デジタル貿易で対中スクラム TPPや日中韓FTAにらみ

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デジタル貿易で対中スクラム TPPや日中韓FTAにらみ
政府、RCEP承認案を年明けに国会提出
政治
2020年12月29日 2:00 (2020年12月29日 5:07更新) [有料会員限定]

『政府は年明けの通常国会で、東アジアの地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の承認をめざす。デジタル分野の通商ルールを中国に課す初の枠組みとなる。環太平洋経済連携協定(TPP11)拡大や日中韓自由貿易協定(FTA)をにらみ、電子商取引などでも高い水準の自由度を保つために関係国と連携する。

保護主義に走る米国を尻目に自由貿易重視の考えを強調し、制度づくりを主導しようという中国の影響力を抑える狙いもある…』

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・データは「21世紀の石油」とも呼ばれ、新しいビジネスや利益の源泉となる。自由なデータ流通を重視する制度にできるかが、これからの国際社会の力関係や企業の活動を左右する。

・日本としてはデータの国家管理をめざす中国に有利に進まないようにするのが基本戦略となる。

・RCEPは2022年にも発効する見通しになっている。日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)など15カ国が11月に合意した。

・外務省によると、中国が加わる通商協定で電子商取引に関する規定が入るのは初めてだ。自由なデータ流通を保証し、サーバーなどの設置場所に関する要求を禁じる内容を盛り込んだ。企業が中国でビッグデータを集める際に効果が出る。

・いまは日本の研究拠点への直送を止められたり、中国のサーバーで管理するよう要求されたりする懸念がある。発効後は企業がRCEPを根拠に反論できる。

・デジタル条項を主導したのは日本だった。

・17年5月にハノイで開いたRCEP閣僚会議。当時の世耕弘成経済産業相が「デジタルのルールも議題とするよう提案したい」と1枚の紙を配った。「聞いていない」と異議を唱える中国を、ベトナムやシンガポールが賛同して押し切った。

・布石は怠らなかった。その1カ月前、世耕氏はASEANの閣僚に桜が満開の和歌山城などを案内しながら根回しした。閣僚会議の前夜もASEANだけを夕食会に招いて事前に了解を得た。

・大国になった中国と一対一で交渉するのは容易でない。政府は共通の目標を持ち信頼できる国々とスクラムを組んで中国に対抗する戦略をとる。嶋田隆・元経産次官はこうした枠組みを「高信頼リーグ」と呼ぶ。

・中国は今年、香港への締め付けや新型コロナウイルスの封じ込めなどで強権的な対応をとった。中国も世界貿易機関(WTO)のような国際的な枠組みに入れば民主的になるだろう――。そんな「関与政策」の期待は失望に変わった。

・とはいえ企業は14億人市場を持つ中国との関係を断絶しにくい。

・世界銀行や国際通貨基金(IMF)はコロナからいち早く回復した中国が21年の世界経済をけん引すると予測する。企業活動の安定を確保するためにも、中国を巻き込んだ形での公正で透明なルールが必要となる。

・RCEPでは対中連携の課題も浮かび上がった。中国に対抗できる有力国と期待したインドが途中で離脱。日本の説得にもかかわらず、ASEANはインド抜きの早期妥結を選んだ。日本が協調する国々で常に歩調が合うとは限らない。

・ソフトウエアの設計図「ソースコード」の開示要求の禁止がRCEPに盛り込まれなかったのは中国と関係が深いカンボジアやミャンマーなどが反対したためだった。デジタル分野の紛争処理手続きの決着も中国の反対で先送りになった。

・日本と同様、中国も次の主戦場を日中韓FTAやTPPだとにらむ。

・中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は11月にTPPへの参加を積極的に検討すると表明した。米国がTPPに入って日米主導の構図が固まる前に、中国に有利な条件で加わるのが得策との判断がありそうだ。

・新興国中心のTPP内の連携はまだ弱い。中国という大きな市場を欲する国々が相手なら、加盟条件を巡る駆け引きを優位に進められるとみる。

・TPPが定めるデジタル分野のルールはRCEPより厳しいものの、中国も国内法整備を進めたため、以前に比べ加盟できる余地がある。TPPをテコに国内の経済改革を進めたい思惑もある。

・米国はバイデン政権に代わっても当面、TPP復帰は難しそうだ。日本は英国や台湾、タイを加えるなどして「高信頼リーグ」を補強する必要がある。中国の参加を優先し、TPPの要件を緩める動きが出かねない。

・日中韓FTA交渉では韓国との連携も課題となる。めざすべき公正なルールづくりが中国の存在でゆがめば、企業活動にも影響を及ぼす。

(政治部次長 永井央紀)