仏、財政再建頓挫の瀬戸際 国債の評価ギリシャ下回る

仏、財政再建頓挫の瀬戸際 国債の評価ギリシャ下回る
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR27DRJ0X21C24A1000000/

『2024年11月28日 6:32 (2024年11月28日 7:20更新) [会員限定記事]
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仏極右の国民連合(RN)のルペン氏は内閣不信任決議を辞さない構えだ(6月10日、パリ)=AP

【パリ=北松円香、ロンドン=大西康平】フランスで、財政再建計画が頓挫するとの警戒感が強まっている。野党が財政赤字削減を織り込んだ2025年度予算案に反発し、バルニエ内閣の不信任決議をちらつかせているためだ。債券市場では財政懸念から仏国債売りが止まらない。仏10年債と欧州の基準となる独10年債の利回り差は27日、ギリシャ国債を上回った。

政局緊迫のきっかけは、極右の国民連合(RN)を率いるルペン氏の発言だ。「仏国民の購買力を損なうことは許さない。この一線を越えるなら内閣不信任案に賛成する」。20日に25年度予算案についてこう話し、バルニエ首相に電力税引き上げ撤回などの譲歩を迫った。

一方、バルニエ氏は26日、政府による予算案強行採択を可能にする憲法49条3項の規定をおそらく適用することになると述べた。「議会で過半数を持つ勢力がいない以上、そのように採択するほかない」(バルニエ氏)という。

同規定では首相は国会の投票を経ずに予算案を採択する権限を持つ。だが、その直後に内閣不信任案が成立すれば内閣は総辞職し、予算案も廃案になってしまう。

7月上旬の選挙の決選投票の結果、国民議会(下院)はどの党も過半数を持たない「宙づり議会」となった。野党の左派連合の新人民戦線(NFP)と極右の国民連合の両勢力が歩調を合わせれば内閣不信任案が成立する。

マクロン大統領が選挙後に首相指名したバルニエ氏は中道右派の共和党所属だ。新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵略で生じた物価急騰への対応で仏財政は急拡大しており、25年度以降の債務縮小を目指した予算案を組んだ。

27年の次期大統領選での勝利を狙うルペン氏は今国会で、有権者の目を意識して穏健な言動に徹していた。予算案審議が大詰めを迎えるにつれてバルニエ内閣への対立姿勢を強め、不信任決議が一気に現実味を帯びてきた。

24年度の仏財政赤字は国内総生産(GDP)比で6.1%の見通しだ。欧州連合(EU)の目標値である3%を大きく上回る。

仏政府は10月末に欧州委員会に提出した中期財政計画で、これまで27年としていたGDP比の財政赤字のEU目標達成を29年に先延ばしした。だが野党との予算案の交渉が進まない現状では、25年の目標値(5%)も危うい。

仏紙ルモンドによると年末になっても次年度の予算がない緊急事態は過去に1979年の例があるだけだ。内閣総辞職・予算案不成立のまま越年すれば、財政再建計画の狂いや新首相選出に伴う混乱に加え、国民生活にも支障が生じる恐れがある。

アリアンツ・トレードのシニアエコノミストのマクシム・ダーメ氏は「行政サービスやインフラ維持の資金が足りなくなる」と懸念する。当面は24年度予算をそのまま踏襲するが、インフレのせいで実質額は1.5%ほど目減りするからだ。

そのため小康状態が続いていた債券市場にも動揺が広がる。米バンク・オブ・ニューヨーク・メロンの分析によると、「今週は仏国債の売却が過去2年間で最大規模となった」という。

27日の欧州債券市場で仏10年物国債の利回りは3.0%台で推移した。信用リスクの指標となる独10年物国債に対する仏国債の上乗せ金利(スプレッド)は約0.86%と、22年以来12年ぶりの高水準まで上昇した。

高債務国が並ぶ南欧の代表格で、10年代前半の欧州債務危機の震源地となったギリシャのこの日の対独スプレッド(約0.85%)を抜いた。データのある2012年3月以降で初めてだ。スペイン(約0.74%)やポルトガル(約0.49%)も上回る。

「市場が本格的に年内の予算案不成立を織り込み始めれば、仏国債の対独スプレッドは1.1ポイント程度までは十分拡大しうる」(ダーメ氏)との見方もある。

当面の焦点は29日に予定される米S&Pグローバル・レーティングによる信用格付けの見直しだ。5月にはすでにダブルAマイナスへ1段階引き下げられた。可能性は高くないが格付けがさらに下がれば、売りの勢いが強まりそうだ。

財政懸念は株式市場にも波及している。27日には代表的な株価指数のCAC40が1%安と、欧州の主要国で最も下落率が大きかった。金融株の下げが目立ち、アクサが4%安、ソシエテ・ジェネラルが3%安となった。保有するフランス国債の下落や景気悪化への警戒感が高まった。

【関連記事】

・仏政府が25年度予算案発表 財政赤字はGDP比5%に抑制
・仏国債、財政悪化で信用懸念 上乗せ金利12年ぶり高水準

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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分析・考察 こうしたことは、市場も織り込んでいます。
というのも、直近11月27日時点におけるクレジットデフォルトスワップ(CDS)でみたG7国債の5年以内のデフォルト確率を比較すると、トップはドイツの0.20%、次いで英国の0.33%、日本の0.34%と続き、次の米国が0.50%に続いてようやくフランスの0.57%となります。
なお、フランスよりも確率が高くなっているのがカナダの0.66%、イタリアの1.00%となっております。
2024年11月28日 8:13
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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別の視点 記事には、財政危機をうけてフランス国債の売却が膨らんだという、米銀の分析結果が出てくる。では、日本の機関投資家は欧州債への投資で、どのような動きを見せているのだろうか。財務省が発表した9月の国際収支で、対外証券投資(地域別内訳)のうち中長期債の数字を見ると、フランスは▲4976億円(マイナスは売り越し)。これに対し、ドイツは+8317億円(プラスは買い越し)、イタリアは+2410億円。ユーロ圏内で投資先のシフトがあったらしいことが浮かび上がる。とはいえ、フランスはEU内で存在感が大きい。同国の極右・国民連合もEU離脱論は表に出さなくなっている。上乗せ金利拡大で投資妙味が増したことも否めない。
2024年11月28日 7:26
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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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今後の展望 債務問題は2025年以降世界中で大きなリスクになる。フランスもその一つで、すでに弛緩している財政を、マーストリヒト条約に合うようにコントロールしなければならないタイミングに入っている。が、議会の内訳は小党分立であり、12月中には予算が提出されねばならないが、厳格な財政再建を果たす方向での予算に合意がなされるとは思えない。財政弛緩を進めれば、ユーロ圏内からの突き上げもある。答えを見つけられなければ記事指摘のように格下げとなる。格下げになっても、現行ダブルAクラスで余裕はあるから、安くなったフランス国債は投資妙味と言えるのだが、フランスが債務をどうするかの問題は残ったまま。これからの問題だ。
2024年11月28日 9:11
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