長期政権を可能とする条件は何か? — 長期政権と短期政権の比較分析 一

医療創生大学研究紀要 人文学•社会科学•情報学篇 第5号(通巻第33号)2020年
長期政権を可能とする条件は何か? — 長期政権と短期政権の比較分析 一
和足憲明•小林祐太

  1. はじめに
    本稿の問いは「なぜ中曽根•小泉•第2次安倍政権は長期政権を維持することができたのか」
    というものである。
    この問いに対して本稿は①メディアの利用、②高い改革姿勢、③明確な政策目標の3つの要因
    がすべてそろった場合に長期政権につながるという仮説を提起する。
    ①メディアの利用は政権の政策やパフォーマンスを示すにあたってマスメディアが重要なもの
    であるという点、またメディアで政権にとって不利な報道がなされた場合には短期政権となる可
    能性があるという点で重要な要素である。②高い改革姿勢は政権への積極性をアピールするには
    必要不可欠である。③明確な政策目標は政権が目指す政治の形を具体的に示すことができるもの
    であり政権を円滑に運用するためには必要なものである。
    以上の仮説を検証するため、長期政権と短期政権の比較事例分析を行う。本稿は長期政権とし
    て中曽根•小泉•第2次安倍政権を取り上げ、短期政権として竹下・森・第1次安倍政権を取り
    上げる。具体的には、3つのペアに基づく比較事例分析を実施する。第1に、中曽根政権と竹下
    政権との比較を行う。中曽根政権と竹下政権を比較する理由は、同じ中選挙区制時代の政権であ
    るということと、中曽根政権の直後に組閣されたのが竹下政権であるためである。第2に、小泉
    政権と森政権を比較する。小泉政権と森政権を比較するのは、内閣機能の強化という同一の条件
    の下であるとともに森政権の直後が小泉政権であるためである。最後に第2次安倍政権と第1次
    安倍政権を比較する。第2次安倍政権と第1次安倍政権を分析するのは、同一人物の政権である
    にもかかわらず、第1次政権が短命である一方、第2次安倍政権が長期となっていることから、
    長期政権が続いている要因を解明するためである。
    比較事例分析による仮説検証の結果、「長期政権を維持するためには、①メディアの利用、②
    高い改革姿勢、③明確な政策目標という3つの要因がすべてそろっていることが必要不可欠であ
    る」という結論に至った。すなわち仮説が支持された。
  2. 日本において長期政権を可能とする要因は何か
    本稿の問いは「なぜ中曽根•小泉•第2次安倍政権は長期政権を維持することができたのか」
    というものである。
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    医療創生大学研究紀要 人文学•社会科学•情報学篇 第5号(通巻第33号)2020年
    日本の歴代政権は短期政権で終わってしまう場合が多かった。実際、日本の首相の平均在任期
    間は約2年半であるのに対し、同じ議院内閣制を採用しているイギリスの首相の平均在任期間は
    5年であり、ドイツの首相の平均在任期間も10年と日本より長い。このことから日本は他の先
    進国と比べて平均在任期間が短いといえるだろう七しかし短期政権が多い日本でも、中曽根・
    小泉•第2次安倍政権は例外的に安定した長期政権を維持している。なぜ中曽根•小泉•第2次
    安倍政権は長期政権を維持できたのだろうか。この疑問に答えるため、本稿は長期政権を維持す
    るための要因を検討していく。
    もっとも、本稿は日本の歴代政権すべてを分析対象とするわけではなく、田中角栄政権以降
    を分析対象とする。田中政権以降を分析対象とする理由は、田中角栄が「戦後日本政治のシステ
    ム」を完成させたからである。すなわち、田中角栄は「自民党の権力基盤をシステム化して強固
    なものに作り上げた」2。具体的には、田中政権において、「政官業の鉄の三角形」(政党•政治家、
    中央省庁、業界団体の相互依存関係)に基づく「富の再配分」を通じて権力を維持する統治シス
    テムが完成したのである。
    それでは田中角栄以降の政権の長さを見てみよう(表1参照)。なお、政権の長さを見る際に
    は次の2点に注意を要する。第1に、本稿は政権の長さの基準として通算在任期間ではなく連続
    在任期間のデータを用いる。なぜなら、通算在任期間を基準とすると、短期間の在任が複数回の
    場合と長期間の在任が1回の場合を区別できなくなり、データとしての信頼性に問題が生じるた
    めである。第2に、本稿は自民党政権のみを分析対象とする。なぜなら、戦後ほとんどの期間に
    おいて自民党が政権を握っているため、自民党政権のみを分析対象としたほうが比較分析を実施
    するうえで適切であると判断したからである。
    表1首相の連続在任期間
    順位 首 相 在任日数 政 党
    1 第2次安倍首相 2,556日(2019年12月25日時点) 自由民主党+公明党
    2 小泉首相 1,980 日 自由民主党+公明党
    3 中曽根首相 1,806 日 自由民主党
    4 橋本首相 933日 自由民主党+新党さきがけ+社会民主党
    5 鈴木善幸首相 864日 自由民主党
    (出典)首相官邸ホームページ「歴代総理と歴代内閣閣僚名簿」より作成。
    表1を見ると、田中角栄以降の政権の長さは平均で約2年となっている。本稿は平均よりも1
    年多い約3年勤めれば長期政権であると考えることにする。そうすると、中曽根•小泉•第2次
    安倍政権が長期政権ということになる。
    このようにして、本稿は、長期政権として中曽根・小泉•第2次安倍政権という3つの政権を
    選択する。そのうえで短期政権として竹下政権・森政権•第1次安倍政権の3つを選択する。短
    期政権として竹下政権を選択した理由は、中曽根政権と同じ中選挙区制時代の政権であり、なお
