西側の兵器庫・韓国の興隆に日本は太刀打ちできるか?
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/30650
『今年6月7日から9日にかけて、韓国・釜山で国際海洋防衛産業展(MADEX)2023が開催された。一般公開されてない7日と8日を取材して、筆者が見たものは、韓国が国家の威信をかけて推進する武器輸出(K-defense)の力強さとドローン中心の戦いに変わりつつある海上作戦の姿だった。
正規空母の導入を決めた韓国
MADEXは1998年の韓国海軍創設50周年を記念した国際観艦式をきっかけに始まり、今年で13回目を迎える。釜山で国際観艦式やMADEXが開かれる理由は、韓国第2の都市というだけではなく、海自の自衛艦隊司令部に相当する海軍作戦司令部が置かれる海軍の街だからだ。
今年のMADEXは、韓国政府が推進する「世界4大防衛産業輸出強国」への跳躍を支援し、AI基盤の海洋用無人複合戦闘体系を中心とする海軍の未来像を提示することを目的に開催された。
会場に足を踏み入れると、韓国の防衛産業大手LIGネクスワンの無人水上艇(USV)「シーソード」が目を引いた。しかし、海外メディアが群をなしていたのは、会場の真ん中に向かい合わせで配置された、防衛産業の2大巨頭である現代重工業とハンファオーシャンのブース。現代重工業は空母、ハンファオーシャンは潜水艦と、目玉商品の大型模型を展示していた。
現代重工業が展示していた空母の模型はCVX3、つまり、韓国型空母の3次案にあたる。現代重工業は前回のMADEX2021で、スキージャンプ方式、無人機(UAV)専用甲板を備えた基準3万3000トン級CVX2の模型を展示して注目を集めたが、CVX3はそこから大きく進化していた。
現代重工業の空母の模型(撮影:吉永ケンジ、以下同)
このCVX3は、離着艦方式がCATOBOAR(Catapult Assisted Take Off But Arrested Recovery)に改められ、基準排水量は4万トンに増えた。分かりやすく言えば、CVX2が短距離・垂直離陸機(STOVL)とヘリコプター、UAVの運用を想定した軽空母だったのに対して、CVX3は中型の正規空母を指向している。
正規空母を運用しているのは米海軍(11隻/ニミッツ級基準排水量約7万4000トン)のみで、2022年に国産空母「福建」(基準排水量約7万1000トン)を進水させた中国海軍がこれに続く。歴代のCVXと外観が近く、基準排水量が大きい英海軍のクイーン・エリザベス級(基準排水量約4万5000トン)でさえも、スキージャンプ方式でSTOVL機を運用しているのだから、CVX3がいかに野心的な空母であるかが見てとれる。』
『模型をよく観察すると、韓国航空宇宙産業(KAI)が開発中の艦載戦闘機KF-21Nを14機、早期警戒機2機、ヘリコプター2機を甲板状に配置し、フェイズドアレイレーダー、電磁カタパルト2基とエレベーター2基、3本のアレスティング・ワイヤーを装備していることが分かる。
浮沈を繰り返す空母導入計画の未来図
では、韓国の空母建造はどのような計画で進められているのだろうか。現代重工業関係者は語る。
「韓国政府は20年8月に決定した21年〜25年国防中期計画で、3万トン級の軽空母を導入し、21年に基本設計に着手、30年に戦力化することを公表しています。今回発表したCVX3は、未来海上作戦の様相や艦載機について新たに検討を加えました。われわれはどのような性能要求にも応えることができます」
韓国政府の計画どおりであれば、すでに現代重工業のドックで空母が建造されているはずだ。しかし、そのような事実はない。上述の関係者は起工の時期を「政府の問題」と回答を避けたが、尹錫悦大統領は前政権が推進した軽空母事業について、政権の軍事ドクトリンである国防革新4.0で言及せず、23年度予算に反映しなかった。
