レナウン、破産手続きへ 名門ブランドに幕

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65740800S0A101C2EAF000/

※「倒産処理手続き」について、基本的なところを、ちょっと説明しておく…。

※ 大きく分類すると、1 再建型 2 清算型 と、2種類ある…。

※ 再建型 → 会社を存続させながら、金融機関や債権者との話し合いで、「債務の圧縮」を図りながら、少しずつ債務を弁済していき、ある程度のところで、「債権の放棄」を引き出したりして、決着を目指す。

※ 清算型 → 会社の再建はあきらめ、ともかくも残った会社財産を売り払って、返済資金を捻出して、弁済していき、最後は会社自体も消滅する。

※「民事再生手続き」は、再建型で、「破産手続き」は、清算型だ…。

※「破産」は、清算型の中でも、最も強力な手続きだ…。「会社財産」の、一切合財(いっさいがっさい)を処分して、弁済資金に変える…。手続きも、「破産管財人」というものが選任され、それを中心に進めて行くことになる…。

※ 一番強力なのは、「否認権」というものが認められる点だ…。

※ これは、「破産手続き」開始以前であっても、会社の債務の弁済状況が怪しい状態に入った段階での取り引き(金融機関の融資、納入業者の品物の売買契約…)なんかを、「否認(手続きとの関係で、効果を認めないこと)」ができる…、という制度だ…。

※ レナウンも、初めは「民事再生」を目指したようだが、売却できそうな「ブランド」や「事業」は、すべて売却し、それでも「負債」すべてを弁済するには、到底足りないんで、「破産」の道を選択するしかなかった…、ということなんだろう…。

『民事再生中のレナウンは11月下旬以降に破産手続きに移行することが分かった。東京地裁が10月30日付で同社の民事再生手続きの廃止を決定、4週間後をメドに破産手続きを始める。レナウンは再建に向けたスポンサー探しが難航したため、グループ全体での再建を断念し、ブランドや子会社の売却を進めていた。本体の清算は既定路線であり、破産手続きにより名門ブランドは消滅する。

レナウンは業績低迷や新型コロナウイルスによる資金繰りの悪化を受け、5月中旬の民事再生手続き後から再建を目指していた。9月末に紳士服「ダーバン」や「アクアスキュータム」など主力5ブランドを同業の小泉(大阪市)グループに売却。10月には機能性肌着を扱うレナウンインクス(東京・江東)をストッキング大手のアツギに譲渡した。その他のブランドについては直近までに店舗閉鎖などを完了していたもようだ。』

死屍累々の中国半導体、それでも諦めない習氏 上海支局 張勇祥

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65547860Y0A021C2000000/

『新型コロナウイルスの震源地、湖北省武漢の市街地から車で西に1時間。中国に数多くある「経済開発区」の一角で、窓も内装もないコンクリートだけの巨大な建造物が横たわっている。総額1000億元、円換算で1兆5000億円を超すプロジェクトとはやされた「弘芯半導体製造」本社工場の今の姿だ。

武漢市の弘芯半導体は工場建設が頓挫している

最先端の半導体受託生産会社(ファウンドリー)を目指し、オランダから最先端の製造装置を導入したと宣言して1年もたっていない。近くを歩く労働者に尋ねると賃金の未払いが2019年秋から続いているといい、別のエンジニアは「工場では鋼材など金目の物を運び出す作業が続いている」と言葉少なだ。敷地内で唯一、弘芯の社名を掲げる建物は粗末なプレハブだけ。虎の子の製造装置は銀行に差し押さえられている。

■地方政府が精査もせず推進

武漢市が数十億円を出資し、地元の地方銀行も多額の資金を貸し付けた半導体開発はなぜ頓挫したのか。内情を探ると、半導体国産化に挑む習近平(シー・ジンピン)国家主席の大号令に乗り遅れまいと、精査もせずに突き進んだ地方政府のずさんな姿勢が透けて見える。

弘芯半導体の経営トップ、李雪艶氏は同社の議決権の49%を握るが、半導体産業に従事した経験はない。地元メディアによると李氏が出資する他の複数の企業も経営実態はなく、登記上の住所は大半がもぬけの殻だった。弘芯の取締役を既に退いている別の人物が黒幕との指摘まである。

