バイデン氏、イスラエル大統領と会談 司法改革への懸念伝達か
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023071900221&g=int
『【ワシントン時事】バイデン米大統領は18日、イスラエルのヘルツォグ大統領をホワイトハウスに招いて会談した。両氏は、ネタニヤフ政権が進める司法制度改革について協議。ホワイトハウスは「合意に基づくアプローチ」の必要性に関し議論したと発表した。改革に当たり反対派の意見を尊重するよう伝えた可能性がある。 』
バイデン氏、イスラエル大統領と会談 司法改革への懸念伝達か
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023071900221&g=int
『【ワシントン時事】バイデン米大統領は18日、イスラエルのヘルツォグ大統領をホワイトハウスに招いて会談した。両氏は、ネタニヤフ政権が進める司法制度改革について協議。ホワイトハウスは「合意に基づくアプローチ」の必要性に関し議論したと発表した。改革に当たり反対派の意見を尊重するよう伝えた可能性がある。 』
北朝鮮で米兵拘束 米国防長官「自発的に越境」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN18CXJ0Y3A710C2000000/

『2023年7月19日 4:56 (2023年7月19日 12:51更新)
【ワシントン=中村亮】オースティン米国防長官は18日の記者会見で、米兵1人が韓国と北朝鮮の軍事境界線にある板門店の共同警備区域で北朝鮮側に入ったと明らかにした。「自発的に無許可で越境した」と指摘し、身柄を拘束されていると説明した。
オースティン氏は米兵が共同警備区域を見学中に越境したと指摘した。詳しい経緯を調査しているとして「兵士の健康を極めて強く懸念している」と語った。
18日、オースティン氏は米兵が北朝鮮に拘束されていると説明した(国防総省)
ジャンピエール米大統領報道官は18日の記者会見で、国防総省が米兵の拘束をめぐり北朝鮮に接触していると言及した。やり取りの詳細には触れなかった。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、在韓米軍所属の米兵は暴行容疑で逮捕されて最近釈放された。米国に戻るため韓国の空港に付き添いと訪れたが、飛行機に乗らず板門店の見学ツアーに参加した。米国に戻れば追加の懲戒処分を受ける予定だったという。
米兵は共同警備区域に着くと見学ツアーのグループから離れ、北朝鮮側に走って侵入した。ツアーの主催者は追いかけたが間に合わず、米兵が拘束される様子を目撃した。
北朝鮮が米国との対話を拒否するなか、米兵の問題をどのように扱うかが焦点になる。米国での懲戒処分を逃れる狙いもあったとの見方もあり、本人が米国への帰国を望むかどうかは不明だ。
韓国紙・朝鮮日報は在韓米軍軍人の亡命であれば、1965年に越境した元米兵の故チャールズ・ジェンキンスさん以来だと伝えた。
拘束者の解放の成否が、今後の米朝関係を左右する可能性もある。2018年には米国のトランプ前大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長(当時)との米朝首脳会談を前に、拘束されていた平壌科学技術大学教授のキム・サンドク氏ら米国人3人が解放された。3人はスパイ容疑などで拘束されていた。
一方で16年に北朝鮮で拘束された当時大学生だったオットー・ワームビア氏は、17年に昏睡(こんすい)状態で解放され、米国へ帰国後に死亡。北朝鮮に対する米世論が硬化するきっかけとなった。
【関連記事】米国人、北朝鮮へ無許可越境 国連軍発表「見学中に」 』
ロシア軍、ウクライナ南部オデッサ攻撃 クリミア橋報復
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR186A00Y3A710C2000000/
『2023年7月18日 17:55 (2023年7月18日 19:27更新)
【ウィーン=田中孝幸】ロシア国防省は18日、ウクライナ南部オデッサなどを精密誘導兵器で攻撃したと発表した。同国南部で2014年にロシアが併合したクリミア半島とロシアを結ぶクリミア橋への攻撃に対する報復としている。オデッサはウクライナ最大の港湾都市で、ロシアとの合意に基づく黒海経由の穀物輸出の拠点になっていた。
ウクライナ軍も18日、ロシア軍がウクライナ南部と東部を6発の巡航ミサイルと36機の自爆…
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』
マーク・ミリー
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC
『出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
マーク・A・ミリー
Mark A. Milley
マーク・A・ミリー陸軍大将
生年月日 1958年6月18日(65歳)
出生地 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
マサチューセッツ州ウィンチェスター
出身校 プリンストン大学(B.A.)
コロンビア大学(M.A.)
海軍大学校(M.A.)
称号 ディフェンス・ディスティングイッシュド・サービス・メダル
アーミー・ディスティングイッシュド・サービス・メダル
ディフェンス・スーピア・サービス・メダル
レジオン・オブ・メリット
ブロンズスターメダル
旭日大綬章(日本国)
配偶者 ホリアンナ・ミリー
アメリカ統合参謀本部
20代目議長
在任期間 2019年10月1日 –
大統領
ドナルド・トランプ
ジョー・バイデン
テンプレートを表示
マーク・アレクサンダー・ミリー(英語: Mark Alexander Milley、1958年6月18日 – )は、アメリカ合衆国の軍人。2023年2月現在アメリカ軍制服組トップである統合参謀本部議長。階級は陸軍大将。報道では「ミリー統合参謀本部議長」とも呼ばれる[1]。
経歴
1958年6月18日、マサチューセッツ州ウィンチェスター生まれ。プリンストン大学卒業後、1980年に同大の予備役将校訓練課程(ROTC)に参加し、アメリカ陸軍入営。駐アフガニスタン国際治安支援部隊統合部隊の司令官や在韓アメリカ軍第2師団の大隊長、陸軍総軍総司令官などを経て、2015年から陸軍参謀総長。2019年9月30日、ジョセフ・ダンフォードの後任として統合参謀本部議長に就任[2]。同日バージニア州アーリントン基地で行われた就任式には、ドナルド・トランプ大統領が出席したほか、日本の山崎幸二統合幕僚長と大韓民国の朴漢基合同参謀本部議長も参加した[3][4]。
国内姿勢
2020年6月1日、ジョージ・フロイドの死をきっかけとしたワシントンD.Cでの抗議デモを催涙ガスなどで強制排除したその約30分後、軍服を着たミリーはホワイトハウスから教会までトランプ大統領に随行したことで軍OBや議会から批判をうけた。11日、国防大学の卒業生に向けた祝辞でこのことを「私はあの場にいるべきではなかった」「米軍が国内政治に関与しているとの印象を与えてしまった」と述べ[5]、軍は国内政治に関与しない原則 (apolitical military) を大切にしなければならないと語った[6]。
2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件の際は、ミリー議長以下、陸海空軍の長らの署名入りで米軍統合参謀本部が全ての米軍兵士に宛てた異例の声明を出した。「連邦議会や議事堂、憲法上の手続きに対する直接的な攻撃だ。我々は憲法を守り、支持する。憲法上の手続きを混乱させる全ての行為は我々の伝統や価値観、誓いだけでなく、法に背いている」と非難し、「各州や裁判所が確認して議会も認定した通り、2021年1月20日にはジョー・バイデン次期大統領が憲法に基づいて就任し、46代目の最高司令官となる」とその中で述べた[7][8]。
また、「トランプが唆した非合法デモは、1933年2月のドイツ国会議事堂放火事件と同じだ」「クーデターを連中は計画しているが、軍や中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)の手を借りずにクーデターなど成功するわけがない。銃は我々が握っている」と発言してトランプがクーデターを命じた場合は陸海空各軍のトップと1人ずつ辞任する計画を行っていたとされ[9]、これに対してトランプは「ミリーという男は極左がアメリカと星条旗を攻撃するのをただ傍観していただけだ」「ジェームズ・マティス国防長官やダンフォード前統合参謀本部議長の反対を押し切って私が統合参謀本部議長にしたのは、バラク・オバマがミリーを解任したからだ。ミリーほど国防総省で尊敬されていない人間はいない」「クーデターを起こすつもりだったとしても、ミリーとだけはやりたくなかった」とこき下ろした[10][11]。
2021年6月、米議会において批判的人種理論(英語版)を軍のカリキュラムに盛り込んでいると共和党議員から追及された際には[12]、「陸軍士官学校は大学です。我々は訓練し、理解することが重要です。私は白い怒り(英語版)を理解したい。私は白人です。何千もの人々がこの建物を襲撃し、アメリカ合衆国憲法を覆そうとした原因は何か、私はそれを見つけたい」「現在も将来もリーダーは理解することが重要です。私は毛沢東を読み、カール・マルクスを読み、レーニンを読みましたが、それは私を共産主義者にしていません」と擁護した[13][14]。
2021年9月にワシントン・ポストのボブ・ウッドワードとロバート・コスタ氏が共著したトランプ政権末期の内幕本 Peril (原題) が出版され、トランプ政権の末期に、ミリーが2回にわたり水面下で中国人民解放軍の李作成連合参謀部参謀長に電話していたことが明らかになった。
1回目の2020年10月30日には「攻撃する場合には、私が事前に電話する。奇襲攻撃にはならない」と約束、また議事堂襲撃事件の2日後にも電話した[15]。
また、ミラーはペロシ下院議長との核兵器についての会話で、ペロシのトランプ大統領の精神状態が正常ではないという主張に同意した[16]。
この本の内容を元に、ミリーが越権行為に及んだとの批判がなされていることに対し、国防総省やバイデン政権、またボルトン元大統領補佐官もミリーの擁護に動いた[17][18]。
統合参謀本部議長として
日本の山崎幸二統合幕僚長や韓国の朴漢基合同参謀本部議長との3カ国の制服組トップ会談。
2019年10月1日
日米韓の制服組トップによる会談をもった。出席者は、前日の就任式に参加した山崎統合幕僚長と朴漢基議長。
2019年11月12日
訪日。安倍晋三首相・菅義偉官房長官・茂木敏充外務大臣を表敬訪問[19]。
2019年11月13日
米韓軍事委員会会合に出席するため韓国を訪問した。14日には別途韓国を訪問したマーク・エスパー国防長官と文在寅大統領らに面会し、日韓秘密軍事情報保護協定破棄を見直すよう説得に当たった[20]。
2023年3月17日、日本国政府より旭日大綬章を受章した[21]。
徽章
ミリー将軍は以下の章を受賞している[22]。
左胸
Bronze oak leaf cluster
Silver oak leaf cluster
Bronze oak leaf cluster
Bronze star
Bronze star
Badge Combat Infantryman Badge (2nd Award)
1st row Defense Distinguished Service Medal
with oak leaf cluster Army Distinguished Service Medal
with three oak leaf clusters Defense Superior Service Medal
with two oak leaf clusters
2nd row Legion of Merit
with two oak leaf clusters Bronze Star Medal
with three oak leaf clusters Meritorious Service Medal
with silver oak leaf cluster
3rd row Army Commendation Medal
with four oak leaf clusters Army Achievement Medal
with oak leaf cluster National Defense Service Medal
with service star
4th row Armed Forces Expeditionary Medal
with two service stars Afghanistan Campaign Medal
with three campaign star Iraq Campaign Medal
with two campaign stars
5th row Global War on Terrorism Expeditionary Medal Global War on Terrorism Service Medal Korea Defense Service Medal
6th row Humanitarian Service Medal Army Service Ribbon Army Overseas Service Ribbon
with award numeral 5
7th row NATO Medal for service with ISAF
with service star Multinational Force and Observers Medal French National Order of Merit, Commander[23]
Badges Special Forces Tab Ranger Tab
Badges Master Parachutist Badge Special Operations Diver Badge
Badges Joint Chiefs of Staff Identification Badge United States Army Staff Identification Badge
右胸
Bronze oak leaf cluster
506th Infantry Regiment Distinctive Unit Insignia
French Parachutist Badge
Joint Meritorious Unit
Award
with oak leaf cluster Army Meritorious Unit
Commendation
with three oak leaf clusters
101st Airborne Division Combat Service Identification Badge
その他の章
Expert Infantryman Badge
10 Overseas Service Bars
旭日大綬章(日本国)
脚注
^ 「ロシアは「戦略・作戦・戦術的に負けた」=米軍制服組トップ」『Reuters』、2023年2月14日。2023年2月15日閲覧。
^ “ミリー新統合参謀本部議長が就任 米軍制服組トップ”. 産経新聞社 (2019年10月1日). 2019年11月13日閲覧。
^ “GSOMIA終了決定後、初めて会った韓日米の制服組トップ「北東アジアの平和ために多国間協力を強化」”. 中央日報 (2019年10月1日). 2019年11月13日閲覧。
^ “ミリー新統合参謀本部議長が就任、在韓米軍大隊長を歴任”. 東亜日報 (2019年10月2日). 2019年11月13日閲覧。
^ “米軍制服組トップ、トランプ氏に随行謝罪 教会訪問で”. 日本経済新聞. (2020年6月12日) 2021年7月19日閲覧。
^ “米軍制服組トップ、トランプ氏の写真撮影に同行したのは「誤り」”. BBCニュース (2020年6月12日). 2021年9月20日閲覧。
^ "米軍制服組トップ、異例の共同声明で議会乱入を非難". ウォール・ストリート・ジャーナル. 13 January 2021. 2021年1月13日閲覧。
^ "米軍統合参謀本部が議事堂乱入を非難、異例の兵士向け共同文書で". ロイター. 13 January 2021. 2021年7月18日閲覧。
^ “米軍幹部ら辞任準備 トランプ氏のクーデター警戒―内幕本”. 時事通信. (2021年7月18日) 2021年7月19日閲覧。
^ "米軍トップに「クーデター男」と叩かれたトランプが「左翼め!」". NEWSポストセブン. 13 January 2021. 2021年1月13日閲覧。
^ Forgey, Quint (2021年7月15日). “Trump denies coup attempt in latest attack on Milley”. POLITICO 2021年7月15日閲覧。
^ Cox, Chelsey. “Gen. Mark Milley fires back against GOP criticism of critical race theory” (英語). USA TODAY. 2021年9月20日閲覧。
^ Stewart, Phil (2021年6月24日). “Top U.S. general hits back at right-wing uproar over racism teachings” (英語). Reuters 2021年9月24日閲覧。
^ “America’s top general defends study of critical race theory by military”. The Guardian (2021年6月24日). 2021年7月19日閲覧。
^ “米軍トップ「攻撃なら事前通知」 中国側に、トランプ氏暴走懸念―著名記者が内幕本:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2021年9月20日閲覧。
