食料消費の主役はインドに 爆食の中国後退、FAO予測
編集委員 下田敏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD047FD0U4A700C2000000/
『2024年7月9日 5:00
世界の食料消費市場の主役が「爆食」の中国からインドに代わる。国連食糧農業機関(FAO)と経済協力開発機構(OECD)は、今後10年間に世界の食料消費における中国のけん引力は衰え、インドの影響力が強まると予測する。新興・途上国での食習慣の変化などが将来の食料需給を左右する可能性がある。
FAOなどの2024〜33年の農業予測によると、飼料用などを含めた農産品の消費量(カロリーベース)は年平均で1….
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『FAOなどの2024〜33年の農業予測によると、飼料用などを含めた農産品の消費量(カロリーベース)は年平均で1.1%増える。FAO市場・貿易部のホルガー・マテイ・シニアエコノミストは「需要の伸びの94%はインドやアフリカ、東南アジアなど新興・途上国からもたらされる」と分析する。
食料市場におけるインドの影響力が拡大する(インド西部の水田を歩く農家)=ロイター
最大の変化は中国からインドへの主役交代だろう。過去10年(14〜23年)は食料需要の伸びのうち28%は中国の爆食によるものだったが、次の10年(24〜33年)はこの比率が11%に急低下する。代わってインドのシェアが13%から20%に拡大する。右肩上がりで人口の増加が続くサブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカの比率も、10%だったのが18%を占めるようになる。
インド、小麦消費量は中国に迫る
主食の消費予測をみても主役の交代は明らかだ。33年の中国の小麦の消費量は約1億4700万トンと予想される。世界最大の消費国ではあるが、その伸びは21〜23年平均に比べて2.6%増にとどまる。この間にインドの消費量は約1億3700万トンと一気に27.7%も増加し、中国の水準に迫る。コメでみても中国の消費量は横ばいだが、インドは22.8%と大幅な拡大が見込まれている。
中国の爆食が影を潜めるのは急速な人口減少に加え、所得の伸び悩みも予想されるためだ。対照的にインドでは都市部を中心に人口が増えるうえ、生活水準も向上するとFAOなどはみている。
食肉が世界の需給を左右
読み切れないのは食生活の変化だ。中国とインドの人口は現在14億人強で同規模だが、21〜23年平均の食肉の消費量は中国の約9900万トンに対してインドは約790万トンと、わずか12分の1だ。食文化の違いはあるにしても、一般に所得の多い国ほど食肉の消費量は多く、経済成長に伴って消費量も増える。インドはベジタリアンの人口も多いことから、FAOなどは今後の消費量を低めに見積もっているが、所得の増加などで食習慣が変われば、飼料用穀物などを含め世界の需給動向に大きく影響する。
これからの10年で新興・途上国の食料消費が拡大するのは間違いない。先進国では小麦の消費量は3.8%増、牛肉は1.7%増が見込まれるが、新興・途上国では15〜17%増と需要が大幅に伸びる。人口が現在の約14億9000万人から33年には約18億人となるアフリカでは、小麦・トウモロコシ・コメの主食だけで消費量が22〜42%と急増することが予想される。
人口増加や所得の伸びに伴う新興・途上国での食料需要の増大に対応できるのか。地政学的な緊張がもたらすサプライチェーン(供給網)の混乱、動植物の感染症の拡大など、食料の安定供給には多くの不確定要因が残る。最大のリスクは気候変動による異常気象の頻発と甚大な農業被害だろう。
欧州環境機関(EEA)は直近のデータから、記録的な猛暑となった23年に続き、24年も熱波や山火事などが相次ぐ可能性があると分析する。そのうえで「気候変動によって熱波や干ばつ、豪雨が激しさを増し、その頻度も高まっており、農業の生産性が低下している」と警告する。
異常気象による豪雨で水没した畑(ケニア)=AP
また、今世紀半ばには主要な農作物の生産や畜産に適している農地の約10%が、気候変動のために利用できなくなるという試算もある。
食品ロス半減が1.5億人を救う
FAOなどは食料の安定供給を図るうえで、生産された農作物のおよそ3分の1に相当するとされる食品ロスの削減が有効と提言している。30年までに小売店や家庭における食品ロスを半減させれば、食料価格の下落を通じて、低所得国では食料摂取量が10%、低中所得国で6%それぞれ増えると試算する。世界全体では30年に6億人が飢餓に直面すると予想されるが、食品ロスの半減は飢餓人口を26%、1億5300万人減らす効果がある。
牛肉、マグロ、食用油と、中国の爆食で日本人は食料価格の上昇のあおりを受けてきた。経済成長と所得増加につれて他の新興・途上国でも食への渇望が強まれば、食料需要の増大は止められないだろう。だとしたら、食品ロスへの取り組みを含め、激しさを増す気候変動のショックにも耐えうるような持続可能な食料システムを早期に整えるしかない。
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