唯一、弘芯半導体の社名が掲げられているのは粗末なプレハブだった

その黒幕は今は山東省済南市で別の半導体会社を運営しているが、進捗状況ははかばかしくないとの見方がもっぱらだ。つまり、武漢市は詐欺師まがいの面々に一杯食わされた可能性が大きい。

中国の半導体開発はよくいって玉石混交、有り体に表現すれば死屍(しし)累々の状況だ。スマホのカメラに欠かせないCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーを内製化するとうたった江蘇省の徳淮半導体、フレキシブル半導体の大量生産を掲げた陝西省の坤同半導体科技も事業は休止状態にある。

■用地取得でつまずく

坤同半導体は18年10月の創業式典で折り畳み可能な有機ELディスプレーの展示までしていた。21年には量産に移ると表明したが、実際には用地取得の段階でつまずいた。従業員の社会保険料も19年秋に納付が遅れ始め、陝西省が出資した資金の行方はやはり分からないままだ。

もちろん成果を上げている案件はある。国有半導体の紫光集団は武漢でNAND型フラッシュメモリーの量産に成功し、より難度の高いDRAMも重慶市で工場建設に入る。華為技術(ファーウェイ)傘下の半導体設計会社・海思半導体(ハイシリコン)のように、米国の制裁前までは最先端の技術を備えていた企業もあった。

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米調査会社ICインサイツによると、中国の半導体自給率は19年時点で15.7%にとどまる。習氏が掲げる産業政策「中国製造2025」で目指す70%の実現は絶望的だ。福建省でDRAM生産をもくろんでいた晋華集成電路(JHICC)のように、米国の横やりで焦げ付く案件は今後も続出するとみられる。

ただ、習氏は損失が膨らんでも半導体の国産化をあきらめないだろう。極端にいえば、中国が輸入に頼らざるを得ない主要な産品は今や大豆と原油・天然ガス、半導体を残すくらいだ。大豆は中南米から手当てすればいいし、エネルギーもイランやアフリカ、ロシアから仕入れることができる。米国との持久戦に持ちこたえるため、どうしても実現しなければならないのが半導体の国内調達だ。

電気自動車(EV)の比亜迪(BYD)は20年1月に湖南省長沙市で半導体子会社を設立し、返す刀で同市で破綻した半導体会社、創芯集成電路の土地と建物、設備を取得した。BYDの半導体事業には地方政府系のファンドが出資しており、政府の補助金も注ぎ込まれている。一方、四川省成都で破綻した格芯集成電路製造の工場は、韓国SKハイニックスのOBが率いる企業に売却、DRAM生産ラインへの転用を目指す。政策は行き当たりばったりで無駄が多いのは確かだ。だが、政策の優先順位が高い半導体を諦めることはない。

中国に「石を触りながら川を渡る(摸着石頭過河)」という言葉がある。見知らぬ川を渡るためには一歩ずつ川底の石を確かめ、少しずつ進めばよいといった意味だ。経済的な漸進主義に位置づけられるが、40年前の改革開放以来のモデルでもある。中国の半導体技術は総じて2~3世代ほど遅れているとの見方が一般的だが、遅れながらでもついて行ければよいと考えているはずだ。

いつか成功すると断言できるわけではない。だが、永遠に失敗し続けると高をくくるのは、中国という全体主義国家の本質を見誤っている。』

トランプ氏、自身先行なら3日に勝利宣言も 米報道

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65743080S0A101C2EAF000/

『【ワシントン=共同】トランプ米大統領が大統領選投開票日の3日に民主党候補のバイデン前副大統領より開票で先行していると見なした場合、開票が十分に進んでいない段階でも一方的に勝利宣言するとの方針を複数の側近に告げたとニュースサイトのアクシオスが1日、報じた。トランプ氏に近い3人から情報を得たとしている。

トランプ氏が早期に勝利宣言した場合、米国で政治的混乱が生じる恐れもある。

アクシオスによるとトランプ陣営は、新型コロナウイルス感染拡大により利用が大幅に伸びた郵便投票について、民主党に有利とされることなどから、3日より後の集計分を「不正だ」と訴える準備を進めている。

