防衛白書、軍事情勢の政府見解 「中国が軍備増強前倒し」
よくわかる3つのポイント
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA267ZJ0W3A720C2000000/




『防衛省は28日、2023年版の防衛白書を公表した。世界の軍事情勢や日本の防衛政策に関する政府の公式見解をまとめて年に一度発行する報告書だ。23年版は中国やロシアなどの軍事的脅威を踏まえ「新たな危機の時代に突入」したと指摘した。
・防衛白書とは?
・22年版からの変更点は?
・22年末に決めた安保関連3文書の反映は?
(1)防衛白書とは?
防衛白書は日本を取り巻く安全保障環境や日本の防衛力整備の方針を国内外へ周知して理解を得るための刊行物だ。初めて作成したのは旧防衛庁時代の1970年。当時の中曽根康弘防衛庁長官が「国の防衛には何よりも国民の理解が不可欠だ」と主張して創刊した。
2022年版の防衛白書。装丁は年ごとに変わる
70年版は94ページだった。2023年版は510ページに上る。軍備増強を進める中国に関する記述や北朝鮮の核・ミサイル開発などの説明が増えた。宇宙・サイバーなど防衛政策にかかわる領域が広がったこともあり分厚くなった。
防衛白書に書かれた記述は政府の公式見解となる。各国の軍事動向を日本政府がどう分析し、評価しているかの表明でもある。安保上の脅威が高まれば前年から表現ぶりを変える。毎年の変化が注目されるゆえんだ。
(2)22年版からの変更点は?
23年版は中国の軍事動向への警戒を強める内容となった。中国について「国際社会の深刻な懸念事項でこれまでにない最大の戦略的挑戦」と評した。台湾海峡を巡っては「国際社会全体で急速に懸念が高まっている」と指摘した。
22年版はそれぞれ「国際社会の安保上の強い懸念」「国際社会の安定にも重要」という表現だった。
中国と台湾の軍事バランスは23年版で「中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化」していると警鐘を鳴らした。「圧倒的な兵力差」があると指摘し、陸海空の戦力を比較する表を載せた。
たとえば潜水艦の保有数は中国軍がおよそ70隻、台湾軍が4隻だ。駆逐艦やフリゲート艦などの水上艦は90隻と30隻。近代的戦闘機も1500機と321機で開きがある。
中国が21世紀半ばまでの実現を掲げる「世界一流の軍隊建設」との目標は「前倒しを検討している可能性」に言及した。
中国軍とロシア軍による共同活動は「日本への示威行動を明確に意図し日本の安保上、重大な懸念」だと提起した。「懸念を持って注視」との姿勢だった22年版から踏み込んだ。
核・ミサイル開発を続ける北朝鮮には「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」と書き込んだ。22年版にはなかった「従前よりも一層」を加えて警戒度の高まりを表現した。
(3)安保関連3文書を反映
今回は政府が22年末に国家安保戦略など安保関連3文書をまとめてから初めての白書だった。
戦後長らく続けてきた方針を転換した「反撃能力の保有」に関しては1ページ分をつかった解説をつけた。「ミサイル攻撃が現実の脅威」となり「既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつある」と必要性を訴えた。
継戦能力に関し「十分ではない。現実を直視し有事に粘り強く活動でき、実効的な抑止力となる」ようにすると唱えた。弾薬の確保や火薬庫・燃料タンクを整備し、装備品の稼働率を上げると主張した。
情報戦への対応や防衛産業の活性化に関する記述を拡充し、重要性を強調した。元陸上自衛官の女性が性被害を訴えた問題を受け「ハラスメントをいっさい許容しない」とも盛り込んだ。
(竹内悠介)
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詫摩佳代
フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)訪問研究員 / 東京都立大学教授
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分析・考察
現代社会では、戦争のコストが大きいので、伝統的な戦争は起こり得ないというのがいかに幻想であるかが、ウ戦争の勃発で明らかになりました。
抑止破綻は戦争へと直結しうるし、一旦、戦争が始まってしまえば、終わらせるのはとても難しく、抑止力の強化によって戦争を始めさせない努力が大事だという指摘(高橋杉雄編著「ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか 」)はもっともだと思います。
白書でも指摘されている通り、現状での日本の反撃能力や継戦能力は不十分であり、この現実を我々は直視する必要があります。政府の差し迫った現状認識は時宜を得た適切なものですが、それがどれだけ多くの国民に共有されるのかが、今後の課題だと思います。
2023年7月28日 18:05 』