「海の憲法」国連海洋法条約 権益・紛争解決手段を規定
国際法を読む
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB10B9P0Q4A610C2000000/


『2024年6月13日 2:00
南シナ海の領有権を巡り、フィリピンと中国の非難の応酬が激しさを増している。中国は領海に違法侵入した疑いのある外国人を最大60日間拘束できる法令を15日に施行する予定で、両国間の新たな火種となる。「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約はルールをどう定めているのか。
国連海洋法条約は海洋の利用や規制に関する国際法上の権利義務を定める。領海や排他的経済水域(EEZ)といった海域の境界画定、紛争解決の手立…
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『領海や排他的経済水域(EEZ)といった海域の境界画定、紛争解決の手立てなどを包括的に規定する。1982年に採択し94年に発効した。168カ国と欧州連合(EU)が締結している。
南シナ海問題は中国による海洋進出や軍事拠点化に対し、領有権を主張するフィリピンやベトナムなど周辺国が反発する構図だ。南シナ海は国際航路の大動脈で、天然ガスや漁業などの資源が豊富にある。
中国は南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺を埋め立て、滑走路やレーダー施設を建設してきた。足元では中国海警局の船舶がフィリピン船に衝突したり放水銃を発射したりする事件が続発し、緊張が高まっている。
国際法廷では司法判断が下されている。同条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年、フィリピンの提訴による裁判で中国が主権を唱える独自の境界線「九段線」に国際法上の根拠がないと認定した。九段線の歴史的権利を認めず、中国にとって全面敗訴の内容だった。
仲裁裁判所は領有権や海洋境界の画定に関しては管轄権がない。このためフィリピンは中国が埋め立てを進めて実効支配するのが「島」ではないと主張し、中国の領海などを間接的に否定する戦術をとった。
同条約は島や岩の定義を明記する。岩は領海を持つものの沿岸国が漁業や資源開発の権利があるEEZは持たない。満潮時に水没する「低潮高地」は領海もEEZも設定できない。判決では中国が造成する人工島を「島」と認めなかった。
同条約は判決を「最終的なもの」として当事者に従うよう義務付ける。中国は同条約の締約国で、判決を受け入れない行為は国際法に反する。それでも中国は「判決は違法で無効だ」と主張し、海洋進出を通じて領有権を既成事実化する試みを続ける。
国内法は条約に沿った立法が必要だが、国内法の制定による条約の否定は中国の常とう手段と化している。例えば中国は、他国の船舶が秩序や安全を害さない限り領海の通航を妨げてはならないと定める「無害通航権」に国内法で制限をかける。
神戸大の坂元茂樹名誉教授(海洋法)は中国の行動について「条約の自己中心的な解釈により条約を深刻にゆがめている」と指摘する。判決の執行を強制できない国際司法の限界に触れ「国際社会は力による現状変更を認めないと粘り強く主張し続けるべきだ」と説く。
(児玉章吾)』