特に激戦州の東部ペンシルベニア州について、開票当初はトランプ氏票が伸びると想定。遅れて集計された郵便投票分で状況が変わった場合に「民主党が選挙を盗んだ」と主張する方針とされる。

トランプ氏の勝利宣言には、ほかの激戦州の南部フロリダなど計7州で勝利か圧倒的にリードしていることが条件になるとみられるという。』

経済成長が招く軍事緊張 世界の武器貿易、冷戦以来の増勢 チャートは語る

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO65719570R31C20A0MM8000?disablepcview

『世界の武器輸出が再び増えてきた。中東や東南アジアなどの新興国が経済成長を背景に購買力を高めて軍備の増強に動く。米国と旧ソ連が東西両陣営を支援した冷戦期と異なり、輸出側も経済的側面から市場開拓に力を注ぐ。冷戦期以来の武器貿易の増勢は近隣国同士の軍事的緊張を高め、地域情勢を不安定にするリスクもはらんでいる。

米国の戦闘機「F35」の調達構想がアラブ首長国連邦(UAE)やカタールで浮上した。日本など米国の友好国が導入してきた最新鋭機だ。レーダーが探知しにくい「ステルス性能」を強みとする。

トランプ米大統領は中東に関し「大多数が裕福な国で、戦闘機を買いたいと思っている」と話す。ストックホルム国際平和研究所のデータによると、カタールは2010年代の武器輸入が00年代と比べて15.6倍、サウジアラビアは6.6倍に増えた。

南シナ海情勢が緊迫する東南アジアも顕著だ。ベトナムが6.7倍、インドネシアが2.5倍と伸びた。

インド太平洋周辺の経済成長を遂げた新興国がその果実を軍備に向ける構図が鮮明になった。18年の軍事費が10億ドル以上の68カ国について09年と比べると名目国内総生産(GDP)が増えた国ほど軍事費を増やす傾向がある。

インドネシアはGDP81%増に対し軍事費が2.3倍に膨らみ、経済の伸び以上に国防に費やす。兵器のハイテク化が進む状況で、購買力がある近隣国同士が高度な装備の導入を競い合えば軍事的な緊張は高まる。

経済成長した国が増えると同時にその市場を攻略する輸出国の動きが強まった。10年代後半の世界の輸出は90年代以降で最も多く、冷戦終結前の水準に匹敵する。

中身は冷戦期とは大きく異なる。米ソの50~80年代の輸出先上位は東西ドイツなど北大西洋条約機構(NATO)やワルシャワ条約機構の国が入っていた。90年代以降はインド太平洋地域が中心だ。

米国はサウジアラビアが90年代以降で最大の輸出先になるなど中東に力が入る。従来はイスラエルの優位を保つためアラブ諸国への最新兵器の輸出は抑えていた。

同盟国のオーストラリアや韓国、日本も上位だ。拓殖大の佐藤丙午教授は「直接関与して負担を背負うより、武器を輸出し同盟国の能力を高めようと考えた」と分析する。

ロシアもアジアや北アフリカの新興国に食い込む。90年代後半には旧ソ連のピーク時の2割まで輸出を落としたが、プーチン政権が窓口を一元化して攻勢をかけた。ロシアの軍事政策に詳しい東大の小泉悠特任助教は「天然ガスやインフラとパッケージで売り込んだ。実戦の使用例が豊富なのも強みだ」と指摘する。

二強の米ロ以外で輸出国に育った新興勢力も目立つ。世界の輸出に占める米ソ、米ロの割合が70年代の7割超から10年代後半は57%に下がった。韓国はインドネシアの潜水艦受注など東南アジアに注力する。先端技術に強いイスラエルも力をつけている。

中国は自国の軍近代化を優先しているもようだ。自動運転や通信などの技術を高め、ミサイル開発も進む。笹川平和財団の小原凡司上席研究員は「近い将来、低価格で1世代前の兵器の大量輸出を図る」と予測する。