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    かつ竹下政権は中曽根政権の直後の政権であったため比較しやすいと考えたからである。短期政
    権として森政権を選択した理由は、内閣機能の強化という点で小泉政権と同一の条件であるにも
    かかわらず388日という短期政権に終わってしまったため、小泉政権と比較することで長期政権
    の要因を抽出しやすいからである。短期政権として第1次安倍政権を選択した理由は、同一人物
    が第2次以降では長期政権を維持しているため条件をコントロールできるためである。
    以上の事例選択を踏まえると、本稿の問いは次のように定式化することができる。「なぜ中曽根・
    小泉•第2次安倍政権が長期政権を維持することできたのか」というものである。
    本稿はこの問いに対して、①メディアの利用、②高い改革姿勢、③明確な政策目標という3つ
    の要因が重要であると考える。なぜなら、長期政権を維持するためには国民の支持を得ることが
    必要であり、国民の支持を得るためにはこれら3つの要因が必須条件であると考えられるからで
    ある。
    本稿の構成は以下のとおりである。
    第3章では分析枠組みの設定を行う。第3章第1節では先行研究を検討する。具体的には、①
    メディアの利用、②高い改革姿勢、③明確な政策目標という政権維持に関する先行研究を検討し
    ていく。第3章2節では先行研究の検討を踏まえて仮説を提示する。本稿の仮説は「①メディア
    の活用、②高い改革姿勢、③明確な政策目標という3つの要因がすべてそろった場合に長期政権
    を維持することができる」というものである。
    上記の仮説を検証するため、第4章から第6章にかけて長期政権と短期政権の比較事例分析を
    行う。
    第4章では長期政権として中曽根政権を取り挙げ、短期政権として竹下政権を取り挙げて分析
    する。1980年代後半の政治においてどのような要因が中曽根政権を長期政権足らしめたのかを
    検証する。
    第5章では長期政権として小泉政権を取り挙げ、短期政権として森政権を取り挙げて仮説を検
    証する。小泉政権はマスメディアをうまく活用することによって、自民党内と野党の抵抗を受け
    ながらも郵政民営化という大改革をやってのけた。それに対し、森政権は首相自らの失言などで
    政権運営に失敗し、短命政権となってしまった。両者を比較分析していくことで仮説を検証する。
    第6章では長期政権として第2次安倍政権を取り挙げ、短期政権として第1次安倍政権を取り
    挙げて分析していく。同一人物にもかかわらず、第2次安倍政権が長期政権であるのに対して、
    第1次安倍政権は366日という短期政権である。同一人物という条件をコントロールしたうえで
    長期政権を維持する要因をより明確に検証する。
    終章では本稿の結論と残された課題を提示する。
    3.分析枠組みの設定
    第3章では分析枠組みの設定を行う。第1節では先行研究の検討を行い、第2節では本稿の仮
    説を提示する。
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    3.1先行研究の検討
    第3章1節では先行研究として、①メディアの利用、②高い改革姿勢、③明確な政策目標とい
    う政権維持に関するものを検討する。これらの先行研究を分析する理由は、①メディアの利用、
    ②高い改革姿勢、③明確な政策目標という3つの要因が政権の長さとどのようにかかわっている
    のかを知るためである。
    ① メディアの利用
    逢坂(2014)によると、メディアは戦前においては政府の宣伝機関になっていた。しかし戦後
    になって新憲法が成立すると、メディアは政治批判をできるようになった。その結果、政治家は
    メディアの統制をしなければならなくなっていった。実際に、第2次安倍政権における安倍首相
    は、メディアとりわけNHKに圧力をかけ、NHK会長や経営委員会といった人事に関して自分
    と共通する思想を持つ人物を就任させるという形でメディアへの統制を図っている。こうしたメ
    ディアへの統制を進めていった結果、長期政権へとつながっていった。
    ② 高い改革姿勢
    北岡(2008)によると、中曽根政権の内政上の最大課題は行政改革であった。行政改革自体は
    従来から歳出削減の必要性を理由に求められてきた。しかし、日本の政策決定システムは「中央
    省庁主導のもと自民党の関係議員を巻き込んだ」形式であり、「抵抗勢力」が存在するような行
    政改革には適さない。そこで中曽根政権は、「臨調方式」というそれまでにない意思決定方式を
    採用した。臨調方式とは「財界人や学者•知識人を中心に据えて成案を求めこれを世論の後押し
    で実現していく問題解決の仕組み」である。中曽根政権は臨調方式を用いて三公社民営化などの
    自身が掲げる高い改革姿勢を示すことができた。その結果、長期政権を維持することができたと
    される。
    ③ 明確な政策目標
    内山(2007)によると、小泉首相が進めた「小泉構造改革」は市場への規制を通じた保護、財
    政による再分配を重視していた従来の政策を転換する改革であった。すなわち「市場原理の重視
    と政府介入の抑制」を志向する改革であった。「小泉構造改革」には官僚、族議員、利益集団か
    ら構成された利益分配システムである「鉄の三角形」による既得権益を削る狙いがあった。小泉
    首相は「小泉構造改革」という明確な政策目標を定めることによって、長期政権を維持すること
    ができたとされる。
    しかし先行研究には以下のような問題がある。
    第1に、田中政権時代におけるメディアの統制はうまくいっていたにもかかわらず、田中角栄
    の金脈形成に関するスキャンダルを外国のメディアが報道した結果、田中内閣の命脈が断たれた。
