資料2
衆議院憲法調査会報告書
(抜粋)
平成17年4月
衆議院憲法調査会
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/1800405housei-siryou2.pdf/$File/1800405housei-siryou2.pdf
※ 『日本国憲法が採用する直接民主制は、①憲法改正に際しての国民投票(96条)、
②地方自治特別法の制定に際しての住民投票(95条)、③最高裁判所裁判官の国
民審査制度(79条)の三つである』という点、むしろ、「たった三つしか」明文では認めていないという点は、押さえておこう…。
『第3編 憲法調査会の調査の経過及びその内容
第3章 憲法調査会における議論
第1節あらまし
第11 直接民主制 (報告書P. 250)
直接民主制に関しては、特定の問題について是非を問う国民投票制度の導入
について議論が行われた。この点については、意見が分かれた。
導入すべきであるとする意見は、その論拠として、議会政治を補完して、様々
なニーズや意見を反映させる途を設けるべきであること等を挙げている。
これに対し、導入することに慎重な意見は、その論拠として、①民主主義の
本質は討議の過程にあるのに、政策の是非を判断する手段を必ずしも有しない
国民に対し、直接その意思を問うことは危険であること、②議会制民主主義を
健全に機能させていくことが重要であること等を挙げている。
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第3編第3章第3節 日本国憲法の各条章に関する意見
第12款 直接民主制 (報告書PP. 456〜462)
直接民主制に関しては、日本国憲法における直接民主制、直接民主制と代表
民主制との関係、国民投票制度の導入の是非、国民投票の法的効果、国民投票
の発議権の所在、国民投票の対象、国民投票制度の導入に関わる問題点とその
対応策等について議論が行われた。
第1直接民主制の意義(略)
第2 —般的な国民投票制度
日本国憲法が採用する直接民主制は、①憲法改正に際しての国民投票(96条)、
②地方自治特別法の制定に際しての住民投票(95条)、③最高裁判所裁判官の国
民審査制度(79条)の三つであるが、これら以外に一般的な国民投票制度を導
入すべきか否かについて議論が行われた。
1国民投票制度の導入の是非
国民投票制度の導入の是非については、当該制度を導入すべきであるとす
る意見と導入することに慎重な意見が述べられた。
ア 国民投票制度を導入すべきであるとする意見
国民投票制度を導入すべきであるとする立場からは、次のような意見が
述べられた。
a 価値観が多様化するなかで、様々なニーズや意見を反映させていくた
めに、国民投票制度を導入すべきである。
b 議会政治を補完するためにも、国民投票制度を導入すべきである。
c 住民主権の延長線上に国民主権があり、その意味で、住民投票が既に
規定され、実効性を上げてきていることから、住民投票を精査した上で、
その延長線上に国民投票を国会の責任として位置付けていくべきである。
イ 国民投票制度を導入することに慎重な意見
国民投票制度を導入することに慎重な立場からは、次のような意見が述
べられた。
a 民主主義の本質は討論にあり、ほとんど審議することなく大勢の住民
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に突然イエスかノーかの問いかけをし、結論を求めるやり方は民主主義
に反する。
b 政策的な一貫性に欠け、また、政策を決定するために必要な情報を提
供するシンクタンクを有しない有権者が、どれほど有意な提案や投票が
できるのか、危惧を抱かざるを得ない。
c 国民投票の範囲は、最高裁判所裁判官の国民審査制度や憲法改正の国
民投票に限定すべきである。
d 今の国会そして議会制民主主義を健全に機能させていくことが重要で
ある。
2国民投票の法的効果
国民投票制度を導入した場合に、その結果にどのような法的効果を認める
べきかについて、次のような意見が述べられたが、これらの見解は、現行憲
法の下で、法的効果の観点から、国民投票制度の導入の形を模索する意見と
も言える。
a 国民投票の結果に法的効果を与えるとすれば、憲法改正が必要であるが、
その点には消極的であり、国民投票制度を導入するのであれば、諮問的な
ものに止めるべきである。
b 諮問型の直接投票制度はあるかもしれないが、少なくとも法律の制定に
ついての拘束型の国民投票制の導入は、国会は国の唯一の立法機関である
とする41条や、両院の議決によってのみ法律を制定するとする59条とい
う明確な規定があることから、現行憲法の条文を変えずに解釈だけで導入
することは難しい。
3国民投票の発議権の所在
国民投票の発議権の所在について、次のような意見が述べられた。
a 国民投票に付す内容については、国会が判断していくことが前提となる。
b 国民投票制度を導入するのであれば、内閣は発議者になるべきではなく、
例えば、参議院のあり方を整理し、中身、質を考えた上で、発議権を参議
院に与えるのも一考である。
c 国民主権の原理を発展させていく観点から、国民の請願、発案による憲
法改正の手続も検討してよいのではないか。
4国民投票の対象
国民投票の対象については、国民投票の対象としてふさわしい事項を提示
する意見と、国民投票の対象としてふさわしくない事項を提示する意見が述
べられた。
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ア 国民投票の対象としてふさわしい事項を提示する意見