^ Wade, Peter (2021年9月14日). “Afraid of World War 3, Milley Went Behind Trump's Back to Calm Tensions with China” (英語). Rolling Stone. 2021年9月15日閲覧。
^ Staff, Reuters「バイデン氏、米軍制服組トップを擁護 中国との電話巡り」『Reuters』、2021年9月16日。2021年9月20日閲覧。
^ “米軍トップと中国の電話に批判、国防総省とホワイトハウスは擁護”. CNN.co.jp. 2021年9月20日閲覧。
^ “ミリー米統合参謀本部議長による安倍総理大臣表敬”. 日本国外務省 (2019年11月12日). 2019年11月13日閲覧。
^ “米国の度重なる要求にも「No」、危機に追い込まれた韓米同盟”. 朝鮮日報 (2019年11月16日). 2019年11月16日閲覧。
^ 『官報』第945号12頁 令和5年3月28日号
^ “AUSA” (英語). AUSA (2016年9月19日). 2022年2月14日閲覧。
^ U.S. Embassy France [@USEmbassyFrance] (2018年11月11日). "At today's #ArmisticeDay100 ceremony at Suresnes American Cemetery to honor our fallen heroes, @USEmbassyFrance was privileged to welcome six veterans of WWII. @POTUS thanked each of them for their service. #HonorOurVeterans #VeteransDay2018 #tggf #thegreatestfoundation t.co/IqQlyDNAej" (ツイート). 2019年8月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。Twitterより2021年9月19日閲覧。
先代
ジョセフ・ダンフォード
アメリカ統合参謀本部議長
第20代:2019 –
次代
チャールズ・ブラウン・ジュニア
(指名)
先代
レイモンド・オディエルノ
アメリカ陸軍参謀総長
第39代:2015 – 2019年
次代
ジェイムス・C・マッコンビル
カテゴリ:
アメリカ合衆国陸軍の軍人アメリカ統合参謀本部議長旭日大綬章受章者20世紀の軍人21世紀の軍人コロンビア大学出身の人物プリンストン大学出身の人物マサチューセッツ州の人物1958年生存命人物
最終更新 2023年6月19日 (月) 02:20 (日時は個人設定で未設定ならばUTC)。
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米軍制服組トップ「ウクライナ反攻は遅い」 地雷が障害
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN190FE0Z10C23A7000000/
『【ワシントン=中村亮】米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は18日の記者会見でウクライナの反転攻勢に関し「ゆっくりで困難を伴い、大きな代償を払う」と語った。「真の問題は地雷だ」と言及し、除去に向けた支援を続ける姿勢を示した。
ミリー氏は「反攻前に実施したさまざまな机上演習ではある程度の前進を予測していた」と指摘。反攻は予想より遅いとして「その理由は実態のない演習上の戦争と本物の戦争の違いだ」と話した。「本物の戦争とは不確実なものだ」と断言した。
ロシア軍は反攻に備えてウクライナ東部や南部で大量の地雷をまいたとされる。
ミリー氏は「部隊が地雷を抜けようとすれば(進軍の)速度は遅くなるし、それは正しいことだ」と力説した。「私の考えでは全く失敗ではない。そんな結論を出すことは早すぎる」と言明し、反攻の遅さは作戦の失敗を意味しないとした。
ロシア軍は塹壕(ざんごう)を掘ってウクライナ軍を待ち受ける。ミリー氏は前線で守りを固めるロシア兵に関し「訓練や装備は十分でなく補給も乏しい。士気は低い」と断じた。
ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱で「(ロシア軍は)戦略レベルの指揮系統が明らかに混乱し、おそらく多くのケースで困難になっている」と述べた。ワグネルの反乱をきっかけにロシア軍高官が交代しているとの見方がある。 』
明治大学社会科学研究所紀要
shakaikagakukiyo_61_2_117-1.pdf
«特別研究(2020年度)»
2020年米大統領選挙
ートランプとバイデンのリーダーシップ、コミュニケーションスタイル
海野素央・
The 2020 U.S. Presidential Election:
Trump’s and Biden’s Leadership and Communication Styles
Motoo UNNO
はじめに
コロナ禍の中で実施された2020年米大統領選挙は、現職の共和党ドナルド・トランプ大統領が
「敗北宣言」を拒否するという極めて異例の結末をもって閉じられた。民主党大統領候補のジョー・
バイデン元副大統領は史上最高の8100万票を獲得し、トランプ氏は敗れた対立候補の中で最も多い
7400万票を得た。バイデン氏の獲得選挙人は306、トランプ氏は232であった。因みに、16年米大統
領選挙ではトランプ氏が306、ヒラリー・クリントン元国務長官が232であった。
トランプ氏の敗因はどこにあったのか。新型コロナウィルス感染症(以下COVID-19と略)拡大
が、どのようにトランプ候補とバイデン候補の各々の選挙モデルに影響を与えたのか。本稿では現地
ヒアリング調査を交えながら、20年米大統領選挙について「リーダーシップ」「コミュニケーション」
及び「異文化」の視点に立って、主として両候補の選挙戦略に焦点を当てて述べる(以下敬称省略)。
1トランプとバイデンのリーダーシップスタイル
1-1トランプの権威型リーダーシップ
リーダーシップの研究で定評があるレヴィン、リピット及びホワイトは、リーダーシップスタイル
を「専制型」「民主型」並びに「放任型」の3種に分類した(注°。レヴィン等によれば、専制型リー
ダーは全ての政策を自分で意思決定する。チームメンバーの意見を殆ど乃至全く傾聴しない傾向があ
る。一方、民主型リーダーは討論と意思決定をチームメンバーに促して、コンセンサス(合意形成)
を重視する。放任型リーダーは権力行使をせず、リーダーシップを発揮しない。一言でいえば、
・政治経済学部専任教授
-117-
第61巻第2号2023年3月
「リーダーシップ不在」といえよう。では、トランプは、どのようなリーダーシップスタイルをとり、
それがどのように選挙運動に影響を及ぼしたのか。
米紙ワシントン・ポストの記者キャロル・レオニグとフィリップ・ラッカーの共著『私だけが問題
を解決することができる(未訳)』によれば、米軍制服組トップのマーク・ミリー米統合参謀本部議
長はトランプ大統領(当時)を所謂、「古典的な権威主義的リーダー」とみていた(注う。レオニグと
ラッカーの本のタイトルとなった「私だけが問題を解決することができる」は、もともと16年7月
に中西部オハイオ州クリーブランドで開催された共和党全国党大会の大統領候補受諾演説で、トラン
プが述べた言葉である。この言葉には、米国民に対して不正を行っているワシントンの腐敗した政治
システムをアドバイザーの助言なしに、自分一人で変えて解決できるというメッセージが含まれてい
る。そこにはトランプの権威主義志向が明らかに現れている。
調査報道において高い評価を得ている米紙ワシントン・ポストの記者ボブ・ウッドワードとロバー
ト・コスタは共著『差し迫った危険』の中で、ミリー議長が2回にわたり中国軍トップに「米国は中
国を攻撃する意思はない」と伝えていたことを暴露した(注す°1回目は大統領選挙期間中の20年10
月30日であった。2回目は選挙後の21年1月8日である。ウッドワードとコスタはその著で、米情
報機関の対中分析を明らかにしているが、それによると、当時の中国は、米国は秘密裏に中国攻撃の
計画を進めていると信じていた。中国は、支持率でバイデンにリードを許したトランプが自暴自棄に
なり、投開票日直前に意図的に危機的状態を作り、それを脱し、自分を「救世主」として演出するた
めに、同国を攻撃する可能性があると警戒していたと言うのである。
10月30日は大統領選挙の投開票日の3日前であった。ロイター通信とグローバル・マーケティン
グ・リサーチ会社イプソスの共同世論調査(20年1〇月7日〜14日実施)によれば、トランプの支持
率は47%、バイデンは50%と、バイデンがトランプを3ポイントリードしていた。それまでも予想
不可能な行動をとってきたトランプであれば、投開票日直前に中国攻撃を仕掛ける可能性がないとは
言えないと、周辺が危ぶんだとしても納得がいく。
ウッドワードとコスタによると、ミリー議長は、トランプが核攻撃を命じた場合、それを実行する
前に自分に知らせるよう部下に指示を出していた(注、ミリーは、トランプが自分に助言を求めずに
意思決定を行うのではないかと強い懸念を抱いていたのである。そこで、彼はトランプの「権威型
リーダーシップ」の暴走に対処するために行動に出たわけである。
ジョン・ボルトン元大統領補佐官(在職18年4月〜19年9月一国家安全保障問題担当)が回顧録
の中で明かしたエピソードにも注目してみよう。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで、18年12
月に開催された20力国・地域首脳会議(G20サミット)の際に行われた米中首脳会談での出来事で
ある。ボルトンによれば、ワーキングディナーの席で、習近平国家主席がトランプ大統領(当時)に
「あなたと一緒にもう6年間仕事をしたい」と伝えた(注もこれに対してトランプは、「米国民は憲法が
定めている大統領の任期2期制限を、私のために廃止すべきであると言っている」と返事をした(注吃
習主席がワーキングディナーの後半で「米国では選挙が多すぎる」と語り、法改正の必要性を示唆す
-118-
明治大学社会科学研究所紀要
ると、トランプは満足げに頷いていたと言う(注7)。ボルトンはBBCニュースのインタビューで、卜
ランプは「独裁的な指導者に親近感を抱く」と指摘した(注8)。
実際、トランプは側近に対して独裁者のように振舞った。自分の意見とは異なる助言を行う側近を
相次いで解任し、「完璧な忠誠心」を要求して「異」を排除したのである。従って、H • R •マクマス
ター元大統領補佐官(在職17年2月〜18年4月一国家安全保障問題担当)、ボルトン元大統領補佐
官及びマーク・エスパー前国防長官(在職19年7月〜20年11月)等は、トランプのアドバイザー
にはなり得なかった。トランプのアドバイザーとは、トランプが聞きたいことを助言する者であっ
た。
もう1例挙げてみよう。COVID-19感染拡大の中で、トランプは米国立アレルギー感染症研究所の
アンソニー・ファウチ所長に対しても権威主義的な態度をとり、同所長の助言に耳を傾けなかった。
激戦州を中心に支持者を集めた大規模集会を開催し、マスク着用を支持者に義務づけなかったのだ。
マスク着用と社会的距離の確保を主張するファウチは、米国民からトランプよりも信頼のあるス
ポークスマンとして見られていた。米公共ラジオ(NPR)、公共放送(PBS)及びマリスト大学(東
部ニューヨーク州)の共同世論調査(20年10月8〜13日実施)によれば、「あなたはトランプ大統
領から聞いたCOVID-19の情報を信じますか」という質問に対して、「全く信じない」と「信じない」
の合計が、大統領選挙で鍵を握る「郊外に住む女性有権者」において約7割に達した。米NBC
ニュースとサーベイモンキー社の全米を対象に行った共同世論調査(20年7月22日〜8月2日実施)
では、58%がCOVID-19に関するトランプの発言を「信じない」と回答し、51%がファウチの発言を
「信じる」と答えた。
トランプはファウチ所長を「自己PRの上手な人だ」と皮肉った(注.。ニューヨーク市クイーンズ
出身の大統領ではなく、ブルックリン出身の医者が米国民から信頼を得て英雄になったことに、トラ
ンプは嫉妬心を抱いているように見えた。
1-2バイデンの民主型リーダーシップ
演説の中でバイデンが最も多く言及する外国首脳は、中国の習近平国家主席である。バイデンは副
大統領在職中の11年8月、オバマの命を受けて、中国で習副国家主席(当時)と長時間にわたり意
見交換を行った。その際、習がバイデンに「米国を一言で表現するならば、何と言いますか」と質問
を投げかけてきたと言う。バイデンは「可能性(possibilities)」と返事をしたことを支持者に明かし
ている。民主主義国家である米国では、人種、民族、ジェンダー及び出身地等に関係なく、誰しもが
成功する可能性があると習に伝えたのである。
また、バイデンは習の思考様式に関しても語る。バイデンによれば、習は「専制主義が民主主義よ
りも優れている」と信じていると言うのだ®10,〇その理由について、バイデンは「民主主義はコンセ
ンサスを求める。コンセンサスは時間を要するので、習は変化が激しい21世紀では民主主義は適応
できないと考えている」と説明する。その上で、バイデンは習の見解に真つ向から反対する。米連邦
-119-
第61巻第2号2023年3月
上院議員を36年間務めたバイデンは、共和党幹部及び共和党議員とのコンセンサスを通じて、様々
な法案を成立させた。専制主義国家とは異なり、コンセンサスは民主主義国家にとって重要な要因で
あると信じているのだ。
しかも、近年著しく専制主義的な国家が増えてきたという認識の下に、バイデンは「民主主義対専
制主義」の対立構図を立て、民主主義政治を、合意を通じて実現してきたリーダーである。そうした
彼の目には、トランプの意思決定の過程は専制主義的に見えた。バイデンは「我々は民主主義が専制
主義よりも優っていることを証明しなければならない」と米国民に訴える加えて、バイデンは
「民主主義は偶然発生したものではない。我々は民主主義を守り、民主主義のために戦い、強固にし、
再生していかなければならない」と述べている(ai2,〇バイデンは、第46代米大統領としての使命を
専制主義からの「民主主義の擁護」と捉えているようだ。
1-3 「大規模集会・熱意/熱狂・強いリーダー像」
2016年米大統領選挙での勝利では、大規模集会が1つの鍵となった。大規模集会にはインパクトが
あり、参加者の自己肯定感を高める効果がある。遠距離の移動と待ち時間の長さ自体が参加者の興奮
を増して、支持する気持ちを強化していく。
2020年の選挙でも、コロナ禍にも拘わらず、トランプは大規模集会方式を採用した。そこでトラン
プは、COVID-19対応のキャンペーンを展開したバイデンの小規模集会と比較して参加人数を誇った。
また、空港の格納庫を集会場所に選択して密集の状態を作り、支持者の熱狂の度を高めた。実は、こ
の戦術をトランプ陣営の中にも受容できない人たちがいた。
マイク・ペンス元副大統領の顧問であったオリビア・トロイは、「トランプはコロナウィルス感染
拡大を抑えることよりも、自分の再選を優先して集会を開いていた。スタッフは集会に同行したがら
なかった」と、当時のスタッフの心境を明かした(注始)。続けて、トロイは「スタッフは集会に参加す
ると(コロナ禍から)正常の生活に戻ったふりをさせられた。トランプは人々を危険にさらした」と
批判した(注14)。
トランプは、批判に構わず大規模集会を開催し続けた。確かに、大規模集会にはメリットがある。
例えば、群衆心理を巧みに操作できる。参加者の支持意識が強化される。殊に、コロナ禍で人と人と
の繋がりが制限されている場合は、「場」の提供という意味を持つ。
トランプは、エアフォースワン(米大統領専用機)を使用して激戦州に入り、格納庫で集会を開
き、次の激戦州の会場に飛ぶという効率の良い選挙運動を展開した。エアフォースワンを選挙目的で
使用した場合、一旦費用は税金で支払われ、後にトランプ陣営が政府に返済しなければならない。そ
こで現職大統領は、選挙運動に大統領としての公式イベントを加えて、費用を削減する戦略をとる(ai5)o
16年米大統領選挙でトランプ候補(当時)は、エアフォースワンを活用して税金で選挙運動を行った
とバラク・オバマ元大統領を批判したが、20年米大統領選挙でトランプは、現職大統領の特権を最大
限に利用したのである®16>〇
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明治大学社会科学研究所紀要
大規模集会ではいくつかの小道具も用いられ、それが支持者の熱意を高め、一体感を醸成してい
た。それはいつの選挙でも同様で、帽子、バッジ、旗、ステッカー等々であるが、20年の場合は、エ
アフォースワンとマスクが大きな役割を果たす道具となった。前述の通り、トランプはエアフォース
ワンで選挙運動の会場に乗り込んだ。その際、トランプの到着を興奮して待っている支持者に対し
て、航空交通管制官がエアフォースワンの高度をアナウンスして、更に熱狂度を上げた。
また、トランプ集会に参加した人々はマスクをしない。つまり、「不在の小道具」を有効に使った。
トランプにアイデンティティ(同一性)を持った支持者は、コロナ禍であってもマスクを着用しな
かった。マスク不着用はトランプに対する「忠誠の誓い」であり、仲間意識を高めた。しかも、バイ
デン不支持のメッセージでもあった。トランプはマスク不着用で集会に登場し、ウィルスを物ともし
ない「強いリーダー像」を演出した。
加えて、マスク着用はコロナ禍から日常生活に戻っておらず、トランプ政権がコロナ対策に失敗し
た印象を有権者に与えてしまうというデメリットが存在した。要するに、トランプは科学よりも強い
リーダー像の演出を重視したのである。
筆者は2020年2月19日、西部アリゾナ州の州都フェニックスでの大規模集会で、両手で拳を作
り、前後に突き出す動作を繰り返すトランプを観察した。彼は演説の最中、演台から離れて拍手をし
ながら舞台を歩き回り、「動的なリーダー」のイメージを発信した。これらの一連の非言語コミュニ
