ウクライナ軍兵士、バフムートの戦いは無限のリソースをもつ敵との絶望的な生存競争
https://grandfleet.info/european-region/the-battle-of-bakhmut-as-seen-by-ukrainian-soldiers-a-desperate-struggle-for-survival-against-an-enemy-with-infinite-resources/
『ウクライナメディアもバフムートの現状について報じ始めており、Kyiv Independentも兵士の証言に基づき「バフムートの戦いは無限の砲弾と人的資源を投入してくる敵との絶望的な生存競争」と報じている。
参考:Battle of Bakhmut: Ukrainian soldiers worry Russians begin to ‘taste victory’
リアルな兵士の証言は「弾薬不足をカバーするため囚人を突撃させてるだけのロシア軍」というイメージを否定する
クラマトルスクで取材に応じた第93旅団所属のヴォロディミールは「約2ヶ月間ほどバフムートに忍び寄ってくる敵部隊と戦ったが常に迫撃砲による砲撃を受けた。ロシア軍は我々を狙い撃ちしてくるのに、我々には大砲がないため反撃する手段がなかった。(再びバフムートに向かうため)帰ってこれるかも分からない。ただ一方的に殺されるだけだ」と震えながら明かした。
出典:Головнокомандувач ЗС України
3月上旬にコスティアンティニフカで取材に応じたオレクサンドル上級中尉も「敵は我々を追い出すため大きな圧力を加えてきた。最も激しい戦闘は街の北部で繰り広げられており、バフムートの状況は緊迫している。弾薬や装甲車両などの不足が街の維持を難しくさせている」と述べたが、バフムートからの撤退計画については知らないと答えている。
第28旅団所属のミコラ軍曹は「バフムート戦線における戦力差は2倍~3倍(ウ軍戦力は2万人~3万人)で、現在の攻撃ペースが維持されるなら数週間以内に終わるかもしれない。既に連中は勝利の味を覚えてしまったため状況は非常に厳しく、戦いの終わりが見え始めていることも知っている」と述べており、最も印象的に感じたのは「取材に応じた兵士達がバフムートでの戦いを『無限の砲弾と人的資源を投入してくる敵との絶望的な生存競争』と表現した」とKyiv Independentが書いている点だろう。
出典:Головнокомандувач ЗС України
CNNはNATO関係者の証言に基づき「バフムートでの戦死者比率は1対5でウクライナ軍が優位だ」と報じたが、Kyiv Independentは「兵士の証言によって街を守るウクライナ軍にも大きな犠牲が出ている」と指摘しており、バフムートを離れた直後の兵士は「死傷者の90%は大砲、戦車、航空機による攻撃が原因で銃撃戦で死傷するケースは圧倒的に少ない。所属する小隊(27人)の中でバフムートから離れることが出来たのは数人に過ぎず、残りは戦死もしくは負傷した」と証言。
バフムートで戦っている兵士は「ロシア軍の戦術は非常に強力で、自分たちの位置を特定すると大火力を叩き込んで全てを破壊するため後方の陣地に下がることを強いられる」と、第5旅団所属の兵士は「バフムートで戦うロシア人の戦術は洗練されてきた。ドローンを多用して位置を特定後に砲撃を加え、歩兵を投入して自陣ごと包囲してくる。ドローンで位置が特定出来ない場合は少人数の兵士を前進させて銃撃を行い、我々の応射を誘ってくる。この残酷とも言える戦術は非常に効果的で1km以上も後退を余儀なくされた」と述べている。
出典:Сухопутні війська ЗС України
さらに第5旅団所属の兵士は「近くの部隊が1つでも後退すると周辺の防衛ラインが連動して崩れ始める。ロシア軍が使用するソ連製の迫撃砲やグレネードの命中精度は低いものの、これを集団で使用されると非常に厄介な対歩兵兵器になる」と証言しているが、生存できる可能性が極端に低い「バフムート行き」を拒否する兵士も急増しているらしい。
