サハリン権益、人民元で商社などに配当 対ロ制裁受け
【イブニングスクープ】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR302OK0Q3A430C2000000/

 ※ ロシア制裁が、巡り巡って、「人民元の国際化」の進展を促しているとしたら、皮肉な話しだ…。

『三井物産や三菱商事などが出資するロシアのガス権益の配当が中国人民元で支払われたことがわかった。ウクライナ侵攻への制裁で西側諸国がロシアをドル決済網から締め出した結果、ドルでの受け取りが困難になったためだ。対ロ制裁の長期化が日本企業の決済にも影を落とし始めた。

「配当は人民元かルーブルで」――。ロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン1」「サハリン2」をめぐりロシア政府が昨年、権益を管理する新…

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『ロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン1」「サハリン2」をめぐりロシア政府が昨年、権益を管理する新たな新会社を設立したのに伴い、ロシア側は従来の配当の支払い方法を変更した。

「サハリン1」には経済産業省や日本の商社などが出資するサハリン石油ガス開発が30%の権益を持つ。「サハリン2」には三井物産が12.5%、三菱商事が10%をそれぞれ出資していた。両事業とも、ウクライナへの軍事侵攻後、米欧企業が撤退したことに伴い新たな運営会社に移行したが、日本勢は新たに出資し直して権益を維持した。

制裁前はサハリンの配当は年2回程度、ドルで送金し、シンガポールの銀行口座で決済していた。欧米が制裁でロシアをドル決済網から締め出した結果、金融機関がロシア関連のドル取引に消極的になり、ドル建てのこのルートが使えなくなった。今年1〜3月にサハリン権益の配当を支払うためロシア側は新たな送金ルートをつくった。

ロシア側は総合商社への配当を人民元で支払い、実務をロシア国営ガスプロム専属銀行のガスプロムバンクが担ったようだ。ロシアに詳しい関係者によると日本のメガバンクが受け皿となる人民元口座をつくり、三井物産や三菱商事などへの100億円規模の配当が実現したようだ。

日本勢はエネルギー安全保障の観点から「サハリン」のエネルギー権益の維持を決めた。人民元は国を越えた送金などに一定の制限がかかり、受け取る側にとって好ましい決済通貨ではない。それでもロシア側への包囲網が強まるなか選択肢はなかった。

人民元建て取引は世界で広がっている。中国国有石油大手の中国海洋石油(CNOOC)と仏トタルエナジーズは3月、LNG取引を人民元建てで決済した。ブラジルも中国と貿易や金融取引で人民元も決済通貨として使える仕組みを導入。中東勢もドル以外の決済通貨を使った取引に前向きな姿勢だという。

資源国であるロシアを巡っては制裁の影響で人民元での取引が増えている。ロシア中銀によると今年3月のロシアの外国為替取引における人民元の取引量シェアは過去最高の39%に上昇し、対照的にドルのシェアは34%に低下した。

ドル決済網からロシアを締め出す制裁がドルの基軸通貨の立場を危うくし中国を利する構図が浮かぶ。英運用会社ユリゾンSLJキャピタルによると、2022年に世界の外貨準備に占める米ドルのシェアは過去20年間の平均速度の10倍の速さで下がったという。

為替レート変動調整後の同社の試算では、ドルは16年以降、市場シェアの約11%を失った。全世界の公的な準備金に占めるドルの割合は01年に7割を超えていたが現在は約58%まで下がった。ユリゾンのスティーブン・ジェン氏は「2000年ごろまでドルは議論の余地のない覇権的な準備通貨だったがシェアは着実に減少している」と指摘する。

米国は石油などの資源をドル建てで決済する仕組みを浸透させることで、覇権を握る「ペトロダラーシステム」を構築。ドルの金との交換停止によってドルの価値が急落した後にニクソン政権が導入したとされる。制裁を機に、ドルの保有がリスクと見なされるとこうした覇権も脅かされかねない。

プーチン大統領は5月24日、旧ソ連圏経済ブロック「ユーラシア経済同盟」の会合での演説で「国際金融の分野でも急激な変化が起きている。我々は相互決済における(米国など)非友好的な国の通貨の割合を減らす方向に向かっている」と述べ、米ドルなどへの依存から脱却する方針を強調した。

米政府は表向き平静を保っている。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は5月の記者会見で、ドル離れの動きへの対応を聞かれ「あなたの質問に良い答えはない」とあしらった。

いつでも他の通貨に交換できる流動性を持ち、世界最大規模の経済に裏打ちされた通貨が基軸通貨の地位を明け渡すことはない。米財務省やエコノミストの見方はおおむね一致するが、対ロ制裁が人民元の存在感を高めていることは確かだ。

(ロンドン=山下晃、ワシントン=高見浩輔)

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