ケーション行動は、プロデューサーである彼の経験から来たものであり、大声、断言、繰り返す主張
等、言語コミュニケーションと相まって強いリーダー像を植え付けるのに効果があると信じてのこと
だった。
では、有権者はどのようにトランプの大規模集会と強いリーダー像を見ていたのか。投票日直前に
実施されたUSAトウディ紙とサフォーク大学(東部マサチューセッツ州)の共同世論調査(20年10
月23〜27日実施)によれば、トランプの大規模集会を「支持する」と回答した有権者は35%で、
「支持しない」は59%であった。「支持しない」が「支持する」を約25ポイントも上回った。当時卜
ランプの支持率は45%前後であったので、約10%のトランプ支持者がCOVID-19感染拡大の中での
大規模集会開催に反対していた事実が示された。言い換えれば、トランプ支持者の中にも感染に対し
て正しい判断ができ、集会を否定的な目で見ていた者がいたことになる。この約10%の反対が、どの
ようにトランプ不支持の投票に結びついたのか、そしてトランプは調査結果をどう思ったのかについ
ては、今後、調査研究を進めることにしたい。
激戦州を対象に投票日直前に行った米紙ワシントン・ポスト及び米ABCニュースの共同世論調査
(20年10月20〜25日実施)によれば、「どちらが強いリーダーと思いますか」という質問に対して、
中西部ウィスコンシン州では有権者の52%がバイデン、43%がトランプと回答した。バイデンがトラ
ンプを9ポイントリードした。同州では、有権者はトランプのコロナ対策におけるリーダーシップの
欠如に強い不満を抱いていたのである。
選挙戦の当初、トランプは「目に見えない敵(COVID-19)と戦う」と豪語し、自身を「戦時下の
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第61巻第2号2023年3月
リーダー」として演出して、支持率回復を狙った。だが選挙戦終盤になると、トランプは自らを「戦
時下のリーダー」と呼ばなくなった。COVID-19感染拡大に歯止めがかからず、トランプ政権はコロ
ナに対して制御不能状態に陥った。バイデンは、「戦時の大統領(トランプ)は降伏して、白旗を
振って戦場から逃げたようだ」と公然と非難した。
同調査では激戦州である中西部ミシガン州において、有権者の47%がバイデン、48%がトランプを
「強いリーダー」に挙げた。両者の差は僅か1ポイントであり、トランプのバイデンに対する「強い
リーダー」のアドバンテージは投開票日を直前に消えた。東部ペンシルベニア州でも同様の傾向がみ
られた。46%がバイデンを、47%がトランプを強いリーダーであると答えた。一方、南部フロリダ州
では43%がバイデン、53%がトランプを強いリーダーと回答し、トランプがバイデンを10ポイント
引き離した。これらの世論調査の結果を反映し、トランプはフロリダ州でバイデンに勝利を収めた
が、ウィスコンシン、ミシガン及びペンシルベニアの3州をすべて落とした。トランプが描いた強い
リーダー像と現実がずれていたのである。
1-4 「小規模集会•冷静な判断・共感するリーダー像」
上記のようなトランプ型「大規模集会・熱意/熱狂・強いリーダー像」の選挙モデルに対し、バイ
デン大統領は、「小規模集会•冷静な判断•共感のリーダー像」の選挙モデルでトランプに対抗した。
まず、ドライブイン形式の小規模集会を開催した。そこでは有権者は拍手をする代わりに、車中から
クラクションを鳴らして支持表明をした。バイデンは学校の体育館及び教会で演説を行う駅 支持者
にマスク着用と社会的距離を義務づけ、参加人数を厳しく制限した。例えば、中西部を訪問した折、
教会の長椅子に1人乃至2人の支持者しか着席させない事もあった。
トランプとは異なり、バイデンは集会における「熱意の強さ」よりも、冷静な判断に基づいた有権
者の「安全の確保」を最優先させ、「コロナ対応型選挙モデル」に徹した選挙運動を行った。「トラン
プの米国は安全ではない」というメッセージを送って、コロナ禍でどちらの候補が安全を提供できる
のか、米国民に選択を迫ったのである。このメッセージはコロナ禍で安全を確保できないトランプの
「弱み」を見事に突いた選挙戦略であった。フォロアーである有権者も熱狂よりも冷静な判断と安全
を好んだ。この意味では、COVID-19感染症の拡大がバイデンにトランプに対抗できる図式を与えた
とも言える。
さらにバイデンは、有権者に向けて「食卓に空席がある」と述べて、COVID-19の犠牲者が出た家
族に共感のメッセージを伝えた。その上で「トランプは人の命よりも株価のことばかり語っている」
と語気を強めた。
バイデンは1972年12月、クリスマスの買い物に出かけた最初の妻と娘を交通事故で亡くし、ボー
とハンターの2人の息子を抱え、シングルファーザー ・ファミリーを5年間経験した。そして40年
以上も経った2015年5月、長男ボーを脳腫瘍で失った。08年東部デラウェア州の司法長官であった
ボーは、陸軍少佐としてイラクに赴き、約1年間駐留した経歴を持つ。戦死こそしなかったが、帰国
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後脳腫瘍を発症し、46歳の若さで死去した。米軍がイラクで1日に約140トンもの廃棄物を焼却した
際、ボーは有毒ガスを吸い込んだと言われている。
米メディアはバイデンが有毒ガスとボーの脳腫瘍との間に因果関係があると信じていると報道した(注也
一般に米大統領は「米国に神のご加護がありますように」と述べて演説を締めくくるが、バイデンは
大抵の場合「米軍に神のご加護がありますように」と加えて演説を終了する。バイデンは、ボーと同
様、有毒ガスを吸いガン等の病気を患っている退役軍人のために、因果関係が認められなくても給付
金及び医療サービスを拡大すると主張した®18)〇
バイデンと同じ民主党中道穏健派のジェリー ・コノリー下院議員は、「家族の不幸が彼(バイデン)
を思いやりのある人間にした」と述べた®19)〇この選挙期間も、バイデンは「食卓の空席」「米軍に
神のご加護を」の他、有権者の心に響くいくつもの「言葉」で、共感を示し、それを認識させ、リー
ダーシップを強固にした。バイデンは演出したのではなく、経験から自然に「共感のリーダー像」を
自身に重ね合わせたのである。リーダーは人を動かし、あるいは人の動きを止める。感情の共有がそ
れを可能にする。そして、共有したフォロアーがリーダーにアイデンティティを持つ。それがバイデ
ンにリーダーのパワーを与えたのである。
2 トランプとバイデンのコミュニケーションスタイル
2020年米大統領選挙では、トランプとバイデンは、対照的なコミュニケーションスタイルをとって
選挙戦を戦った。2人の候補のコミュニケーションスタイルの相違が、勝敗に少なからず影響を及ぼ
したとみられる。まず、トランプのコミュニケーションスタイルからみていこう。
2-1 分断促進型コミュニケーション
トランプは、16年米大統領選挙と同様、「内集団」対「外集団」という対立構図を尖鋭化させ、恐
怖心を煽って、社会の分断を促進する「分断促進型コミュニケーション」によって、支持者の票を固
める戦略に出た。例えば、16年の時にも用いた「労働者」対「不法移民」である。トランプは、支持
者を集めた大規模集会で白人労働者のような自分を支持する内集団に所属するメンバーに対しては好
意的、移民のような自分が排斥しようとしている外集団のメンバーには非好意的な発言や態度をと
り、両集団の対立を深めた。トランプは、特に、支持基盤の一角を成す白人労働者に対して、「白人
労働者は常に移民の犠牲者である」というステレオタイプ的なメッセージを発信して、被害者意識を
彼等に植え付けたのである。
また、トランプは、「警察官」対「不法移民」の対立構図も鮮明にした。その狙いは、警察官の票
獲得にある。集会で、警察官が不法移民に殺害され犠牲になっていると主張して、ここでも被害者意
識に訴えた。20年5月25日に中西部ミネソタ州ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドが白人警
察官に膝で首を押さえつけられて殺害される事件が発生すると、以前からあった「ブラック・ライブ
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ズ•マター(黒人の命だって大切なんだ)」運動が大規模に起こった。その時も、トランプは、「警察
官」対「人種活動家」という対立構図を作って、警察官の擁護に回った。
さらに、トランプは、反中国感情を刺激して「労働者」対「中国」という対立構図も作った。「中
国は米国人の労働者の仕事を搾取し、知的財産権までも盗んでいる」と非難し、同国からの輸入品に
対して追加関税をかけて米中貿易戦争を激化させた。そうすることで、低賃金に苦しむ労働者に対し
て「悪いのはあなたたちではない。中国だ」というメッセージを発した。アリゾナ州でのトランプ集
会に筆者と一緒に参加した白人労働者は、「トランプは我々の良き理解者だ」と、強い口調で語った。
しかし、この発言は共感という言葉で分析してはならない。なぜならば、トランプのメッセージは作
為的であり、フォロアーの誤解の上に立った「共感」と考えられるからである。
西部コロラド州コロラドスプリング在住のIT企業の最高経営責任者(CEO)は、「トランプ支持者
は米国の精神である『できるという態度(can-do attitude)』に反しています。自分たちの人生がうま
くいかない責任を、他者や他国に責任転嫁しているのです。彼等を再教育する必要があります」と
語った(注20)。この60代の白人男性のCEOは共和党支持者であるが、20年米大統領選挙ではバイデ
ンに一票を投じた「隠れバイデン」である。トランプの「内集団」対「外集団」の対立構図を用いた
選挙戦略は、彼には効果的ではなかった。
2-2ミスリーディング•コミュニケーションスタイル
次に、トランプは有権者を故意にミスリードする(誤解させる)コミュニケーションをとった。例
えば、米国とメキシコとの国境を訪問し、「壁」建設の成果を強調して、16年米大統領選挙で掲げた
公約を守っているというメッセージを発信した。だが、実際は3200キロに及ぶ国境にフェンスを新
設できたのは僅か48キロである(注%新しいフェンスと交換したものは386キロに止まっている。
加えて、壁建設の費用もメキシコ政府に支払わせるという公約とは違って、米国民の税金を使った。
トランプは「公約を守るリーダー」のイメージを演出したが、これでは有権者をミスリードしたと非
難されても当然である。
また、トランプは集会で、バイデンが警察予算を削減すると言い立て、自身のツイッターにおいて
も同様のメッセージを投稿して偽情報を拡散した。実際には、バイデンは選挙期間中から警察予算削
減反対の立場をとっており、22年3月1日に行われた米上下両院合同議会での一般教書演説で警察予
算増加を約束した。
些細な事に見えるが、大統領選挙後、トランプは7500万票を獲得したと豪語した。だが、四捨五
入するとトランプの獲得票数は7400万票である。7500万票と7400万票では米国民に与える印象が相
違する。トランプは有権者に誤解を与え、嘘を交えながら「印象操作」を行って、自分の意図する方
向へ彼等を導くという手法をとったのである。
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明治大学社会科学研究所紀要
2-3 共感型コミュニケーション
次に、バイデンのコミュニケーションの特徴を挙げてみよう。バイデンのコミュニケーションの特
徴は、彼の価値観の中核を成す「古き良き家族」にある。
まず、両親に関するストーリーテリング(物語を語ること)を行う。バイデンは選挙期間中、両親
から得た教訓を物語風に仕立てて有権者に語った。例えば、父親は「どんな仕事にも重い価値があ
る」と教えてくれたと言う。米中関係については、「誤解に基づく意図しない衝突ほど悪いものはな
い」という父親の言葉を引用した。一方、母親に関しては、吃音症があったバイデン少年に「ジョ
イ、あなたは最高の人間なの」と激励してくれたと紹介した。対照的に、トランプは両親について滅
多に語らない。
前述したが、バイデンは最初の妻と娘を交通事故で亡くした。その後、連邦上院議員を36年間務
め、司法委員会及び外交委員会の委員長職に就いた。その間、1988年と2008年の米大統領選挙に出
馬したが、予備選挙で惨敗し早々と撤退した。にもかかわらず、08年米大統領選挙でバイデンは、オ
バマに民主党副大統領候補に指名され復活した。
オバマ元政権で8年間副大統領としてオバマを支えたバイデンは、回顧録の中で、16年の大統領選
挙に出馬の準備を着々と進めていたことを明かした (注22)。しかし、15年にボーが死去したために、
バイデンは出馬を断念した。
そして、20年の大統領選挙に3度目の挑戦をし、厳しい指名争いを勝ち抜いた。上記のように幾度
となく辛い局面を乗り越えてきた人生の中で、バイデンは人間の死や悲しみを深く理解し、寄り添う
ことができるリーダーに成長していったのである。
トランプはツイッターを武器にして、自身で支持者にメッセージを発信した。トランプのツイッ
ターの投稿には誤字が散見され、言語レベルは小学校程度であると言われた。しかし、トランプ自身
が投稿するツイッターは、同時性は勿論、受信する支持者に感動を与え、個人的な繋がりを作る点で
極めて効果が局かった。
2008年米大統領選挙で、筆者は研究の一環としてオバマ陣営に参加した。当時、南部バージニア州
で戸別訪問をしていた若者のボランティアの運動員は、オバマからバイデン副大統領指名のメールを
受信すると感激していた。彼等の間に受信を通じて、心理的な繋がりが作られた点は看過できない。
一方、バイデンは東部デラウェア州ウィルミントンの自宅に記者会見場を作り、COVID-19による
経済危機、ワクチン承認と供給のタイミング及びトランプの米軍司令官としての適性等に関して演説
を行い、記者から質問を受けた。コロナ禍の中でも、バイデンは過度にSNS (ネット交流サービス)
に依存した選挙戦略を展開せずに、カメラに向かって自分自身の言葉でCOVID-19の犠牲者及び白人
警察官に殺害されたフロイドの家族に直接語りかけた。バイデン陣営の広報部長であったケイト・ベ
ディングフィールドは、「私たちはツイッター戦争に勝っためにまる1日かけるつもりはありません」
と語った(注23)。
大統領就任後、バイデンは上着のポケットにCOVID-19による死者数を記したメモを入れた。演説
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第61巻第2号2023年3月
の中で、死者数に触れる際には、最後の一桁まで読み上げた。バイデンは死者数の四捨五入は「人の
命を切り捨てる」からだと言う。
3トランプのコロナ軽視ーバイデンの科学的知見の重視
トランプは当初、ホワイトハウスでの定例記者会見で、全米のコロナ感染による死者数は、10万人
から最大で24万人になると予想した。その上で、「COVID-19の死者数を10万人に抑えれば、良い仕
事をしたことになるだろう」と、ビジネス感覚で死者数について語った。
さらに、「ウィルスは日光に当てれば消える」「消毒液を注射すればウィルスは消える」「季節が暖
かくなればウィルスは消える」等、楽観的な話をして一部の米国民に誤解を与えた。しかも、「ウィ
ルスはでっち上げた」とまで断言して、現実を覆い隠そうとした。
COVID-19に対する有効な対策を打てないと分かると、トランプはCOVID-19を「中国ウィルス」
と連呼して、米国民の目を中国に向けさせる選挙戦略に出た。だが、トランプ自身が10月2日、
COVID-19に感染し入院した。加えて、トランプの側近も相次いでCOVID-19の検査で陽性反応とな
る事態に陥ってしまった。ホワイトハウスでのクラスター(集団感染)はトランプ政権の危機管理能
カの欠如を露呈した。
一方、バイデン陣営はCOVID-19にかなり敏感になっていた。フロリダ州でバイデンが記者団に接
近して質問に答えていると、ジル夫人が間隔を保っために、彼の腰を両手で持ち、後ろに下がらせた
場面がネット等で拡散した。この映像はバイデン陣営にとって最高の広告になった。ジル夫人のこの
行動は、有権者にはトランプ政権のCOVID-19軽視の姿勢とは極めて対照的に映ったからである。
4 「異文化連合軍」と「単一文化連合軍」
感染症に対する態度と並んで看過できない点は、両者の対照的な異文化に対するアプローチの仕方
である。バイデンは女性、アフリカ系、ヒスパニック系、若者及び性的少数派(LGBTQ)を多く加
えた「異文化連合軍」を組織した。彼等の票獲得が勝利に貢献したことは否めない。米CNNの出口
調査によれば、女性の57%、アフリカ系の87%、ヒスパニック系の65%、若者(18〜29歳)の
60%がバイデンに投票した。一方、トランプは白人労働者、退役軍人、キリスト教福音派並びに白人
至上主義者といった白人中心の「単一文化連合軍」の票固めに走った。しかし、人口における人種構
成が変化する中で、トランプの単一文化連合軍の選挙モデルには限界があったのは事実である。
米ブルッキングス研究所と米公共ラジオによれば、16年米大統領選挙で高卒以下の投票資格のある
白人人口は45%であったが、20年は41%になり4ポイント減少した(注Z公。トランプの支持基盤であ
る高卒以下の白人人口は縮小していたのである。その傾向はペンシルベニア、ミシガン、ウィスコン
シン、南部ノースカロライナ、フロリダ及びアリゾナといった激戦州を含めた14州でみられた。特
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明治大学社会科学研究所紀要
に、勝敗を決定づけたペンシルベニア州では高卒以下の白人が5ポイント減少し、大卒の白人が3ポ
イント増加していた。
これに対し、全国レベルで大卒以上の投票資格のある白人人口をみると、16年は24%であったが、
20年は2ポイント上昇し26%になった(注25)。バイデンの支持基盤は黒人と大卒の白人女性である。
ラテン系の有権者も2ポイント伸びて12%から14%に増加した。殊に、ペンシルベニア、ミシガン、
フロリダ並びにアリゾナといった最重点州で、高卒以下の投票資格を有した白人人口が減少し、逆に