第58旅団所属の兵士は「ロシア軍がソレダルを占領してバフムートに近づくと小隊のメンバーはバフムート行きを拒否し始めた」と証言、2月下旬のローテーションで所属小隊からバフムートに向かったのは25人中8人に過ぎず、残りの兵士は急な発熱や体の痛みを訴えてバフムート行きを拒否、街に到着した8人はバフムト川近くの十字路にある陣地に配備されたが、直ぐにロシア軍の迫撃砲による砲撃を受けて2人が戦死、2人が負傷、残りの4人も酷い脳震盪を起こして直ぐにバフムートから離れた。
出典:GoogleMap バフムート周辺の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)
Kyiv Independentは「他の旅団に所属する複数の兵士もバフムート行きを拒否するため『あらゆる手段』を講じる兵士達に遭遇した」と書いており、ウクライナ軍の苦境は「セベロドネツク・リシチャンシクの戦い」で見たものに近く、バフムート戦線における実際の戦いは「愛国心に燃えて勇敢に戦うウクライナ人と戦闘を忌み嫌い士気の低いロシア人」「練度の低いロシア軍兵士と精強なウクライナ軍兵士」「弾薬不足をカバーするため囚人を突撃させるだけのロシア軍」というイメージとはかけ離れていることを示唆している。
因みに、この記事を書いたKyiv Independentの記者は日本人(ウクライナ在住の日本人学生/寺島朝海さん)だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Сухопутні війська ЗС України
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投稿者: 航空万能論GF管理人 欧州関連 コメント: 22 』
『 7743
2023年 3月 15日
いい加減、西側諸国は「ロシア軍は練度と士気の低い兵士に、貧弱な装備だけ持たせて無謀な突撃をさせている」と言う認識を改めないといけませんね。
ロシア軍は開戦以来ずっとウクライナよりも物量面では優位に立ってきていますし、1年間も戦い続けているのですから、少なくとも最前線では戦術も改善されてきているでしょう。
いつまで「ロシアを刺激しないように、制限しながら支援する」なんてことを続けるつもりなんでしょうね。
46
名無し
2023年 3月 15日
返信 引用
動員兵と正規兵との差自体はあるんでしょうが、ウクライナ兵は祖国を守る英雄たちで士気旺盛でロシア兵は無理やり連れてこられて士気も低いって認識自体は間違ってはいるんでしょうね。
少なくとも砲撃の支援がウクライナに比べてロシアのほうがある以上は前線の士気だけでいったらロシアのほうがやる気あってもおかしくはない。
17
月虹
2023年 3月 15日
返信 引用
>ロシア軍は開戦以来ずっとウクライナよりも物量面では優位に立ってきていますし、1年間も戦い続けている
あらためて旧ソ連時代に備蓄されたと思われるロシア軍の軍需品の途方もない数に驚きます。当時のソ連はアメリカや西側諸国と本気で戦争することを意識していたので国内インフラへの整備などお構いなしで兵器など軍需品を生産していました(当時のソ連は「人工衛星が飛ぶのに電話など通信網が発達していない国」と言われていた)。保管が悪く使えないものも多いと言われるロシア軍の備蓄兵器ですが状態不良のものを差し引いたとしても備蓄+イランや中国などロシア友好国を経由した経済・軍需物資が途切れないうちはウクライナ侵攻においてロシアの戦力が一気に減ることはないのでしょうね。
20
ため息
2023年 3月 16日
返信 引用
ソ連崩壊時に、核兵器を含む兵器流失が懸念事項になったことがあり、
その時の概算だと、旧ソ連の通常砲弾備蓄量は少なく見積もっても、
「75,000,000」以上でした。ここから推測するとロシアの砲弾量はイラン
北朝鮮の支援も加味すると、10年以上の継戦能力があると思われます。
3 』
『 yjg
2023年 3月 15日
バフムート戦線における戦力差は2倍~3倍(ウ軍戦力は2万人~3万人)
バフムート戦線におけるロシア軍の戦力は最大で約9万人ということですか?
