自衛隊サイバー防衛隊の編成と実力について
https://kaiyoukokubou.jp/2023/08/12/cyberboueitai-jieitai/
『目次
サイバー攻撃に対処する統合部隊
脆弱性が露呈した侵入事件
規模拡大に欠かせない人材確保
反撃はできず、民間インフラは守らない?
サイバー攻撃に対処する統合部隊
現代戦は従来の陸海空に加えて、宇宙・サイバー・電磁波の領域でも繰り広げられるため、自衛隊もこれら各分野に対応せねばなりません。宇宙分野は以前紹介した航空自衛隊の「宇宙作戦群」が担い、電磁波については陸上自衛隊の電子作戦隊などがあります。
では、日本が特に弱いとされるサイバーはどうなのか?
サイバー分野では「自衛隊サイバー防衛隊」と呼ばれる専門部隊があって、陸海空から選ばれた約900名が東京・市ヶ谷で活動中です。
防衛大臣の直轄部隊であるサイバー防衛隊は、もともとは2008年に「自衛隊指揮通信システム隊」として発足したものの、進化する脅威を見据えて2022年に再編成されました。
そんなサイバー防衛隊のお仕事は自衛隊全体をつなぐ情報通信ネットワークを守ること。自衛隊は北海道から沖縄、離島から山奥まで配備されていますが、指揮系統は防衛省共通のネットワークでつながっていて、これがサイバー攻撃でダウンすれば一挙に機能不全に陥ります。
ここで注意したいのが、サイバー防衛隊が自衛隊唯一のサイバー部隊ではなく、陸海空にも独自のサイバー部隊が存在します。これらは各組織が使う情報通信ネットワークを監視・防衛しており、防衛省全体のネットワーク・システムはサイバー防衛隊が担当している形です。
ロシア=ウクライナ戦争でも見られたように、現代戦は序盤で必ずサイバー攻撃が仕掛けられるため、防護力強化とともに多層的な防衛体制を構築せねばなりません。
脆弱性が露呈した侵入事件
さて、2022年末に防衛力強化を打ち出した日本政府は、サイバー関連の人員を2万人規模まで増強するつもりですが、この背景には防衛省が中国軍の侵入を許した事件がありました。
アメリカの有力紙「ワシントンポスト」によると、防衛省で最高クラスの機密情報を扱うシステムが2020年秋に中国軍によってハッキングされ、察知したアメリカが日本に急いで伝達したとのこと。
それは米軍関係者が「衝撃的なほどひどかった」と懸念するほどで、当時の国家安全保障局長が急遽来日して日本政府に注意を促しました。ただ、その後も日本側の動きは遅く、危機管理能力の低さが浮き彫りになった形です。
「日米の情報共有に支障をきたす」というアメリカの勧告を受けて、日本政府はサイバー増員を表明したと思われますが、それは同時にアメリカが日本を監視していた事実を暴露しました。
それでも、アメリカ側が伝達にふみきったのは、事態がそれほど深刻だったから。
規模拡大に欠かせない人材確保
こうした経緯をふまえて、まずは中核となるサイバー防衛隊を2023年度中に2,200人まで拡充しつつ、最終的に4,000人体制を目指します。
各地から電波や通信に明るい人員をかき集めて再編するつもりですが、サイバー人材を確保するのは厳しい状況です。
もちろん、教育による人材育成も図るものの、成果が出るまで時間がかかるうえ、そもそも適性がある自衛官はそう多くありません。
仮想敵の中国軍は17.5万人規模のサイバー部隊を持ち、攻撃専門だけに絞ってもその数は3万人にのぼります。あの北朝鮮でさえ約7,000人のサイバー部隊を運用しているため、日本はかなり出遅れている状態。
当然ながら、部隊内の採用と育成だけでは到底足りず、「ホワイト・ハッカー」も含めた外部のサイバー人材に頼らざるを得ません。
しかし、こうした人材は民間では引く手あまたのため、よほどの高待遇、あるいは魅力的な条件を提示しない限り、わざわざ防衛省には来ないでしょう。
したがって、喫緊の課題でありながら、自衛隊のサイバー能力強化は人材面でかなり前途多難といえます。
反撃はできず、民間インフラは守らない?
サイバー防衛隊はサイバー攻撃に対する防御はできるものの、攻撃元への反撃は「防衛出動」が必要となります。しかし、瞬間的な攻防戦となるサイバー戦で防衛出動を待っている暇はなく、今の法律では反撃は不可能に等しいのです。
さらに気になるのが、電力系統や民間通信などの重要インフラが防護対象になっていない点。戦争になれば、相手は当然ながらインフラも狙ってくるので、アメリカのようにサイバー面でも軍隊が重要インフラを守らねばなりません。
すでに中枢部まで中国軍に侵入され、法的制約で反撃ができず、インフラ防護も対象外という日本のサイバー防衛力は致命的な脆弱性を抱えており、ここから巻き返すのは至難の技です。』