ヒスパニック系が増加した。前述の通り、トランプはバイデンにフロリダ州で勝利を収めたものの、
ペンシルベニア州、ミシガン州並びにアリゾナ州を落とした。この点においても、人種構成の変化が
バイデンに有利に働いたと言える。
5 「隠れバイデン」の登場
5-1「隠れトランプ」の動向
16年米大統領選挙では、トランプに投じることを決めているのにも拘わらず、世論調査員に対して
意図的に自らの選択を隠す有権者ー「隠れトランプ(Hidden Trump Voters)」の存在が明らかになっ
た。彼等はトランプが人種差別者で性差別者であると認識しているが、自分も同じ価値観を有してい
るととられるのは不名誉であると本心を隠す。米コーネル大学のピーター ・エンスとジョナサン・
シュルトは、16年大統領選挙では隠れトランプは世論調査に影響を及ぼしたが、20年の選挙におい
てトランプが世論調査の結果よりも得票率が高かったとしても、隠れトランプの影響ではないと指摘
した(注26)。要するに、トランプの“統治”の間に、「隠れる」必要はなくなったのである。
コロンビア大学で教鞭をとっている民主党支持者の60代の白人女性は、「今回の大統領選挙では隠
れトランプは増えません。前回の選挙でトランプに投票した民主党支持者はヘイト・ヒラリー(ヒラ
リー嫌い)だからです」と指摘した(注27)。続いて、「民主党支持者はバイデンに熱狂的ではありませ
んが、ヘイト・トランプ(トランプ嫌い)の思いが強いのです」と述べた。他方、東部ニュージャー
ジー州の大学で教鞭をとっていた民主党支持者である70代のユダヤ系米国人女性は、「隠れトランプ
はマインドコントロールされているので、彼等の大幅な増減はないと思います」と語った。また、近
隣の友人が「隠れトランプ」であったことを知り、人間関係が崩れたことも明かしてくれた。両者は
研究者として心理面から「隠れトランプ」を分析したが、筆者は研究者ではない「隠れトランプ】6」
にもヒアリングを行った。
対象者はミシガン州出身の60代の民主党支持者の白人男性である。この白人男性は、16年米大統
領選挙でトランプに投票したことを周囲に明かしていなかった。この事実を知った彼の古くからの友
人(民主党員)は、ひどく動揺していた。今回の調査において、彼は「トランプは公約を果たしてい
ません。私は今回の選挙ではバイデンに投票します」と断言した(注28)。
西部ネバダ州で配車サービスに携わっている民主党支持の白人の若者は、「前回の大統領選挙では、
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トランプが財政赤字を減らしてくれることを期待して彼に投票をしました」と言う「隠れトランプ」
であった(注2”。彼は、「トランプに裏切られました。軍事費は益々増えて財政赤字は膨らむばかりで
す。11月は民主党候補に投票します」と述べ、脱「隠れトランプ」の意思を示した。トランプが大統
領就任から3年以上が経過すると、「隠れトランプ」の間に「トランプ離れ」の動きがあったことは
確かである。
5-2 「隠れバイデン」
共和党関係者が19年に設立した「リンカーン・プロジェクト」は、ネット上で反トランプの政治
広告を相次いで打った。リンカーン・プロジェクトの顧問の1人であるスティーブ・シュミットは08
年米大統領選挙で故ジョン・マケイン上院議員の選対本部長を務めたが、「トランプ党」になった共
和党に見切りをつけて同党を離れた。同じく顧問であるジョン・ウィーバーは、16年の共和党大統領
候補指名争いで、トランプと戦った中西部オハイオ州のジョン・ケーシック元知事の首席補佐官で
あった。
彼等は南北戦争による分断の危機を乗り越えたエブラハム・リンカーン元大統領を理想の大統領と
し、トランプを社会の分断を図る大統領として非難した。選挙戦終盤になると、失業率並びに人種差
別に反対する抗議デモやCOVID-19による死者数を取り上げて、「このままのアメリカでいいのか。
アメリカか、トランプか」とネットを通じて、効果的な質問を有権者に投げかけた。「トランプ対バ
イデン」ではなく、「アメリカ対トランプ」の対立構図にすり替えて有権者に「選択」を迫った。そ
れは取りも直さず、共和党内の反トランプ派の結束を固め、バイデンへの投票を促す活動であった。
つまり、リンカーン・プロジェクトは「隠れバイデン」票を掘り起こす役割を果たしたのである。
前述したコロラドスプリング在住の共和党支持者であるCEOは、周囲に反トランプを明言してい
ないことと併せて、「実は、私は期日前投票でバイデンに投票しました」と筆者に語った。コロラド
スプリングという土地柄は、非常に保守が強く、過去の選挙をみても共和党は勝利を続けている選挙
区である。このCEOはトランプの不誠実さがバイデン支持の主たる理由であると説明した上で、「民
主党の大統領候補が左派のサンダース(上院議員)やウォーレン(上院議員)だったら投票しません
でした。中道のバイデンなので投票しました」と率直に述べた。
16年米大統領選挙では、「隠れトランプ」の存在が多かれ少なかれ選挙結果に影響を及ぼしたと言
われた。これに対して、20年の選挙においては、トランプに失望した「隠れトランプ]6」票並びに
共和党支持の「隠れバイデン」票が、バイデンに上積みされてバイデン勝利の一因となった。
5-3米国社会と「隠れ」
投票行動において、「ある政党の支持者がある選挙で一時的に他の政党に投票すること」を逸脱投
票(vote defection)、そのような投票者を逸脱投票者(defective voters)と呼んでいる(ffi30I〇「レー
ガンデモクラット」がその代表例である。それに対して、2016年の隠れトランプは、1982年のカリ
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明治大学社会科学研究所紀要
フォルニア州知事選挙において、世論調査で黒人候補ブラッドリーに投票すると回答しながらも、実
際は対する共和党の白人候補に票を投じた投票者に似ている。彼等は、多人種受容の価値規範を掲げ
る自党の候補が黒人であった時に、その価値規範に従うことができない自分が、同じ政治信条を奉じ
てきた仲間から批判されることを回避するために、「隠した。」筆者が調査した隠れトランプは、自
分の利益並びにアイデンティティを優先させたいが、周囲との軋軽が予想されることから、誰に投票
をするのかを「隠した。」また、トランプの魅力に惹かれ、その主義・主張に賛成しているのだが、
トランプのような人格と同一視されたくない、あるいはトランプの価値観が非アメリカ的であることを
知っているが故に、「隠した。」ここでは、彼等に共通する心理を捉えて、あえて「隠れトランプ」とし
た。
6 「オクトーバー •サプライズ」の不発
6-1 トランプのオクトーバー ・サプライズとは
米大統領選挙では、選挙結果に影響を及ぼす選挙直前に発生した驚きの出来事を「オクトーバー・
サプライズ」と呼んでいる。例えば、12年米大統領選挙では、10月29日にニュージャージー州に上
陸し甚大な被害を与えたハリケーン「サンディ」カ・、オクトーバー ・サプライズとなった。
選挙戦終盤、トランプは20年米大統領選挙のオクトーバー ・サプライズを仕掛けた。オバマ元政
権が、トランプ陣営に対してトランプタワーに盗聴器を仕掛けてスパイ活動を行ったと主張したの
だ。トランプは、ウィリアム・バー司法長官(当時)が11月3日の投票日直前に、オバマ元政権の
スパイ活動に関する捜査報告書を提出することを期待していた。オバマ前政権のスパイ活動が認めら
れれば「オクトーバー ・サプライズ」になり、当時副大統領であったバイデンにとって大打撃になる
からだ。しかし、バーは報告書を提出しなかった。結局、トランプが仕掛けたオクトーバー ・サプラ
イズは不発に終わった。
6-2 「カウンター・オクトーバー・サプライズ」
前述したが、トランプ前大統領は、投票日の5週間前にCOVID-19に感染して入院した。有権者の
目をCOVID-19から、バイデンの次男ハンター ・バイデンの中国ビジネス並びに都市部の暴動に逸ら
そうとしたが、自身の感染によりCOVID-19の対応に一層焦点が当たってしまった。しかも、それを
機に、バイデンの高齢問題からトランプの健康問題に米国民の関心が移った。トランプの年齢及び体
重を考慮に入れれば、重症化の可能性が高いとまで言われた。
トランプは感染で、自分に不利なオクトーバー ・サプライズを作ってしまった。ところが、彼は入
院から48時間後に退院を果たした。しかも、退院は夕方のニュースの時間に合わせ、ゴールデンタ
イムにホワイトハウスからビデオメッセージを流すという周到振りであった。
トランプはホワイトハウスに戻るとバルコニーに立ち、両手でマスクを外して完全回復の演出を
-129-
第61巻第2号2023年3月
行った。マスクは「弱さ」を象徴し、また着用の義務が「自由」との関係で問題化されていた。マス
ク着用は、バイデン支持者であるという政治的象徴ともなっていた。トランプは、「自分はCOVID-19
(=未知の敵)に打ち勝った強いリーダーである」「中国ウィルス(=現実の政治•経済•軍事の競合
国中国がばらまいたウィルス)に勝った無敵のリーダーである」「米国民はCOVID-19—中国ウィルス
に屈服するな。恐れるな」といった無言のメッセージを発信した。このようにして、自分に不利だっ
たオクトーバー・サプライズを有利な「カウンター・オクトーバー ・サプライズ」に変えてしまつ
た。支持率でバイデンを追うトランプは、COVID-19からの早期回復を劇的なゲーム・チェンジャー
にしようとした。しかし、そのサプライズも長続きはしなかった。入院中の車での外出が、運転者や
セキュリティ一関係者の感染リスクを高めているという批判が広がった。また、一般的な感染拡大は
収まらず、演出のみで有権者を引き付けるトランプの選挙戦略にははっきり限界が見えてきた。
7 「法と秩序」の大統領
現在でも違法行為の疑惑がもたれる事柄について調査や捜査が行われているが、トランプについて
は、17年からの政権中に同盟国からの情報を漏らす行為及びロシアに与える等の行為が糾弾される
等、早々に違法と取られる行動が見られた。また、トランプは社会の分断を煽り、白人至上主義者に
よる犯罪について明確な非難をしない等、法や秩序に相応しくない大統領と、良識者から見られてい
た。しかし、彼は自分の弱みとして突かれる可能性のあるものを潰し、逆転の構図で対抗する手法を
しばしばとってきた。違法性を責められそうな行為に対する防御ーそのキーワードが「法と秩序」で
ある。トランプは自身を「法と秩序」の大統領と呼び、警察官と郊外の有権者及び白人至上主義者の
票獲得のために以下の選挙戦略をとった。因みに、この「法と秩序」を強調したのは、リチャード・
ニクソン元大統領であった。
まず、「法と秩序」の守り手である警察の予算削減に強く反対する一方で、バイデンは賛成に回っ
ていると主張して偽情報を流した。このことについては前述した。
次に、民主党は郊外に低所得者向けの住宅を建設するので、犯罪が増加すると議論した。暴動に関
しても民主党の市長が多い都市部で発生しやすいが、民主党が郊外に拡大していけば、同様に暴力の
件数も増加すると示唆した。有権者に対して懸念や恐怖を与えるトランプの常套手段である。この
時、この暴論を投げかけられたのは、郊外の住民である。彼等は中流階級以上の有権者が多く、治安
に関して非常に敏感である。トランプはその心理に乗じて「法と秩序」を全面に出した。
また、「法と秩序」を守るために投票所でトランプ陣営の「選挙監視員」が必要であると強調した。
特に、ペンシルベニア及びミシガン等の激戦州における同陣営の選挙監視員を求めた。その狙いが卜
ランプ支持の極右武装集団「ミリシア」を利用して、バイデン支持の有権者を脅し、彼等の票を減ら
すことにあったのは明らかであった。トランプは「法と秩序」を隠れ蓑にして、投票妨害を行おうと
する悪質な主張を繰り返し、いくつかの投票所ではそれが実行された。
-130-
明治大学社会科学研究所紀要
米公共ラジオ、公共放送及びマリスト大学の全米を対象とした共同世論調査(20年10月8〜13日
実施)によれば、「大統領選挙で脅しや、合法的有権者の投票を妨害する試みがあると思いますか」
という質問に関して、「多いにある」と「いくらかある」の合計が約7割に達した。上に記したよう
に、激戦州においては、この世論調査の結果が現実化した。投票所の周辺に集まったトランプ支持の
武装集団は、バイデン支持の女性並びに少数派に対して嫌がらせや威嚇を行い、恐怖心を与えた。少
なくとも、有権者は、トランプの「法と秩序」の戦略を否定的に見ていたのは事実である。
結局、トランプが仕掛けた「オクトーバー ・サプライズ」「カウンター ・オクトーバー •サプライ
ズ」並びに「法と秩序の大統領」は、いずれも大した効果を上げることができなかった。選挙戦を通
じて有権者の最大の関心事はCOVID-19感染拡大の収束であり、彼等の目を他の争点に逸らそうとし
たトランプの戦略は失敗に終わったと言えよう。
おわりに
以上、本稿では20年大統領選挙における選挙戦略を「リーダーシップ」「コミュニケーション」及
び「異文化」の視点に立って論じた。トランプは「大規模集会・熱意/熱狂・強いリーダー像」の選
挙モデルを用い、白人有権者中心の「単一文化連合軍」を形成した。一方、バイデンは「小規模集
会•冷静な判断・共感するリーダー像」のモデルを採用し、人種や民族の多様性を活用した「異文化
連合軍」を組織した。コロナ禍で親しい人々の死に直面した有権者が支持したのは、後者のモデルで
あった。
トランプの過激な言語と「異文化排除」の戦略は、現在でも大問題になっている分断及び憎悪を増
加させ、個人的な人間関係ばかりではなく、民主主義一合意形成と多数決の受容といった米国民の価
値観までも変えてしまうほど、多大な影響を及ぼした。これはトランプが大統領職にあった4年間を
経て、米連邦議員に対する脅迫が967%増加したことにも現れている’注粉。一方、バイデンは、コロ
ナ禍であるにも拘わらず、自身の人間性を全面に出しながら、社会の「統一」を訴える選挙戦略を選
択した。アピールをする際、「統一(United)」という言葉をスローガンに掲げ、過去数年の間に顕著
になってきた分断へのアンチテーゼとした。特に、コロナ禍でのバイデンの共感のリーダーシップ
は、社会の傷を癒す点で効果的であり、多くの支持を得た。
技術革新、世界的な感染病拡大、経済的成長あるいは停滞といった社会・経済的変化によって、求
められるリーダー像や有効なコミュニケーションスタイルは変わっていく。その中で、候補は選挙戦
略を立て、有権者に望まれるリーダー像を描き、最も効果的なコミュニケーションスタイルを選択す
る。24年大統領選挙においても、それは変わらない。
今後は、米大統領選挙における選挙戦略の変化を正確に把握することを基礎とし、移民の流入にょ
る価値観の揺らぎも含めて、異文化社会アメリカにおける大統領候補のリーダーシップとコミュニ
ケーションスタイルの理解をより深めていきたい。
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第61巻第2号2023年3月
注
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バイデン大統領は22年8月、「退役軍人ヘルスケア法案」に署名した。同法案は、イラクやアフ
ガニスタンで、米軍の廃棄物焼却により発生した有毒ガスを吸って喘息やガン等を発生した退役
軍人に、給付金及び医療サービスの拡大を目指すものである。ホワイトハウスによれば、500万
人以上の退役軍人が対象になる。例えば、有毒ガスが原因で死亡した退役軍人の妻と2人の子ど
もに、月2000ドル(約25万6000円1ドル128円で換算)が給付される。
2020年7月1日のメールによる回答
2021年5月2日の電話によるインタビュー
「NY検察、トランプ大統領元側近バノン氏起訴 壁建設巡る詐欺容疑」(2020年8月21日)•ロ
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2020年9月3日のメールによる回答
2019年8月8日東部マサチューセッツ州ケープコッドでのヒアリング調査
2020年2月22日西部ネバダ州ラスベガスでのヒアリング調査
逸脱投票・ブリタニカ国際百科事典• (2022 年10 月 26 日閲覧)
米NBCニュース(2020年10月30日放送)によれば、米連邦議員に対する脅迫は、2016年902
件、17年3939件、18年5206件、19年6955件、20年8613件、21年9625件であった。
-133-
米兵越境で北朝鮮側に接触 国防総省、解放交渉要請か
https://nordot.app/1054166807704863356?c=302675738515047521

『 【ワシントン共同】オースティン米国防長官は18日の記者会見で、韓国と北朝鮮の軍事境界線を北朝鮮側に越境した米国人1人が米兵だと認めた上で「故意に許可なく越えた。北朝鮮に拘束されていると考えている」と語った。国務省のミラー報道官は「国防総省が北朝鮮側に接触したと理解している」と述べた。米兵の解放を求めて交渉を要請した可能性がある。
核・ミサイル開発を強行し、米国との対立が深まる北朝鮮にとって、米国人の身柄は重要な取引材料となる。交渉は難航も予想される。
c 一般社団法人共同通信社 』
米軍メール、マリに長年誤送信 ドメイン類似で入力ミス
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB181YL0Y3A710C2000000/
※ 『米軍メールアドレスのドメイン(ネット上の住所)の末尾「mil(※ military)」がマリの「ml(※ Mali)」と似ており、宛先の入力ミスが原因。』
※ これを取り違えるとか、どこの「素人さん」だよ…。
※ しかも、『マリを識別するドメインを管理する業務を担ってきたオランダのIT企業経営者の男性が10年近く前に問題に気付いた。米政府に繰り返し注意を促したが、誤送信は止まらなかった。』、という話しだ…。