それだけの敵戦力をバフムートに拘束しているとも言えますが…。
8
yjg
2023年 3月 15日
返信 引用
参考記事を読むとロシア軍の戦力が2万人~3万人(ウクライナ軍の2〜3倍)だと思います。
つまりバフムート戦線におけるウクライナ軍の戦力は1万人前後。
自殺行為に近い波状攻撃を仕掛けてくるロシア軍がいると書かれていますね。
また、ウクライナ軍はロシア軍がバフムート攻略に注力している間に、市外に縦深防衛線を築いたとも書かれています。
4
な
2023年 3月 16日
返信 引用
>自殺行為に近い波状攻撃を仕掛けてくるロシア軍がいると書かれていますね。
Some soldiers deployed in Bakhmut said the Russians split into small assault groups of about ten people and launch waves of nearly suicidal attacks.
バフムト戦線でのロシアの死傷者は非常に多いと想定されているが、ウクライナも都市を保持しているため、大きな損失を被っていることが兵士の証言で明らかになった。
While Russian casualties on the Bakhmut front are assumed to be very high, Ukraine is also taking heavy losses as it holds on to the city, soldiers’ testimonies reveal.
これと例の1:5のNATOとCNNの引用とかありますね。
なるほど、参考リンクと上の記事と少しだけ印象が違いますね。
上は管理人氏の観点の記事なので、少しくらい違っても別に全く問題はないと思います。
仮に上の記事が気に入らないなら自分がここに来なければいいだけてす。
簡単なことです。
3 』
『 匿名
2023年 3月 15日
5体満足で負傷できたらラッキーみたいな感じやん…
ロシアは勝てるまでやるつもりだし、あらゆる手を使って無い物資をひねり出してくるつもりだろうけど、
西側の支援にはそこまでの熱量はないからその分血を流すしかないっていう
ブチャやマリウポリ、リシチャンシク、ミサイル無差別攻撃、
今までのパターンを考えるとたくさん血が流れた後には支援が強化されるから犠牲に意味はあるんだろうけど、
劣勢にならないと支援してもらえないなんて残酷な話だな
10
STIH
2023年 3月 15日
返信 引用
>西側の支援にはそこまでの熱量はない
というより兵器の余力がない以上、支援に限界があるのはどうしようもない。やはり西側にとって平和な期間が長すぎた。西側の兵器生産レートが上がるまでウクライナは耐えられるかどうか、という戦いになりつつあるように見えますがどうでしょう。
19 』
『 たけやぶやけた
2023年 3月 16日
ロシア軍はこれだけ有利なのになぜ死傷者がでる市街地戦を挑むのだ?
補給線が絶てるのだから包囲して降伏するのを待てばいいだろう。
もしくは砲撃を続けて士気が低下させた後に攻撃するのでもだいぶ死傷者が抑えられるはずなのだが。
そこまで陥落を急ぐ場面とも思えないのに。
2
ななし
2023年 3月 16日
返信 引用
ウクライナの春攻勢が喧伝されているので、時間制限があるのと同じ状態。泥濘が終わり地面が固まる前にできればバフムートを落として戦線を整理したい
で、仮にバフムートを完全包囲できたとしても包囲して補給断つだけじゃ降伏まで時間がかかりすぎてしまう
完全包囲してた上で都市攻めれば一網打尽にできるがマリウポリみたいに徹底抗戦されるとこれまた時間がかかる
ひとつの可能性として、ロシアは包囲寸前まで持っていくことでリシチャンシクのようにウクライナが撤退することを狙ってた(撤退するところを砲撃して削れれば尚良し)が現状そうなってない
で、次善の策として撤退路を一応残したまま都市部圧迫してウクライナに弾薬と命の消費を強いて撤退させようとしてる
