「ロシアの弾薬庫」北朝鮮が日本で暗躍していること

「ロシアの弾薬庫」北朝鮮が日本で暗躍していること
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/31583

『2023年9月29日

北朝鮮の金正恩総書記が9月13日から17日にかけて行ったロシア公式親善訪問は、国内外で大きく報じられた。プーチン大統領との首脳会談が宇宙基地で行われ、金正恩氏が戦闘機工場や海軍基地を訪問したことを受けて、多くの識者が両国の軍事協力が拡大すると指摘している。
(Bborriss/NatanaelGinting/Anna Valieva/gettyimages)

 もちろん、筆者もその見方に概ね同意する。だが、筆者は複数回にわたる朝鮮労働党幹部へのインタビューから、軍事協力拡大のトリガーとなったキーワード、そして、再び外交の表舞台に立った北朝鮮が日本を巻き込み暗号資産現金化を企てていることを掴んだ。
金正恩・プーチン会談の思惑

 金正恩氏の外遊は、北朝鮮がコロナ禍で2020年に国境を封鎖した以来で、プーチン氏との会談は19年4月から約3年ぶりとなる。今回で2回目となる金正恩・プーチン会談の目的が、金正恩氏の訪問先と行事内容から宇宙・兵器開発など軍事協力の拡大にあることは、ほぼ間違いない。

 下表は、金正恩氏の動向と各地での主な随行者・対応者をまとめたものだが、金正恩氏とプーチン氏が軍と宇宙・兵器開発の責任者を伴い、トップセールスを行ったことが分かるだろう。

写真を拡大

 この見立てについて、朝鮮労働党幹部は「2度にわたる軍事偵察衛星の打ち上げ失敗が金正恩元帥の訪露を後押しした」と指摘する。

 北朝鮮は、21年1月に開催した第8回党大会で「国防科学発展及び武器体系開発5カ年計画」を提示し、それに基づいて核技術の更なる高度化、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の命中率向上、無人偵察機の開発などを推し進め、相当の成果を上げている。だが、計画に含まれる軍事偵察衛星は、今年5月と8月に打ち上げたものの、連続して失敗した。』

『「共和国(北朝鮮のこと)は党大会以降、ロシアと宇宙・兵器開発分野について協議してきたが、新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延したため、協議は停滞していた。

 そして、コロナ禍が収束し、国内での防疫体制が整ったので、今年7月の祖国解放戦争勝利70周年閲兵式に露中の高官を招いた。ここで労働党は、本来は中国を最大限に接遇しなければならないところ、ロシアのショイグ国防相を最上級の賓客としてもてなした。そこに、金正恩元帥の訪露に繋がった秘密が隠されている」(上述の朝鮮労働党幹部)

ロシア国防相から提示されたビッグディール

 今年7月27日の閲兵式は、朝鮮戦争休戦70周年に際して行われた。幹部の発言は、参戦した中国を優遇することが当然であるが、北朝鮮があえてロシアを優遇したことを示している。実際、閲兵式での来賓紹介や金正恩氏の報告でも、露中の順で言及された。

 「ショイグ国防相は、5月に打ち上げ失敗した軍事偵察衛星が南側(韓国のこと)に回収されるという恥辱に打ちひしがれた共和国に、朝露首脳会談と軍事支援の拡大という〝ビッグディール〟をもたらした。

 トランプ(前米国大統領)を真似たショイグ国防相の提案は、共和国にとって渡りに舟であるばかりでなく、ウクライナ戦争で苦しむロシアにとっても救いの手になるものだった。

 ロシアはロケットやミサイル、航空機などの技術を持っているが、ウクライナ戦争で使う地上兵器と弾薬の欠乏に苦しんでいる。一方の共和国は、5カ年計画を達成させるために宇宙・兵器開発技術を喉から手が出るほど欲しているが、核抑止力が完成し、人民軍の配備と作戦を見直した結果、榴弾砲や放射砲(ロケット砲のこと)など地上兵器と弾薬に余剰が生まれている。

 それならば、お互いに持っているものを交換すればいいと、両国のバーター取引を拡大するための首脳会談への流れが生まれ、8月の軍事偵察衛星打ち上げが失敗したことで急加速した」(同上)

 金正恩氏の訪露のきっかけが、ロシア側からのビッグディール提案だったとは驚きだ。
 幹部の発言を補足するかのように、9月9日付ロイター通信は、ロシアが22年に消費した弾薬は1000万発に達したとみられ、ロシアの弾薬生産量は今後数年で年200万発まで増産できる可能性があるものの、不足の解消にはつながらないと指摘している。