※ 『誤送信されたメールは数百万通に上る。機密情報は含まれず、第三者からの迷惑メールが大部分だったが、米軍人らの健康情報や軍高官の外国訪問の旅程、基地の写真、艦艇の乗組員リストなど機微な情報が含まれていた。陸軍制服組トップのマコンビル参謀総長や随行者らの宿泊先や部屋番号が書かれたものもあった。
送信元は米軍関係者の私用アドレスのほか、米軍と契約する旅行業者などが目立った。トルコ外交筋や、連邦捜査局(FBI)の捜査員からのメールもあった。イラン革命防衛隊による米国でのスパイ活動に関する「公表不可」の米政府情報も混ざっていた。』…。
※ イヤハヤな話しだ…。
『【ワシントン=共同】英紙フィナンシャル・タイムズは17日、米軍の内部情報を含むメールが長年、西アフリカ・マリに誤送信されてきたと報じた。米軍メールアドレスのドメイン(ネット上の住所)の末尾「mil」がマリの「ml」と似ており、宛先の入力ミスが原因。国防総省のシン副報道官は17日の記者会見で、誤送信対策の強化に努めていると述べた。
マリの暫定政権は治安維持でロシアの民間軍事会社ワグネルと連携するなど、ロシアと関係が近いことで知られる。米軍の情報管理に厳しい目が向けられそうだ。
マリを識別するドメインを管理する業務を担ってきたオランダのIT企業経営者の男性が10年近く前に問題に気付いた。米政府に繰り返し注意を促したが、誤送信は止まらなかった。
誤送信されたメールは数百万通に上る。機密情報は含まれず、第三者からの迷惑メールが大部分だったが、米軍人らの健康情報や軍高官の外国訪問の旅程、基地の写真、艦艇の乗組員リストなど機微な情報が含まれていた。陸軍制服組トップのマコンビル参謀総長や随行者らの宿泊先や部屋番号が書かれたものもあった。
送信元は米軍関係者の私用アドレスのほか、米軍と契約する旅行業者などが目立った。トルコ外交筋や、連邦捜査局(FBI)の捜査員からのメールもあった。イラン革命防衛隊による米国でのスパイ活動に関する「公表不可」の米政府情報も混ざっていた。
【関連記事】「gmai.com」にメール誤送信、相次ぐ情報流出 』
米軍、中東に戦闘機・艦船を追加配備 イランへ対処
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN180Q70Y3A710C2000000/
『【ワシントン=中村亮】米国防総省は17日、中東地域に戦闘機や艦船を追加配備すると発表した。原油輸送の要衝であるホルムズ海峡周辺でイランによる商船の拿捕(だほ)を阻止する。イランに対抗姿勢を示し、イスラエルとの関係改善を探る。
国防総省のシン副報道官は17日の記者会見でステルス戦闘機F35や戦闘機F16、ミサイル駆逐艦トーマス・ハドナーを中東に派遣すると明らかにした。ホルムズ海峡周辺でイランの脅威が続くと説明し「配備を増やして監視能力を高める」と強調した。
米海軍は7月上旬、ミサイル駆逐艦マクフォールがオマーンの沖合でイラン艦船による拿捕を2回防いだと説明した。1回はイラン艦船が商船に向けて発砲して緊迫した。海軍によると、イランによる航行妨害や拿捕の件数は2021年以降で20回近くにのぼる。
米軍高官は14日、記者団に対して商船の国籍や積載物、位置を把握し、拿捕のリスクが高い商船を見極めて戦力の配置を決めていると説明した。「目に見える存在が抑止効果を生む」と強調し、イランの監視を強めると言明した。
米軍は5月、ホルムズ海峡周辺で艦船や航空機のパトロールを増やし、イランによる商船の拿捕を防ぐ方針を示していた。
バイデン米政権がイランへの対抗策を打ち出すのは、イスラエルとの関係修復につなげる狙いもある。
バイデン大統領は17日、イスラエルのネタニヤフ首相と電話協議して秋に米国で会談することで一致した。ネタニヤフ氏のホワイトハウス訪問が実現すれば22年12月に首相へ復帰してから初めて。
ホワイトハウスの声明によると、両首脳は電話協議で「米国とイスラエルの協力がイランの核兵器取得を阻止するうえで土台になる」と確認した。軍事演習を通じ、イランの脅威に対抗すると申し合わせた。
イランは15年に結んだ国際枠組みであるイラン核合意の義務履行を相次いで停止して核開発を推進。イスラエルが懸念を強めてきた。バイデン政権は発足直後に核合意の再建を目指す立場を打ち出し、イスラエルと意見が食い違った。
バイデン氏とネタニヤフ氏は、イスラエルの司法制度改革やパレスチナ政策でも溝が目立つ。
バイデン氏が3月に司法改革に関し「撤回を望んでいる」と発言。その後にネタニヤフ氏はツイッターで「イスラエルは親友を含む外国の圧力ではなく、国民の意思に基づいて決断をする主権国家だ」と断言し、バイデン氏の撤回要請を一蹴した。』
レファレンス平成27年5月号
アメリカ連邦議会議員選挙制度 —中間選挙をめぐる課題一
国立国会図書館調査及び立法考査局
主幹 政治議会調査室 廣瀬 淳子
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9368694_po_077202.pdf?contentNo=1
『 目 次
はじめに
I連邦議会議員選挙制度
1選挙制度の概要
2両院の代表制と選挙制度
π 2014年連邦議会議員選挙の結果
1党派別議席数
2当選者の特性とキャリアパス
3歴史的低投票率
4接戦選挙区の減少と再選率
m選挙区割りをめぐる課題
1下院選挙区の区割りと投票価値の平等
2マイノリティ選挙区
IV選挙制度改革論の動向
1中間選挙の廃止と連邦議会議員の任期の延長
2議員の任期制限
3コロンビア特別区からの下院議員の選出
おわりに
国立国会図書館調査及び立法考査局
レファレンス 2015.5
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① アメリカでは2014年11月4日に連邦議会議員選挙が実施され、上下両院で共和党が議席
を伸ばした。上院では多数派が民主党から共和党に交代し、下院では共和党が多数派を維持
した。民主党オバマ政権のもとで、大統領と連邦議会の多数党が異なるいわゆる分割政府が
今後2年間継続することとなった。大統領選挙が実施されない年の連邦議会議員選挙(中間
選挙)では、大統領の所属政党が議席を減らす傾向がみられ、大統領の政権運営に対する評
価の側面がある。
② 連邦議会議員の選挙制度は、上院、下院共に小選挙区制を採用している。1913年に上院
議員の選挙制度が州議会による選出から直接選挙に変更されて以降、投票権の拡大を除き連
邦憲法レベルでの基本的な選挙制度の改革は行われていない。連邦議会議員選挙は2年ごと
という主要国と比較しても短いサイクルで実施されること等により、低投票率と高い現職再
選率という特徴がみられる。投票率については、とりわけ若年層やヒスパニック系の投票率
が低い傾向がみられる。選挙で投票するために有権者登録をしなくてはならないことカミ、低
投票率の一因となっている。
③ 下院議員の選挙区割りをめぐっては、ゲリマンダーとよばれる恣意的な選挙区割りが長年
課題となってきた。同一州内の選挙区間の人口格差が小さくなるよう厳密に区割りされる反
面、行政区画や地理的条件は配慮されない傾向がある。マイノリティに不利となる恣意的な
区割りについては、最高裁の判例が蓄積されてきた。区割りは国勢調査の直後に行われてき
たが、近年ではそれ以外の時期にも党派的思惑から実施される例もみられる。
④ アメリカと同じく小選挙区制を採用しているイギリス議会下院議員の選挙制度をめぐって
は、その改革案が2011年に国民投票に付されたが、アメリカにおいては小選挙区制自体を
改革する動きはみられない。長年中間選挙の廃止と下院議員の任期の延長が提案されてきた
が、大統領と連邦議会の権力バランスの観点からの反対論も根強い。近年では議員の任期制
限や首都であるコロンビア特別区からの下院議員の選出も議論されてきた。
24
レファレンス2015.5
アメリカ連邦議会議員選挙制度
はじめに
アメリカでは2014年11月4日に連邦議会議員選挙⑴が実施され、連邦議会の上院では多数派が
民主党から共和党に交代し、下院では共和党が多数派を維持した。民主党のオバマ(Barack
Obama)政権のもとで、大統領と連邦議会の多数党が異なるいわゆる分割政府(divided government)
が今後2年間継続することとなった。上院で共和党が多数派となるのはブッシュ(George W. Bush)
政権下の第109議会(2005-06年)以来10年ぶりである。下院での共和党の議席は、第80議会
(1947-48年)以来最多となった。
中間選挙では一般的に、大統領の所属政党が議席を減らす傾向がみられ、大統領の業績に対する
評価の側面がある。主要国と比較しても非常に短い2年間隔で連邦議会議員の選挙が実施されるた
め、大統領の任期中であっても連邦議会の多数党が交代する可能性が存在し、アメリカ政治に常に
次の選挙を意識した短期的な政治サイクルをもたらしている。
連邦議会議員の選挙制度は、両院とも基本的に小選挙区制を採用しており、上院議員の選挙制度
が1913年に州議会による選出から直接選挙に変更されて以降、投票権の拡大を除き連邦憲法レベ
ルでの基本的な選挙制度の改革は行われていない②。
選挙をめぐっては、我が国でも選挙権年齢の18歳への引下げ、選挙区への議員定数の配分、議
員定数の削減などが議論されているところである。本稿では、アメリカの連邦議会議員選挙制度の
概要、2014年選挙の結果、その特徴と課題、改革論議等を紹介することで、我が国での論議の参
考とするものである。
I連邦議会議員選挙制度
1選挙制度の概要
連邦議会は上院(Senate)と下院(House of Representatives)の二院で構成されている”’。選挙権年齢は
18歳である⑷。上院議員の被選挙権年齢は30歳以上、9年以上合衆国市民で、選挙される時に選
出される州の住民でなければならない任)。下院議員の被選挙権年齢は25歳以上、7年以上合衆国
市民で、選挙される時に選出される州の住民でなければならない⑹。また、合衆国の公職にある者
は、その在職中いずれかの議院の議員になることはできない⑺。このため、閣僚や公務員と連邦議
会議員の兼職はできない⑻。
・ 本稿におけるインターネット情報の最終アクセス日は、平成27年4月2日である。
(1) 大統領選挙が実施されない年の連邦議会議員選挙は「中間選挙」と呼ばれる。
(2) 憲法修正第17条。以下、単に憲法といった場合は、連邦憲法をいう。このほか主要な改革としては、候補者
の選定に予備選挙が導入されたことと、秘密投票(いわゆるオーストラリアンバロット)の導入が挙げられる。
予備選挙は1960-70年代に候補者選定の主流となった。秘密投票は、1888年にケンタッキー州で最初に採用され、
1950年までに全米で採用されるようになった。
⑶憲法第1条第1節
⑷ 憲法修正第26条
⑸憲法第1条第3節第3項
⑹憲法第1条第2節第2項
⑺憲法第1条第6節第2項
⑻ ただし、憲法第1条第3節第4項の規定により、副大統領は上院の議長となる。
レファレンス 2015.5
25
上院議員は各州から2名が選出され、定数は100名、任期は6年である。。3分の1ずつが2年
ごとに改選され、50州は選挙が行われる時期で3つのグループに分かれている”°)。同じ州から選
出される議員は異なる時期の選挙で選出されるため、1回の選挙では全州を選挙区として1名が選
出される小選挙区制である。
下院議員の任期は2年である皿。全米435の小選挙区から選出される小選挙区制である下
院議員の定数は、かつては人口の増加に応じて増やしていたが、1929年に議席再配分法”Rにより
435に固定された”公。
連邦憲法は、連邦議会の上院議員及び下院議員の選挙を行う時、所及び方法は、各州議会が定め
るとし応、選挙の投票方法等の詳細は、基本的に各州法”で定められ、州ごとに異なっている
ただし、連邦議会は、上院議員の選挙を行う所に関する定めを除き、いつでも法律によって規則を
設け変更することができるとし宙)、1965年投票権法(Voting Rights Act of1965)などのように連邦法
の規定に従って実施されている部分もある。
選挙は、ジョージア州とルイジアナ州を除く各州では相対多数を得た候補者が当選者となる。
ジョージア州とルイジアナ州では絶対多数を得た候補者がいない場合、その後の日程で上位2名に
よる決選投票が実施され、相対多数を得た候補者が当選者となる。
選挙の期日は、偶数年の11月の第一月曜日の翌日の火曜日”切で、両院議員選挙と共に知事選や
州議会選挙などの各種地方選挙も実施される。大統領選挙が実施される年には、大統領選挙も同時
に実施される。2014年の中間選挙は11月4日に実施された。選挙後の連邦議会の新会期は、2015
年1月に開始された。
両院共に各政党の選挙区ごとの候補者選定は、原則として州法の規定に基づく予備選挙(primary)
による°°)。予備選挙の日程は、後述するように州ごとに設定される。
2両院の代表制と選挙制度
連邦憲法制定時に意図された連邦議会上院と下院の代表制や機能は、異なったものであった⑵)。
⑼憲法第1条第3節第1項
(10) 憲法第1条第3節第2項
(11) 憲法第1条第2節第1項
(12) かつては複数の議員を選出する中選挙区制等を採用する州もあったが、1842年議席配分法(CongressionalAp-
portionment Act of 1842) により、下院議員について各選挙区から1名の議員を選出する小選挙区制が規定された。
この規定はその後の議席再配分法に引き継がれ、1967年に再度規定された。2U.S.C. §2c.
(13) Reapportionment Act of 1929, 2 U.S .C. § 2a.
(14) 憲法制定時の下院議員の定数は65で、その後人口の増加に対応して定数も増やされ、1913年に435となった。
(15) 憲法第1条第4節第1項第1文
(16) 州法には、各州憲法も含む。
(17) 選挙人の資格についても、州議会の議員数の多い方のー院の選挙人資格とされ、州ごとに異なっている(憲法
第1条第2節第1項、憲法修正第17条第1項)。投票権について詳細は、高橋和之「アメリカにおける選挙権の
観念」樋口陽一ほか編『現代立憲主義の展開 上』有斐閣,1993, pp.407-440参照。
(18) 憲法第1条第4節第1項第2文
(19) 2U.S.C. §7.
(20) 予備選挙ではなく、党員集会による州もある。また、アメリカでは日本のような立候補制度を採用していない
ため、立候補の概念が日本とは大きく異なっている。多くの州では予備選挙等を経て候補者とならなくても、投
票者が当選させたい者の名前を投票用紙に書き込む(write in)ことが可能となっている。
(21) 詳細については、廣瀬淳子「アメリカ連邦議会の二院制の特質ー上院研究の分析ー」浦田一郎•只野雅人編
『議会の役割と憲法原理』信山社,2008, pp.48-59参照。
26
レファレンス2015.5
アメリカ連邦議会議員選挙制度
両院議員の選挙区や選出方法、定数や任期等を異なったものとすることで、各議院がそれらを実現
することが期待されていた。
連邦憲法を起草するため1787年5月からフィラデルフィアで開催された憲法制定会議では、連
邦議会を二院制とすることには会議の初期から合意が存在していた。。しかし、両院議員の代表制、
選出方法とその任期については会議前のコンセンサスはなく、特に上院議員の代表制と選出方法は
憲法制定会議の最大の論点の一っとなった。
選出方法について、下院議員が直接選挙で選出されることは円滑に可決されため。上院議員の
候補者を各州の立法部が指名し、これを下院が選出する案は否決され山)、直接選挙案も否決され
た(村。上院の機能や性格付けをめぐる様々な議論の後、州議会が選出する案が可決された四。
議員数の問題は、連邦議会における代表制や議員の投票権の問題とも直結して議論された。人口
の多い州は両院議員共に人口に比例した議員数を選出することを主張し、少ない州は少なくともー
院では各州から同数の議員を選出する均等代表を主張して、議論は激しく対立して紛糾した。その
後、いわゆる大妥協と呼ばれる妥協の結果、上院は各州の均等代表、下院については人口比例で合
意が成立し、その後上院議員は各州2名とすることが決まった¢か。上院議員の定数について、各
州!名では欠席等の場合州の代表が不在となり不都合があること、各州3名では今後新たな州が加
わった場合に、上院の定数が多くなりすぎることから各州2名となった。
任期について、上院議員は、3年、4年、5年、7年、9年、終身の各案が検討された。上院議員
の任期を下院議員より長くすることには合意があり、多数派は4年以上の任期を支持していた。ー
度は任期7年が可決されたが、最終的に任期は6年とし、2年ごとに3分の1ずつを改選すること
となった(28)。下院議員については、独立後の13邦の議会の下院の任期は1年のところがほとんど
で㈣、より頻繁に民意が反映され有権者との距離感が短くなりやすい1年任期は広く支持されてい
た0ジェームズ・マディソン(James Madison)やアレクサンダー・ノ、ミルトン(Alexander Hamilton)は、
下院議員の職務にも経験の蓄積が必要として任期3年を支持していた。憲法制定会議では、任期1
年と3年が検討され、妥協の結果任期2年となった前。
上院議員については、州議会が選出することによって、選り抜きの人物が上院議員となり、州政
府の代理や連邦政府との連絡役となること、不適切な立法への防波堤となることが期待されてい
た⑶)。また、上院議員の任期を下院議員より長くし議員数を少なくすること、被選挙権年齢や市
民権の要件を高くすることで、知性と教養、経験を備えた上院議員によって、民主的な下院の暴走
や行き過ぎを抑制する、より安定的な上院となることが意図されていた肉。
•¢40 0 2
22 Max Farrand, ed., The Records of the Federal Convention of/787, Vbl.l, New Haven: Yale University Press, cl 966, pp.45-
46, 48.
ibid., pp.48-50, 353-354.
ibid., pp.51-52.
ibid., pp.155-156.
ibid., pp.397-409.
