米陸軍、エイブラムスは2040年までにハイエンドの戦場で無力になる

米陸軍、エイブラムスは2040年までにハイエンドの戦場で無力になる
https://grandfleet.info/us-related/us-army-abrams-will-be-powerless-on-high-end-battlefields-by-2040/

 ※ このマップは、よくよく見ておいた方がいい…。

 ※ 米国(米軍)は、こういう「世界規模」の衝突(有事)に対処していく必要があるわけだ…。

 ※ 日本みたいな「同盟国」及び「周辺国」は、そういう米国(米軍)の「世界戦略」を前提に、自国の「生き残り」「国家戦略」を企画・実行していく必要がある…。

『米陸軍長官に助言を行う陸軍科学委員会は「エイブラムスの将来性」に関するレポートを公開、この中で「2040年までにエイブラムスの機動性、火力、防御力といった強みは全て失われ、戦場を支配できなくなるだろう」と指摘した。

参考:M1 Abrams Ineffective By 2040 In Fight Against China: Army Study

戦場の全領域で敵対者のISR能力が大幅に向上しているためエイブラムスの生存性は低下し続けている

米陸軍はエイブラムス、ブラッドレー、M113の後継車輌、歩兵旅団戦闘団向けの火力支援車輌、地上無人車輌を対象にしたプログラム「Next Generation Combat Vehicle(NGCV)」を進めており、M113の後継車輌としてAMPVを約2,900輌調達、歩兵旅団戦闘団向けの火力支援車輌としてM10 Bookerを約500輌調達する予定で、ブラッドレーの後継車輌は現在開発中、無人戦闘車輌(RCV)も間もなく開発契約を締結する予定だ。

出典:Abovfold/CC BY 4.0

エイブラムスの後継車輌に関しては要求要件が未定で、ジェネラル・ダイナミクスが提案した「AbramsX」も米陸軍のプログラムではなく同社のデモンストレーターに過ぎず、エイブラムスの新しいアップグレード=SEPv4の開発も進められているため「開発が本格化するのは2020年代後半になる」と言われてきたが、米陸軍は「SEPv4の開発中止」と「より積極的なアップグレードの開発」を9月に発表。

米陸軍のジェフリー・ノーマン准将は「最近の戦争を研究する過程で『将来の戦場が戦車に新たな課題を突きつけている』と理解しており、我々はエイブラムスの機動性と生存性を最適化し、将来の戦場でも機能できるようにしなければならない。しかしエイブラムスは重量を増やすことなく能力を強化するのが難しく兵站への負担も削減しなければならず、ウクライナでの戦争は兵士の包括的な保護の必要性も浮き彫りにした」と述べ、SEPv4の開発中止して「より積極的なアップグレード=M1E3(簡易な修正よりも重要な技術的変更)」を開発すると述べた。

出典:U.S. Army photo by Sgt. Calab Franklin M1A2 SEPV3

エイブラムスへの能力追加は重量増=機動性の低下と兵站の負担増で成立しており、54トンだった初期重量はSEPv3で66.8トンに到達、GDLSは「SEPv4で追加される新技術は重量をさらに押し上げる」と言及しているが、ウクライナでの教訓から戦車の保護能力を更に高める必要があると判明したため「能力を継ぎ足すのではなく抜本的な改良が必要」と判断してSEPv4ではなくM1E3の開発を決断したのだろう。

この方針転換に直接関係あるかどうかは不明だが、米陸軍長官に助言を行う陸軍科学委員会は8月「エイブラムスの将来性」に関するレポートを公開、この中で「2040年までにエイブラムスの機動性、火力、防御力といった強みは全て失われ戦場を支配できなくなるだろう。SEPv3やSEPv4へのアップグレードはエイブラムスの有効性を向上させるものの、失われた優位性を回復させるものではない。戦場の全領域で敵対者のISR能力が大幅に向上しているためエイブラムスの生存性は低下し続けている」と指摘した。