 では、北朝鮮からどの程度の弾薬がロシアに供給されるのだろうか。

 北朝鮮の弾薬備蓄量は明らかにされていないが、少なくとも100万トン(t)が備蓄されているとみられる。これを砲弾1発10キログラム(kg)で計算すると1億発に相当するので、仮に北朝鮮が備蓄量の3割を渡せば、ロシアが使用した3年分の弾薬に相当する。幹部が話したように北朝鮮に余剰があるとすれば、さらに多くの弾薬がロシアに流れる可能性があるだろう。

 実際のところ、北朝鮮は100ミリメートル(㎜)と115㎜戦車砲、122㎜と152㎜自走砲、迫撃砲や小銃の砲弾をロシアと共有でき、昨年12月と今年4月には、東京新聞が北朝鮮からロシアへの弾薬供給をスクープしている。
北朝鮮高官が嘲笑う日本政界

 これまで金正恩氏訪露の背景と露朝の軍事協力について幹部の話を紹介してきたが、北朝鮮の策略はこれに止まらない。朝鮮労働党幹部は、日本を巻き込んだ暗号資産現金化についても言及する。』

『「今年春頃、ある朝日友好関係者を通じて、日本の自民党が共和国との交渉を望んでいるという話が入ってきた。9月23日に行われる中国・杭州アジア大会の開会式で、日本政府の高官が体育相との会談を望んでいるという。

 はっきり言うが、共和国において対日政策の優先順位はかなり低い。そのため、この話は1号案件(金正恩氏に報告される案件)にはならず、外務省が担当することになった。
 日本側が会いたいというのであれば、会ってやってもいいが、日本人拉致問題を持ち出してきたら、解決済みと突っぱねるということで調整が進んでいたところ、関係者から『事情により高官が杭州に行けなくなった』と連絡があり、話は潰えた。われわれは関係者から話を聞いて、やはり日本政府はだらしないと大いに笑ったものだ」(同上)

 これまで日本政府は、成功したか否かにかかわらず、過去に何度も水面下で日朝交渉を行なってきたので、筆者は幹部が話したように、開会式で〝立ち話〟程度の会談はあり得るとにらみ、知り合いの政治部記者に話を振ってみた。

 すると、ある記者から渦中の人となっている政府高官の名前が取りざたされていると聞き、幹部らが大いに笑った理由に納得した。

 しかし、幹部は「日本からの会談要請を聞いた特殊機関は別なことを考えていた」と、北朝鮮の策略について話を続けた。北朝鮮で特殊機関とは、朝鮮労働党文化交流局や偵察総局、国家保衛省など工作機関を表す。

FBIも警告する北朝鮮のマネーロンダリング

 「特殊機関はハッキングなどサイバー攻撃で大量の暗号資産を盗み保有しているが、共和国がコロナ禍で国境封鎖したことが仇となり、現金化できずに困っている。

 そこで、特殊機関は外務省に対して、日朝交渉を行うのであれば、朝鮮総聯幹部や一部の在日朝鮮人の再入国禁止措置を解くよう日本政府に要求しろと迫った。つまりは、朝日間を自由に往来できるようになった在日朝鮮人を利用して、盗んだ暗号資産を現金化したいということだ。

 この特殊機関の横槍に外務省は困っただろうが、外務省としても在日朝鮮人の出国禁止など制裁解除は常々表明していることなので、もし、日本政府高官と体育相の会談が実現されていれば、きっと伝えられたはずだ。

 もちろん、日本政府やマスコミは、その背景に暗号資産の現金化という特殊機関の思惑があるなど知る由もないだろうが」(同上)

 この話を裏付けるかのように、米連邦捜査局(FBI)は8月22日、「ラザルス」あるいは「APT38」の名称で知られる北朝鮮のサイバー戦組織「Trader Traitor」関係者が、58億円(4000万ドル)以上に相当するビットコインを現金化しようとしているとして、関連するアドレスを公開して注意を促した。

 周知のとおり暗号資産はそれ自体に決済機能があり、ネットワーク上で現金化することができる。しかし、FBIが注意を促したように、北朝鮮が決済や現金化しようとすれば必ず足がつく。特殊機関が在日朝鮮人の自由往来を日本に求め、彼らを利用した現金化を企てたのは、このような米国などの動きを予測していたからに他ならないだろう。

 今後、北朝鮮が在日朝鮮人の入国を再開すれば、親族訪問などで訪朝した人々が、「この荷物を日本の知り合いに渡して欲しい」と暗号資産が保存されたUSBを託され、意図せずマネーロンダリングに手を貸してしまうことが起こり得ないとはいえない。

 金正恩氏とプーチン氏の会談で再び国際政治の表舞台に立った北朝鮮の動きに注意が必要だ。』