これまで韓国の空母導入計画は何度も浮沈を繰り返しているが、その根本的な理由は陸海空軍の力関係にあると言える。海軍は海兵隊を加えても最も規模が小さい。また、陸軍と戦略軍主体の朝鮮人民軍と対峙する韓国軍において、巨大なカネ食い虫である空母の導入は常に議論の的になってきた。
とは言え、各国メディアが入れ替わり立ち替わり、空母の模型の前で取材していたことを考えれば、韓国型空母のインパクトが大きかったことは否定できない。
6兆円を超える潜水艦輸出プロジェクト
日本ではほとんど話題になってないが、韓国ではカナダへの潜水艦輸出が大きな注目を集めている。今年4月、カナダの全国紙オタワ・シチズンは、通常動力潜水艦(SS)ビクトリア級4隻が建造から30年経ったことを受けて、カナダ海軍が10年以内にSS12隻を調達する、総額600億カナダドル(約6兆4635億円)の巨大プロジェクトを構想していると伝えた。この構想について、海外の軍事専門家は韓国のKSS-Ⅲ級と日本のたいげい級、スペインのS-80級が候補に上がっていると示唆するが、最右翼はKSS-Ⅲ級だ。
このホットな話題に気を良くしたのか、今年5月にDSME(大宇造船海洋)から社名を変えたハンファオーシャンのブースには、カナダ輸出向けに開発を進めるKSS-Ⅲ batch2の模型が置かれていた。ここも現代重工業の空母と同じく、海外メディアが集まっていたが、一つ異なった点は、韓国海軍の提督たちが次々と訪れ、同社重役と記念写真に収まっていたことだ。
ハンファオーシャンの潜水艦の模型
にこやかな提督たちの笑顔からは、韓国製潜水艦が輸出されることによって韓国海軍の位相が高まることへの期待感だけではなく、退役後の生活を含めた現実的な利益への思惑も垣間見られた。』
『提督たちと記念写真に収まっていた重役と思しき人物に、日本メディアであることを伝えてインタビューを申し込むと、「担当じゃないから分からない」とけんもほろろに取材拒否されたが、時間を置いて別の男性に声をかけると、「潜水艦プロジェクトチームの責任者です。日本に留学していました」と親しげに対応してくれた。
「ハンファオーシャンはKSS-Ⅲ batch2の輸出に向けて、韓国政府とともにさまざまなレベルでカナダに働きかけを行っています。導入するか否かはカナダ政府の意思ですが、契約が締結されれば、6〜7年で就役させることができます。日本の三菱重工も狙っていると聞いていますが、KSS-Ⅲ batch2はカナダ海軍が求めるVLS(垂直発射装置)を装備しており、有利な状況にあると考えています」
わずか20年で潜水艦輸出国に成長した韓国
彼の自信に満ちた答えの背景には、防衛産業分野における韓国とカナダの急速な接近がある。昨年12月、両国は防衛産業軍需協力基本合意書(MOU)を改定し、秘密情報の共有を防衛産業分野にまで拡大する秘密情報保護協定(GSOMIA)の協議を開始した。
そのような中で、今年5月、トルドー首相が国交樹立60周年を記念して、カナダ首相として9年ぶりに訪韓した。両首脳の会談で潜水艦協定が締結されるとの憶測も出たが、そのような公式発表はない。しかし、国防分野での関係強化が話し合われたと報じられていることから、KSS-Ⅲ batch2についても言及された可能性がある。
上述の責任者は、「こちらの1400トン型は、主に中東への輸出用ですが、すでにインドネシア海軍で3隻が運用されています。また、同型艦を性能向上させたものがフィリピンに輸出される予定です」と続けた。
韓国海軍が初めて潜水艦を配備したのは1993年のこと。ドイツから209型SSを調達、統一新羅時代の海将にちなみ張保皐(チャン・ボゴ)と命名し、2番艦以降は輸入したパッケージを組み立てる形でDSMEが建造した。
