IPEF始動、米国は労働・環境重視 東南アジアと隔たり
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN274AG0X20C23A5000000/

『【デトロイト=飛田臨太郎】米国が主導する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の閣僚級会合が27日閉幕し、一部分野で先行合意した。残る交渉は難航する可能性がある。米国は貿易自由化に否定的で、労働や環境の分野に熱心な一方、東南アジアは実利を求める。
米国は中国優位に傾くアジア経済圏で、情勢挽回のためIPEFを立ち上げた。中国は東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)に参加し、202…
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『中国は東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)に参加し、2021年9月には米国が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)に加盟申請した。
サプライチェーン強化へ一定の前進
今回の閣僚級会合はサプライチェーン(供給網)強化の協定に合意し、一定の前進をみせた。中国への依存度が高い重要物資が多いのが、中国が他国に威圧的になれる背景にある。IPEF内で融通できれば抑止力になりうる。
供給網強化はいずれの参加国も反発するテーマではない。残る分野の交渉は米国と東南アジアの立場に隔たりがある。
米バイデン政権が最重視するのが労働と環境だ。協定に国際的な労働ルールを守る規定を盛り込もうとしている。強制労働などの悪質な労働慣行の排除を目指す。企業が労働基準に違反すれば、説明責任を果たすよう促す。
米国は労働ルールや環境順守求める
レモンド商務長官は閉幕後の記者会見で、IPEFの狙いは「中産階級を増やすため貿易のやり方を革新することだ」と訴えた。「搾取の上に成り立つ経済活動を遠ざける」と強調した。
環境対策の順守を求める規定も盛り込もうとしている。漁業など幅広い分野に焦点を当てており、鯨の捕獲を規制する案まで浮上する。レモンド氏はIPEFを「21世紀型の新しい経済協定」と説明した。
米国の新しい貿易政策は国内情勢の裏返しだ。米通商代表部(USTR)のタイ代表は25日、各国の代表団を前に1時間半にわたり講演し、従来の自由貿易は労働者に恩恵がなかったなどと説いた。
デトロイトに本拠を置くゼネラル・モーターズ(GM)など「ビッグスリー」が加盟する労働組合トップも一緒に登壇し、タイ氏と歩調を合わせた。デトロイトは海外製品の流入で製造業が衰退し、ラストベルト(さびた地帯)とも呼ばれる。
生活が苦しくなった製造業労働者の不満が17年のトランプ政権(共和党)誕生につながった。バイデン大統領は再選を目指す24年大統領選で労働者票の動向を気にかける。
実利求める東南アジア「講義より空港」
「労働問題よりも取り組むべき課題はたくさんある」。東南アジアの代表団の一人はこう漏らした。米戦略国際問題研究所(CSIS)のスコット・ミラー氏は「新興・途上国が中国と話すと空港を手に入れる。米国と話すと講義を受ける。どちらが成功するか答えは簡単だ」と指摘する。
IPEFで、先進的なデータ流通ルールを構築する期待は後退している。日本やオーストラリア、シンガポールが求めているが、米国が慎重な姿勢に転じた。
与党・民主党から「巨大IT(情報技術)の『GAFA』を利するだけだ」との批判の声がでているためだ。27日の閣僚級会合の会場の前には「ビッグテックを助けるのをやめろ」との看板が掲げてあった。
IPEFの会場の前には米国代表団に向けて「ビッグテックを助けるのをやめろ」との看板が掲げられた
米国の「ご都合主義」を見透かすようにアジアの国々は動く。シンガポールは人工知能(AI)などのデジタルルールを定める貿易協定で中国と交渉を始めた。
日本政府は米国と東南アジアの間をとりもとうと動く。IPEF交渉が停滞し、アジア経済圏で米国の存在感が薄まれば、中国の影響力がさらに増すためだ。今後の交渉で日本が果たす役割は大きい。
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