トランプ「威嚇外交」再び メキシコ・カナダに不協和音
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『2024年11月27日 4:57 [会員限定記事]
トランプ氏の奔放な主張に振り回される両国首脳(G20で会談したメキシコのシェインバウム大統領㊧とカナダのトルドー首相)=メキシコ政府提供
メキシコのシェインバウム大統領は26日、「メキシコは武器を製造せず、合成麻薬も消費しない。需要はあなたの国にある」と述べ、メキシコに追加関税を課すと明言したトランプ次期米大統領に反論した。自由貿易協定を結ぶ3国間の貿易戦争に発展しかねない異例の展開で、メキシコ、カナダ間の不協和音も目立ち始めた。
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トランプ氏は25日、2025年1月の就任初日にメキシコとカナダに25%の追加関税を課すと明言した。シェインバウム氏は記者会見でトランプ氏宛ての書簡を大画面に大写しにしてメディアに公開し、「米国の移民や麻薬の問題に対処するには脅しや関税ではなく、協力と相互理解が必要だ」と正論に訴えた。
メキシコへの海外直接投資額は2024年1〜6月で過去最高の310億9600万ドル(約4兆8000億円)に達し、全体の4割超を米国系の企業が占めた。賃金が高騰し、政治リスクもちらつく米国での増産を避け、賃金の安いメキシコで生産して米国へ逆輸入する「ニアショアリング」を主導してきたのはむしろ米企業だ。
条件次第で米国輸出時の関税をゼロにできる自由貿易協定・USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)は、こうした動きの大前提として機能してきた。エブラルド経済相が「もし(トランプ氏が)関税を課すなら、こちらも関税で対応しなければならない」と報復関税の可能性に触れたこともある。
トランプ第1次政権時に外相として対峙したエブラルド氏をはじめ、メキシコ政府にはトランプ氏の奔放な主張と威嚇の連発に振り回された過去から身につけた免疫がある。シェインバウム氏は「関税が引き上げられれば影響を受けるのは米国の消費者だ」とも述べ、トランプ氏との合意に自信を見せた。
メキシコのシェインバウム大統領はトランプ次期米大統領宛の書簡を公表した(26日、メキシコシティ)=メキシコ政府提供
一方、突如としてトランプ氏による批判の矛先が向かったカナダには焦りも見える。
2024会計年度に米国・カナダ国境で国境警備隊が遭遇した人の数は約20万人と、過去2年間で倍増した。カナダ経由で合成麻薬や不法移民が米国に流入しているとの見方もあり、トランプ次期政権で国境対策の責任者となるトム・ホーマン氏は「テロリストの玄関口となっている」と批判する。
トルドー首相は25日、急きょトランプ氏と電話会談し、2時間にわたって国境問題をはじめ「共に取り組むことができるいくつかの課題について話し合った」(トルドー氏)。同氏が強調したのがメキシコとの違いだ。
カナダ紙グローブ・アンド・メールによると、トルドー氏はカナダから米国に渡る移民の数はメキシコと比べて10分の1程度にとどまる点をトランプ氏に強調したという。閣僚からもメキシコを引き合いに出す発言が相次いでいる。
フレーザー住宅問題相は「数字を直視することが重要だ」と強調した。ミラー移民相も「特に多い週末のメキシコ国境からの流入数と、カナダ国境からの年間の流入数がちょうど釣り合う」と話した。
関税が引き上げられれば、減速基調にあるカナダ経済にとって一段の打撃となる。23年の米国向けのモノの輸出額は5559億カナダドル(約61兆円)と、全体の8割弱を占める。オンタリオ州のダグ・フォード州首相は25日「25%の関税はカナダと米国の労働者と雇用にとって大惨事となる」と強調した。
米国を目指す不法移民の多くがメキシコ北部の米国境を目指す(10月、パナマ「ダリエン地峡」)
長期化するインフレや住宅問題が響いて、トルドー政権の支持率は30%程度の低空飛行が続く。米国から25%の関税が課せられれば景気の減速は避けられず、メキシコを切り捨ててでも米国との関係を維持したいとの思惑がにじむ。
USMCAは26年に内容の見直しが予定される。トルドー氏はメキシコからカナダを通じて中国製品が米国に流入するとの批判をかわすため「メキシコ次第で他の選択肢検討が必要になる可能性もある」と述べている。国内には米、カナダが表明した中国製品への追加関税にメキシコが追随していないという不満がくすぶる。
メキシコのシェインバウム大統領は26日の会見でトルドー首相にも書簡を送ると明らかにし、自由貿易協定対象外の鉄鋼やアルミニウム製品などの関税は引き上げていると反論した。
(メキシコシティ=市原朋大、ニューヨーク=三島大地)
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