そして、2016年には純国産潜水艦KSS-Ⅲを起工するとともに、1400トン型潜水艦をインドネシアに輸出するに至った。韓国は、世界中で10カ国ほどといわれる潜水艦建造国に、わずか20余年で加わったばかりでなく、米英仏独露に並ぶ潜水艦輸出国に成長したのだ。
韓国海軍の発展を見誤った海自将官の言葉
筆者は2008年に釜山で開催された韓国海軍創設60周年記念国際観艦式に情報幕僚として派遣され、大洋海軍を目指す韓国海軍の姿を目の当たりにした。当時は艦橋に掲げられた「大洋海軍」の額装を、韓国海軍が抱くはるか遠くの夢としか思えなかったが、時を経て、韓国海軍はブラウンウォーター・ネイビー(沿岸海軍)からブルーウォーター・ネイビー(外洋海軍)に脱皮しつつある。
その飛躍を側面から支えているのが、盧武鉉政権時の2006年に創設された防衛事業庁(DAPA)が司令塔となって展開されている防衛産業振興政策だ。同庁創設時2.5億ドルだった武器輸出額は、22年には170億ドル(約2兆4000億円)を突破し、23年には200億ドル(約2兆8000億円)に迫ると見られている。
このように韓国は、日本の航空機産業や防衛産業(ともに約1兆8千億円規模)を大きく上回る産業を20年も経たずに作り上げた。この過程で、韓国の防衛産業が海外企業と競争し、良質な兵器を生み出すに至ったことは、容易に想像がつくだろう。
非常に残念なことだが、MADEX2023の会場で見かけた日本人は、指揮官や幕僚を養成する韓国軍の大学に留学中の自衛官しかいなかった。また、当然のこととして、日本企業の出展もなかった。筆者は、韓国の艦艇模型や武器システム、ドローンを目を輝かせて見て回り、ブースで質問したり商談したりする各国軍人やメディアの姿を見て、やり場のない悔しさにとらわれた。
そして、韓国が潜水艦を導入した時に、ある海上自衛隊の将官が語った、「沿岸海軍しか持ったことがない韓国に潜水艦を運用することはできず、ただのシンボルに過ぎない。将来にわたって自国で潜水艦を建造することなど無理な話だ」という言葉を思い出した。』
『伝統と技術ある日本が韓国に負けるはずはない。この思いは、昭和を生きてきた多くの日本人に共通する感情だろう。だが、実際には、日本が得意としていたはずの造船、電気製品などの分野で次々に追い越され、スマートフォンや文化コンテンツでは今や太刀打ちできない状況に置かれている。
韓国防衛産業幹部が語るK-defenseの強み
韓国防衛産業大手プンサンの防衛産業本部シニアマネージャーは、K-defenseが活況を見せる理由として、防衛産業の企業努力とDAPAの支援、ロシア・ウクライナ戦争の影響――の3点を挙げた上で、「日本は戦後、米国におんぶに抱っこされ、防衛産業を育てる努力をしてこなかった。今やK-defenseは世界中から引く手あまたであり、日本のはるか先を走っている。どう足掻いても日本に勝ち目はない」と慇懃に語った。
日本政府は昨年末に改定した国家安全保障戦略に「官民一体となって防衛装備移転を進める」と明記し、「防衛装備移転三原則」に示した救難、輸送、警戒、監視及び掃海の5類型の拡大に向けた検討を行っている。
日本では、武器輸出=死の商人とする安直な報道や主張が目立つが、防衛装備品の輸出は、輸入国との防衛協力関係の強化に直結することはもちろんのこと、共同開発で蓄積された技術がデュアルユースで民生品に反映されるなど、さまざまなメリットがある。それゆえ、韓国は国策としてK-defenseを強く推進している。
はたして、日本は西側の兵器庫と例えられる韓国に、このまま引き離されていくだけなのだろうか。韓国では、ドローン中心の戦いに変わりつつある海上作戦とデュアルユースも進められている。』