日本も輸出拡大を探る。防衛産業の維持に必要な面もある。14年に武器輸出禁止の原則を見直し、平和への貢献など制約をつけて道を開いた。

潜水艦技術などに強みがあるものの価格は高くなりがちだ。成果は8月に契約したフィリピンの警戒管制レーダーに限られる。主要国の輸出競争が激しくなる中で、存在感を出せないでいる。

(宮坂正太郎、甲原潤之介)』

モルドバ大統領選、決選投票へ 親ロシア対親欧州

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65738680S0A101C2EAF000/

『【モスクワ=小川知世】旧ソ連のモルドバで1日、大統領選(任期4年)の投票が実施された。中央選管によると、当選に必要な過半数の票を獲得した候補が出ず、現職の親ロシア派、イーゴリ・ドドン大統領(45)と親欧州派のマイア・サンドゥ前首相(48)が15日に予定する決選投票に進む見通しとなった。

開票率98%時点で得票率はドドン氏、サンドゥ氏ともに約34%だった。2016年の前回大統領選に続き、親ロシア派と親欧州派の両氏による一騎打ちとなる。サンドゥ氏が親欧州派の勢力を結集し、ドドン氏を引き離せるかが焦点となる。

選挙戦では再選で安定を訴えるドドン氏をロシアが支援するのに対し、欧州連合(EU)との統合推進を掲げる政党「行動と連帯」党首のサンドゥ氏を欧州が支持する。決選投票へロシアと欧州の水面下でのにらみ合いも激しくなりそうだ。

モルドバはウクライナとルーマニアの間に位置し、「欧州の最貧国」と呼ばれる。ウクライナと国境を接する東部の沿ドニエストル地方は親ロ派勢力が実効支配し、ロシア軍が駐留している。』

中・東欧諸国への企業進出の現状と今後の展望
https://www.google.com/url?sa=i&url=https%3A%2F%2Fwww.criser.jp%2Fdocument%2Fciac%2Fresearch%2F15%2Feu.pdf&psig=AOvVaw3_KLreAkyJVebIEo7UjBx4&ust=1604367009728000&source=images&cd=vfe&ved=0CAkQjhxqFwoTCLDr9Ybb4uwCFQAAAAAdAAAAABAV

「ルールを破るべき時がある」自衛隊特殊部隊の危機対応術

「ルールを破るべき時がある」自衛隊特殊部隊の危機対応術
吉野 次郎
日経ビジネス記者
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00087/102800109/?P=1

『黙ってルールに従う人を軽蔑する『邦人奪還』の主人公、藤井義貴3佐は伊藤さんの分身ですよね。

伊藤祐靖氏(以下、伊藤):私はルールを絶対視する人を軽蔑しているわけではありません。ルールに従うことは大切です。ただし非常時は異なります。平時に作られたルールに従っていたら、目的を達成できない状況が非常時です。それでも平時のルールを守ろうとする人は、頭がぶっ壊れているのではないかと思う。非常時は職務権限を与えられている人物が、状況に合った新しい規則を作るべきです。

 敵兵と対峙しているときに、自衛隊法の何条で禁じられているから対抗できないなどとびびっている上官は、物事を決断する立場にいてはいけません。

伊藤祐靖(いとう・すけやす)
1964年、東京都に生まれ。日本体育大学を卒業し、海上自衛隊に入隊。防衛大学校指導教官、護衛艦「たちかぜ」砲術長、護衛艦「みょうこう」航海長、特殊部隊「特別警備隊」先任小隊長などを歴任。2007年に2等海佐で退官。フィリピンのミンダナオ島で自らの技術を磨き直し、現在は各国の警察、軍隊への指導で世界を巡る。国内では警備会社などのアドバイザーを務めるかたわら私塾を開き、現役自衛官らを指導している。

赤信号を守るか、命を救うかで迷う?

産業界でも、かつて日商岩井(現・双日)の米駐在員が会社の金で勝手に創業当時の米ナイキ(当時の社名はブルーリボンスポーツ)を倒産から救うなど、内規を無視した現場の判断でピンチを乗り切ったという「美談」が存在します。けれども平時のルールを非常時に破っていいとなると、現場が混乱して収拾がつかなくなる恐れはありませんか?