国民投票の対象としてふさわしい事項の例示について、次のような意見
が述べられた。
a 女性の天皇を認めることの是非について、国民投票で意見を問うこと
があってもよいのではないか。
b 主権の移譲を伴う国際機構に参加する場合や、一つの地方公共団体に
限定されない特定地域の将来を左右する特別立法をする場合等に、国民
の意思を直接問うことのできる国民投票制度の拡充を図るべきである。
イ 国民投票の対象としてふさわしくない事項を提示する意見
国民投票の対象としてふさわしくない事項の例示について、次のような
意見が述べられた。
a 外交、防衛上の問題のみならず、生命倫理の分野のように組織的な議
論を必要とする問題については、必ずしも国民投票になじまない。
b 条約、税制等の専門分野については、必ずしも国民投票の形で解決す
ることはふさわしくない。
c 国民にとって、短期的には不利益だが、中長期的な観点から必要な施
策、例えば新税の導入については、適切な判断がなされないのではない
か。
d 市町村合併のような重要なテーマについては、本来議会又は行政の側で
責任を持って説明責任を果たすべきであり、国民投票にはなじまない。
5 国民投票制度の導入に関わる問題点とその対応策
国民投票制度が導入された場合に生じるであろう問題点を指摘するものと
して、次のような意見が述べられた。
a 国民投票制度によって少数者の人権を侵害することは許されず、憲法裁
判所等の機関が、国民投票による立法措置によって少数者の人権を侵害す
ることのないよう、統制する仕組みが必要である。
b 投票率の低下やイニシアティブ産業による意図的な世論形成など、国民
投票の問題点を克服することが必要である。
c 仮に国民投票制度の法整備を行うとすれば、自由な議論を促すという観
点から、文書図画の頒布を規制するような現行の選挙制度の枠組みで考え
るべきではない。
d 脳死の問題等のように、議員レベルでもなかなかどちらがいいのか判断
できないものを、そのまま国民投票に付すのではなく、相当の議論、整理が
なされ、国民が判断できる状況になって初めて国民投票の意味がある。
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(参考人等の発言)
く国民投票制度の導入の是非>
•直接民主制の導入自体は、憲法前文にいう「代表者を通じて行動し」とい
う文言とも矛盾しない。もともと、現行憲法上も「代表者を通じて行動し」
と前文で規定しつつ、96条で憲法改正のための国民投票を認めていること
からも、それ以外に国民投票の場面を増やしても、必ずしも前文と矛盾し
ない。(井口秀作参考人)
•民主主義にとって、人を選ぶことも重要だが、それ以外に、我々のことは
我々で決めるという要素を取り入れることも重要ではないか。そのために
レファレンダムやイニシアティブ等の直接民主制的な制度を導入し、自己
決定の拡充を図る方向で、議論が進められてもよいのではないか。(大石眞
参考人)
•政策に関する判断を国民による直接民主制度に委ねることに否定的な見解
の背景には、愚民視があると考える。国民が目先の利益に捕らわれた場合
には国民の自業自得となるだけであり、国民の判断に委ね、その判断の結
果に自身で責任を負うことを、国民の学習という観点からも積み重ねた方
がよいと考える。(結城洋一郎意見陳述者)
・民意を反映する形で専門的な政策をコントロールするやり方として、国民
の直接的な意思表明としての国民投票制度、その前提としての情報公開が
ある。しかし、国民の要望を的確に汲み上げて政策に結び付けていくのは、
国会議員の仕事とも言える。(森田朗参考人)
く国民投票の法的効果>
- 一般的に法律に関する法的拘束力のある国民投票制度を導入することは、
41条及び59条に違反するので、その導入に当たっては憲法改正が必要で
ある。(井口秀作参考人)
く国民投票の発議権の所在>
•議会が議論を尽くし、最後の決定を国民に委ね、それに国会が従うという
形が国民投票の本来あるべき姿である。その意味で、少数派にこそ諮問的
な国民投票の発議権を与えるべきである。そうしないと、多数派が最初の
うちに国民投票にかけ、逆に国会の議論を封じ込めることが考えられるか
らである。(井口秀作参考人)
く国民投票の対象>
•具体的に国民投票にふさわしいものを事前に想定することは非常に難しい。
おそらく、こういうものは国民投票にかけられるというものをだんだんと
積み上げていくしかない。(井口秀作参考人)
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•諮問的国民投票に9条を改正すべきかどうかをかけたらどうか。そこでで
きた政治判断をおそらく国会は尊重せざるを得ないだろう。(井口秀作参考
人)
く国民投票制度の導入に関わる問題点とその対応策>
•直接民主制の導入については、議論すること自体はよいが、むしろ直接民
主制に耐え得る政党制や代表民主制を整備することの方が重要であり、そ
れは現行憲法の理念を充実していくことに尽きる。(井口秀作参考人)
•国民投票により成立した法律に対する違憲審査の可否であるが、おそらく
日本の最高裁判所の統治行為の立場を考えると、違憲審査は行われない。
そうすると、かえって国民投票の導入により違憲審査が及ばないことによ
り、少数者が保護されない危険性が出てくる。イタリアでは、事前に憲法
裁判所が審査することになっているが、日本の場合に可能かというと、付
随的審査制をとっているので、そぐわない面がある。やはり国民投票であっ
ても決められないことがあるという点と、それをどう守っていくのかとい
う点を理解しておく必要がある。(井口秀作参考人)』