インドが早期警戒レーダー購入をロシアと協議、取引額は40億ドル以上
https://grandfleet.info/indo-pacific-related/india-in-talks-with-russia-to-buy-early-warning-radar-in-deal-worth-over-4-billion/
『2024.12.22
インドは米国製装備品の調達を拡大してロシア依存を引き下げつつあるが、これは「インドのロシア離れ」を意味するものではなく、防衛市場の動向を報じるShephardは20日「インドはバランスを取るためロシアと早期警戒レーダの購入を協議している」「両国の友情は最も高い山より高い」と報じた。
参考:US sanctions fail to rattle India as it looks to Russian long-range radar
参考:India may acquire advanced Russian radar system
インドとロシアの友情は最も高い山より高く、ロシアから米国に乗り換えることもないがロシアに依存する気もない
インドと経済面や安全保障面で強い繋がりをもつロシアは伝統的な友好国で、米国が対ロシア制裁(敵対者に対する制裁措置法/CAATSA)発動をチラつかせてもS-400導入を維持し、ロシアのウクライナ侵攻についても明確に不支持を表明したが国連非難決議は棄権、西側主導の経済制裁にも参加せず、二ヶ国間の貿易を維持するためルピーとルーブルによる決済システムを猛スピードで構築し、市場相場よりも割安なロシア産石油を大量に購入している。
出典:The White House
西側諸国の多くはウクライナ支持が国益に合致するため対露関係を遮断したが、非同盟主義や中国との領土紛争を抱えるインドにとって「対露関係の維持」は死活問題で、ロシアと中国の結びつきが一方的に強くなるとインドと中国のバランスも崩れるため、ウクライナ侵攻問題で西側が期待する立場を取ることなく、ロシアが軍事的に崩壊することも望んでいないものの、モディ首相は安全保障分野=特に防衛装備品調達におけるロシア依存を引き下げるべきだとも考えており、ロシアに次ぐ繋がりをもつフランスとの関係強化に加え、米国からもAH-64E、SH-64R、CH-47F、P-8I、C-17を調達。
最近もMQ-9B調達に38億ドルを投資すると発表し、バイデン大統領も昨年6月の首脳会談で「インド国内でのF414共同生産」「海軍艦艇の修理契約」「海底領域における共同認識力の強化」「防衛産業のサプライチェーン強化に向けた協定交渉」「防衛産業協力と技術共有を強化する枠組み(INDUS-X)の創設」を提示、これ受けて米海軍はラーセン&トゥブロ、マザゴン・ドック造船所、コーチン造船所と艦艇修理契約(Master Shipyard Repair Agreement)を締結したが、バランスを取るためロシアと早期警戒レーダー=Voronezh-DMの購入を協議しているらしい。
防衛市場の動向を報じるShephardは20日「ロシアで建造されたタルワー級フリゲート7番艦の就役を祝うためシン国防相がモスクワを訪問し、ロシア側とVoronezh-DM調達について協議した。米国とインドはモディ政権と密接な関係にあるAdani Groupの問題(贈収賄と投資家に対する虚偽報告)で険悪な状況が続いており、ロシアとの取引は『米国に対する不満』と『米国以外の選択肢がある』というインド側の現れかもしれない」と報じたが、同時に「インドはロシアや米国との取引を通じて防衛力の近代化を進めなら戦略的なバランスを取ろうとしている」とも指摘。
インドメディア=Sunday Guardianも「インドとロシアはVoronezh-DM購入契約について取り組んでおり、この取引の契約額は40億ドル以上になると見込まれている。アルマズ・アンテイ側の関係者もインドを訪問して契約に関与するオフセットパートナーと協議を行った。Voronezh-DM調達はMake in India政策に従いシステムの約60%がインド国内で製造される。5000kmを越えるレーダーは米露中のみが保有するため、Voronezh-DM導入はインドの防衛力を大幅に強化し、国内経済にも相当数の雇用をもたらすだろう。関係筋も経済的利益は本取引の主要な柱の1つだと述べている」と報じている。
ロシア人ミルブロガーが運営するRYBARも「この地域は地政学的リスクが、パキスタンや中国との大規模な紛争リスクが高まっているため、インドが独自のミサイル防衛システムを手に入れたいと望むのは理解できる。ロシアにとってもインドとの取引は経済面で有益だが、交渉過程で特定の技術移転が問題になるのは確実だ。但しSu-30やT-90の取引、長年に渡る二ヶ国間の防衛産業協力がそうであったように同問題はロシアの国益を損なうことなく解決できるだろう」と述べており、インドは防衛装備品調達におけるロシア依存を引き下げても「ロシアとの繋がり」まで縮小する気はない。
ロイターもインドとロシアの関係について「対露関係の軽視はロシアの中国接近を加速させる」「インドと中国との間で紛争が発生すればロシアは中国の肩を持つことになる」「仮にロシア製装備品から距離を置いてもエネルギー資源などの貿易を強化して結びつきを維持しなければならない」「調達先を西側諸国に広げる流れは止まらないが調達先の配分は決して平等ではない」「インドはロシアの武器から遠ざかっても強い結びつきは維持するだろう」と指摘し、これはベトナムの状況と良く似ている。
出典:President Joe Biden
ベトナムが1995年~2021年までに輸入した武器の80%以上(60億ドル以上)がロシア製で、特定国に武器調達を依存するリスクを問題視して武器調達の多角化に乗り出し、これを好機と見たバイデン政権はベトナム側にF-16売却を持ちかけ「これが成立すればロシアの影響力を低下させられる」と考えているものの、中国と国境を接して領土紛争を抱えるベトナムの外交的立場も非常に複雑だ。
ISEAS-Yusof Ishak Instituteでシニア研究員を務めるイアン・ストーリー氏は「ベトナムについて米国は非現実的な期待を抱いている。ベトナムと中国の関係がどれほど微妙なもので、ロシアと関係がどれほど深いものか十分理解しているとは思えない」「ベトナムの指導者達は大国の間で踊ることに長けている。四半世紀の間にフランス、米国、中国という3つの侵略者を退けたベトナムは大国同士の争い巻き込まれるのを嫌っており、独自の道を切り開こうとしている。米国はベトナムの立場を誤解すれば火傷を負うことになり、この地域において米国特有の二者択一を迫る外交スタイルはリスクが高い」と指摘。
出典:manhhai/CC BY 2.0
アジア太平洋安全保障研究センターのアレクサンダー・ブービング教授も「ベトナム人は対米関係を強化しながら中国やロシアにも『関係を軽視していない』とアピールする必要がある」「ベトナムは非常に微妙な外交バランスを保つ必要がある」と言及、ニューヨーク・タイムズ紙も「ベトナムはロシアとの合弁事業を通じて代金を送金する方法でロシア製兵器の購入を試みている。ベトナム当局者は『西側諸国から制裁を受けるロシアの現状』は戦略的信頼を強化する絶好のチャンスだと考えている」と報じている。
因みにShephardはインドのVoronezh-DM購入契約を伝える記事の中で「シン国防相がモスクワを訪問してプーチン大統領と会談した際『両国の友情は最も高い山より高い』と述べた」と紹介し、インドのロシアに対する立場を明確に物語っており、欧州とアジアの一部を除く地域では「米国かロシアか」は当たり前ではない。
ウクライナとロシアの戦争の行方
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※アイキャッチ画像の出典:Narendra Modi 』