    このことからメディアの統制のみでは長期政権を維持できないということになる。
    第2に、海部政権は政治改革を求める世論を背景に生まれた政権であり、小選挙区比例代表並
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    立制を内容とする政治改革法案を提出し高い改革姿勢を示した。しかし、自民党内からの反発と
    党内基盤が弱かったことから海部政権は短命に終わっている。このことから高い改革姿勢のみで
    は長期政権を維持できないということになる。
    第3に、第1次安部政権は「戦後レジームからの脱却」というスローガンを唱え憲法改正に意
    欲を示していた。このように第1次安倍政権には明確な政策目標があった。しかし、第1次安倍
    政権は短命に終わっている。このことから明確な政策目標のみでは長期政権を維持できないとい
    うことになる。
    以上の検討から、先行研究が示すそれぞれの要因は単独では長期政権を維持する要因とはなら
    ないことがわかる。
    3.2仮説の提示
    以上の先行研究の検討を踏まえ、本稿は次の仮説を提示する。すなわち、①メディアの利用、
    ②高い改革姿勢、③明確な政策目標という3つの条件がすべてそろった場合に長期政権になると
    いうものである(図1参照)。
    ① メディアの利用・~•ーーー—
    ② 高い改革姿勢 ——► 国民の支持 ——-► 長期政権
    ③ 明確な政策目標ー・—1
    (出典)筆者作成。
    図1本稿の仮説
    第1にメディアの利用である。メディアの利用には、①「メディアの活用」と②「メディア
    の統制」という2種類がある。①「メディアの活用」とは、新聞やテレビといったマスメディ
    アを活用するということを通じて、政権のパフォーマンスを国民に直接伝えるという積極的な
    利用法である。メディアをうまく活用し積極的に国民の支持を得るというものである。②「メディ
    ァの統制」とは、マスメディアに圧力をかける、あるいは懐柔策をとるという消極的な利用法
    である。メディアをうまく統制して政権にとって不利な報道を回避し、消極的に国民の支持が
    離れることを防止するものである。このようにメディアの利用がうまくいくか否かで長期政権
    にも短期政権にもなりえると考えられる。
    第2に高い改革姿勢である。首相自ら率先して前向きな改革姿勢を示すことで、プラスイメー
    ジをアピールし国民からの支持を得ることができる。逆に後ろ向きな改革姿勢を見せると、マイ
    ナスイメージがつきまとい国民からの支持を得ることができない。高い改革姿勢は小泉政権時代
    の政策である「郵政民営化」のように、中身はともかくプラスイメージの形成戦略につなげるこ
    とができれば効果がある。
    第3に明確な政策目標である。明確な政策目標があれば、政権の方針を国民に的確に伝えるこ
    とができ、結果として国民の支持を得る可能性が高まる。逆に明確な政策目標がなければ、政権
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    医療創生大学研究紀要 人文学•社会科学•情報学篇 第5号(通巻第33号)2020年
    の方針を国民にうまく伝えることができない。このように、明確な政策目標は政権運営のうえで
    重要な要素となる。
    なお、長期政権が続いた要因として単に景気が良かったからという理由も考えられる。しかし
    景気では政権の長さを説明することができない(表2参照)。短期政権である鳩山政権における
    GDP成長率は比較的高い。また長期政権として知られている小泉政権の時のGDP成長率が低い。
    これらのことから「長期政権=景気が良い」というわけではないことがわかる。以上の検討から
    首相の在任期間とGDP成長率は直接的な関係はないといえるだろう。
    表2歴代内閣の在任期間と補足データ
    首相 在任期間 実質GDP 成長率 (内閣府) 在職期間 政権政党
    田中角栄 887日 3.56% 1972/07/07-1974/12/09 自由民主党
    三木武夫 747日 3.90% 1974/12/09-1976/12/24 自由民主党
    福田赳夫 714日 4.95% 1976/12/24-1978/12/07 自由民主党
    大平正芳 555日 3.85% 1978/12/07-1980/06/12 自由民主党
    鈴木善幸 864日 3.05% 1980/07/17-1982/11/27 自由民主党
    中曽根康弘 1,806B 3.72% 1982/11/27-1987/11/06 自由民主党
    竹下登 576日 5.20% 1987/11/06-1989/06/03 自由民主党
    宇野宗佑 69 B 1989/06/03-1989/08/10 自由民主党
    海部俊樹 819日 4.20% 1989/08/10-1991/11/05 自由民主党
    宮沢喜一 644日 0.55% 1991/11/05-1993/08/09 自由民主党
    細川護熙 263日 0.60% 1993/08/09-1994/04/28 非自民連立政権
    羽田孜 64 B 1994/04/28-1994/06/30 非自民連立政権
    村山富一 561日 2.70% 1994/06/30-1996/01/11 自由民主党+新党さきがけ+日本社会党
    橋本龍太郎 933日 -0.70% 1996/01/11-1998/07/30 自由民主党+新党さきがけ+社会民主党 (旧日本社会党)
    小渕恵三 616日 1.25% 1998/07/30-2000/04/05 自由民主党+自由党(保守党)+公明党
    森喜朗 388日 -0.40% 2000/04/05-2001/04/26 自由民主党+公明党
