世銀副総裁、途上国支援拡大に意欲「1050億ドルが目安」

世銀副総裁、途上国支援拡大に意欲「1050億ドルが目安」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB233IX0T20C24A5000000/

『世界銀行で開発金融を担当する西尾昭彦副総裁は日本経済新聞の取材に対し、最貧国支援を行う国際開発協会(IDA)の増資について「(過去最大だった)前回(3年前)の930億ドル(15兆円)を上回りたい。1050億ドル(17兆円)程度が一つの目安だ」と述べた。開発金融の現状と課題について聞いた。

――今回のIDAの増資交渉の感触はいかがですか。

「増資交渉を担当するのは5回目となる。従来とまったく違う点…

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『従来とまったく違う点がある。交渉が始まる2023年から主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)のコミュニケで今回の増資交渉を成功させるという趣旨の文言が入った。素晴らしいことだ」

「交渉は5回の会合があり、最後の会合をどこでやるかが重要だ。今回は韓国に決まった。IDAから支援を受けていた国だったが、1970年代から支援資金を拠出するドナー側になるまで成長した。韓国はIDAでは特別な地位を持っており、機運が高まるだろう」

――今回の交渉でめざす規模感はどのくらいの水準ですか。

「ターゲットはない。ただ前回の930億ドルというのは明らかに上回りたいと思っている。インフレ率を考慮すると1050億ドルくらいが一つの目安だ。1ドルでも多いほうが良い。資金需要はものすごく高いので応えたい」

――途上国債務のリスクについてどうみていますか。

「債務リスクの高い順に赤・黄・青の3色で分けている。IDA支援対象の75カ国は新型コロナウイルス禍が始まる何年も前から赤の国が増え、今はもう6割近くにのぼった。ただこの2年間、赤の国は減っている」

「債務の問題を良い方向に持っていくため、支援を受ける国が取る必要なアクションに合意する。アクションが履行されない場合は一定の金額を支援から差し引く。こうした取り組みが成果を生んでいるのではないか」

――実際に支援を進めるうえではどういった分野に資金を使っていくべきか教えてください。途上国の資金のニーズはどこにあるのでしょうか。

「如実に見られるのは気候変動による災害への対応だ。農業が成立しないような地域がどんどん増え、難民も増えたという指摘がある。アフリカはインフラが欠如し、何億人もの人が電気にアクセスできない。コロナ禍で学校に行けなくなった子どもたちの学力も落ちて取り返せていない」

「IDA支援対象の75カ国のうち33カ国は紛争の影響を受ける脆弱国だ。ミャンマーやスーダンでは民主政権が誕生し、世銀とも協力するようになったが逆行してしまった。そういうケースにどのように対応して取り組んでいくかも大きな課題になっている」

――開発援助の分野では中国の存在感が高まっています。途上国にとってありがたい面がある一方、中国の意向を聞かざるをえなくなるリスクも指摘されています。

「中国はめざましい勢いでIDAのドナー国となり、資金提供国として重要だ。債務がかさんでいる国でも良いプロジェクトだったら経済成長につながり返済能力も付くから融資すべきだというのが伝統的な中国の考え方だったが、最近はあまり言わなくなった」

「ほとんどが国有銀行からの融資なので、デフォルト(債務不履行)のリスクを考えるようになった。どの国の債務リスクが高いか、非常に気にしている。地道に彼らと対話を続けたから起きていることだ。中国側との対話を続けることが重要だ」

(聞き手は新井惇太郎)』