米大学、入学選考の人種考慮は違憲 最高裁が判断
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN29DA20Z20C23A6000000/
『【ワシントン=芦塚智子】米連邦最高裁は29日、大学による人種を考慮した入学選考を制限する判断を示した。人種を選考基準の1つとするハーバード大とノースカロライナ大の制度は、国民の平等な権利を保障する憲法修正第14条に違反するとした。
米国の大学が長年採用してきた黒人ら人種マイノリティー(少数派)の優遇措置は見直しを迫られ、奨学金や雇用などに影響が広がる可能性もある。
ロバーツ長官ら保守派判事6人が制限を支持し、リベラル派判事が反対した。多数派意見は「学生は人種ではなく、個人としての経験に基づいて評価されなくてはならない」と指摘。両大学の入試選考は人種を否定的に扱ったり、人種的なステレオタイプ(固定観念)を使ったりしていると批判した。
一方で「人種が入学希望者の人生に与えた影響について、それが本人の人格や能力に具体的に関連していれば、大学が考慮することを禁じるものではない」とも述べ、条件付きで人種を考慮の1つに入れることを容認した。
バイデン大統領は29日、ホワイトハウスで「最高裁の判断に全く同意しない」との声明を発表した。「米国の大学は人種的に多様な方がより強い。米国もそうだ」と強調。入学希望者の財政状況や育った環境、人種差別を含めた逆境を考慮に入れる「新たな基準」を導入するよう大学に呼びかけた。
訴訟は保守派団体が2014年に起こした。ハーバード大には人種重視の入学選考がアジア系の志願者を差別し、ノースカロライナ大には白人とアジア系を不利にしていると訴えた。
大学側は、人種は選考の1要素にすぎず、優遇措置を認めた従来の判決が覆れば黒人やヒスパニック(中南米系)の学生が大幅に減ると反論していた。
人種を考慮した選考はアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)と呼ばれる。歴史的な背景などから白人より不利な立場にあるとされる黒人らに機会を保障するのが目的で、1960年代から広がった。
主に白人保守派が「逆差別」と批判してきたが、近年は教育に熱心なアジア系の間でも不満が高まっている。
判事9人で構成する最高裁はトランプ前大統領が保守派3人を指名したことで保守派6人、リベラル派3人と保守に大きく傾斜した。22年6月には人工妊娠中絶の権利を否定するなど、米世論を二分する問題で保守的な判断を相次いで示している。
バイデン氏は声明発表後に記者団の質問に対し「正常な裁判所ではない」と最高裁を厳しく批判した。
24年の大統領選で返り咲きを狙うトランプ前大統領は声明で「米国にとって素晴らしい日だ」と判断を称賛した。共和党の大統領候補指名を目指すインド系米国人のヘイリー元国連大使も「勝者と敗者を人種で決めるのは根本的に間違っている」と判断を歓迎。同じく指名を争う黒人のスコット上院議員も判断を支持した。
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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説
入学選考の際に志願者の人種を考慮するアファーマティブアクションについて、最高裁はこれを禁じる裁定。約50年続いてきたこの制度が消えることになります。
予想通り保守派判事6人が制度廃止に賛同。リベラル派3人は反対。昨年の州によって妊娠中絶を非合法にできるダブス判決に続き、最高裁が歴史を動かした瞬間。今期の最高裁のトリとしての最重要判決でした。
今回の裁判が決定的だったのが、原告の保守団体が「入学選抜の際、黒人などの優遇は白人だけでなくアジア系も差別している」とアジア系を使って主張した点。「少数派を守る制度が別の少数派の権利を侵害」という主張で最高裁を揺さぶりました。
2023年6月30日 4:39
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説
「アファーマティブアクション」は、社会的にも経済的にも弱者とみられている黒人などのマイノリティーに優遇措置を講じる(今回の訴訟案件に関して言えば入学選考に際してゲタをはかせる)ことにより、社会の不平等を是正していこうとする政策である。米国の大学の学費の高さはよく知られており、奨学金返済の負担の大きさは社会問題になっている。今回の最高裁判決によって優遇措置がなくなると、著名な(学費も高い)大学には「経済強者」が入学する傾向が強まりやすい。大学側は、学内の「多様性」を確保すべく、同時に今回の訴訟で問題になったアジア系の不利な立場へも配慮しつつ、新たな入学選考の枠組みを模索することになるのだろう。
2023年6月30日 7:56』