはそのことを知っているので、日銀券の価値を信頼できる。

つまり、皆が日銀券を対価として受け取るとき、そのことを皆が知っている。さらに、皆が知っていることを皆が知っていることにもなる。このときゲーム理論では、皆が日銀券を対価として受け取ることが「共有知識」になっているという。予想の予想を繰り返した概念だ。』

『共有知識の概念を最初に考えたのは分析哲学者のデイヴィド・ルイスである。ルイスは共有知識を使って、社会における慣習を次のように定義した。人々のある行動が共有知識であり、誰一人としてそれ以外の行動が得にならないとき、その行動を慣習と呼ぶ、というものだ。』

『貨幣が慣習であるのと同様に、貨幣価値の変化に対する予想、つまりインフレ予想も慣習になる。たとえば、予想インフレ率と実際のインフレ率がともに0%である状況が長い間続いているとしよう。毎年そのことが公表されるので、予想インフレ率が共有知識になっている。このとき、以下の理由から同じインフレ予想を持ち続けることが合理的である。すなわち、0%のインフレ予想は、ルイスの意味で慣習である。

ここで企業経営者が、自分の予想インフレ率を2%に引き上げたとしよう。製品を値上げするはずだ。しかし消費者の予想インフレ率は0%のままなので、値上がりした製品を買う人はいない。つまり、予想インフレ率を引き上げると損をするのだ。

同じように、消費者も自分の予想インフレ率を引き上げると損をする。ある消費者が予想インフレ率を2%に引き上げたとしよう。なじみの店が2%値上げすれば、値上げを受け入れ、その店で購入するはずだ。しかし、他の店では元の安い価格で購入できるので、いずれ損をしたことに気がつくだろう。』

『わが国の21年までの低インフレ予想は共有知識になっていたと考えられる。つまり、ルイスの意味で慣習だったのだ。慣習としての低インフレ予想を変えるには、消費者が「経営者の予想インフレ率が上がる」と予想し、同時に経営者が「消費者の予想インフレ率が上がる」と予想するような工夫が必要であった。しかし、日銀の政策には「予想の予想」を変える工夫は見当たらない。だからうまくいかなかったのである。』

『目標未達成の要因として、黒田東彦前総裁は低インフレというノルム(社会通念)の存在を挙げた。物価は上がらないことを前提とした考え方や慣行のことである。しかし、人々の共有知識を変えれば、ノルムも変わったかもしれない。

なぜなら、低インフレであるというノルムは、低インフレ予想がルイスの意味で慣習化したものと考えられるからだ。つまり、ある共有知識に基づく合理的な意思決定なのである。したがって別な共有知識の下では、物価上昇を前提とする行動が合理的になる。22年以降のわが国は、こうした状態にあると考えられる。

近年の各国の中央銀行は、双方向のコミュニケーションにも力を入れている。たとえば米連邦準備理事会(FRB)は、Fedリッスンズという対話集会を開催し、金融政策についての意見交換を行っている。コミュニケーションを通じて政策効果を高めるには、物価目標に関連する話題がより多くの人々の間で共有知識になるような工夫も検討に値しよう。』