    小泉純一郎 1,980 日 2.00% 2001/04/26-2006/09/26 自由民主党+公明党
    安倍晋三 (第一次) 366日 1.80% 2006/09/26-2007/09/26 自由民主党+公明党
    福田康夫 365日 -3.70% 2007/09/26-2008/09/24 自由民主党+公明党
    麻生太郎 358日 -2.00% 2008/09/24-2009/09/16 自由民主党+公明党
    鳩山由紀夫 266日 3.40% 2009/09/16-2010/06/08 民主党+社会民主党+国民新党
    菅直人 452日 0.40% 2010/06/08-2011/09/02 民主党+国民新党
    野田佳彦 482日 1.00% 2011/09/02-2012/12/26 民主党+国民新党
    安倍晋三 (第二次以降) 2,556 日 (2019年12月25日時点) 2.10% 2012/12/26- 自由民主党+公明党
    (出典)首相官邸ホームページ「歴代総理と歴代内閣閣僚名簿」および内閣府ホームページ「国民経済計算(GDP統計)」
    より作成。
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    和足憲明•小林祐太:長期政権を可能とする条件は何か? —— 長期政権と短期政権の比較分析 一
    仮説において提示した政権維持に関する3つの要因を組み合わせると、本稿が取り上げる事例
    は次の4つに類型化できる(表3参照)。
    第1に3つの要因がすべてそろっている場合である。これには中曽根政権、小泉政権、第2次
    安倍政権が該当し、いずれも長期政権である。
    第2にメディアの利用と高い改革姿勢が欠けている場合である。これには竹下政権が該当し、
    短期政権である。
    第3に3つの要因すべてが欠けている場合である。これには森政権が該当し、短期政権である。
    第4にメディアの利用のみが欠けている場合である。これには第1次安倍政権が該当し、短期
    政権である。
    以上のように、3つの要因がそろってはじめて長期政権になると考えることができる。3つの
    要因がすべてそろってはじめて長期政権になる理由は、いずれの要因とも国民の理解や信頼を得
    るためには必要不可欠だからである。
    それでは3つの要因のうちどれか一つでも欠けてしまった場合はどうなってしまうのだろう
    か。
    ① メディアの利用が欠けている場合、政権のアピールやメディアの統制ができなくなってしま
    い、政権にとって不利な報道がなされ、世論からの厳しい批判を受ける。その結果、政権維持が
    困難となる。
    ② 高い改革姿勢が欠けてしまった場合、政権のイメージ戦略や積極性を示すことが難しくなり
    国民からの支持を獲得しづらくなってしまう。
    ③ 明確な政策目標が欠けてしまった場合、政権の運営方針が国民に対して示しづらくなってし
    まい国民からの支持を得にく くなってしまう可能性が高い。
    以上のことから長期政権を維持するためには、①メディアの活用、②高い改革姿勢、③明確な
    政策目標のすべてがそろわなければならないということになる。
    表3仮説の各事例への適用
    長期政権の三つの要因 中曽根政権 小泉政権 第2次安倍政権 竹下政権 森政権 第1次安倍政権
    ①メディアの利用 〇 〇 〇 X X X
    ②高い改革姿勢 〇 〇 〇 X X 〇
    ③明確な政策目標 〇 〇 〇 〇 X 〇
    (出典)筆者作成。
    表3は、仮説を中曽根・小泉•第2次安倍、竹下・森・第1次安倍政権という6つの事例に当
    てはめたものである。表3を見ると、長期政権とされる中曽根・小泉•第2次安倍政権は、どれ
    も上述の3つの条件をすべて備えている。他方、1つでも欠けてしまえば短期政権となってしま
    う。
    仮説を検証するために、長期政権として中曽根・小泉•第2次安倍政権、短期政権として竹下・
    森・第1次安倍政権を取り挙げて比較分析していく。
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    医療創生大学研究紀要 人文学•社会科学•情報学篇 第5号(通巻第33号)2020年
    第4章では中曽根政権と竹下政権について分析する。中曽根政権と竹下政権を分析するのは、
    同じ中選挙区時代の政権であること、および中曽根政権の直後に組閣されたのが竹下政権である
    ことから、比較対象として適切だからである。
    第5章では小泉政権と森政権について分析していく。小泉政権と森政権を分析するのは、内閣
    機能を強化した同一条件下の政権であること、および森政権の直後の政権が小泉政権であること
    から、比較対象として適切だからである。
    第6章では第2次安倍政権と第1次安倍政権について分析していく。第2次安倍政権と第1次
    安倍政権を分析するのは、同一人物が首相であることから、仮説を厳密に検証できるためである。
    以下では、第4章から第6章にかけて長期政権と短期政権の比較事例分析を行う。その際、ま
    ずは各政権の概要を記述したうえで、仮説において提示した①メディアの利用、②高い改革姿勢、
    ③明確な政策目標という項目の順番で検証していく。
    4.中曽根政権と竹下政権の比較分析
    4.1中曽根政権
    中曽根政権は1982年7月から1987年11月まで1806日間の歴代7位の在任期間を誇っている。
    中曽根首相は日本電信電話公社•日本専売公社•日本国有鉄道の三つの公社を民営化させた政策
    である三公社民営化を実現した。他には積極的なメディア露出を行いサミットが行われた際に日
    本の首相としては初めて中央に立ち、自身の政権を積極的にアピールした。平均支持率は40%
    と一定の国民の支持を得て長期政権を維持した3。
    ① メディアの利用
