フーシが紅海でタンカーを無差別攻撃しているのに、なぜ国際油価は暴騰しないのか?
https://st2019.site/?p=21797
『The Strategist の2024-1-18記事「 Why Aren’t the Red Sea Attacks Affecting the Oil Market?」。
フーシが紅海でタンカーを無差別攻撃しているのに、なぜ国際油価は暴騰しないのか?
今、世界のトップ30の海運会社が、世界のタンカーの半分弱を差配している。彼らは運送コストと保険コストを秤にかける。紅海が危険になって保険コストが上がったから、喜望峰周りを選ばせるようになった。それだけ。
スエズマックスのタンカーが、喜望峰廻りでアジアまで、サウジの原油を運ぶと、紅海を南下してインド洋に出るコースにくらべて、30~40日、余計に航海しなければならない。
船舶を追跡しているウェブサイトによると、2023-12には毎日平均して76隻の原油タンカーが、紅海南部およびアデン湾を通航していた。それは、2023-1~2023-11の1日平均より、3隻少ないだけであるという。
1984年から88年にかけて、イランとイラクは互いにペルシャ湾でタンカーを攻撃し合った。これを分析した人いわく。239隻のタンカーが攻撃され、うち55隻は沈んだ。しかし、ペルシャ湾発の原油の価格に与えたその影響は、たった2%未満の値上がりに過ぎなかった、と。
原油タンカーは2重底、3重底になっていて、船倉もセル状に防漏区画に分けられているおかげで、他のバラ積み貨物船などより沈み難くなっているのである。
84~88年のタンカー戦争中、攻撃を受けた原油タンカーのうち23%が沈んだ。それに対してバラ積み貨物船は、攻撃されたうちの39%が沈んでいる。
原油タンカーは「サイズ=効率」なので、とにかく巨大。そのため、エグゾセ・クラスのちっぽけな対艦ミサイルでは、カスリ傷にしかならないのだ。
マンモスタンカーは、1隻で200万バレルを運ぶ。2019年の価格だと、その原油の値段は1億3500万ドル。
船齢5年のタンカーは、価額が7000万ドルというところ。
戦時の保険料の増額分は、タンカーの船体価格の0.2%から0.5%というところ。すなわち14万ドルから35万ドルだ。それは積荷の原油の値段と比べたら、0.1%から0.25%にすぎない。だから市価には、さして影響を及ぼさぬ。
もっか、紅海南部とバブエルマンデブ海峡を通航する商船の保険料は、船体価格の0.5%から0.7%である。これは2024-1の時点。2023-12だと、船体価格の0.07%だった。
1973ヨムキプール戦争のとき、OPECの禁輸発動と、ベトナム戦費垂れ流しが複合して、石油価格は一挙に3倍にはねあがり、バレルあたり60ドルになり、世界をインフレにした。
1979のイランのホメイニ革命のときには、油価はバレルあたり150ドルに上がった。しかしその後、徐々に下がり、「タンカー戦争」もほとんど影響がなかった。
※これは日本の省エネ技術のおかげである。それがソ連も崩壊させた。だからホンダとトヨタはもっと威張って可い。
1990湾岸戦争のときは、微少な価格上昇が数ヶ月、あった。
そして2001-9-11テロのときは、油価はまったく動かなかった。2019のホルムズ海峡での対タンカーテロのときも同様。
2022-2のロシアのウクライナ侵略で、2022-3に油価は129ドル/バレルに上がった。しかし2023-8までに100ドル/バレル以下となり、その後の平均油価は83ドル/バレルである。
米国内の原油採掘が増えていることも背景にある。2010年には米国内で500万バレル/日を生産。それが2023-12には1300万バレル/日である。もはや米国は中東石油を必要としていないのだ。
全世界的にも、石油への依存は減っている。1973年には、人々はエネルギーの50%を石油に依存していた。今は30%なのだ。
1973年の世界は、GDPを1000ドル創出するために、石油を1バレル、使っていた。それが2019年においては、価値を1000ドル創出するために使う石油の量は、0.4バレルでよくなった。
※つまり米国がイランと戦争を始めても石油に関して特に困ることはない。ではなぜ攻撃しない? すでに解説しました。』