Max Farrand, ed., The Records of the Federal Convention of1787, Vbl.2, New Haven: Yale University Press, cl 966, pp.13-
14, 84-85.
㉘ Farrand, ed., op.cit.㉒,pp.408-409,421-426.
㉙ 13邦中、任期1年が10邦、半年が2邦、2年が1邦で、任期が短いほうが圧政に陥りにくいと考えられていた。
(3¢ Farrand, ed., op.cit.㉒,pp.353-354.
(31)ジェームズ・マディソン「上院の構成」A.ハミルトンほか著(斎藤眞・中野勝郎編訳)『ザ・フェデラリスト』
岩波書店,1999, pp.277-287.
レファレンス 2015.5
27
しかし19世紀末になると、上院議員も州議会による選出ではなく、直接選挙による選出を求め
る声が高まり、直接選挙を認める憲法修正案が連邦議会下院では繰り返し可決されたが、上院では
審議されなかった囲。その後、州議会が選出する上院議員の候補者を直接選挙で選出するが、州
議会はその候補者を選出することには拘束されないとする仕組みを州法で導入する州が増加し、直
接選挙で選出された候補者が州議会でも選出されるようになった。このような流れのもとで、1910
年選挙では連邦議会上院で改革派が議席を伸ばし、!911年に上院で直接選挙を定める憲法修正案
が可決された。下院でも1912年に可決され、1913年には改正に必要な州の賛成が得られ、憲法修
正第1?条が成立した。
我が国では「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と憲法上規定され、
両院議員共に全国民を代表する者とされているg。アメリカにおいては、議員の地域代表的な性
格が強く、議員は何よりもまずその選挙区の代表者であるという考え方が、すでに植民地時代に確
立されていた3)。そして、このような代議制観は、今日にいたるまでアメリカの政治制度の特徴
の一つとなっている囲。ただし、上院議員は各州から同数が選出され、州の代表とみなされてい
るカヾ、現代の上院議員は、もはや単なる連邦政府と州政府の連携役や調整役ではない。州代表とし
ての活動だけではなく、州の利害を超えて様々な全国的な政策課題にも対応している⑴)。
π 2014年連邦議会議員選挙の結果
!党派別議席数
2014年選挙の予備選挙、本選挙は表1の日程で予備選挙から本選挙まで、約8か月間にわたっ
て各州で実施された。なお、アメリカでは、日本のような選挙運動期間の定めはない。
選挙後の上院の政党別議席数は、非改選議席も含めて2015年1月6日現在、共和党54名、民主
党44名、民主党系無所属2名である。改選議席(36名、補欠選挙3名を含む)の政党別議席数は、共
和党24名、民主党12名である。共和党は、前議会から9名の増加となり、多数党が民主党から共
和党に交代した。上院で共和党が多数党となるのは、第109議会(2005-06年)以来10年ぶりである。
下院では2015年1月6日現在、共和党246名、民主党188名、欠員1名である。前議会と比較
すると、共和党は13名増加し多数党の座を維持した。共和党の議席数は、第80議会(1947-48年)
以来最大となった。
表2に示すとおり、中間選挙では大統領の政党が議席を減らすのが通例である。1938年から
1994年までの15回の中間選挙では、連続して大統領の政党が議席を減少させる結果となった。過
去に大統領の政党が議席を増やしたのは、戦後では、民主党クリントン(Bill Clinton)政権時の1998
年と、共和党G’W,ブッシュ政権時の2002年の中間選挙である。1998年の中間選挙では、クリン
トン大統領のスキャンダルをめぐって大統領の弾劾裁判を継続するか否かが争点となり、大統領弾
劾を強行した共和党への反発から共和党が議席を減らした。2002年の中間選挙では、2001年9月
32)ジェームズ・マディソン「立法部による権力侵害の危険性」「抑制均衡の理論」同上,pp.225-234, 236-245.
関下院では、1893年、1894年、1898年、1900年、1902年に可決された。
(34)日本国憲法第43条第1項
関 田中英夫『アメリカ法の歴史 上』東京大学出版会,1968,p.17.
W 同上,p.18.
励 現代の上院議員の活動の詳細については、Ross K. Baker, House and Senate, 3rd ed„ New York: W.W. Norton, c2001;
Lewis L. Gould, The Most Exclusive Club: A History of the Modem United States Senate, New York: Basic Books, ¢2005 参照。
28
レファレンス2015.5
アメリカ連邦議会議員選挙制度
表12014年連邦議会議員選挙予備選挙、本選挙の日程
日程 州(予備選挙の種類)
3月4 0 (火) テキサス(上院、下院)
3月18日(火) イリノイ(上院、下院)
5月6日(火) インディアナ(下院)、ノースカロライナ(上院、下院)、オハイオ(下院)
5月13日(火) ネブラスカ(上院、下院)、ウェストヴァージニア(上院、下院)
5月20日(火) アーカンソー(下院)、ジョージア(上院、下院)、アイダホ(上院、下院)、ケンタッキー(上院、下院)、 オレゴン(上院、下院)、ペンシルベニア(下院)
5月27日(火) テキサス(上院決選投票、下院決選投票)
6月3日(火) アラバマ(下院)、カリフォルニア(下院)、アイオワ(上院、下院)、ミシシッピー(上院、下院)、モンタ ナ(上院、下院)、ニュージャージー(上院、下院)、ニューメキシコ(上院、下院)、サウスダコタ(上院)
6月10日(火) メイン(下院)、ネバダ(下院)、サウスカロライナ(上院、下院)、ヴァージニア(下院)
6月24日(火) コロラド(下院)、メリーランド(下院)、ミシシッピー(上院決選投票)、ニューヨーク(下院)、オクラホ マ(上院、下院)
7月15日(火) アラバマ(下院決選投票)、ノースカロライナ(下院決選投票)
7月22日(火) ジョージア(上院決選投票、下院決選投票)
8月5日(火) カンサス(上院、下院)、ミシガン(下院)、ミズーリ(下院)、ワシントン(下院)
8月7日(木) テネシー(上院、下院)
8月9日(±) ハワイ(下院)
8月12日(火) ミネソタ(上院、下院)、ウィスコンシン(下院)
8月19日(火) アラスカ(上院、下院)、ワイオミング(上院、下院)
8月26日(火) アリゾナ(下院)、フロリダ(下院)、オクラホマ(下院決戦投票)、バーモント(下院)
9月9 0 (火) デラウェア(上院)、マサチューセッツ(下院)、ニューハンプシャー(上院、下院)、ロードアイランド(下院)
11月4 0 (火) 連邦議会議員本選挙
12月6日(土) ルイジアナ州本選挙決選投票
(注)•予備選挙の日程は、二大政党の日程である。
•無投票となった予備選挙と、補欠選挙(special election)の予備選挙の日程は除いた。
(出典) Federal Election Commission, **2014 Congressional Pre-Election Reporting Dates.M 等を基に筆者作成。
1I日同時多発テロの翌年ということもあり、大統領と結束してテロに立ち向かうという全国的な
気運があり、共和党が議席を伸ばした。
中間選挙で大統領の政党が議席を減らすことは、大統領の政権運営に対する信任投票的な意義の
ほかに、大統領と連邦議会のイデオロギー的バランスを取る理論や、大統領のコートテールの消失
理論で説明されている岡。バランス理論では、中間選挙では有権者が大統領の政策やイデオロギー
的立場を抑制するように大統領とは異なる政党に投票する傾向がみられることから説明する例。
コートテールとは、大統領選挙の年には大統領候補の人気により大統領の所属政党の議席が上積み
される効果を意味し、コートテール消失理論では次の中間選挙ではこれがなくなるため議席が減少
すると説明する。下院は全員が同時に改選されるのに対して上院は3分の1ずつ改選されるため、
ある政党の支持が高くなっても、上院では多数党の交代が下院より遅れて出現する傾向がみられる。
2014年中間選挙の際の出口調査血)の結果からは、共和党が両院で議席を伸ばした主な要因とし
0$) Robert S. Erikson and Gerald C. Wright, Voters, Candidates, and Issues in Congressional Elections,M Lawrence C. Dodd
and Bruce I. Oppenheimer, eds., Congress Reconsidered, 10th ed., Washington, D C.: Sage, 2013, pp.96-97.
(30) Joseph Bafiimi et al., *Balancing, Generic Polls, and Midterm Congressional Elections,M The Journal of Politics, 72(3), July 2010, pp.705-708. レファレンス 2015.5 29 表2政権と政党別議席数 議会期 年 大統領 政党 上 院 下 院 民主 共和 無所属 欠員 民主 共和 無所属 欠員 80 1947- 1948 トルーマン 民主 45 51 188 246 1 81 1949 -1950 54 42 263 171 1 82 1951-1952 48 47 1 234 199 2 83 1953 -1954 アイゼンハワー 共和 46 48 2 213 221 1 84 1955 -1956 48 47 1 232 203 85 1957- 1958 49 47 234 201 86 1959 -1960 64 34 283 153 87 1961-1962 ケネディ 民主 64 36 262 175 88 1963 -1964 ケネディ/ジョンソン 民主 67 33 258 176 1 89 1965 -1966 ジョンソン 68 32 295 140 90 1967- 1968 64 36 246 187 2 91 1969 -1970 ニクソン 共和 58 42 243 192 92 1971-1972 54 44 2 255 180 93 1973 -1974 ニクソン/フォード 共和 56 42 2 239 192 1 3 94 1975 -1976 フォード 61 37 2 291 144 95 1977- 1978 カーター 民主 61 38 1 292 143 96 1979 -1980 58 41 1 276 157 2 97 1981-1982 レーガン 共和 46 53 1 243 192 98 1983 -1984 46 54 268 166 1 99 1985 -1986 47 53 252 182 1 100 1987- 1988 55 45 258 177 101 1989 -1990 G.W.H.ブッシュ 共和 55 45 259 174 2 102 1991-1992 56 44 267 167 1 103 1993 -1994 クリントン 民主 57 43 258 176 1 104 1995 -1996 47 53 204 230 1 105 1997- 1998 45 55 207 227 1 106 1999-2000 45 55 211 223 1 107 2001-2002 G.W.ブッシュ 共和 50 50 211 221 2 1 108 2003 – 2004 48 51 1 205 229 1 109 2005 -2006 44 55 1 201 232 1 1 110 2007 -2008 49 49 2 233 202 111 2009-2010 オバマ 民主 55 41 2 1 256 178 1 112 2011 -2012 51 47 2 193 242 113 2013-2014 53 45 2 200 233 2 114 2015-2016 44 54 2 188 246 1 (注)•議員数は、各議会期初日の議員数。分割政府の議会期はグレー。 •無所属には、二大政党以外の政党も含む。 (出典)“Table 1-20: Political Parties of Senators and Representatives, 34th-113th Congresses, 1855-2014,w Norman J. Ornstein et al., Vital Statistics on Congress, Brookings Institution, 2014 . を基に筆者作成。 30 レファレンス2015.5 アメリカ連邦議会議員選挙制度 て、オバマ大統領の政権運営に対する否定的なムードや不満があったことが示されている。下院選 挙への投票理由として、オバマ大統領は要因ではないとするものは45% (このうち共和党への投票者 43%、民主党55%)、オバマ大統領への反対を表明するためが33% (共和党92%、民主党5%)、オバマ 大統領への賛成を表明するためが19% (共和党6%、民主党93%)となっている。また、全般的に国 は正しい方向に向かっているとしたものは31% (共和党17%、民主党82%)、深刻なほど悪い方向に 向かっているとしたものは65% (共和党69%、民主党28%)であった。国の経済については、非常に 良い又は良いとしたものは29% 供和党24%、民主党74%)、あまり良くない又は悪いとしたものは 70% (共和党64%、民主党33%)であった。“” これまでの中間選挙でも、世代、人種、性別(ジェンダー ・ギャップ)、年収などの特性によって 政党支持に違いがみられる傾向が指摘されてきた。2014年の中間選挙でもこれまでの選挙と同様 の政党支持の傾向がみられ、出口調査の結果からは、高齢者、白人、男性、高収入の者で共和党の 支持が民主党の支持より高くなる傾向が読み取れるの。 2当選者の特性とキャリアパス (1)出身職業とキャリアパス 第114議会(2015-16年)の議員の、主要な出身職業で最も多いのは公務員と政治家で、ビジネス マンや法曹がこれに次いでいる列。 上院議員出身の下院議員が存在した事例としては、19世紀には、第13議会(1813-14年)に5名、 第16議会(1819-20年)に5名、第23議会(1833-34年)に6名が存在した。しかし、20世紀に入 ると下院議員から上院議員になるパターンが一般化し、1936年から1950年まで上院議員を務めた クロード・ペッパー (Claude Pepper)議員が、1963年から1988年まで下院議員を務めたのを最後に、 以後は存在しない伽)。下院議員出身の上院議員の割合は、19世紀から20世紀にかけてほぼ20% から45%の範囲であったが、第109議会(2005-06年)には初めて50%を超えて、第114議会(2015-16 年)では53%に上っている同。これらの上院議員の、下院議員としての平均在職年数は、9.1年で ある岡。 典型的な議員のキャリアパスとしては、地方議員などの公職や弁護士から連邦議会下院議員とな り、下院議員から上院議員又は州知事へ、そして上院議員から州知事や大統領を目指すというコー スである。 (40) Edison Media Researchにより実施された出口調査。 01) Emily Chow et al., “Exit Polls,w Washington Post, November 6, 2014. 02 Jocelyn Kiley, “As GOP celebrates win, no sign of narrowing gender, age gaps, November 5, 2014. Pew Research Center Website http://www.pewresearch.org/fact-tank/2014/ll/05/as-gop-celebrates-win-no-sign-of-narrowing-gender-age-gaps/ 03)複数回答で上院では公務員•政治家60名、法曹60名、ビジネスマン42名、下院議員では公務員•政治家271 名、ビジネスマン231名、法曹174名、教育関係80名となっている。4Demographics-Congress by the Number,w CQ
Weekly, November 6, 2014, p.58.
(44) Matthew Eric Glassman and Amber Hope Wilhelm, **Congressional Careers: Service Tenure and Patterns of Member Ser-
vice, 1789-2015,w CRS Report for Congress, R41545, January 3, 2015, p.12. http://fas.org/sgp/crs/misc/R41545.pd¢
05)ibid., p.10.
06)ibid., p.ll.