    中曽根政権の場合、「メディアの活用」中心の積極的なメディア利用であった。中曽根政権に
    おけるメディアの活用の有名な例としては、アメリカのレーガン大統領との個人的な友好関係を
    メディアによって強調させたことが挙げられる。また、アメリカとの経済摩擦が起こった際には
    テレビカメラの前で市場開放や海外の製品の購入をアピールし、アメリカのレーガン大統領との
    談話を公開するなどのアメリカとの強いつながりを強調した。さらに、サミットカミ行われた際に
    日本の首相として初めて中央に立つなどしてさまざまな層から高い支持率を得ることに成功し、
    安定した勢力基盤を築き上げた4〇
    ② 高い改革姿勢
    中曽根政権の改革としては三公社の民営化が有名である。三公社民営化とは日本電信電話公社・
    日本専売公社•日本国有鉄道の3つの公社を民営化させたことを指す七三公社民営化のうち日
    本電信電話公社•日本国有鉄道は国民の生活に直結するライフラインである。こうした改革姿勢
    を示したことにより国民の支持を得ることにつながった。
    —51—
    和足憲明•小林祐太:長期政権を可能とする条件は何か? —— 長期政権と短期政権の比較分析 一
    ③明確な政策目標
    中曽根政権の明確な政策目標として挙げることが出来るのは「戦後政治の総決算」である。「戦
    後政治の総決算」とは、元々1983年の総選挙を乗り切るための発言であった。第2次中曽根内
    閣の陣容を固めた際に内政の課題として行政改革、経済改革、教育改革を掲げ実行することを訴
    え「戦後政治の総決算」を改めて唱えたものである6。こうした強い言葉を使用することで明確
    な政策目標を国民に対して積極的にアピールすることができた。
    以上のように、中曽根政権では3つの要因がすべてそろっており、長期政権となっている。
    4.2竹下政権
    竹下政権は1987年11月から1989年6月まで576日間在任していた政権である。竹下政権は
    当時成立が困難であるとみなされていた消費税導入を成し遂げた。しかしリクルート社が政治家
    をはじめ多数の人間に関連会社の未公開株をばらまいていたというリクルート事件による影響に
    より、短命となってしまったへ
    ① メディアの利用
    朝日新聞は「リクルート事件」というスクープを掲載し竹下首相も関わっていたと報じた。こ
    の報道で竹下政権はマスメディアからの厳しい批判と野党からの激しい抵抗にあってしまう8〇
    このように竹下政権はメディアの統制において失敗している。
    ② 高い改革姿勢
    竹下政権の目玉政策はふるさと創生事業である。これはすべての市町村に一律ー億円を交付す
    るという政策であった。しかし、数多くの自治体は一億円の使い道に困ってしまい、その結果多
    くの自治体では無駄になってしまった七このように、竹下政権には改革姿勢が見られなかった。
    ③ 明確な政策目標
    竹下政権において明確な政策目標として挙げることができるのは、大型間接税の導入である。
    大型間接税は大平政権や中曽根政権でも議論されてきた政策である。大平政権の時は、大平首相
    は就任前から財政再建が自身の課題であると考えていた。1979年に大型間接税の提案をするが
    反対意見が自民党内部でも強く実現しなかった[°。中曽根政権の時は、売上税の導入を目指した
    が自民党内部から多くの反対意見が出され撤回せざるを得なくなってしまった。しかし売上税関
    連法案の取り扱いは衆議院議長預かりにすることで間接税が実現できるように道筋を残すことで
    竹下内閣での消費税導入のきっかけを作った%
    竹下首相は就任当初から大型間接税の導入を明確な政策目標として定めており、周到に調整を
    進め税率を3%とし免税処置や減税処置などの対策を行うことで困難とされていた大型間接税の
    導入を成功させたん
    —52 —
    医療創生大学研究紀要 人文学•社会科学•情報学篇 第5号(通巻第33号)2020年
    以上のように、竹下政権ではメディアの利用と高い改革姿勢が欠けており、短期政権となって
    いる0
    5.小泉政権と森政権の比較分析
    5.1小泉政権
    小泉政権は2001年4月から2006年9月まで1980日という在任期間歴代6位の長期政権である。
    小泉政権の特徴として次の2点が挙げられる。第1に、郵政三事業(郵便・郵便貯金•簡易保険)
    の民営化という郵政民営化を成し遂げるために衆議院解散を行うなど、強いリーダーシップを発
    揮したことである。第2に、小泉劇場と呼ばれるメディアをフル活用した劇場型政治を行い、そ
    れまで政治に興味のなかった層などからも支持を得ることに成功し、平均支持率も50%と安定
    した支持基盤を作り上げたことである13〇
    ① メディアの利用
    小泉首相はメディアにおいて自分の主張を説明する際に一文一文を短くすることによって、テ
    レビを見ている国民に対して自分の主張をアピールしやすくするという「ワンフレーズポリティ
    クス」を実行した。その結果、演説の際には街頭には多くの観衆が詰めよせるようになるなど国
    民からの絶大な支持を得ることに成功した14〇
    小泉政権におけるメディアの利用は積極的な活用法である「メディアの活用」を中心とする。
    その代表例が郵政解散時のメディア戦略である。衆議院で郵政民営化法案が可決した後、参議院
    で自民党から造反者が出て否決された。この参議院での否決を受けて小泉首相は即日衆議院を解
    散した。これが郵政解散の経緯である。解散後の総選挙では自民党の分裂選挙という状況の面白
    さや「郵政改革派vs抵抗勢力」といった対立構造の面白さを、テレビは積極的に報じた。これ
    らのパフォーマンスにより「小泉劇場」がテレビで大々的に「公演」されることとなった。小泉
