[FT]IMFは信頼できるのか

[FT]IMFは信頼できるのか
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『国際通貨基金(IMF)がアイデンティティーの危機に陥っている。長らく「最後の貸し手」としての役割を担ってきたが、多額の資金を金融市場に供給している各国の中央銀行にすっかりお株を奪われた。主要出資国の米国と中国もいがみ合っている。そしてクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事が世界銀行の最高経営責任者(CEO)だった時の不正疑惑が浮上し、データの信頼性も揺らいでいる。IMFはもはや、従来通りの存在ではあり得ないかもしれない。

ゲオルギエバ氏は世銀の報告書で中国の順位を実際より高くするよう圧力をかけたという疑惑を否定している=ロイター

多くの中・高所得国にとってはもうかなり前からIMFの存在意義がなくなっていた。2008年の金融危機以降の量的緩和策が一因だ。高利回りを求める投資家がIMFとほぼ同じ金利で、しかも条件を付けずに融資を申し出ているのに、わざわざ厳しい条件の付いたIMFの支援を受ける理由などどこにあるだろう。「中銀がわれわれを失業させた」。ある幹部の弁だ。

新型コロナウイルス下の中銀による流動性供給で、この傾向は一段と加速する。感染拡大を受け、IMFも100カ国に緊急支援をした。成果はあったものの、経済規模の小さい最貧国が対象で、大した金額にはならなかった。

支援先の財政緊縮を重視した前任者と違い、進歩主義的なエコノミストとされるゲオルギエバ氏の下で、IMFは従来の緊急流動性支援から経済発展支援に軸足を移している。主要通貨に連動する準備資産、特別引き出し権(SDR)の新規配分を決定したことがこの変化を如実に物語る。8月、6500億ドル(約72兆円)相当を承認した。
米中対立のはざまで

この配分に関しては、国別の支援策がほごにされたとも批判されている。従来は支援国の経済回復の見通しや詳細な債務分析のほか、政策の様々な側面を検討していた。例えばウクライナへの50億ドル支援は、汚職問題への対応が不十分だとみて度々延期した。

こうした時に飛び込んできたのが、信頼性というIMFに残された大切な資産を損ないかねない不祥事だ。外部調査によると、ゲオルギエバ氏は世銀のCEO時代、年次報告書「ビジネス環境の現状」で中国の順位を実際よりも高くするよう圧力をかけた。しかも同氏は当時、中国などからの出資金の増額ももくろんでいたという。

この問題ではIMF理事会も調査をしている。職員らはIMFが権力者に遠慮なく真実を伝えることが難しくなったと話す。ゲオルギエバ氏が中国の要請でデータに手心を加えたのであれば、同氏が率いるIMFが他の国々の圧力に屈しないという保証はない。

結局、ゲオルギエバ氏の運命を左右するのは、この疑惑や業務の方向性の転換ではないかもしれない。もし辞任することになったら、IMFへの出資比率で首位の米国と3位の中国が対立する中、どちらに肩入れするか判断を誤ったことが原因ではないか。

米下院金融サービス委員会で先日、民主・共和両党の議員が世銀の調査を基に、ゲオルギエバ氏のトップとしての適性に疑問を投げかけたことは注目に値する。同氏は疑惑を否定し、抗戦する構えだ。最終的に誰の正しさが証明されるにせよ、IMFの評価が上がることはないだろう。

By Jonathan Wheatley

(2021年9月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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