レファレンス 2015.5
31
(2)マイノリティ議員数
マイノリティの議員数は、両院のいずれにおいても長期的には増加傾向にある。
女性議員数は2015年1月現在で、上院で非改選議員も含めて20名(20%、共和党6名、民主党14
名)、下院議員は84名(19.3%、共和党22名、民主党62名)である応か。2013年1月時点と比較する
と増加しており、女性議員数は、一貫して増加する傾向にある。しかし、小選挙区制を採用してい
るアメリカでは、比例代表制を採用しているヨーロッパ諸国や女性議員の増加を目的としたクオー
タ制など何らかの措置を採用している諸国と比較すると、女性議員の割合は低くなっている(48) * 50 51 * * * * 56 57。
黒人の議員数は2015年1月現在で、上院で非改選議員も含めて2名(2%、共和党1名、民主党1
名)、下院議員は44名(10.1%、共和党1名、民主党43名)である物。
ヒスパニック系の議員数は2015年1月現在で、上院で非改選議員も含めて4名(4%、共和党3名、
民主党1名)、下院議員は32名(7.4%、共和党9名、民主党23名)である例。
アジア系・太平洋諸島出身議員は、上院議員1名(1%、民主党)、下院議員!1名(2.5%)である⑸)。
ネイティブアメリカンの議員は、下院議員2名(0.5%、共和党2名)である(紛。
⑶平均年齢と平均在職年数
平均年齢は、上院議員61.0歳、下院議員57.0歳である。新規当選議員の平均年齢は、上院議員
50.7歳、下院議員52.3歳である例。1980年代以降では、両院議員共に平均年齢が上昇する傾向が
みられる㈣。
平均在職年数は、上院議員9.7年、下院議員8.8年である3)。長期的にみると、両院議員共に平
均在職年数は増加し、上院議員の在職年数のほうが下院議員よりも長くなる傾向にある㈤。
3歴史的低投票率
2014年中間選挙の投票率は、第二次大戦後では最も低い36.4%となる見通しであったことが報
じられた品。図1に示したように、一般的に中間選挙の投票率は30%から40%台と大統領選挙が
行われる年と比較すると低くなる傾向がみられる。予備選挙の投票率は、本選挙に比べると非常に
07)Jennifer E. Manning, **Membership of the 114th Congress: A Profile,w CRS Report for Congress, R43869, January 22, 2015,
p.7, http://fas.org/sgp/crs/misc/R43869.pdf
姻 OECD加盟国34か国の下院議員比率では、第26位となっている。IPU, “World Classification,” Women in National
Parliaments,1 January 2015. より 算出0
09)Manning, op.cit.卸
(50) ibid., p.8.
(51) ibid.
62 ibid.
(53)2015 年1月現在。ibid., p.2.
M Alex Lowe et al., “The Capitols Age Pyramid: A Graying Congress,M Wall Street Journal,
(50 2015 年1月現在。Manning, op.cit•姐),p.6.
(56) 各議会期初日での平均在職年数が最も長くなったのは、上院議員では、13.4年(第111議会(2009-10年))、下
院議員では10.3年(第102議会(1991-92年)、110議会(2007-08年)、112議会(2011-12年))である。Glassman
and Wilhelm, op.cit.^, pp.2-4.
(57) Jose A. DelReal, **Voter turnout in 2014 was the lowest since WW ロ,” Washington Post, November 10, 2014. ここで投票率と
は、投票可能人口 (voting-eligible population)の投票率である。
32
レファレンス2015.5
アメリカ連邦議会議員選挙制度
図1下院議員選挙の投票率
&L〇ペ年
OON (
€0〇〇&
9〇〇(n
•寸〇〇ペ
ペ〇〇ペ
O〇〇ペ
866 L
*966 L
寸66L
&66 L
〇66L
CO86L
986 L
•寸 86L
招6L
O86L
82.6 L
*92.6 L
寸Z6L
&Z6L
02.6 L
CO96L
996 L
•寸 96L
N96 L
O96L
8ID6L
•9ln6L
17Lr)6L
&ln6L
0IO6L
*8寸6L
(注)・のついている年は大統領選挙も実施された年。
(出典)”Table 2-1: Turnout in Presidential and House Elections, 1930-2012/ Norman J. Ornstein et al., Vital Statistics on
Congress, Brookings Institution, 2014. を基に筆者作成。
低くなっており、一般的には本選挙の半分以下の投票率であるとされている例。
2010年までの投票率を年代別にみると、18歳から20歳の若年投票率が最も低くなっており、年
代が上昇するにつれて投票率も増加する傾向がある。教育年数別では、年数が長くなるほど投票率
は増加する。人種別では、白人の投票率が最も高く、黒人がこれに次ぎ、アジア系、ヒスパニック
系の投票率は白人の約半分程度となっている。例
日本では、選挙管理委員会が住民登録制度に基づき住民基本台帳に記録されている者で資格を有
する者を職権で選挙人名簿に登録するため、有権者自身は選挙人登録手続を行わなくとも投票が可
能となっている。アメリカにおいては、住民登録制度がないため、選挙で投票するためには、事前
に有権者が自ら有権者登録を行わなければならない。1993年には、全米有権者登録法により運
転免許更新時等に有権者登録を可能とする手続の簡便化が図られている。また、一部の州では、事
前だけではなく選挙当日の有権者登録が認められている。
有権者登録は、政治意識の高い有権者のみが選挙に参加することにより、投票や政治の質の向上
に寄与すると考えられてきた。他方で、諸外国と比較して例をみない低投票率をもたらしている。
2010年までの中間選挙の有権者登録率は60%程度で、年代別、教育年数別、人種別の有権者登録
率は、投票率と同様の傾向がみられる⑹)。
また、2年ごとという頻繁な選挙、連邦議会議員と同時に選挙される公職の数が非常に多く選挙に
時間がかかること、火曜日という平日に選挙が行われることも、低投票率の原因と考えられている。
(5$) Roger H. Davidson et al., Congress and Its Members,11 ed., Washington, DC.: CQ Press, 2008, p.68.
(50 ProQuest, “Table 418: Voting Age Population-Reported Registration and Voting by Selected Characteristics: 2000 to 2012」’
ProQuest Statistical Abstract of the United States 2015, Lanham: Bernan, 2014, p.272.
統 National Voter Registration Act of 1993, P.L. 103-31.いわゆるモーターボーター法。
(61) ProQuest, op.cit.&%
レファレンス 2015.5
33
4接戦選挙区の減少と再選率
投票率の低下と密接に関係しているもう一つの要因が、選挙での競合性の低下で、過去50年間
で接戦選挙区の減少の面からも、議員の再選率の高さからもその低下が指摘されている物。下院
議員選挙で、55%以下の得票で議員が選出される接戦選挙区の割合は、1998年選挙では59.1%で
あったが、2006年選挙では16.1%、2012年選挙では17.9%(63)となっている。2014年中間選挙の際
の各種の選挙予想でも、下院で接戦選挙区とされていたのは全選挙区の10-20%という少数に限ら
れていた初)。
小選挙区制に特有の課題とされている得票率と議席率のかい離は、アメリカの場合は小さく、ほ
ぼ問題となっていない国。これは、ほぼ完全な二大政党制のもとで候補者の所属政党がほぼ二大
政党に限られていることと、安定選挙区が多く、一方の政党へのわずかな支持の増加が議席の大幅
な増加につながることが起こりにくいことに起因していると考えられる。
図2下院の安定選挙区の割合
(注)安定選挙区の割合とは、再選をめざした現職下院議員のうち多数党の60%以上の得票で選出された議員
の割合。
(出典)“Table 2-12: House Elections Won with 60 Percent of Major Party Vote, 1956-2012/ Norman J. Ornstein et al.,
Vital Statistics on Congress, Brookings Institution, 2014. を
基に筆者作成。
@2 Alan I. Abramowitz et al., “Incumbency, Redistricting, and the Decline of Competition in U.S. House Elections,M The Jour-
nal of Politics, 68(1), February 2006, p.75.彼らは、低下の原因を党派的分極化、現職の優位性、選挙区の区割りの
影響の各要因から検証し、区割り以外の要因の影響が大きいと結論付けている。
僞 “Table 2-14: Marginal Races Among Members of the 113th Congress, 2012,” Norman J. Ornstein et al., Vital Statistics on
Congress, Brookings Institution, 2014. なお、1998 年、2006 年のデータ
については、Norman J. Ornstein et al., Vital Statistics on Congress, Washington, D C.: AEI Press, 1997-1998,2005-2006 年版。
(6¢このような選挙情勢を公表しているものとしては、The Cook Political Report Website (会員制ウェブサイト);
POLITICO Website http://www.politico.com/ 参照。
(65)下院の2012年選挙における民主党の候補の得票率と議席率のかい離は、-2.3%、共和党のかい離は+6.0%となっ
ている。戦後でみると、最も下院選挙のかい離率が高くなったのは1964年選挙で、民主党+10.9%、共和党
-10.2% であった。“Table 2-2: Popular Vote and House Seats Won by Party, 1946-2012,M Ornstein et al.,s爾•(63)
34
レファレンス2015.5
アメリカ連邦議会議員選挙制度
他方、再選を目指した現職議員の再選率は、図3に示したように、上院議員、下院議員共に近年
では90%前後の高い水準にある。安定した選挙区の現職には、通常強力な対抗馬は立たない。現
職に有力な候補が挑戦し不利が予想されると、引退を選択する同。また、現職の知名度や政治資
金の集めやすさも再選率を高めている。
下院議員の現職再選率は、一般に上院議員の現職再選率より高くなっている。これは次章で述べ
る下院選挙区の区割りとも関係がある。
m選挙区割りをめぐる課題
1下院選挙区の区割りと投票価値の平等
憲法及び1929年議席再配分法の規定に従い、10年ごとに実施される国勢調査による人口切に基
づき、国勢調査局(Bureau of the Census)は各州に下院議員の定数を均等比例方式”で配分(apportion-
ment) する物。憲法の規定により、各州には最低1議席は配分される物。下院議員の定数が固定さ
れているため、配分される議席数が増える州があれば、削減される州が出る。
配分された議席数に基づき、各州は選挙区の再区割り(redistricting)を実施する如。下院の選挙
区は、州境を越えることはできない。州内の選挙区割りは、州法の規定に従って州議会が決定する。
図3現職再選率
666666666666666666666666666 〇〇〇〇〇〇〇
1- 1—T—1-T—1- I-1- I-T—1—T—1— I-1— I-T—1—T—1— I-1— I-T—I-T-I-C| C| C| C\1 C| C\1 C|
(年)
(注)現職再選率とは、再選を目指した現職議員のうち当選したものの割合をいう。
(出典)”Table 2-7: House Incumbents Retired, Defeated, or Reelected,1946-2012″, **Table 2-8: Senate Incumbents Retired,
Defeated, or Reelected, 1946-2012,” Norman J. Ornstein et al., Vital Statistics on Congress, Brookings Institution, 2014 .
を基に筆者作成。
(66) 予備選挙で敗退する議員数よりも、弓|退する議員数のほうが多くなる傾向がみられる。
(67) 人口は、外国人等を含む全年齢の人口である。
(68) ヒル式又はハンチントン式と呼ばれる方式で配分する。なおこの配分方式については、改革論もある。詳細につ
いては、Royce Crocker, “The House of Representatives Apportionment Formula: An Analysis of Proposals for Change and
Their Impact on States,w CRS Report for Congress, R41382, April 26,2010. 参照。
紛 2U.S.C. §2a(a).
(70)憲法第1条第2節第3項
レファレンス 2015.5
35
州議会による区割りは、州議会で多数党となっている政党と同じ政党に所属する候補者や現職議員
にとって有利に行われる傾向があり、接戦選挙区の減少をもたらす要因とも指摘されている(か。
現在では州内の選挙区間の人口の格差はなるべく小さくするように区割りをし、実際にも格差は
ほとんど存在しないが、各州の人口にかかわりなく最低1議席を配分する(かことから、州と州の
間では選挙区の人口の格差が生じる。2010年の国勢調査に基づく再区割りの結果、全米で平均す
ると人口約71万人に1議席が配分され、人口最小の選挙区はロードアイランド州の第1区、最大
の選挙区はモンタナ州の全州区で、人口の格差は約1.88倍となった岡。州と州の間の選挙区の人
ロ格差については、問題とされていない。
1960年代までは州内の選挙区間にも、大きな人口格差が存在していた。これは州内の人口移動
にもかかわらず、区割りの見直しが長期間行われない州があったためである。連邦最高裁はこのよ
うな状況に対して、選挙区割りは政治的な問題であり、裁判所が入り込むべきではないとの立場を
とっていた岡。
しかし、テネシー州議会の選挙区割りに対する1962年の判決㈤で最高裁は従来の区割りの問題
は司法審査に適さないとの立場を覆し、連邦裁判所は、憲法修正第14条の平等保障条項に基づき、
州議会の定める区割りを審査する権限を有するとした。
1963年の最高裁判決°かでは、初めて1人1票の基準が明らかにされた。ジョージア州の連邦下
院選挙区に関する1964年の最高裁判決物では、憲法は連邦議会議員選挙についてある者の投票は
他の者の投票と実現可能な限り同じ価値でなければならないとし、州内の区割りについては、可能
な限り人口の格差が小さくなるようにしなければならないとした。これらの判決により1人1票の
原則が確立し、1960年代には各州で選挙区間の人口の格差を是正するように区割りの変更が実施
された。その後も、厳密な選挙区間の人口の平等を求める判決が続き物、選挙区間の人口格差を
1%以内に収めるよう区割りされるようになった。
他方で、人口の基準を満たすため、地理的な条件を無視したり、地域の伝統的なつながりや行政
区画を越えた選挙区割りもされるようになった。州議会で多数派を占める政党や現職議員、特定の
人種に有利となる恣意的で奇妙な形状の選挙区割り、いわゆるゲリマンダー (Gerrymander)を誘発
する結果ともなった。
党派的ゲリマンダーでは一般的に、ある政党の支持者の居住地域を分断したり、逆に集約したり
(71) 19世紀末までは国勢調査の直後ではない時期にも区割りが実施されていた。また近年でも国勢調査の直後では
ない時期に区割りが実施された事例がある。
(72) 詳細については、森脇俊雅「2000年代の議員定数再配分と選挙区画再編成ーアメリカと日本における諸問題ー」
『法と政治』58(2), 2007.7, pp.1-32;上田路子「2010年の連邦下院議席配分と選挙区区割り見直し作業ー2012年以
降の選挙に与える影響一」吉野孝•前嶋和弘編著『オバマ政権と過渡期のアメリカ社会ー選挙、政党、制度、メ
ディア、対外援助ー』東信堂,2012, pp.117-14I参照。
(73) !議席のみ配分されているのは、アラスカ、デラウェア、モンタナ、ノースダコタ、サウスダコタ、バーモント、
ワイオミングの、7州である。
(如)United States Census Bureau,M2010 Apportionment Results.w
(75) Colegrove v. Green, 328 U.S. 549 (1946).
(76) Baker v. Carr, 369 U.S.136 (1962).
(77) Gray v. Sanders, 372 U.S. 368 (1963).
(78) Wesberry v Sanders, 376 U.S.1(1964).
(79) ニュージャージー州の連邦議会下院選挙区について、0.7%の最大格差が違憲とされた判例もある。Karcherv. Daggett,
462U.S. 725 (1983).
36
レファレンス2015.5
アメリカ連邦議会議員選挙制度
するように選挙区割りをする。集約する場合は、少数の選挙区に恣意的に野党の支持者が圧倒的に
多くなるように区割りし、野党の候補者当選に必要な得票より相当多くの票が集まるようにして実
質的に不要な票を多くし、与党にとっては安定選挙区とはなるが当選に必要以上の得票は少なくな
るような選挙区をなるべく多数作るように選挙区を区画する。
インディアナ州議会の区割りに対する1986年の最高裁判決・°)で、特定の政治的集団に対する意
図的な差別及びその集団に対して実際に差別的な効果があったことが証明された場合、党派的なゲ
リマンダーは人口格差の要件を満たしていたとしても連邦裁判所による違憲審査の対象となるとさ
れた。しかし、どのような区割りが違憲となる党派的なゲリマンダーに該当するかについての明確
な基準は示されず、以後の判決でも示されていない。
2000年代に入り10年に1度の国勢調査の直後ではない時期に、特定の政党の議席を大きくする
ためとされる再区割りが実施されるようになった。これまでこのような区割りが実施されたとされ
る事例としては、コロラド州、ジョージア州、テキサス州がある。
テキサス州の再区割りについての最高裁判決®)では、政治的ゲリマンダーの司法判断適合性は認
めたが、どのような党派的な区割りが違憲となるか明確な基準は示されず、再区割りは容認された。
ゲリマンダーを防止するため、州議会ではなく第三者機関によって選挙区画定を行う州が増加す
る傾向がみられる®)。2010年の国勢調査後の再区割りで第三者機関が区割り案の作成をしたのは、
アリゾナ、カリフォルニア、ハワイ、アイダホ、ニュージャージー、ワシントンの各州である陽)。
第三者機関の委員の選任には、州議会が関与する場合が多い。
2マイノリティ選挙区
人種的なマイノリティの投票権については、1870年成立の憲法修正第15条第1節で、人種、肌
の色、又は以前に奴款であったこと等によりこれを奪い又は制限することが禁止された。しかし、
この規定にもかかわらず人種的マイノリティ、特に黒人への差別は続き、南部の州では1950年代
まで黒人に読み書きテストを課すなどして、実質的に有権者登録ができないようにし、黒人が投票
権を行使できない状態が続いていた。
1964年の憲法修正第24条で、人頭税等の不払いによる投票権のはく奪が禁止され、さらに1965
年投票権法が制定され、黒人の投票権を実質的に保障することが目指された。同法の第2条物で、
投票権について人種又は肌の色での差別的な行為を禁止し、第5条的の規定により、歴史的に人
種差別の激しかった地域については、区割りの変更や投票手続、投票資格等の変更には事前に司法
省の承認が必要とされた。人種的マイノリティの投票率の低い地域の選挙区割りに連邦政府が介入
することにより、人種的マイノリティがその代表を選出する機会を保障されることが求められ、黒
人を中心とする人種的マイノリティの政治参加の途が大きく拡大された。1975年には、言語的な
マイノリティにも対象が拡大された。それでも同法の成立後も人種的マイノリティの居住地区を分
W Davis v. Bandemer, 478 U.S.109 (1986).