……と考えると現状の都市攻めは分からないでもない、実際にそうかはわからないけれど
後はロシアだってバフムートからの砲撃や射撃が減ってるのは分かるから補給が切れたと判断して攻めてるという単純な理由かも分からない
3 』
『 2023年 3月 16日
完全に四方を囲ってしまうようなのも包囲の一形態ではあるけど、それだけが包囲ではないというか、むしろ特殊な例だよ
包囲っていう攻勢作戦の目的は敵の脆弱な側面を攻撃して押し込み、後方連絡線を圧迫し、最終的に敵の戦闘効率を下げることにある
バクムトで言うと既に市街への後方連絡線は圧迫されていて包囲は完成していて、戦闘効率が極度に悪化している部隊が現在ロシアの正面攻撃を受けている
対してロシアの側面攻撃の試みは双肩の抵抗線が強化された現状では既に停止しており、これ以上の押し上げは正面攻撃にしかならず、効率的な攻撃にはならない 』
『 paxai
2023年 3月 16日
WW2の沖縄や硫黄島みてると米軍の事前砲撃って有効だけどそれで日本兵はそんなに死んで無いのよね。当たり前だけど砲撃の最中は要塞に逃げ込むもん。だからこそ米軍が上陸しての双方激しい出血を伴う戦いになった。(米軍は様々な兵器や戦術を用いたがここは省略します。)
さてロシアはどのような方法で要塞を攻略に挑むのか?となるとミリレポのゲリラ撃ちの記事が参考になると思います。その記事によるとソ連には「歩兵が当たらないゲリラ撃ちによって被害を抑えつつ敵兵の位置を把握したりその場に留めさせる。実際に敵兵を倒すのは迫撃砲などの重火器の仕事」って感じの戦術があるとの事。
プリゴジンが砲弾が不足すると死者が増えると訴えたのもこの戦術を取ってるからでしょう。』
『
将軍ゲネポス
2023年 3月 16日
ロシアの侵攻開始から一貫してウクライナ軍に対してロシア軍が揺るぎない圧倒的優位を誇るものがあります。
それは砲火力差です。
El Pais誌によると
両軍の単純な砲数の差は
ウクライナ=1:ロシア=10
1日当たりの砲撃数は
欧州委員会のデータによると
ウクライナ=6000〜7000発
ロシア=50000〜60000発
エストニア政府のデータによると
ウクライナ=2000〜7000発
ロシア=20000〜60000発
総じて1ヶ月当たりの砲撃数は
ウクライナ=60000〜210000発
ロシア=600000〜1800000発
これらのデータを見ると砲火力においてウクライナ軍が絶望的な程に遅れをとっていることがわかります。
ウクライナ、西側メディアが言う通りワグナーが囚人兵による突撃作戦を繰り返しているのは事実ですが、それはドローンによる索敵と敵陣地への圧倒的な砲撃、航空支援を行った後に小規模編成による迅速な突撃作戦を敢行するというものです。
少なくともワグナーの方が多くの死傷者を出しているということはあり得ないでしょう。
ただ、ここ数日でウクライナメディアと西側メディアが大挙してウクライナ軍の劣勢を積極的に報じ始めたのは何かきな臭いです。反攻の本格的な準備に入ったのではないかと思われます。
リンク 』
『 山田さん
2023年 3月 16日
いやいやいや、数倍の兵員に加えて、無限のリソースを持っていてこの前身速度って言うのはありえないでしょう。
入念に構築された防御陣地であっても、充分な砲と戦車、人員がいれば突破出来るのは戦史が示しているんだから
・ウクライナの兵数がロシアを上回っている
・ウクライナは十分なそれなりの量の重火器を保有している
・ロシアの重火器はウクライナの主張ほど充足されていない
上記のどれかが正のはずでしょう。
そうでないと、結果に対して説明がつかない。
HY
2023年 3月 16日
返信 引用
いやウクライナが重火器・弾薬が不足していることは度々指摘されていることですし、国の規模からしても投入されている兵数でロシアを上回れるはずがありません。即ち──
>ロシアの重火器はウクライナの主張ほど充足されていない
ということですが、ウクライナがそれ以上に重火器が不足しているので「無限のリソースをもつ敵」と錯覚している可能性が高いです。』