伊藤:そうした無秩序な状態に陥らないためにも、ルールを作ったときの精神に立ち返ってしっかりと判断する必要があります。目的を達成するためなら、ルールがどのように障害となっており、無視していいかどうかを見極めるわけです。何でもかんでも無視すればいいわけではありません。非常時に対応できるよう、日ごろから訓練を通じてルールに縛られることなく行動する習慣を身に付けねばなりません。

 例えば瀕死(ひんし)の重傷者をクルマに乗せて運転していたとしましょう。信号を無視してまで一刻も早く病院に到着しなければならないとき、赤信号に従うべきでしょうか。「赤信号で止まる」というルールが作られたのは、交通事故を起こさせないためでしょう? 右を見て左を見て、ほかのクルマが通る様子がなく、事故を起こさないとの確信があれば救命を優先し、自己責任において赤信号を無視すべきではないでしょうか。その結果、後から罰せられるのなら、罰せられればよい。

非常時に仕事を任せられる適性を持つのはどのような人だと思いますか?

伊藤:私心がなく、保身に興味がない人です。そういう人は「アメとムチ」では動かず、社会ルールに従う気がありません。平時においては厄介者として扱われます。平時の社会を動かすのは、残りの9割の「普通の人々」です。普通の人は保身に走るため、非常時にはルールに縛られて決断ができません。そこで厄介者の出番となるわけです。平時と非常時に、両者をうまく使い分ける人事を発令できるトップが求められます。

伊藤さんが現役の自衛官だったころ、非常時に平時のルールに従う理不尽な場面に遭遇したことはありますか?

伊藤:1999年に能登半島沖を航行していた北朝鮮の工作船を、当時乗務していた護衛艦「みょうこう」で追跡していたときのことです。一緒に追跡していた海上保安庁の巡視艇から「燃料が少なくなってきたので帰投する」との無線連絡があったときには逆上しました。燃料がなくなったって、沈むわけじゃない。それよりも日本人を拉致しているかもしれない不審船の追跡を優先すべきではないか。あのときは平時のルールで行動している巡視艇を撃沈してやろうかと思いました。

 とはいえ、後から振り返れば、ルールに従うのが苦手な私でさえ、あのときは従っていました。だから海上保安庁の連中を非難できません。

伊藤祐靖氏が初代先任小隊長を務めた海上自衛隊・特別警備隊(写真:共同通信)

部下に命を捨てさせるマナー

どういうことでしょう。

伊藤:みょうこうから激しい警告射撃を受けた不審船は停止し、立ち入り検査を実施する隊員たちが乗り移る段階を迎えました。自衛隊として初めての経験です。私は命令を伝える末端の自衛隊幹部として、立ち入り検査を担う隊員たちに突入を命じることになりました。ただ隊員たちの訓練も装備も不足しています。不審船内で北朝鮮の工作員と銃撃戦となり、果ては船ごと自爆され、隊員たちが死ぬ可能性があることは明らかでした。

 隊員の1人から「本当に行く意味があるのでしょうか?」と問われ、私は「うるせーな、行って来い」と言ってしまった。平時のルールに従ったという点で、私は海上保安庁と同じことをしてしまいました。一生の恥だと思っています。

 あのときの私には、部下に命じる前に命令を発した政府の上層部になぜその命令を出したか確認する義務がありました。「確実に隊員が死ぬことが分かっているから命令を撤回してほしい」と訴えたかったわけではありません。命を投げ捨てる覚悟を前提に、自衛官は給料をもらっているわけですから。

 ただ上層部には「我が国は拉致されている真っ最中の自国民をいかなる犠牲を払ってでも奪還するのだ。そのヒストリーを創るために立ち入り検査を命じているんだ」と言ってほしかった。それを部下に伝えて、出撃させるべきでした(編集部注:結局、隊員たちが乗り移る直前に不審船が再度動き出し、最終的に取り逃がす。これをきっかけに政府は特殊部隊の創設を決意した)。非常時に重大な命令を発する人間は、何のために命じるのか、部下に説明するのがマナーです。「本当はこんな命令を発するのは嫌なんだけど、ルールで決まっているから」という雰囲気をプンプン匂わせてしまうような人間は、仕事を変えるべきです。

