送電網上空をドローン航路に 東電やJR東、物流向け活用
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC281PQ0Y4A021C2000000/
『2024年11月17日 17:30 (2024年11月17日 17:37更新) [有料会員限定記事]
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山本真義さんの投稿
山本真義
まずは東京電力PGで送電網の点検などにドローンを活用する
電力大手やJR東日本は2024年度中に送配電網をドローンの航路として実用化する。送電線上空を航行する運航管理システムを近く販売し、電線や鉄塔などの点検を皮切りに電子商取引(EC)の物流や災害状況の確認など用途を広げる。利用できる電力大手の送配電線は全国に130万キロメートル超あり、ドローンの産業利用が本格化する。
送電網上の航路の設計や運航システムの開発を担うグリッドスカイウェイ有限責任事業組合(東京・港)が25年3月までにシステムを販売する。機体の貸し出しも組み合わせ、定額課金型のサービスとして収益化を目指す。同組合には東京電力パワーグリッド(PG)など送配電大手9社のほか、JR東、日立製作所などが出資している。送配電会社の了承を得て送電線の上空を飛ばす。
送電線をドローン航路に使うのは世界でも珍しい。国土が狭く山間部も多い日本では位置などのデータがあり、周辺に飛行物が少ない送電網を使った方がドローンの航路計画を立てやすい。航路は送電線や樹木などと一定の距離を保つように設定。運行管理者が遠隔で常時監視し安全に万全を期す。
まずは電力インフラの点検で航路を活用する。24年度中に東電管内の埼玉県秩父市で約150キロの航路を整備し、鉄塔の確認作業を作業員の目視からドローンに順次置き換える。27年度には山間部や田畑など無人地帯を中心に全国1万キロ超に拡大。安全性が確認できれば市街地でも整備する。
点検用途だけでなく、物流会社や地方自治体にもシステムを販売する。物流会社はこれまで自前で航路を構築する必要があったが、グリッドスカイウェイ有限責任事業組合のシステムを使えば、短期間でサービス化できるようになる。同組合は自治体向けには災害時の被災状況の確認などで需要があるとみる。
ドローンは22年に有人地帯において、目視不要で機体を飛ばす「レベル4」の飛行が解禁となった。23年12月には操縦ライセンスや保険への加入など一定の条件の下、目視不要で道路や鉄道を横断できる「レベル3.5」が新設され、発電所から各変電所に高圧の電気を送る送電線の上空を利用しやすくなった。
点検用途では当面レベル3.5までで対応するが、物流向けに需要が高まれば、レベル4の実用化も視野に入れる。物流では変電所から住宅などに低圧の電気を届ける配電線も利用する方向だ。
電力大手は全国で送電線を約8.8万キロ、配電線を約129万キロ保有している。JR東も自社で送配電線を持つ。総延長が長い配電線を使えば、山間部などで住宅の玄関先まで配送する「ラストワンマイル」物流でも活用できる。
インプレス総合研究所によると、日本のドローンサービス市場は28年度に5154億円と23年度比で2.5倍に増える見通しだ。現在は橋梁や住宅で監視員が立ち会う形での点検用途が多いが、今後は物流など目視外での利用が拡大するとみられる。
セイノーHDは全国でドローン輸送の実証を進めている
物流のドローン活用は過疎地や災害時の支援物資の輸送などの面で期待が大きい。規制緩和を受けて日本各地で実証実験が進んでいる。セイノーホールディングス(HD)などは北海道の一部地域や山梨県でドローン配送を実施している。
海外はドローン物流の実用化で先行する。米アマゾン・ドット・コムは23年から米国の一部地域で医薬品の配送を始め、医薬品以外のドローン配送を英国やイタリアにも広げる。米ジップラインはアフリカ諸国での医療物資の配送でノウハウを蓄積し、1月にはウォルマートと組んでテキサス州で商品宅配のサービスを始めると発表した。
日本の電力各社は既存のインフラを新たな収益源に育て、送電網の増強などの投資に充てたい考えだ。再生可能エネルギーの導入拡大やデータセンターなど電力需要の拡大で送電網の増強は不可欠になっている。
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山本真義
名古屋大学未来材料・システム研究所、名古屋大学大学院工学研究科電気工学専攻 教授
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別の視点 送配電網は無人ドローンにとって位置把握が容易で集落間を効率的に移動可能であり、その商用化に非常に向いています。ただ、現状のドローンは航続距離の問題があります。これを解決するため、内閣府の国プロ、戦略的イノベーション創造ブログラム(SIP)第2期「IoE社会のエネルギーシステム」において、東京電力は送電鉄塔の頂上から上空へのドローンに対してワイヤレス電力伝送により電力供給を行うことで、送配電網の遠方へドローンを飛行させるための基礎試験を成功させました。
これが実用化されることで、送電鉄塔の上空を給電されながらホッピングするように飛んでいくドローンを、近い将来、見ることができるかも知れません。
2024年11月17日 21:49
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