戦後レジーム脱却へF-15戦闘機エンジン輸出に舵を切れ

戦後レジーム脱却へF-15戦闘機エンジン輸出に舵を切れ
勝股秀通 (日本大学危機管理学部教授)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/30718

『武力攻撃や戦争が想定される現実の危機となった以上、政府は真っ先に、自衛隊が戦い続けることができる「継戦能力」の確保に全力を挙げ、その能力を支える防衛産業の支援に取り組まなければならない。航空自衛隊が保有するF-15戦闘機約200機のうち、近代化改修されない半数の機体のエンジンを、インドネシアなど地域の安定に資する友好国への輸出に道を拓くことができるかが、その試金石となる。

F-15のエンジンをめぐる世界の需要

 政府・与党は現在、防衛装備移転三原則の見直しを含めて、装備品の輸出拡大策を検討しているが、そこで浮上してきたのが戦闘機の中古エンジンを提供する案だ。

 具体的には、空自の主力戦闘機F-15は、前「中期防衛力整備計画」(2019~22年度)で、保有する約200機のうち、電子機器など近代化改修ができない99機について用途廃止処分とし、今後10年間で最新鋭のF-35戦闘機に置き換える方針が決まっている。

 用廃に伴って、1機に2基搭載されているF100と呼ばれる中古のエンジン約200基は、近代化機の修理用部品として一部は保管されるが、大半は廃棄されることとなる。その利活用として検討されているのが、インドネシアなどへの中古エンジンの輸出策だ。

 米国製のF100ターボファンエンジンは、F-15戦闘機の初号機が納入された1980年から「IHI」(本社・東京)が中心となってライセンス国産をスタート、99年の生産終了までに440基を超すエンジンが生産されてきた。今回は約200基のエンジンが用廃となるわけだが、F100エンジンは、F-15だけでなく米国製F-16戦闘機にも搭載されており、インドネシアや韓国、台湾、サウジアラビアなど16の国と地域で再利用が見込まれている。

 なかでもインドネシアは、F-16戦闘機12機を保有し、今後24機を追加保有する計画等があり、日本との間で「防衛装備品・技術移転協定」の締結に合意し、中古エンジンの提供と日本が持つ高度技術の移転を望んでいるという背景がある。政府関係者は「インドネシアへのエンジン提供は、この地域の安全保障環境の安定に寄与する」と話す。

『越えなければならないハードル

 今国会で同強化法が成立し、同法に基づき防衛相が策定する基本方針に、装備品の輸出について「官民一体で推進する」ことが盛り込まれる。だが、実際に推進するためには越えなければならないいくつものハードルがある。

 その一つは、防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」の見直しだ。2014年に策定された現在の三原則は、事実上の禁輸政策を撤廃し、国際共同開発や友好国との技術協力などを目的に装備品の輸出に道を拓いた。だが、輸出の対象は、友好国の「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の5類型に限られ、エンジンなどの部品は完成品と同じ扱いで、殺傷能力があり、モノを破壊できる戦闘機を含めた自衛隊の武器は一切輸出できない。

 現在、与党の作業部会で三原則の見直しに向けた論点整理が行われている。5類型の大幅な見直しは必至で、35年の実用化を目指して日英伊で共同開発する次期戦闘機など国際共同開発による装備品の第三国への輸出、さらに今回の戦闘機エンジンを念頭に、完成品には殺傷能力があっても、部品自体になければ輸出を容認する方向性が示される可能性が高いという。その方向性は妥当であり、強く支持したいと思う。

 なぜなら、今回の強化法は、ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにし、自衛隊に長期間戦い続ける「継戦能力」がなければ、国民を武力攻撃や侵略から守ることができないとの危機感から生まれた法律であり、継戦能力を確保するには、弱体化した国内の防衛産業を立て直すしかないからだ。与野党の大半が同法の成立を支持したのも、危機感を共有したからにほかならない。今こそ政府は、国民に向かって防衛産業の厳しい現状を説明しなければ、国民の理解を得るというもう一つのハードルを乗り越えることはできない。