上官、あるいはビジネスの世界で言うなら上司から疑問が多い命令や指示が出されたら、部下はどう振る舞えばよいでしょう。

伊藤:当然、部下であっても上司にミスを指摘すべきです。丁寧にご注進してもいいし、乱暴に「あんたね、そんなことも知らないのかよ」と指摘してもよい。言葉とタイミングを選んで、上司から「間違えた。指示を撤回する」という言葉を引き出す努力をすべきです。

 もちろん私は現役の自衛官時代、波風を立てる目的で上官に意見していたわけではありません。部下が最高の能力を発揮できる環境を整えるという目的、志があればこそ、上司をも動かさねばならないときがある。単に上司からの言葉をそのまま部下に伝える中間管理職は失格です。

 また会社でも部下からの指摘に聞く耳を持たない上司は、本気で任務に取り組んでいないと言えます。本気で売り上げを増やしたい、業績を伸ばしたいと思うのなら、ミスを指摘してきたのが入社したての新人であっても、上司は指摘が当たっている可能性を排除してはなりません。

 そのためにも上司は部下が意見を言いやすい雰囲気づくりに努める必要があります。特殊部隊ではドーベルマンのような風貌の隊員も珍しくありませんでした。そうした屈強なメンバーでも、階級も年齢も上の私には意見しづらいのが実情です。意見を率直に言い合える雰囲気を整える必要があると感じ、私は隊内で敬語を禁じるなどの工夫をしていました。

「ボクシングしながら上司に実況中継」の理不尽

特殊作戦中は、いちいち最前線の隊員が上官の指示を仰いでいる時間的な余裕がない場面も多そうです。

伊藤:事態が刻一刻と変化しているときは、変化への対応能力が勝負を決します。隊員が上官と無線でやり取りしている時間は無駄でしかありません。また上官に状況を報告したところで、現場に漂う臭いから恐怖、隣の隊員の目が引きつっている様子まですべて伝えられるわけがない。上官は最前線の隊員に権限を与え、彼らに判断を任せるのが合理的です。

 指示を受けなくても的確に判断が下せるようにするために、私は日ごろから自分の方針や好みを隊員たちに徹底的に理解させていました。その上で作戦の目的をはっきりさせれば、いざというとき部下は自ら考え、行動できるようになります。

 上司はいったん権限を委譲したら、作戦行動中は不安や恐怖心をぐっと抑え、最前線の隊員たちへの口出しを我慢しなければなりません。不安に耐えられず部下に報告を求めたら、ただでさえてんてこ舞いの現場の混乱が増すだけです。隊員たちはボクシングをしながら、自ら実況中継をしなければならない羽目に陥ります。また報告を求められた部下は信頼されていないと思い、モチベーションが下がります。

 とはいえこれはあらゆる現場に最適な管理法ではありません。私は3つの管理法があると思っています。

詳しく教えてください。

現場に権限を与えない選択肢も

伊藤:1つは今説明したように現場の部下が自ら考えて判断を下せるように訓練するというもの。加えて、一定の条件を満たせば、それから先は特定の行動について現場の判断に任せるという権限委譲の仕方もあります。これが2つ目の現場管理法です。例えばタクシー会社が運転手との間で、「燃料が4分の1まで減ったら、後は運転手の判断でいつでも燃料を補充してよい」と取り決めるといったことです。勝手に行動されたら困るけれども、毎回許可を求められても困る場合などに有効です。

 そして3つ目が、現場からすべての報告を受け、すべてについて指示するという管理の方法です。実はこの方法を各国の海軍が採用しています。陸戦隊である特殊部隊を除き、海上自衛隊も同様です。特殊部隊以外の海上自衛官は基本的に、船舶や航空機に乗って行動します。通信技術の発達で、動画など膨大なデータを船舶などから本部に送ることができるようになりました。そのため、地球の裏側に派遣されていても、現場で何が起きているのか手に取るように分かり、本部で的確な状況判断が可能となっています。

 企業でもこの3つの現場管理法をうまく使い分ければいいのではないでしょうか。社長なり部長なりがきっちりと業務を分析して、どの管理スタイルが自社に合っているのか、判断すればよいでしょう。』