ワグナーが展開している学校ビジネスのひとつが「オクタゴン」。
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『RFE/RL’s North Realities 記者による2023-10-6記事「’Reach Your Target And Cease To Exist’: What I Learned In Wagner’s Combat Drone Course」。
ワグナーが展開している学校ビジネスのひとつが「オクタゴン」。そこではFPVドローンの操縦を指南する。今でも営業している。サンクトペテルスブルグで。
そこで「RFE/RL」の記者が、身分を匿して、この学校に潜入した。
この学校では、生徒に対して、露軍への志願を推奨していなかった。
入学するのはじつに簡単だった。何のテストもありはしなかった。誰でも入れる。
同時に入校した男。極東の測量調査屋で、会社から派遣されてやってきたという。
本人も、戦争に行く気などサラサラ無し。
彼いわく。会社から5000km圏内に、FPVドローンの操縦を習える学校はひとつもないのだという。
地元出身の生徒がジョークで「週末、ペテルホフ城館を見物した後は、プリゴジンの墓に詣でたらどうか」と言った。彼は本当にその気になったようだった。
もうひとりの生徒は、最前線に医薬品などをドローンで配送する業務に関係しているようだった。こいつだけが、FPVドローンの技術を学んで戦争に行く気であった。
こいつはすでに従軍経験がある。隣で戦友が狙撃されて死んだそうだ。
もうひとりの新入生徒は、建設女子で、ビルの建設現場をモニターするのにFPVドローンの技術が要るのだそうだ。
インストラクターは、予定時刻より15分遅れて姿を見せた。
コースは2つあった。ひとつは1週間に5回のレッスンがあり、費用は3万5000ルーブル。もうひとつは2週間コースで7万ルーブルだった。
ロシア国内で量産されている「ホルテンシア」という自爆ドローンの組み立て方から教えるのは、7万ルーブル・コースであった。
最前線近くでのトレーニング用の機体には、ダミーのペイロードが吊下されている。
教官たちの多くは元兵隊。最前線のワグネル隊員のためにFPVドローンの使い方を教えたこともあったという。
故プリゴジン本人も、このコースを一回、覗きに来たことがあるという。
教官の最初の挨拶には、警告が含まれていた。ドローン・オペレーターが安全な職務だと思っているなら、そいつはすぐに死んぢまうぞ。
なぜなら、FPVドローンとの良好な通信を維持するためには、リモコン操縦者は最前線から遠くは離れられない。それどころか、飛ばしている機体にできるだけ近いところに居つづける必要がある。もし敵が、そのドローンがどこから発進しているかを偵知したなら、すぐそこは敵のターゲットにされる。
ドローン戦争の黄金律。敵のドローンの活動を止めるための、いちばん効率的な方法は、そのオペレーターを殺すことである。
ワグナー教官はご親切にも、こう忠告した。このコースを修了しても、軍とは契約するな。なぜなら、その契約は、軍が勝手に更改してしまう。つまり、一度露軍に入ったがさいご、お前たちは、二度と軍隊から去ることができなくなるから。
要領よく生きたくば、PMCと契約しちまえ。そうすれば徴兵は免れられる。
ちなみにこのワグナーFPV学校も、生徒の個人情報を他機関に売ったり渡したりはせぬ。おまえ達の身上を、ロシア国防省が知ることはないのである。
挨拶が終ると、安全の注意だ。
ドローンはぜったいに、操縦者の近くから離陸させてはならない。
そこにはすぐに敵の砲弾が飛んでくるし、さもなくば、敵の歩兵が肉薄してくる。
ドローン・オペレーターは、近くでとつぜんに砲弾が炸裂しても、何が起こったかわけがわからない。ゴーグルを装着した状態では、敵歩兵がにじり寄って来るのにも気付けはしないのである。
この教官氏、2022-2のウクライナ侵略の緒戦に従軍していた。もう最初から宇軍は、ブンブンと露軍部隊の頭上にドローンを飛ばして監視してきたそうである。
それを何とか自動火器で撃墜しようと試みたのだが、できなかった。
そのときの焦りを想像してみてくれ。こっちは誰もドローンの飛ばし方すら知らないのだ。ところが宇軍はすでに、ドローンから手榴弾を落とす戦法までも実践していたのだ。
その段階から、俺たち露軍は、一からドローンについて学ぶしかなかったのだ。
教官氏は、ハルキウ方面で戦闘したが、最初の日に精鋭の空挺部隊がやられたのは驚いた。まるごと1個小隊、捕虜になっていた。
そのあとは、充員召集された中年の徴兵が酷かった。職業軍人と志願兵は、最新の迷彩服なのだが、後からの徴兵たちは、古い、茶色と緑の戦闘服を着せられている。こいつらは、じぶんたちと服装が異なった兵隊は、なんでも敵兵だと即断して、確かめもせずに銃撃を浴びせた。
授業の1日目は、フライトシミュレーターが使われた。記者は下手糞だったが、他の生徒はやたら上手い。教官たちすら驚く技倆レベルであった。
2日目は、味方の砲兵の弾着を修正してやる方法についての座学から。
それには軍隊で使われる地図の記号を覚える必要があった。
ドローンを撃墜するために敵が持ち出してくる火器や、ジャマーについても講義があった。
教官のひとりは、2020年のナゴルノカラバフ戦争に臨場し、そこで初めてドローンが戦闘に使われるのを目撃したという。アゼルバイジャン軍が飛ばしていたバイラクタルにも感心したという。
2日目の授業の後半は、もし、戦場で、ドローンの音を聞いたり、姿を見たり、人から目撃情報を聞いたりした場合、かならず指揮官に報告せよ、という話。
また、敵のSNSを読め、という話も。実例として、ドニプロ市で2つの病院が負傷者でいっぱいなので、人道援助を頼む、という投稿。これを読んだだけでも、敵の人的資源を殺ぐためにはどこを叩けばいいかが判ってしまう。
酒場で客から噂話を聞きだすことも有効だという。
次に、ドローンに40ミリ擲弾を取り付ける方法。投下式兵装の主力はこいつだ。稀に、手榴弾も用いられる。
手榴弾は、それよりちょっとだけ内径の広いガラスのコップに、安全ピンを抜いた状態で詰め込んでおくと、ガラスが割れると同時にフライオフレバー(スプーン)がすっとび、4秒後に轟爆する。
しかし、教官いわく。このガラスコップ応用法は、信頼性が低いため、あまり推奨できぬそうだ。
また、変造した弾薬をドローンにとりつける作業では、どうしても事故による死人が出る。
シミュレーター教習は、バッテリー切れ寸前の情況や、機体がダメージを受けた状態での飛ばし方に進む。
残念ながら、シミュレーターは平時のフライトだけを学習できる。「爆撃」動作は学べないのだ。
最終日は、「実機」を飛ばす。「Mobula」というFPV操縦のクォッドコプターだ。
10分か15分で空になるバッテリーの交換方法も、実技として練習する。
記者は、1週間コースだったので、ここで卒業。他の2人が2週間コースにひきつづき残った。』