戦闘機エンジンの開発は日本の宝

 輸出を厳しく制限され、納入先が自衛隊だけに限られた国内の防衛産業は、03年以降の20年間に100社以上が撤退した。19年にはコマツが軽装甲機動車の開発を中止し、21年には住友重機械工業が機関銃の生産から退いている。防衛産業に対し〝死の商人〟というネガティブなレッテルを貼りたがる識者も多く、政治も長い間、装備品の開発や生産を民間任せにし、衰退する産業の現場を見ないふりをしてきた。

 そうした政治の無責任さは、「防衛生産と技術基盤は、防衛力そのもの」というウクライナ戦争で気づかされた冷徹な現実と向き合えば、許されないことは自明だろう。

 いま何を為すべきか――。それは日本ができることに取り組むことだ。その意味では、今回の戦闘機エンジンという部品の輸出は格好の案件と言っていい。なぜなら、IHIを核とする戦闘機のエンジン開発は、衰退する防衛産業の中では、唯一と言っていいほど世界に誇れる高い技術力のある分野だからだ。

 本稿では詳細は省くが、敗戦国の日本が、戦後、米国から煮え湯を飲まされ続けてきたのが、戦闘機のエンジン開発だったといっても過言ではない。IHIをはじめエンジン開発に携わる技術者たちは、悔しさをバネに「国防に資する」という志を受け継ぎ、半世紀余りの歳月を経て、18年に完成させたのが「XF9-1」という実証エンジンだ。

 軽量でコンパクト、しかも米国製エンジンの出力を上回るパワーを備えた〝日の丸エンジン〟の存在があって初めて、日英伊による次期戦闘機の共同開発が実現した。そして、この高い技術を維持、発展させるためにもIHIを核とする戦闘機エンジン開発の裾野を維持し続けなければならない。』

『輸出が生み出す多大なメリット

 最大のメリットは、国内の防衛産業に与える影響だ。戦闘機のエンジン開発は中小を含め約1000社が保有するさまざまな技術の結晶であり、サプライチェーン(供給網)を絶やすことはできない。輸出が可能となれば、移転対象国であるインドネシア向けのエンジン整備や交換部品等の製造という仕事量の増加により、国内サプライチェーンの維持につながる。

 メリットの二つ目は、インドネシア空軍の稼働率を上げ、インド太平洋地域の安全に貢献できることだ。継戦能力を示す指針の一つが、装備品の稼働率だ。防衛省によると、自衛隊が使う装備品のうち、実際に稼働するのは半分余りしかない。特に空自の戦闘機の半数近くは、修理に必要な部品や予算がなく、同型機の部品を外して流用する〝共食い〟が日常的に行われている。22年度の共食いは、空自だけで3400件以上という。

 日本からのエンジン供与がなければ、インドネシア空軍がたどる道も同じで、IHIでは「日本が稼働率の向上や運用支援に継続的に貢献することで、移転対象国に対し、日本の戦略的不可欠性を確立でき、安全保障にも寄与できる」と多大なメリットを強調している。

 これだけのメリットがありながら、インドネシアへのエンジン輸出を含め、移転三原則の見直しなどの結論は秋以降に出されるという。随分とのんびりした話だ。

今こそ戦後レジームから脱却する時

 本稿を「戦後の常識と価値観は揺らぎ、生き残るために変化を余儀なくされている」と書き出したが、ウクライナ戦争で真っ先に変わらねばならないのは防衛分野だ。例えば、輸出できるものを品目で規制するのではなく、対象国を「同盟国と友好国(同志国)、ウクライナのように国際法違反の侵略を受けている国」に限るとし、対象国が日本に何を求めているのか、そして日本が対象国にどのような貢献ができるのかを判断すればいい。まさに今、一国平和主義という戦後レジームから脱却する時だと思う。

 最後に付記するとすれば、インドネシアと日本との関係強化が生み出す価値だ。かつてインドネシアの最大の貿易相手国は日本だったが、現在は中国に大きく水をあけられてしまっている。しかし報道等によると、インドネシアの人々の中国への信頼度は22%と低く、日本への信頼度は最も高い54%だという。天皇・皇后両陛下を歓迎し、歓待してくれたジョコ大統領と市民の姿を見れば、それは明らかなはずだ。』