どうなっちゃったの?トランプトレード
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250314/k10014748521000.html







『2025年3月14日 19時12分
アメリカのトランプ大統領が就任してから50日余りがたちました。
トランプ氏の大統領就任直後、ニューヨークのウォール街は株価上昇への期待感に満ちあふれていて、強気の相場予想が飛び交っていました。
ところが、今では株価が急落する場面が目立ち、市場は張り詰めた空気が漂っています。
トランプ大統領の政策に期待した「トランプトレード」はどうなってしまったのでしょうか。
(アメリカ総局記者 新井俊毅)
当初、ボーナスイヤーに期待
2025年1月に放送されたNHKスペシャル「新・トランプ時代 混迷の世界はどこへ」。
番組では、東京・銀座の投資家バーで、いわゆる「トランプ相場」が話題になっていたことが描かれていました。
2024年12月撮影
この店を訪れていた投資家は「トランプさん、1年目だからたぶんボーナスイヤーになる。わくわくしている」と話していたほか、株価上昇を期待するものでしょうか、「青天井」というカクテルも登場していました。
確かに、就任するや、大量の大統領令に署名し、次々と政策を表明したトランプ大統領。
就任式で大統領令に署名するトランプ氏
株価は上昇し、2月中旬までは高値を維持してきました。
ここまでは「ボーナスイヤー」だったのかもしれません。
調整局面入りも
S&P500の株価指数は、2月19日に史上最高値の6144.15を記録しましたが、その後、急落します。
わずか3週間で高値から10%下落し、「調整局面入り」を報じるニュースが飛び交う事態となりました。
政策の不透明さが疑心暗鬼をうむ
なぜ、このような事態になっているのか。
いくつかの要因が重なっていますが、1つは政策の行方の不透明さがあげられます。
トランプ政権の看板は関税政策ですが、発動が表明されてもすぐ延期されたり、対象が除外されたりしました。
例えばメキシコやカナダへの関税措置は3月4日に発動されましたが、翌・5日にはホワイトハウスが「USMCA=アメリカ・メキシコ・カナダ協定」を通じて輸入されている自動車については、1か月間、関税の対象から除外すると発表。
さらに6日には、トランプ大統領がUSMCAが適用されているすべての製品について、4月2日まで除外することを明らかにしました。
倍返しだ!
俳優の堺雅人さんが主演を務めた民放のテレビドラマ。
銀行員が理不尽な上司などに言い放つ決めセリフが「やられたら、やり返す。倍返しだ!」です。
トランプ大統領がこのドラマのファンだったわけではないでしょうが、ドラマの一場面をほうふつとさせるような発言が飛び出しました。
カナダのオンタリオ州の首相がカナダに対する関税措置への報復としてアメリカに供給する電力に25%の追加料金を課すと10日に表明するやいなや、11日にトランプ大統領はカナダからの鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を追加し、50%にするよう商務長官に指示したとSNSに投稿しました。
25%を50%に。
まさに「倍返し」です。
このトランプ大統領の指示はカナダ側がすぐに矛を収めたことで、実行には至りませんでした。
ワインに200%の報復関税
さらにアメリカが鉄鋼製品やアルミニウムへの関税措置を12日に発動したことに、EU=ヨーロッパ連合が対抗して、アメリカのバーボンウイスキーに関税を課す方針を示したところ、トランプ大統領は次のようにSNSに投稿しました。
「ウイスキーにたちの悪い50%の関税を課した。直ちに撤廃しなければ、EU加盟国のワインやフランスのシャンパンなどのアルコール製品に200%の関税を課す」
相手が50%の関税をかけるなら200%に。
今度は倍返しならぬ、4倍返しまで飛び出し、貿易戦争への道のりを着実に歩んでいるかのような展開になっています。
この投稿などを受けて、11日、そして13日のニューヨーク株式市場では、主要な株価指数はいずれも下落しました。
このように頻繁な政策修正や関税の応酬によって先行きが見通せないことへの不安が投資家のあいだで広がり、株式の売り注文が優勢となったのです。
悲観ムード漂う