    首相はマスメディアを味方につけ大々的なアピールを行う「劇場型政治」を成功させ、選挙に勝
    利した町。
    ② 高い改革姿勢
    小泉政権における代表的な改革は郵政民営化である。郵政民営化は、小泉首相自身が「改革の
    本丸」であると位置づけている大規模な改革だった。しかし、自民党外だけではなく自民党内か
    らも反対意見が出てくるなど郵政民営化はかなり困難な改革でもあった。実際に、郵政民営化法
    案は自民党内からの造反によって参議院で否決されている。そこで、小泉首相は国民の是非を問
    うための衆議院解散総選挙を断行し、反対勢力を翻意させ郵政民営化を実現させた。
    小泉首相は自身の改革に反対する党内の反対勢力を敵対勢力として位置づけた。総選挙の際に
    は、反対勢力の議員を公認しないほか、改革に賛同する議員を刺客として反対勢力の議員の選挙
    区に擁立し、「善玉」と「悪玉」という対立構図を作り出すことに成功する、こうした対立構
    図をマスコミがこぞって報道したため無党派層や政治に無関心だった層なども取り込むことに成
    —53 —
    和足憲明•小林祐太:長期政権を可能とする条件は何か? —— 長期政権と短期政権の比較分析 一
    功し、国民から高い支持を得ることとなった。
    ③明確な政策目標
    小泉政権における政策目標としては「小泉構造改革」を挙げることができる。小泉構造改革は
    「市場原理の重視と政府介入の抑制」を旨とするものであり、市場への規制、保護、再分配を重
    視していた従来の政策に転換を迫ったものだった。従来の経済政策は、市場の規制を通じた生産
    者の保護や、財政による再分配に重点を置くものであり、官僚、族議員、利益集団から構成され
    る「鉄の三角形」を中心とした既得権益層にとって利益分配が主たる関心事だった。「小泉構造
    改革」は官僚、族議員から構成される「鉄の三角形」の既得権益を大きく削るものであったため
    激しい抵抗に直面するものの、改革はかなりの程度実現した七 小泉政権は、このような明確な
    政策目標を持っていたことにより、政策を進めるうえでやり遂げる強い意志を世間に示し存在感
    をアピールすることに成功した。
    以上のように、小泉政権では3つの要因がすべてそろっており、長期政権となっている。
    5.2森政権
    森政権は2000年4月から2001年4月までの388日間の間在任していた政権である。前政権の
    首相である小渕首相が危篤状態となり「5人組」の密室謀議により誕生した政権である。森首相
    は「神の国発言」略を初めとする数々の失言をしてしまう。その結果、自民党内部の結束を大き
    く揺るがし、「加藤の乱」という自民党内部での大規模な反乱を引き起こした。その後、「加藤の
    乱」は収束したものの自民党内部での影響力や国民からの信頼を失い、短期政権になってしまつ
    た。最終的には政権支持率が9%と前例に見ないほど落ち込んでしまい、国民や議員から多くの
    非難を受け退陣した”°
    ① メディアの利用
    森政権は数々の失言が様々なメディアで取り上げられてしまい国民からの信頼が失墜してし
    まった。その結果、自民党内の反乱である「加藤の乱」を引き起こしてしまう。「加藤の乱」とは、
    自民党の元幹事長の加藤紘一が盟友の山崎拓元政務調査会長とともに野党提出の内閣不信任案に
    同調し、加藤・山崎両派が結束して森首相を退陣に追い込もうとした倒閣運動のことを指す。し
    かしこうした倒閣の動きに対して、自民党執行部は加藤•山崎両派の議員を切り崩していった。
    最終的に加藤や山崎は十分な同調者を確保できず執行部と妥協した。とはいえ、「加藤の乱」は
    森首相の求心力を明らかに低下させた20。その結果、国会からの支持と国民からの支持の両方を
    失ってしまい、政権運営が厳しくなってしまった。
    ② 高い改革姿勢
    森政権は「5人組」の密室謀議によって成立した政権である。すなわち、前任者の小渕首相が
    病気になったため、後継を選出するために集まった官房長官の青木幹雄、幹事長代理の野中広務、
    —54 —
    医療創生大学研究紀要 人文学•社会科学•情報学篇 第5号(通巻第33号)2020年
    政調会長の亀井静香、参院議員会長の村上正邦、幹事長の森喜朗という「5人組」が密室で決め
    た政権であった。こうした経緯から、小渕政治の継承により誕生した政権であった。森政権は小
    渕政権を支えてきた自民党主流派体制の維持が目的であり、目立った改革姿勢はなかった21〇
    ③明確な政策目標
    森首相は、第150回国会の所信表明演説で21世紀の「日本新生」を築く重要な国会にしたい
    と発言したうえで、豊かな国民生活の実現と日本の競争力の強化の鍵として「日本型IT社会」
    の実現が重要であるとして政策目標をある程度示したんしかし、森政権は小渕内閣を支えてき
    た主流派の存続及び未成立法案を成立させるための政権という側面が強く、自らの明確な政策目
    標というものがあまりなかったと考えられる23〇
    以上のように、森政権では3つの要因すべてが欠けており、短期政権となっている。
    6.第2次安倍政権と第1次安倍政権の比較分析
    6.I第2次安倍政権
    第2次安倍政権は、2012年12月26日から執筆時点(2019年12月25日時点)で2,556日間
    在任している政権である。特徴としては第1次安倍政権から5年後に成立した政権でありアベノ
    ミクスという「三本の矢」を柱とした経済政策、集団的自衛権の行使容認、「共謀罪」法(改正
    組織的犯罪処罰法)の成立などといった重要政策を次々と実行し、在任期間歴代1位の長期政権
    を維持している為。
    ① メディアの利用
    第2次安倍政権におけるメディアの利用は、「メディアの統制」を中心とする。第2次安倍政
    権では、安倍首相の参謀を務める菅官房長官がメディア対策を担っている。メディア対策として
