ネタニヤフ氏の「戦争犯罪」とは? 国際人道法に違反
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『2024年11月22日 16:39 [会員限定記事]
ガザでは食料危機が深刻となっている(19日、南部ハンユニス)=ロイター
国際刑事裁判所(ICC)が21日に発表したイスラエルのネタニヤフ首相らへの逮捕状発行は戦争犯罪や人道に対する罪を根拠とする。戦争犯罪を定義する国際人道法は市民への攻撃禁止や傷病者の保護といった「戦争のルール」を定めた国際法だ。
市民の飢餓招いた罪
「国際人道法に違反して人道支援を妨害した」。ICCは21日に出した声明で、ネタニヤフ氏らがパレスチナ自治区ガザの民間人に対する食料や水といった必需品の供給を阻害した罪を挙げた。「戦争手段としての飢餓」は戦争犯罪にあたると断じた。
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そもそも国際法は国家による武力行使の原則禁止を定め、国連憲章にも明記されている。一方で自衛のための必要最小限度の武力行使は認められる。国際人道法は武力紛争が起きた際に人的被害を抑えるため、軍事手段を制限する取り決めだ。
条約や国際慣習法上の規則を指し、主要な文書に1949年のジュネーブ諸条約や77年の追加議定書がある。陸上の戦闘による傷病兵の保護を定めた1864年採択の条約を源流とし、第2次世界大戦後に法典として新たにまとめられた。
ICCから逮捕状が出たイスラエルのネタニヤフ首相(左)とガラント前国防相(2023年)=AP
196カ国・地域が締約するジュネーブ諸条約は4条約からなり、戦闘の際に戦闘員と文民、軍事目標と民用物を区別するよう規定する。民間人を含む無差別な攻撃は許されない。捕虜の待遇改善や傷病者の看護も明記し、過度な苦痛を与えることを禁じる。
イスラエルのガザ侵攻は2023年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲とともに、国際社会で「国際法違反」と糾弾されてきた。支援物資の搬入ルートとなる検問所の閉鎖や援助機関の活動制限、病院への攻撃などが非難を受けている。
ICCの設立条約「ローマ規程」8条はジュネーブ諸条約の重大な違反行為などを戦争犯罪と定める。ICCは今回「戦闘の方法として文民から生存に不可欠な物品の剝奪で生じる飢餓の状態を故意に利用すること」との規定に照らして逮捕状を出した。
同志社大の新井京教授(国際人道法)は文民の飢餓に焦点を当てたICCの判断に関し「国際機関や当局がもつ証拠から立証しやすい犯罪に着目した」と分析する。深刻さを増すガザの人道状況に触れ「ICCがネタニヤフ氏らの抑止効果を期待している可能性はある」と説く。
AI兵器、新たな課題に
1949年の採択から75年がたったジュネーブ諸条約は新たな課題にも直面している。その一つが人道上の影響が懸念される人工知能(AI)搭載のハイテク兵器を巡る技術革新だ。AIの判断による攻撃で、文民と戦闘員の区別がつかなくなる事態が恐れられる。
赤十字国際委員会(ICRC)のスポリアリッチ総裁は日本経済新聞の取材で「兵器を使う全ての段階で誰が標的とされるかを人間が完全に把握すべきだ」と強調した。AI兵器は「標的でない人が誰であるかの判断をコントロールできなくなる」と危惧する。
(児玉章吾)
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