仏選挙、世界市場の火種に 国債は欧州危機時並みの急変

仏選挙、世界市場の火種に 国債は欧州危機時並みの急変
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『2024年6月17日 5:00

【ロンドン=山下晃、パリ=北松円香】世界の金融市場がフランスの政治情勢に揺れている。6月末から投票が始まる下院選で極右政党が躍進する公算が大きいためだ。

財政悪化が懸念され先週の仏国債は欧州危機時並みの急変動となったほか、欧州株の下落もきつい。

17日の東京市場で日経平均株価は前週末比で一時800円安となり、リスク回避ムードが強まっている。

「こんなパニックは久しぶりだ。2023年春の(スイス金融大…

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『2023年春の(スイス金融大手の)クレディ・スイスが崩壊していく時の感じに似ていた」。ロンドンに拠点を置く大手金融機関の金利為替部門からはこんな声が漏れた。マネーの逃避場所となったドイツ国債の先物には買いが殺到した。

マクロン仏大統領は欧州議会選で敗北結果を受け、下院議会の解散選挙を発表。市場の虚を突いたこの発表は9日、日曜日の夜だった。先週の週明けから英RBCブルーベイ・アセット・マネジメントは独国債を買い込んでいった。

英国時間14日の朝、日銀の決定会合の内容をチェックしようと朝早くから働いていた同社のマーク・ダウディングCIO(最高投資責任者)は同日も欧州債市場に注目していた。日銀が国債買い入れ減額の具体化を先延ばししても対ドルの円相場がそこまで円安に振れなかったのはこうした欧州市場の混乱が影響したとみる。

仏国債の信用が一時的に下がったことで、投資家は独国債よりも仏国債に高い金利を要求するようになった。独10年物国債に対する金利上乗せ幅(スプレッド)は14日に約0.75%に拡大した。極右政党の国民連合(RN)を主導するルペン氏が勝利する可能性が取り沙汰された17年の大統領選の時以来の大きさだ。週間の拡大幅は0.3%弱と2011年の欧州債務危機の局面以来の振れ幅となった。

ブルーベイのダウディング氏は「上乗せ金利は0.80〜0.85%までは拡大していくだろう」と話す。一方で「社債市場はまだ落ち着いている。まだパニックになる必要はない」として独国債の一部は売却して利益を確定しているという。

英バークレイズの株式アナリストチームは週半ばに緊急の投資家向け電話会議を開き仏国債の急落について質問に答えた。当面、政治的要素に敏感な仏株からは距離を置くべきだとした。

「フランスの政局不安が欧州域内のセンチメントを冷え込ませる可能性はある」と欧州株チームを率いるエマニュエル・カウ氏はリポートで言及。同チームは欧州株は世界の株式よりも高い運用成績を上げられるとしていたこれまでの推奨を撤回した。

調査会社クラスター17による直近の世論調査では、下院選でRNに投票すると答えた人は29.5%。左派連合は28.5%だった。解散前は議会の第1勢力だった与党連合の支持率は18%で、選挙後は議席数を大幅に減らす恐れがある。

フランスの政治制度では大統領は議会の意向を踏まえて首相を任命する。選挙の結果次第では、中道のマクロン大統領に対して首相は極右か左派というねじれ現象が生じる可能性がある。

予算編成など内政は首相が主導する。極右首相が人気取りのため公約する付加価値税の引き下げなどに踏み切れば、新型コロナウイルス禍で膨らんだ財政の再建シナリオは崩壊する。RNに続いて支持率が高い左派連合も、年金改革見直しや最低賃金引き上げなどの大盤振る舞いを公約している。

仏国債は5月に米格付け大手S&Pグローバル・レーティングが格付けを引き下げたばかり。政治の混乱が財政悪化につながりかねず、格下げ懸念を再燃させている。

【関連記事】仏株価、週間で2年ぶりの大幅安 極右台頭を警戒

仏株式市場では金融株の下げがきつい。仏金融大手BNPパリバやソシエテ・ジェネラルは先週、12〜15%安の下落となった。大手銀行はその国の格付け水準が上限となる「ソブリンシーリング(天井)」効果を受けやすいとされる。ポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭すると銀行課税などが検討されるとの思惑も重荷になった。

14日にはイタリアのウニクレディトが6%安、インテーザ・サンパオロも3%下げるなど他国の銀行株へも影響が波及した。

ジェフリーズの欧州担当チーフエコノミスト、モヒト・クマール氏は「ヘッジファンドは仏国債をショート(売り持ち)しているが機関投資家はまだロング(買い持ち)。伝統的な仏国債の買い手であるアジアの投資家の動向は重要だろう」と指摘する。

下院選挙は6月30日に第1回投票、7月7日に決選投票と続く。「選挙を数週間後に控え、なかなか買い手が現れず、ボラティリティー(変動)が高い状況が続きそうだ」(ジェフリーズのクマール氏)という。

欧州の政治不安は週明けの東京市場を直撃した。17日の日経平均株価は前週末比で800円超下げ、一時3万8000円を下回った。欧州売上高比率の高いマツダやコニカミノルタが一時4%安になったほか、日本板硝子が一時5%下落した。米景気の減速懸念が残るなかで、欧州政治不安が重なった格好で、投資家のリスク回避姿勢が強まる可能性がある。

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伊藤さゆり
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 常務理事
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分析・考察 欧州議会選では、国民連合(RN)の躍進が大きく取り上げられたが、左派の伸長も大統領与党の議席減につながった原因だ。

仏政府は3つに分断しており、その中で大統領与党が最も劣勢だ。

解散総選挙を決めたマクロン大統領とその側近の読みは、一騎打ちとなる第2回投票は、極右対与党連合の構図となり、消去法的選択で与党連合勝利だったのだろうが、世論調査を見る限り、与党連合が第2回投票に進めず、右派対左派の一騎打ちになる可能性も現実味を帯びる。

総選挙での勝利が視野に入ったRNは「マクロン年金改革の撤回」は先送りするなど政策を現実路線に近づけつつ、よりバラマキ色の強い左派連合を攻撃する戦略をとっている。

2024年6月17日 11:09いいね
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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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今後の展望 通常、見逃される欧州議会選挙のリスクだが、今年は大きいことは明らかだ。

反環境、反移民、インフレによる生活苦からの不満分子が多すぎることがわかった。

米国大統領選挙も同じで、不満分子が多すぎるから、トランプ前大統領が返り咲く可能性が大きく残る。

世界中に、不満分子が多い、というわけで、それがポピュリズムを台頭させ、勢いづかせる。

人気取りが主眼になると、減税に補助金の合わせ技など、無理な財政状況になりやすいことは、英国のトラス政権の記憶が新しいことからもわかる。

いささか、リスクが大きいからこその国債スプレッドだとすると、これからの財政規律の弛緩には注意が必要だ。

2024年6月17日 10:59いいね
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滝田洋一
日本経済新聞社 客員編集委員
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ひとこと解説 ①他人事ではありません。何しろドイツと比べた利回りの高さに引かれて、フランス国債を大量に保有するのは日本の投資家なのですから。

②欧州中央銀行(ECB)が昨年5月に発表した金融安定評価によれば、日本勢は仏国債全体の6%を保有しています。「日銀の金融政策正常化は世界の債券市場に大規模な影響を及ぼすかもしれない」とECB。

③折しも日銀は金融の量的引き締めに舵を切り出そうとしています。そのタイミングで、フランスの政局が激動期に。投資家を敵に回すまいとルペン氏がある程度現実路線に舵を切るかどうか、ヤキモキする局面といえましょう。

2024年6月17日 7:34 』