    は、報道内容に対する直接的圧力、とりわけ、NHKの会長や経営委員会の人事に政権に近い考
    えをもつ人物を就任させるという直接的なアプローチを採用してメディアへの統制を強めた25。
    メディアの統制に成功したことにより政権運営に対する批判が出にく くなり、国民からの支持も
    安定したものとなった。
    ② 高い改革姿勢
    安倍首相は、第2次安倍政権の最初の組閣後、経済再生の司令塔として「日本経済再生本部」
    の設置を行い、「経済財政諮問会議」を再起動させたことを発表した。この布陣のもとで、大胆
    な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略という「三本の矢」を柱とした「アベノミクス」を推
    し進めることを宣言した26。安倍首相は「アベノミクス」という経済再生戦略によって「デフレ
    からの脱却」を目指す改革を打ち出した。こうした経済再生のための改革に期待する世論が高ま
    り、第2次安倍政権は国民からの支持を獲得することに成功する。
    —55 —
    和足憲明•小林祐太:長期政権を可能とする条件は何か? —— 長期政権と短期政権の比較分析 一
    ③明確な政策目標
    第2次安倍政権は「デフレからの脱却」という国民生活に密着した明確な看板を前面に掲げ、
    経済再生に集中する方針を示した。こうした「経済の安倍」によって国民からの好感を得ること
    に成功した。国民からの高い好感があるがゆえに、安倍政権の歴史認識や外交•安全保障政策、
    教育政策に批判的だったメディアすらも安倍政権への期待を示すようになったん このように第
    2次安倍政権は明確な政策目標を提示することにより国民の支持を得ることに成功している。
    以上のように、第2次安倍政権では3つの要因がすべてそろっており、長期政権となっている。
    6.2第1次安倍政権
    第1次安倍政権は2006年9月から2007年9月までの366日間在任していた政権である。第1
    次安倍政権の特徴は、第2次安倍政権とは違い、党内の基盤が弱かったことである。直前の小泉
    政権の際に、派閥の力が弱体化し、安倍首相も首相になる前に閣僚経験が1回のみだったことが
    党内の基盤の弱さに影響した。また、参議院の選挙において与党が過半数割れしてしまったため、
    国会での過半数維持ができない「ねじれ国会」に陥ってしまう。最終的には、体調不良を理由と
    して366日間という短い在任期間で政権を放り出すことになった28。
    ① メディアの利用
    第1次安倍政権における「メディアの活用」は失敗している。安倍首相は就任直後にぶら下が
    り取材を一回にしたいと記者団に唐突に申し入れ、記者クラブとの関係が悪化してしまった。そ
    の結果、「メディアの活用」が失敗してしまった。この申し入れはのちに撤回されたものの記者
    クラブとの関係にしこりを残すこととなった。2001年にNHKで放送された「戦争をどう裁く
    か 第2回『問われる戦時性暴力』」という番組に対して、当時内閣官房副長官であった安倍晋
    三氏が放送内容変更の介入をしたと2005年になって『朝日新聞』が報道した。安倍首相は否定
    したものの新聞との関係も悪化してしまう。メディアとの関係を悪化させてしまったことで政権
    はメディアから批判されるようになり、国民からの信頼を失う結果となった29。
    ② 高い改革姿勢
    安倍首相は、自民党総裁選出馬を正式に表明した際に「改革の炎を燃やし続け、日本をチャン
    スと活力、優しさに満ちあふれる国にしたい」と決意表明をした。さらに、「美しい国、日本。」
    と題する大胆な政権構想を発表した。すなわち、安倍首相は新憲法の制定や教育の抜本改革を打
    ち出し、集団的自衛権に関しても、政府解釈を変更して部分的に行使を容認する意向を示した。
    このように安倍首相は高い改革姿勢を示した30。その結果、第1次安倍政権は発足当初は国民か
    ら高い支持を得ることに成功した。
    ③ 明確な政策目標
    安倍首相は、「市場原理を重視する新自由主義的改革を推し進めて無党派層の支持を獲得する
    —56 —
    医療創生大学研究紀要 人文学•社会科学•情報学篇 第5号(通巻第33号)2020年
    ともに、憲法改正などを鮮明に打ち出して草の根保守を動員することで、民主党に対抗する」’I
    という明確な政策目標を打ち出した。こうした明確な政策目標により国民から一定の支持を得る
    ことに成功した。
    以上のように、第1次安倍政権ではメディアの利用のみが欠けており、短期政権となっている。
    7.結論と残された課題
    7.1結論
    本稿の問いは「なぜ中曽根•小泉•第2次安倍政権は長期政権を維持することができたのか」
    というものであった。この問いに対して本稿は「①メディアの利用、②高い改革姿勢、③明確な
    政策目標という3つの要因がすべてそろった場合に長期政権になる」という仮説を提示した。そ
    して長期政権として中曽根・小泉•第2次安倍政権、短期政権として竹下・森・第1次安倍政権
    という6つの政権を取り上げ、比較事例分析を行った。中曽根・小泉•第2次安部政権は3つの
    要因がすべてそろっており国民の支持を得ることに成功している。その結果、長期政権につながっ
    ていったと考えられる。一方、竹下•森•第1次安倍政権は3つの要因のうち少なくとも1つが
    かけている。どれか1つでも欠けると国民の支持を得ることができず、短期政権になると考えら
    れる。
    以上の比較事例分析による検証の結果、「長期政権が成立するには、①メディアの利用、②高
    い改革姿勢、③明確な政策目標という3つの要因がすべてそろっていることが必要不可欠である」
    という仮説が支持された。
    7.2残された課題