(81) League of United Latin American Citizens v. Perry, 548 U.S. 399(2006).判例についての詳細は、東川浩二「最近の
判例」『アメリカ法』2007(1),2007.12, pp.125-130参照。
82 Royce Crocker, **Congressional Redistricting: An Overview,M CRS Report for Congress, R42831, November 21,2012.
網 ibid., pp.16-18.詳細については、Redistricting Law 2010, National Conference of State Legislatures, 2009 参照。
M 52U.S.C. § 10301(a).
® 52U.S.C. § 10304.
レファレンス 2015.5
37
断するように区割りし、マイノリティの代表が選出されにくくすること、いわゆる人種的ゲリマン
ダーが行われていた。
このため、1982年の同法第2条の改正で、人種的マイノリティの投票勢力を弱めることを意図
したり、そのような効果を持つような区割り法は禁止された3©°マイノリティ議員を選出するため、
マイノリティ人口に対応した選挙区割りカヾ行われるようになった。
1986年の最高裁判決”かで、投票権法について区割りを人種的に差別的にすることだけではなく、
故意ではなくとも人種的マイノリティに不利にならないよう区割りをすべきと解釈した。この判決
は、居住パターンから可能な限り、人種的マイノリティが多数派となるような選挙区画をしなけれ
ばならないと解された伽)。このため、非常に奇妙な形の選挙区が作られるようになった。1993年
の最高裁判決的では、人種的なマイノリティが多数派となるように集約した非常に不自然な形の
選挙区豚は、白人の投票権を侵害し違憲とされた。さらに1995年の最高裁判決。0では、人種のみ
を主要因とする奇妙な形の選挙区は、憲法の投票の平等の保障を犯し違憲と判示した例。
マイノリティ選挙区の問題は党派の支持とも関連している。伝統的に黒人は民主党支持者が圧倒
的多数であるため、人種的マイノリティが多数派となる選挙区を作ることは、民主党支持者を集約
した選挙区を作ることになり、結果として隣接する選挙区では共和党に有利となったとされている例。
近年では、ヒスパニック系人口が急増しているが、ヒスパニック系議員の数がそれに対応して選
出されていない点が課題となっている。1990年の国勢調査後、投票権法に基づきヒスパニック系
議員を増加させるような再区画がなされた。この結果、ヒスパニック系の議員は増加する傾向にあ
る。2012年ではヒスパニック系は投票権年齢の人口では15%を占め黒人の12.3%を上回ってお
り皿)、今後も増加が予想されている。しかし、前述のように投票率は白人や黒人の半分程度で、
下院議員数でも黒人を下回っている。
下院の選挙区割りをめぐっては様々な課題があるため、連邦法により改革を試みる法案はこれま
でもたびたび提出されてきたが、大きな改革は行われていない㈣。
IV選挙制度改革論の動向
連邦議会議員の選挙制度をめぐっては、中間選挙の是非や議員の任期等についてこれまで様々な
改革提案がなされてきた。本章では、戦後の主要な論点を概観する。
W 52U.S.C. § 10301(b).
W Thornburg v. Gingles, 478 U.S. 30 (1986).
網)Gary C. Jacobson, The Politics of Congressional Elections, 7th ed., New York: Pearson, 2009, p.13.
89) Shaw v. Reno, 509 U.S. 630 (1993).
(90) いわゆるmajority-minority選挙区。詳細については、湯浅墾道「マイノリティ・マジョリティ選挙区割の形成
-1980-90年代の動向を中心に一」『九州国際大学法学論集』13(1),2006.9,pp.119-164a照。
(91) Miller v. Johnson, 515 U.S. 900 (1995).
(92) 投票権の保障について詳細は、駒村圭吾「アメリカにおける投票権保障ー差別の歴史と未完の民主化革命ー」
『論究ジュリスト』No.5,2013.春,pp.116-123参照。
(93) John R. Petrocik and Scott W. Desposato, “The Partisan Consequences of Majority-Minority Redistricting in the South,
1992 and 1994,” The Journal of Politics, 60(3),1998.8, pp.613-633.
細 ProQuest, op.c〃.(59)
(95)主要な提案については、Crocker, op.cit岐pp. 18-22参照。
38
レファレンス2015.5
アメリカ連邦議会議員選挙制度
1中間選挙の廃止と連邦議会議員の任期の延長
下院議員の任期を延長する憲法修正案は、これまで繰り返し提出されてきた。下院議員の任期2
年は、表3に示したように、先進民主主義国の中では最も短い任期となっている。下院議員の任期
に対応する議会期と通年会期制を採用し、2年間の議会期の間は議案が継続するが、予算法案等は
毎年成立させる必要があり、選挙の年の実質的な審議期間の短さや、短期的な政治サイクルが課題
となっている。
1966年にジョンソン(Lyndon Johnson)大統領は、下院議員の任期を4年に延長し、大統領選挙と
同時に全員を選挙することと、下院議員が上院議員選挙に立候補する場合には少なくとも選挙の
30日前までに辞職することを提案した例。連邦憲法制定時と比較して連邦議会の業務量が大幅に
増大し国政課題も非常に複雑化しているため、4年任期とすれば国家の将来や経済成長、社会福祉
などの重大な課題について最良の判断をできるよう十分な期間を得られること、2年ごとに選挙運
動を行う負担や増大する選挙運動費用の削減につながること、最良の人材を候補者にできるように
なること等をその理由としていた。また、大統領選挙と同時に実施することで投票率の向上も期待
できるとしていた。
しかし、この提案を実現するための憲法修正案は、下院司法委員会で廃案となった。司法委員会
では、任期は4年に延長するが2年ごとの半数改選が支持されたためである。大統領選挙と同時に
下院議員も選挙すると、下院議員選挙への大統領選挙候補者の影響が強くなり、大統領を支持する
下院の多数派が形成されやすく、大統領に対して相対的に下院の力が弱まり従属的な関係となるこ
とが懸念されていた㈣。
現職議員や元議員、有識者で構成され、アメリカの統治システムの課題を憲法レベルで検討し憲
法修正案を提案した憲法システム委員会(卵)は、下院議員の任期を大統領と同じく 4年任期とし、
上院議員を8年任期として半数ずつ改選することを提案していた㈣。大統領と議員の任期を一致
表3主要国の下院議員の任期
国 任期(年) 解散制度の有無
日本 4 有
アメリカ 2 無
イギリス 5 有
フランス 5 有
ドイツ 4 有
イタリア 5 有
カナダ 4 有
オーストラリア 3 有
(出典)各国憲法等を基に筆者作成。
させることで、政党内の結束が高まり、分割政府
が発生しにくくなること、両者の対立による政治
的な行き詰まりが減少すること、選挙の頻度が減
ることにより議員の選挙運動の負担が減り立法活
動により多くのエネルギーを注げるようになるこ
と、実質的な立法活動可能な期間が長くなり、よ
り長期的な視点から立法活動がなされること、選
挙運動に必要な資金を減少させこれにより候補者
が増加すること、大統領の執政の責任を中間選挙
により連邦議会に問うという、制度的な矛盾を解
消することカヾ期待されていた”°°)。
的 Lyndon Johnson, MSpecial Message to the Congress, Proposing Constitutional Amendments Relating to Terms for House
Members and the Electoral College System,M January 20,1966.
@。 James L. Sundquist, Constitutional Reform and Effective Government^ Washington, D C.: Brookings Institution, cl986,
pp.61-64.
(9& Committee on the Constitutional System. 1982 年に設立された民間の委員会。
紛 Donald L. Robinson, ed., Reforming American Government: The Bicentennial Papers of the Committee on the Constitu-
tional System, Boulder: Westview Press, cl985, p.175.憲法システム委員会は、連邦議会議員の選挙を大統領選挙と同
時ではなく、大統領選挙の2-6週間後に実施することを提案していた。
レファレンス 2015.5
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2議員の任期制限
前述のように連邦議会議員の再選率が高いことと、1990年代の政治スキャンダルによる政治不
信を契機に、連邦議会議員の任期制限をめぐる議論が活発化した。1990年にコロラド州で初めて、
州法による連邦議会議員の任期制限が、住民発議で提案され住民投票の結果可決された。下院議員
は6期12年、上院議員は2期12年に任期が制限された。1995年までに州法による何らかの任期
制限は、23州に拡大していた。しかし、:1995年の最高裁判決(で、連邦憲法上州が連邦議会議員
の任期を制限することはできず、連邦議会議員の被選挙権の要件を変更するには、連邦憲法の修正
によらなければならないとされ、任期を制限する州法は違憲とされた。以後、連邦憲法修正による
任期制限が提案されている。
1995年には、共和党の議会改革の一環”°2)として両院議員の任期制限が提案されたが、下院議員
の任期は生涯合計で12年までとする憲法修正による任期制限案は、下院を通過しなかった。上院
でも上院議員の任期を2期12年に制限する憲法修正案は、上院を通過しなかった。1997年にも再
度憲法修正案が下院に提出されたが、十分な賛成票を集めることができなかった。
アメリカでは植民地時代からの直接民主主義的な伝統もあり、当選回数を重ねた職業政治家を良
しとしない傾向がある。任期制限には、議員が長期間その職にあることで利権との結びつきが強ま
ることを防止したり、新しい議員が選出される機会が増加する効果がある。他方、議員の在職期間
は有権者が選択するべきことで任期制限の一律の規定により選択肢を狭めるべきではないこと、議
員の職務には経験の蓄積が必要であり経験の蓄積はより良い立法につながること、再選の可能性は
腐敗を防止する効果がある、等の主張もある。
州議会議員の任期制限については、カリフォルニア州等で1990年から導入が始まり、2015年現
在で15州の州議会で導入されている。
3コロンビア特別区からの下院議員の選出
アメリカの首都であるコロンビア特別区(ワシントンD.C.)は、いずれの州にも属さない特別区
であり、憲法上、連邦議会がいかなる事項に関しても専属的な立法権を行使すると定められている(1〇3,〇
上院議員の選出は認められておらず、下院には本会議での投票権を持たない派遣委員(Delegate)’爾
が1名選出されている。コロンビア特別区には約65万人の住民がおり、連邦税の納税義務があり
ながら連邦議会議員を選出できないため、下院議員の選出を可能とする改革が論点となってきた。
1978年には、下院議員の選出を可能とする憲法修正案が連邦議会両院を通過したが、修正に必
要な38州のうち16州の賛成しか期限内に得られず廃案となった。以後も、憲法修正案や、各種改
革法案が繰り返し提出され、第113議会(2013-14年)にも複数の法案が提出された”。カ。
(100) 湖んpp.175-177.なお、同委員会の委員であったジェームス•サンドクイスト(James L. Sundquist)氏も同様の
中間選挙廃止の提案をしている。Sundquist, op.cit.^), ch.5.
(101) U.S. Term Limits v. Thornton, 514 U.S. 779 (1995).
¢102) 「アメリカとの契約」(Contract with America)と題された一連の改革案のうちの一つ。下院で常任委員長等の3
期6年の任期制限は下院規則に盛り込まれたが、2009年に廃止された。
¢103)憲法第1条第8節第!7項
¢M)法案を提出したり、委員会の委員となり委員会の表決に参加することはできる。なお、大統領選挙については、
憲法修正第23条の規定に基づき、3名の大統領選挙人が配分されている。
¢05)これまでの改革提案としては、下院議員の定数を増やしコロンビア特別区から下院議員1名の選出を可能とす
るだけでなく、コロンビア特別区を州とするものや、隣接するメリーランド州の一部に組み込む提案も議論され
てきた。
40
レファレンス2015.5
アメリカ連邦議会議員選挙制度
憲法上の論点としては、コロンビア特別区を、憲法を修正して州と同等の取扱いとするか、憲法
修正によらずに法律により下院議員の選出が可能か、などがある的)。また、コロンビア特別区は
黒人人口の割合が高く伝統的に民主党支持が強いことから、下院議員の選出を認めることは民主党
の議席増加につながるとされるなど、党派的な論点の性格もある(皿)。
おわりに
アメリカの連邦議会議員の選挙制度は、小選挙区制という基本的な制度の面では、連邦憲法制定
以来維持されており非常に長い歴史を持っている。小選挙区制という選挙制度は、二大政党制と共
にアメリカの政治制度の大きな特徴を構成している。
アメリカと同じく伝統的に小選挙区制の下で二大政党が政権交代を繰り返すイギリスの下院選挙
制度については、単純小選挙区制からより有権者の選好を反映しやすい小選挙区選択投票制3®へ
の移行を問う国民投票が2011年5月に実施された。結果は否決されたものの、今後第三党以下の
政党がさらに勢力を伸ばせば、単純小選挙区制改革への議論が再燃する可能性もある。二大政党制
についても、第三党との連立政権が誕生するなど変化がみえる。
本稿でみたように、アメリカの連邦議会議員選挙、とりわけ下院議員選挙をめぐっては、選挙区
の再区割りに伴う課題、歴史的な低投票率、高い再選率、接戦選挙区の減少など多くの課題が示さ
れている。小選挙区制の改革については、民主制の観点から下院に比例代表制を導入し、上院につ
いても議員定数の人口比例での配分を主張する論者がいないわけではない伽。しかし、議論は広
がりを持っているとは言い難い状況である。
小選挙区制に固有の課題については、選挙制度の異なる我が国の衆議院の小選挙区制とは議論の
枠組の異なる部分も存在するが、我が国においてもアメリカの今後の議論の展開は興味深いものと
なろう。
(106)憲法上の論点については、“Statement of Kenneth R. Thomas Legislative Attorney, American Law Division, Congressio-
nal Research Service Before Committee on Homeland Security and Governmental Affairs United States Senate, September 15,
2014, on S.132, the New Columbia Admissions Act. https://norton.house.gov/sites/norton.house.gov/files/CRS.pd£; Mark S.
Scarberry, **Historical Considerations and Congressional Representation fbr the District of Columbia: Constitutionality of the
D C. House Voting Rights Bill in Light of Section Two of the Fourteenth Amendment and the History of the Creation of the
District,w Alabama Law Review, 60(4), Summer 2009, pp.783-894, ; Aijun Garg, “A Capital Idea: Legislation To Give the District of Columbia a Vote in the House of
Representatives,M Columbia Journal of Law and Social Problems, Vbl.41, Fall 2007, pp.1-51. 参照 0
¢07)第111議会(2009-10年)には、共和党の地盤とされ2000年の国勢調査で人口が増加したユタ州にも1議席を
配分し下院議員の定数を437に増加させる法案(S.160)カヾ提出され、上院のみを通過した。
(108)小選挙区選択投票制とは、選挙区の候補者に優先順位を付して投票する制度で、オーストラリア下院議員選挙
で採用されている。
¢09) ロバート• A.ダール(杉田敦訳)『アメリカ憲法は民主的か』岩波書店,2003, pp.58-66, 68-74 (原書名:Robert A.
Dahl, How Democratic is the American Constitution ? 2nd ed.)•上院議員が州の人口に関係なく 2名ずつ選出されている
ことから、人口が少ない州が相対的に過剰代表となり人種的な多数派や保守派が有利となっている点が指摘され
ている。John D. Griffin, M Senate Apportionment as a Source of Political Inequal ity,w Legislative Studies Quarterly, 31(3),
August 2006, pp.405-432.また、小州に連邦補助金が過分に配分される傾向も指摘されている。Frances E. Lee and
Bruce I. Oppenheimer, Sizing Up the Senate: The Unequal Consequences of Equal Representation, Chicago: The University
of Chicago Press, 1999.
レファレンス 2015.5
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参考文献