出典:U.S. Army Photo by Spc. Jacob Nunnenkamp M1A2 SEPV3

このレポートの主要部分を要約すると以下の通りになる。

“イスラエル軍は2006年の南レバノン紛争で装甲車輌の防御力を改善する必要性を認識し、対戦車ミサイルに対するアクティブ防護システム(APS)を実用化して装甲車輌の生存性を回復した。そのお陰でイスラエル軍は2014年の戦いで装甲車輌を対戦車ミサイルで失うことはなかった。しかし第二次ナゴルノ・カラバフ戦争とウクライナ戦争では対戦車ミサイル、UCAV、徘徊型弾薬、対戦車地雷に対する脆弱性が露呈し、戦場の全領域でISR能力が大幅に向上したため戦車の生存性が低下した”

出典:Michael Shvadron/CC BY 2.0

“人民解放軍や中国企業の研究開発に関する分析、長期的な技術開発に関するアプローチは将来の戦場が複数の次元や領域にまたがって拡大し『脅威が複雑さが飛躍的の増大する』と示唆している。戦闘が局地的な目標を巡って争われることに変わりはないものの、紛争や戦争は世界規模の影響と結果が伴うようになるだろう。特に注目すべきは戦場の時間域が拡大していない点で、情報、認識、兵器システムなどのスピードアップに伴い戦場での意志決定は迅速化が迫られている”

“将来の戦場で戦車が生き残るには敵のセンサーや指揮管制システムを無力化する新技術が必要で、サイバー技術を駆使したC3D2(カモフラージュ、偽装、隠蔽、欺瞞、拒否)が重要視されるだろう。さらに太平洋地域で発生する紛争は重装甲部隊の長距離展開=兵站・輸送能力に問題を発生させ、台湾を舞台にしたウォーゲームで装甲戦力は価値を実証したものの、配備と維持の問題から中国が既成事実を達成する前までに十分な数を送り込めなかった”

出典:Army Science Board

“人民解放軍北部戦区は単独で半島に介入する戦力と能力を備えており、金体制崩壊時の半島統一を阻止したり米軍を韓国と台湾の間で分断することが可能だ。検討された両シナリオとも米軍と人民解放軍による機甲戦が想定され、米軍の機甲戦力はスピード、スケール、リーチの面で大幅に強化された敵機甲戦力相手に劣勢を強いられるだろう。70トン近いエイブラムスは作戦的にも、戦術的にも、戦略的にも機動性が欠けるというのが全員の一致した意見で、将来の戦車は防御力と運用力を損なうことなく大幅な軽量化の可能性を探ることが重要だ”

以上がレポートの要約で、この提言は必ずしも「エイブラムスが直面する問題」を解決できるとは限らず、陸軍科学委員会は「適切な能力の組み合わせ見つけるため陸軍が様々なテストや検討を今直ぐ始めるべきだ」と主張し、潜在的なコンセプトの概念をレポートの中で幾つか提示している。

出典:U.S. Army photo by Bernardo Fuller M10 Booker

その中で「最もリスクの低い選択肢」として提示されたのは130mm砲やハイブリッド電気推進の採用、乗員の削減、受動的防御から能動的防御への変更を取り入れたエイブラムスベースの戦車(想定重量は55トン~60トン)でAbramsXに重量感だが、これでも改善される機動性は作戦レベル及び戦術レベルまでで、陸軍科学委員会は「戦略レベルの機動性をカバーするため戦車と同じ機能を備えた35トン~40トンの軽戦車、20トン~30トンの無人戦闘車輌も検討すべきだ」と主張しているのが興味深い。

米陸軍は歩兵旅団戦闘団(IBCT)向け火力支援向けにM10 Booker(約40トン)の調達を開始、戦闘能力開発司令部も開発が予定されている大型の地上無人車輌=Robotic Combat Vehicle Heavy(RCV-H/8.89m×3.65m×3.6m以下)に関するコンセプト案を披露しており、軽量バージョンの120mm滑腔砲=XM360を搭載することでM1A2と同等の致死性を確保、650hpの次世代エンジン、ハイブリッド方式の駆動装置、ハードキル方式のAPSを備えて「ユニットコストはSEPv3の1/6になる」と主張している。

出典:Ronkainen

陸軍科学委員会は戦闘車輌の要求要件やコンセプトを主導する立場ではないものの「陸軍の動き」は概ね委員会の提言と一致し、米ディフェンスメディアも「本レポートは受動的な分厚い装甲と反応装甲で構成される伝統的な戦車が支配的でなくなりつつある未来を暗示している」と指摘しているが、全領域でのISR能力向上も「戦場における戦車の有効性」が疑問視される要因の1つだろう。

