EUのエンジン車全面禁止、ドイツが抵抗し「容認」に転換…合成燃料の定着は見通せず(2023/03/30)
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230330-OYT1T50027/

『欧州連合(EU)が2035年以降の新車販売についてエンジン(内燃機関)車を全面禁止する従来の規制方針を撤回した。ただ、販売条件とする二酸化炭素(CO2)の排出を抑えた合成燃料は、価格や生産の技術的な課題も多い。自動車業界は脱炭素を巡り今後も 翻弄ほんろう されかねない。(中村徹也、ロンドン 中西梓)
伊は不満
EUが28日に閣僚理事会で修正に正式合意した背景には、自動車産業に強みを持つドイツの強い反対があった。EUはエンジン車の原則禁止は維持しつつも、脱炭素につながる合成燃料の使用車は認める余地を残した形だ。
ルノー子会社が展示したEVの試作車(2022年11月、パリで)=中西梓撮影
米ブルームバーグ通信によると、EUの決定に対し、独フォルクスワーゲンは声明で「(合成燃料は)特別な用途向けに有用で持続可能なモビリティーに貢献する」と歓迎した。同じ車でもエンジン車と電気自動車(EV)は部品点数も違えば、製造技術も異なる。家電に近い感覚のEVは米テスラなどが先行し、多様な車体や走りを追求してきた自動車大手の従来戦略の見直しが問われていた。
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一方、脱エンジン車を掲げてきたEUにとっては痛手となる可能性がある。EU内ではイタリアが国内企業が研究するバイオ燃料も認めるようEUに求めており、ドイツが主張した合成燃料だけが認められたことに不満もくすぶる。
日本勢は
合成燃料を巡っては、ドイツだけでなく、日本企業も積極的に取り組んでいる。
日本自動車工業会は合成燃料も「カーボンニュートラル(脱炭素)に向けた重要な手段の一つ」と位置づけ、EVや水素自動車といった次世代車だけでなく、エンジンと電気によるモーターを併用したハイブリッド車(HV)など多様な選択肢をそろえることを訴えてきた。合成燃料の研究も、自動車大手のほか、エネオスなど石油大手も積極的に取り組んでいる。
いすゞ自動車の南真介・次期社長も29日、報道陣の取材に対し、「『全てがEVではない』ということの始まりと見ている」と述べた。
ガソリンの4倍
もっとも、合成燃料がガソリンに置き換わるエンジン車の燃料として定着するかどうかは見通せない。』
『水素を製造するには現状では大量の電気が必要となるほか、大量のCO2を回収・再利用できるノウハウはまだ途上にある。現時点では合成燃料の製造にはコストが大きく、1リットル当たりの販売価格は300~700円と、レギュラーガソリンの最大4倍超となる。価格低下には量産が不可欠だが、道筋は見えていない。
世界の自動車大手の多くが30年代に新車販売のEV移行を表明しており、自動車各社は供給不足が懸念される蓄電池などの増産体制の整備を急いでいる。ただ、東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは「今回の決定を風穴に、景気後退などがあれば、あらゆる方法でエンジン車が認められる可能性もある」と指摘しており、車業界の将来像はまだ見通しづらい。
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◆合成燃料= 水素と二酸化炭素(CO2)を合成した液体燃料で、「e―fuel」(イーフューエル)と呼ばれている。車の走行時にはCO2を排出するが、製造段階でCO2を使うため相殺して実質的なCO2を大幅に削減できるとされている。既存のエンジン車でも使用できる。』