世界経済の不安定化に備えよ 谷村真氏

世界経済の不安定化に備えよ 谷村真氏
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『2025年8月5日 2:00 [会員限定記事]

中国は国際公共財を供給するまでには至っていない(写真は元紙幣)

基軸通貨などの国際公共財を供給する覇権国の不在で世界経済が不安定化することを指す「キンドルバーガーのわな」。米経済学者キンドルバーガーによれば、1930 年代の世界恐慌は国際的リーダーシップの欠如によって起こったとされる。米国が国際公共財を提供する準備ができていなかったからだ。現在はトランプ政権の自国第一主義でドルの基軸通貨としての地位に陰りがみられる。

一方、中国は「人民元の国際化」をうたう。中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁は 2025 年6月の講演で「世界の基軸通貨の交代は、国際的な情勢の深い変化と国家競争力の変遷を反映」していると指摘。複数の通貨による多極的な国際通貨制度への移行や元による国際決済システムの必要性に言及している。

元の国際化の議論は 08 年の世界金融危機後に本格化する。人民銀総裁だった周小川氏は 、 国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の基軸通貨化などを通じて中国が制度改革に積極的に参加する意思を示した。元の通貨スワップ協定が急拡大し、国際公共財を提供する姿勢が見えた。だが足元では元は「多極的な国際通貨制度」をリードしていない。各国・地域の中銀の外貨準備に占める元の比率は 2%程度、国際決済取引に占める比率でも 3%程度と依然として低い。

潘総裁は、新たなパラダイムを主導するよりは独自の国際決済システム構築を重視している。制裁で国際銀行間通信協会(Swift=スイフト)を使えなくても自前の決済システムで対外貿易を継続させるということだ。ウクライナ危機以降、中国の貿易決済に占める元の比率は3割程度に急上昇している。もっとも中国独自の国際決済システムはいまだにSwift体制に替わる国際公共財にはなっていない。

世界経済の不確実性が増す中で金融危機が発生した場合、現時点ではドルに代わる基軸通貨はなく世界経済は大きく混乱しかねない。Swiftに替わる国際決済システムも確立していない。外貨準備積み増しなどによる流動性リスクの低減や現地通貨の利用の拡大など、キンドルバーガーのわなへの備えが必要だ。

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