    長期政権を維持する要因に関して、①メディアの利用、②高い改革姿勢、③明確な政策目標と
    いう3つの要因以外にも、選挙における勝利を検討する必要がある。実際に、長期政権となって
    いる政権はいずれも衆議院解散後の総選挙において歴史的な大勝利をおさめている。中曽根政
    権では、1986年の解散総選挙において自民党は304議席以上を獲得する歴史的大勝を得ている。
    小泉政権では、2005年の「郵政解散」後の総選挙において、自民党は296議席を獲得して圧勝
    した。第2次安倍政権では、2017年の解散総選挙において、野党第1党であった民進党の分裂
    にも助けられ、自民党と公明党の連立与党は衆議院における3分の2以上の議席を獲得している。
    すなわち、「国民の支持一長期政権」という因果関係ではなく、「国民の支持一選挙における勝利
    -長期政権」という因果関係を想定するという見方である。
    しかし、先に仮説で取り上げた3つの要因は国民の支持につながるという過程に関するもので
    あるのに対して、選挙における勝利という要因は国民の支持が長期政権につながるという過程に
    関するものである。この点で本稿の仮説の枠内にある問題であり、致命的な問題ではない。選挙
    における勝利については今後の分析課題としたい。
    —57 —
    和足憲明•小林祐太:長期政権を可能とする条件は何か? —— 長期政権と短期政権の比較分析 ——
    <参考文献>
    (2015)『検証安倍イズム」岩波新書。
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    (2014a)『平成政治史1」岩波書店。
    (2014b)『平成政治史2」岩波書店。
    (2014c)『平成政治史3」岩波書店。
    (2018)
    (2006)
    (2012)
    (2015)
    (2015)
    『平成政権史」日本経済新聞出版社。
    『首相支配JI中公新書。
    『現代日本の政党デモクラシー」岩波新書。
    『右傾化する日本政治」岩波新書。
    『中曽根康弘」中公新書。
    石川真澄・広瀬道貞(1989)『自民党」岩波新書。
    内山融(2007)『小泉政権」中公新書。
    逢坂厳(2014)『日本政治とメディア」中公新書。
    柿崎明二
    北岡伸一
    後藤謙次
    後藤謙次
    後藤謙次
    芹川洋一
    竹中治堅
    中北浩爾
    中野晃一
    服部龍二
    馬場康雄•平島健司(2010)『ヨーロッパ政治ハンドブック 第2版」東京大学出版会。
    星浩(2005)『自民党と戦後」講談社現代新書。
    待鳥聡史(2012)『首相政治の制度分析」千倉書房。
    薬師寺克行(2014)『現代日本政治史」有斐閣。
    渡邊昭夫(2001)『戦後日本の宰相たち」中公文庫。
    (2015)185-281頁。
    (2008) 237—241頁。
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    (2015)
    (2008)
    (2014)
    (2014)
    (2001)
    (2001)431-434頁。
    <注>
  3. アゴラ言論プラットフォーム『(特別寄稿)大統領•首相の理想的な在任期間は10年だ」http://agora-web.jp/
    archives/2033795.html(2018年12月 5 日アクセス)。
  4. 薬師寺(2014)10頁。
  5. 服部
  6. 北岡
  7. 待鳥
  8. 服部
  9. 北岡
  10. 逢坂
  11. 後藤
  12. 渡邊
  13. 渡邊
  14. 星(2005) 83-84頁。
  15. 内山
  16. 後藤
  17. 逢坂
  18. 内山
  19. 内山
  20. 神の国発言とは森首相が日本は民主主義国家として成立しているにもかかわらず日本は天皇を中心とした神
    の国であると発言したことである。
  21. 石川(2010)199-203頁。
  22. 竹中(2006)134-136頁。
  23. 星(2005)100頁。
    201-233頁。
    257-264頁。
    180-184頁。
    35-36頁。
    356— 365頁。
    (2007)〇
    (2014b) 168-188頁。
    (2014) 292-299頁。
    (2007)100-104頁。
    (2007) 22-27頁。
    —58 —
    医療創生大学研究紀要 人文学•社会科学•情報学篇 第5号(通巻第33号)2020年
  24. 首相官邸ホームページ『第百五十回国会における森内閣総理大臣所信表明演説』https://www.kantei.go.jp/
    jp/morisouri/mori_speech/2000/0921jpg_syosin.html(2018年11月20日アクセス)。
  25. 後藤(2014b) 104-105頁。
  26. 芹川(2018) 241-271頁。
  27. 中野(2015)155-157頁、逢坂(2014) 346-348頁。
  28. 首相官邸ホームページ『第百八十三回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説」http://www.kantei.
    go.jp/ (2018年11月19日アクセス)。
  29. 柿崎(2015) iii- v 頁。
  30. 後藤(2014c) 4-80 頁。
  31. 逢坂(2014) 302-305頁。
  32. 後藤(2014c)10 頁。
  33. 中北(2012)158頁。
    (わたり のりあき/政治学•行政学)
    (こばやし ゅうた/政治学)