警戒すべき中国とインドの関係改善

警戒すべき中国とインドの関係改善(The Economist)
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『中国と対抗していくにあたって、インドは西側陣営を支持してくれるのではないか――。米国はこんな希望的観測を外交政策の要としてきた。2000年にクリントン米大統領(当時)がインドの首都ニューデリーを訪問して以降、そのように位置づけられてきた。

それはインドの将来性とその地政学的立ち位置からそうなるだろうといういわば賭けだったが、その後の歴代大統領(民主党のオバマ氏とバイデン現大統領、共和党のブッシュ…

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『その後の歴代大統領(民主党のオバマ氏とバイデン現大統領、共和党のブッシュ氏とトランプ前大統領)も例外なく、米印の関係強化には力を入れてきた。

ゆえにインドのモディ首相が6月に米首都ワシントンを訪問した際、熱烈な歓迎を受けたのも当然だった。米国とインドが永遠の友好をうたう中、モディ氏は米国が通常なら緊密な同盟国にしか提供しないような防衛技術の移転を含む防衛協力の合意を得た。

米国が想定する方向にインドが進まない可能性

だが、いかなる国とも正式な同盟を結ばないインドが、米政府関係者の多くが想定しているほど米国のパートナーとして責任を果たすつもりではない方向に進みつつあるとしたらどうだろうか――。

その可能性は十分にある。その点はインドと中国の関係がこのところひっそりとではあるが、驚くべき改善を遂げていることからも浮き彫りとなっている。

20年6月、極寒のヒマラヤにおける両国の国境係争地でインド軍兵士20人と中国軍兵士が少なくとも4人死亡する軍事衝突が発生したのを受け、アジアの大国である中国とインドの関係は急激に悪化した。岩や鉄の棒を使ったこの武力衝突は、インドと米国が防衛協力を強化する一因となった。

米国はすぐさま防寒着などの装備をインド国境軍に送り、米印合同軍事演習を増やす計画を立てた。そしてモディ氏がインド西部のパキスタンとの国境に配置していた約7万人の部隊を事実上、北部の中国との国境に移動させるのを好意的に見守った。

インドは軍事面以外でも、300以上の中国のアプリの使用を禁じたほか、中国企業に対する税務調査を実施し、中国との貿易や同国からの投資に様々な制限を導入した。

短期に終わった中印の経済関係の冷え込み

だが、こうした中印関係の冷え込みは最近、かなり改善している。

両国の経済関係の凍結は長くは続かなかった。21年には中印貿易は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴う落ち込みから回復し、前年比43%増となった。22年も同8.6%増を記録し、両国の貿易総額は1360億ドル(約19兆3000億円)に拡大した。これはクリントン氏が訪印した年の27倍に相当する。

両国は国境紛争地帯のほとんどで依然として対立を続けており、互いにかなりの武装状態を維持している。とはいえいずれも事態の鎮静化を強く望んでいるようにみえる。

中印は双方の軍司令官による18回に上る交渉の末、衝突が発生しかねない5つの地点から両国とも軍を引き揚げ、「緩衝地帯」を設けて巡回もしないことを決めた。そうした危険地域で緩衝地帯がまだ設けられていないのは2カ所のみだ。

インドと中国は1988年に、それまで続いていた両国間の国境を巡る問題について一定の原則を設けることで、以来30年以上にわたり領土問題を棚上げした経緯がある。

米が中国と衝突してもインドの米軍支援は期待できず

今回、両国が再び国境問題を脇に置くと決めると、事態は米国の戦略家たちが想定しているものとは大きく異なってくる可能性がある。

米国と中国が台湾を巡って軍事衝突した場合、インドが米軍を支援する確率は現時点でさえ、米政府関係者の多くが想像していると思われるレベルよりはるかに低い。

このまま中印関係の雪解けがさらに進めば、インドによる米軍への支援など想像することさえ難しくなる。それどころかインドは、気候変動や貿易、債務といった解決が難しい世界的な問題について、今以上に西側諸国と距離を置くようになると思われる。

中印の緊張緩和が続くことは、中印双方の利益となる。20年の軍事衝突後にインドが中国に対する経済依存度を引き下げようとしたものの短期間で終わったことは、その依存度を減らすことがいかに難しいかという表れでもある。

モディ氏が最優先する政策のうちインフラ整備と製造業育成の2つは、とりわけ中国からの原材料に依存している面が強い。インドは製薬分野では世界的な輸出大国だが、製薬に必要な有効成分の7割を中国から輸入している。]

たとえモディ氏が痛手を覚悟の上でそうした原材料の輸入制限に踏み切ったとしても(今のところそんな兆しはほぼない)、インド国内で強い影響力を持つ経済界のロビー団体が同氏に働きかけ、そうしないよう説得するだろう。

インドの中国への経済依存を断ち切ろうとした試みがかくも短期間で終結したことは、インドの経済界が中印の経済的な結びつきがいかに重要だと考えているか、そしていかに政府に対し影響力を持つかを物語っている。

インドにとっては経済成長こそ防衛強化への道

だからといって、インドの中国に対する安全保障上の懸念が弱まるわけではない。中国への懸念は長年にわたるもので、そのためインドは何があっても国防の強化は続けるだろう。

インドは急速な経済成長こそ防衛強化を図るうえで何にも増して重要な条件だととらえている。そして中国とビジネスを続けることが、そうした経済成長を果たすのに不可欠とみており、そう考えるのは正しい。

中国側としてもインドを味方に付けておいた方が有利なことは火を見るより明らかで、中国がインドに対し一連の現実的な打開策を図ったことは、中国が以前に強硬姿勢に出ていたことよりも理解しやすい。国境問題で中国が過去にインドに示してきた敵対的な姿勢は、インドと米国の安全保障上の結びつきを強めただけだったからだ。

同時に中国経済の伸びが鈍化しつつある今、中国の輸出企業にとってインドの巨大な国内市場の重要性はますます高まっている。20年に軍事衝突が起きたとはいえ、その時点で中国はインドとの関係をすでにより大切にする方針を固めていたのかもしれない。

最近のインドの報道によれば、国境地帯での衝突が中国側からしかけられたものであることは疑いの余地がないものの、それは戦略に基づく判断というより現場の意思決定のまずさによるものだったという。いずれにせよ中国の戦略的利益と最近の歩み寄りをみると、軍事衝突が再発する可能性は低下しているとみていいだろう。

中印関係改善について西側諸国は真剣な検討が必要

中国とインドが平和で建設的な関係を築くことができれば、その人口世界1位と2位の国民だけでなく世界にとっても大きな利益をもたらし得る。だが中印接近は西側諸国には課題ともなるだけに、米国をはじめとする西側諸国の戦略立案者は、この動きについてこれまで以上に真剣に考える必要がある。

だからといって米印の緊密な関係にひびがはいるわけではない。インドは中国との関係が改善しても、それとは関係なく中国に対する防衛強化では西側の支援がほしいと考えると思われることから、米印の協力関係は安全保障だけでなく様々な方面で利益をもたらすはずだ。

とはいえ米国がいざとなればインドが加勢してくれるという前提の下に中国への敵対姿勢を強めているのだとすれば、そうした発想は捨て去るべきだ。インドが中国に立ち向かえるだけの対抗勢力となるには、大国になるだけでなく中国と積極的に対立する意思が必要なわけで、米国はインドがそうした意思を当然持つだろうなどと期待してはならない。

(c) 2023 The Economist Newspaper Limited. July 22, 2023 All rights reserved.

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