作動範囲も狭く電子妨害で直ぐにダウンする小型ドローンは「戦場に大きなインパクトを及ぼさない」という意見が多かったものの、広大な戦場を「防空システム」や「電子戦装置」でカバーするのは物理的に難しく、小型ドローンはギャップが存在する低空域を飛行することで「視覚的な戦場監視」が安価に実現し、これが砲兵戦力と結びつくことで装甲戦力の生存性を大きく著しく低下させてしまい、ドローンと砲兵戦力の密度が高い戦場で大規模な機甲戦を行うことは自殺行為に近い。

出典:Сухопутн? в?йська ЗС Укра?ни

固定化されていない流動性の高い戦場など「運用環境」が違えば「装甲戦力の有効性や生存性も異なる」と思われるが、小型ドローンの運用規模は増加傾向(ウクライナでは月1万~3万機が消耗されているという指摘もある)で、何らかの方法で空からの監視を阻害しないと装甲戦力の活躍の場は小さくなる一方だ。

この問題は制空権もしくは航空優勢を確保できるならスキップ出来る可能性を秘めているものの、高度な防空システムによる接近拒否が現実のものになり、米軍もハイエンドの戦場でイラク戦争のような航空優勢を確保できるか怪しく、もう「視覚的な戦場監視の影響」は軽視できない脅威なのだろう。

因みに各国が開発を進めるマイクロ波兵器は「ドローン対策の本命」と目されているものの、米空軍大学の中国航空宇宙研究所(CASI)は「マイクロ波兵器の実用化によってドローンの群れを無力化できるかもしれないが、この兵器が戦場全体をカバーすることないだろう」と指摘したことがある。

マイクロ波兵器は「ドローンの迎撃コスト」を改善し「群れで襲ってくるドローンの無力化」に効果的だが、電子妨害装置やカウンタードローンシステムですら低空域をカバーしきれていないので「有効範囲が短いマイクロ波兵器やレーザー兵器が登場したところでドローンの脅威を根本から解消するには至らない」という意味だ。

関連記事:米陸軍がSEPv4中止とM1E3開発を発表、初期作戦能力は2030年代初頭
関連記事:ジェネラル・ダイナミクス、次世代戦車のコンセプトモデル「AbramsX」を公開
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関連記事:米空軍、無人機の脅威はマイクロ波兵器の開発だけでは解決しない

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army photo by Spc. Jacob Nunnenkamp
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投稿者: 航空万能論GF管理人 米国関連 コメント: 49  』

『 hogehoge
2023年 10月 05日

返信 引用 

大艦巨砲主義の反動で戦車不要論を唱える、致命的な錯誤している人は多いですね。

そもそも戦車の在籍する野戦軍は複数の兵科で構成される諸兵科連合ですので、
単一兵科の戦艦を主にして構成される大艦巨砲主義とは根本的な運用思想から異なります。

そして、戦車を持っているからこそ敵戦車の機動力を阻害し、他の兵科で機動力が阻害された敵戦車を撃破できているということが抜けていて、
友軍戦車の存在しない場合に、相手戦車の機動力をどのように阻害するのかという認識が足りず、
抜けてしまった場合に手当が間に合わず(高速機動する戦車が自由になり)、数十km単位で後方を脅かされ続けるリスクが生じます。

また、西側の第3世代以降は防護力が高く、有効打を与えるには他の兵科相手の場合に不必要な程の、一定以上の強火力保有を相手側に強要します。
更に今後、アクティブ防御装置や高エネルギー兵器の開発や普及で、戦車などの防護力が飛躍した場合、相手に強要する負担は飛躍的に増大するでしょう。

そうした理由などがあり、存在するだけでこれほど相手側の負荷を増大させる戦車という兵科が不要になるというのは考え難いです。
18

     
    2023年 10月 05日
    返信 引用 

突破した戦車の相手をするのは味方の戦車ではなく攻撃ヘリでは
1
        hogehoge
        2023年 10月 06日
        返信 引用 

    近年は歩兵レベルでの防空システムの普及などにより、前線付近でヘリコプターを用いるの難易度が急上昇しています。
    そのため世界的にOHやAHは縮小傾向となり、中でも日本の陸上自衛隊はAH及びOHの完全廃止の方針となっています。
    3 』