トランプ大統領の関税政策は、効果が出る頃には、任期が切れている。
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『トランプ大統領のメチャクチャに見える関税を脅しの材料にした経済政策ですが、一応、大統領に着任する前から、検討の上で方針を決めて実行しています。ただし、その通りに、世界経済が反応するかどうかは、私は非常に疑問に思っています。その根拠を説明したいと思います。
そもそも、この関税引き上げによる、アメリカの産業構造の強制力のある変更政策は、単なる思いつきで決まったものでは、ありません。トランプ氏は、彼のキャラクターと、パフォーマンスで、オリジナルな政策を実行しているように見えますが、実際のところは、過去に参考にしているモデルが存在します。この高関税政策による保護主義も、例外ではなく、第3代大統領のマッキンリー元大統領の政策が、元になっています。というか、そのまんまです。彼は、1890年に50%を超える関税を設定し、1896年までに、アメリカに1億6000万ドルの収入をもたらして、国の歳入の最大の構成要素になりました。アメリカ史上で、現在に至るまで、最も高額な関税です。
自らを「タリフマン(関税男)」と呼ぶくらい、関税を脅しにつかう強圧的な産業構造の変更は、トランプ政権の政策の核になっています。それを示す出来事として、アラスカ州にある北アメリカ大陸最高峰の山である「デナリ山」の名称を、「マッキンリー」に戻す大統領令を、就任した月に発行しています。政策の先立に対する敬意を示す、彼一流のパーフォーマンスですね。恐らく、トランプ大統領が、この政策で期待している効果は、以下のような事です。
・国内産業の保護: 安価な外国製品が市場に流入することで、アメリカ国内の企業が価格競争に負け、雇用が減少する可能性がありました。関税を課すことで、国内製品を優遇し、製造業を活性化させる狙いがありました。
・貿易赤字の削減: アメリカは長年、輸入が輸出を上回る「貿易赤字」に悩まされてきました。関税を課すことで輸入を抑制し、国内生産を増やすことで貿易赤字の削減を目指しました。
・貿易不均衡の是正: 特に中国やEUなどがアメリカ製品に高い関税を課していることを「不公平」とし、同じ水準の関税を課すことで「公正な貿易」を実現しようとしました。
もちろん、全てアメリカ目線の話です。ここで、正しい、間違っているの評価はしません。少なくても、トランプ大統領は、そう考えて実行しています。そして、ディールによる外交は、彼のキャラクターにも合っています。自分の得意分野で勝負できるので、彼にとっては好ましい政策なのでしょう。
しかし、広いアメリカ大陸で、完全自立が可能だった1800年代後半と、今の貿易環境が、同じレベルで評価できるかと言えば、はなはだ疑問と言わざるを得ないです。要求する資源や、プラントの複雑さが、異次元レベルで違います。そして、それらは、現在のルールに合わせて、コスト的に最適化されています。つまり、資材の移動距離、運搬コスト、更には輸出入の利便性に合わせて、プラントが建設され、それに影響が出る事は、関税以外の流通コストも押し上げます。最終的な製品において、そのコストは、単純に関税分をプラスしたものより高額になるという事です。
関税を使って、強制力を持って、現在のルールを変更したとして、それに合わせて、実際に世の中にある産業施設や構造が変化するには、時間とコストが必要です。その間、アメリカ国民も、インフレに晒されるわけですが、既に5年近く、インフレに晒されているアメリカ国民に耐える体力があるかと言えば、かなり疑問です。そのインフレを抑えるには、安い労働力が必要で、皮肉な事に追い出している不法移民が、奴隷料金で労働をしてくれないと、相殺できません。
そして、トランプ大統領の熱い思いとは別に、マッキンリー元大統領の政策は、歴史家の間では、特段優れた業績とは評価されていません。関税政策というのは、後遺症が大きく、それは自身にも跳ね返ってきます。関税は輸入品に対して課すものですが、それを輸入しているのは、国内業者であり、税金を支払っているのは、実際には彼らです。つまり、関税を上げて、最初に苦しむのは、国内の輸入業者であり、速攻で製品価格にコストが転嫁されます。もしくは、トランプ大統領の目論見通り、輸入自体を止めるかですね。
しかし、一つの鉱物資源を製品に加工する場合、生産地からの原料の輸入、鉱石の加工、製品への加工と、複数の工程が必要で、実は今のプラントの配置だと、複数回、国境を跨いだりします。基本的に関税を無くす方向で、双方に余計なコストがかからず、製品の競争力を高め、価格を抑える効果を得てきたわけですが、高関税政策は、それを破壊します。そして、元の鉱山は、貿易の都合で変更できるものではありません。各国が協定で関税撤廃を巡って議論を進めるには、全体の経済の促進に関して、関税が癌だからです。部分的な利益ではなく、全体にとっては、まさに体力を削ぐものでしかありません。なので、膝を詰めて、譲り合い、基本的には、関税を無くそうという議論が成り立ちます。
以上の事から、200年前と、今では、そもそも、世界の貿易環境が違うので、石を池に放り込んだ波紋が影響する事柄が、予測不可能なくらい大きいという事です。必ずしも、その業界内だけで、影響の拡散が済むとも限りません。アメリカの内政が、資金的にヤバイのは確かなのですが、自分も返り血を浴びる、関税を強制力に使った産業の構造改革が、そんなにスムーズに進むとは、とても思えません。そして、以前の記事にも書いたように、頭ごなしの強弁は、相手の国のナショナリズムを焚き付けて、必ずしも、理性的な反応が返ってくるとは限らないという事です。
最後に、マッキンリー元大統領の顛末を語ると、1900年の大統領選で再選されましたが、1901年に無政府主義者の男に襲撃されて暗殺されています。』