4月2日には関税政策の「本丸」とみられる自動車関税、相互関税の発動も控えていますが、まだその全容は明らかになっていません。
輸出される自動車
「市場は不透明感を嫌うが、トランプ政権の関税政策は今後の展開、そして何より『終わり』が見通せない分、一段と警戒感が高まっている」(日系証券アナリスト)との指摘も出ています。
AAII=アメリカ個人投資家協会が今後、半年間の株式市場の見通しについてまとめた指標では、2月下旬に「弱気(Bearish)」の比率が60%に達し、2022年9月以来の水準となるなど、悲観的なムードが漂っています。
市場を驚かせた「痛みなくして、得るものなし」
株価下落のもう1つの要因はアメリカの景気の先行きへの懸念です。
ニューヨーク証券取引所 3月12日
このところ、▼ミシガン大学消費者態度指数や、▼S&Pグローバルの非製造業PMI(購買担当者景気指数)などが相次いで悪化。
金融市場では景気減速への警戒感が高まっていました。
そこに飛び込んできたのがFOXニュースのインタビューでのトランプ大統領の発言でした。
「ことしは景気が後退すると思うか?」と問われたのに対し、「そういうことを予想するのは嫌いだ」とした上で、「われわれがしていることはとても大がかりなものだ。当然、移行期間はある」と発言。
この発言が、関税政策などを進める中で一時的な景気後退に陥いることも辞さないという受け止めにつながったのです。
さらにベッセント財務長官が「この先はデトックス(解毒)の期間になる」と発言し、政権の内部で「No pain,No gain」(痛みなくして、得るものなし)という方針が共有されていることを示唆するものとなりました。
投資家の間では、トランプ政権は経済や金融市場に理解があると認識されていただけに、「痛み」をいとわない姿勢は、ショックも倍増させた格好です。
アメリカのAI開発優位に対する疑念
AI開発におけるアメリカの優位性が揺らぐことへの不安がくすぶっていることも株価下押しの要因となっています。
中国の新興企業「ディープシーク」が低コストで開発としたとする生成AIを発表し、話題となりましたが、その後も、「マヌス(Manus)」など中国発のサービスが次々と登場。
アメリカの企業が投じる巨額の開発コストが見合わなくなるのではないかという疑念が持ち上がり、大手ITや半導体などの「マグニフィセント・セブン」(壮大な7銘柄)をはじめ、大型株の動向を不安定にしています。
まさかのスタグフレーション?
今後のアメリカの景気の見通しについては、専門家の間でも意見が割れています。
当面、景気後退に陥ることはないという見方が依然として多い一方、トランプ政権が関税政策を推し進めることでインフレが再加速し、景気が後退する中で物価が上昇する「スタグフレーション」になるという指摘も出始めています。
現時点では、消費者や企業が抱く「懸念」が市場を揺るがしている形ですが、今後、個人消費や雇用の減速という形でこうした「懸念」が雇用や消費などの統計にあらわれた場合、「インフレを収束させ、経済を立て直す」ことを最優先に掲げた政権の基盤を脅かす事態になりかねません。
“要は経済なんだよ”
アメリカ政治で語り継がれている決まり文句に「It’s the economy,stupid」というものがあります。
1992年の大統領選挙でビル・クリントン氏の陣営が当時、現職だったブッシュ大統領の経済政策を批判し、経済の重要性を主張するために使った言葉で、「要は経済なんだよ、ばか者」と訳され、その後に続く大統領陣営がみな重視したと伝えられています。
大統領が国民から支持を得るには経済をよくすることが何より大事だということで、株価は重要なバロメーターの1つになります。
トランプ大統領はこの格言のとおり、経済を重視するのか、それとも、経済の減速を招いてもアメリカの権威拡大を優先し、「It’s America First,stupid」(要はアメリカ第一主義なんだよ、ばか者)と言うのか、真意はまだ読めません。
金融市場は前者であって欲しいと願っているように見え、株価急落でトランプ大統領にメッセージを送っていると私は解釈しています。
注目予定
FRBが開く金融政策を決める会合では政策金利の維持が見込まれていますが、金融市場で広まる景気への懸念に対して、パウエル議長がどのような姿勢を見せるのかが注目されます。
(3月18日「おはBiz」で放送予定)』