中国ワクチン外交の教訓 日本は米国やQuadと国際協調

中国ワクチン外交の教訓 日本は米国やQuadと国際協調
安全保障とeconomy
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『2024年12月16日 5:00 [会員限定記事]

国境を越えて急速に広がるパンデミック(世界的大流行)は外交にも影響を及ぼす。新型コロナウイルス禍ではワクチンや治療薬の開発を各国が競い、中国が新興・途上国を囲い込もうとする事態が起きた。日本が出遅れた教訓を生かし、バイオ研究で国際協調をめざす。

経済安全保障という言葉が広く認識されるようになったきっかけの一つがコロナ禍だ。中国が防護服やマスクといった医療物資のサプライチェーン(供給網)の大半を握…

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『2024年12月16日 5:00 [会員限定記事]

中国のシノファーム製のワクチン=ロイター

国境を越えて急速に広がるパンデミック(世界的大流行)は外交にも影響を及ぼす。新型コロナウイルス禍ではワクチンや治療薬の開発を各国が競い、中国が新興・途上国を囲い込もうとする事態が起きた。日本が出遅れた教訓を生かし、バイオ研究で国際協調をめざす。

経済安全保障という言葉が広く認識されるようになったきっかけの一つがコロナ禍だ。中国が防護服やマスクといった医療物資のサプライチェーン(供給網)の大半を握り、ワクチンを迅速に安価で提供すると主張して市場の寡占を試みた。

コロナ外交を強めた中国は物資の供給だけでなく、現地工場の建設にも取り組んだ。製薬会社の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)はトルコやコロンビアに進出した。中国の影響力を中長期で強める好機として国を挙げて取り組んだ。

国際保健に詳しい政治学者の詫摩佳代・慶大教授は「東南アジアや中南米の国々には当初、中国に対する期待もあった」と振り返る。

欧米製などは供給が遅く、より早くワクチンを届けてほしいとの需要に中国の外交的な思惑が一致したと見る。「中国の創薬力は軍事技術と同様に伸びてきている半面、ワクチン開発では品質やデータの透明性に問題があった」とも指摘する。

日本は国産ワクチンの開発に手間取った。米ファイザー製や米モデルナ製の調達のため当時の菅義偉首相や河野太郎ワクチン相が交渉に乗りだす事態となった。国内メーカーのワクチン開発軽視や薬事承認のルールなどが壁になった。

国内のワクチン供給が安定し、日本の備蓄分などを海外に提供できるようになったのは2021年半ば以降だった。

ワクチン外交で十分な役割を果たせなかった教訓を踏まえ、日本がいま注力するのはバイオ研究での国際連携だ。

ゲノム(全遺伝情報)解析やデジタル技術の発展で急速に進歩している研究分野として、国益に直結する政策領域と位置づける。医療だけでなく素材や食品などあらゆる産業に活用でき、環境問題でも重要な役割を担う。

日本は同様にバイオ産業を国家戦略とする米国と政策対話をつくった。ゲノム編集などの先端技術の研究で協力する。日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」もバイオの技術動向調査を進めている。

中国も22年にバイオエコノミーの発展計画を発表し、数千億円かけてゲノム解析の拠点をつくる計画などを打ち出した。遺伝子解析大手の華大基因(BGI)を筆頭に世界的なシェアを伸ばしている。

歴史上、保健分野は国・地域の対立やしがらみを超えた協調につなげやすい。冷戦下では米国と旧ソ連がポリオワクチンの開発に専門家レベルで協力した。最近はパレスチナ自治区ガザの子どものワクチン接種のためイスラエルとの戦闘が休止した。

日本はコロナ禍の21年、インドネシアやマレーシア、フィリピンなどとともに「東南アジア・東アジア国際共同臨床研究アライアンス(ARISE)」を設けた。平時には必要な医薬品へのアクセス、感染症有事には迅速で質の高い臨床試験の実現を目指す。

クアッドでも21年3月の首脳会議でインド国内に10億回分のワクチン製造体制を用意すると決めた。米国のバイデン政権がワクチン供給など合意しやすいテーマでアジア外交を展開したいと考えた背景もある。

次期トランプ政権は世界保健機関(WHO)などの多国間協力を軽視するとの見方が強い。国際保健分野の協調をどの国がリードするかは見通せない。

【連載「安全保障とeconomy」最近の5本】

・「サウス」協調、保健医療に重み コロナでリスク認識
・血液確保や病院船 有事を見据えた医療、安保の基盤に
・減る農家、食料安保の最大リスク 脱・手作業まだ手探り
・培養肉、ルール整備でつまずき 食料安保のリスク要因に
・「フードテック」で食料危機を回避 知財保護欠かせず 』