アフリカで暗躍するロシアの傭兵団】ウクライナ戦争の継続資金へと変わる、クーデター協力と鉱物資源

アフリカで暗躍するロシアの傭兵団】ウクライナ戦争の継続資金へと変わる、クーデター協力と鉱物資源
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/34080

『2024年6月11日

5月13日付ウォールストリート・ジャーナル紙は「なぜロシアはアフリカの席捲を目指すのか(Why Russia Seeks to Dominate Africa)」とのウォルター・ラッセル・ミード教授による論説を掲載している。ミードは、ワグネルのアフリカ浸透はウクライナ戦争継続を助けており、これに対応するために米国は民主主義振興と人権尊重を重視した対アフリカ政策を見直すべきだと論じている。その要旨は以下の通り。
2023年6月24日ワグネル民間傭兵グループの戦闘員たち(ロイター/アフロ)

 世界で紛争が頻発する中、ニジェールは重要ではないかもしれない。米軍は不名誉な撤退をしており、米軍の空軍基地にはロシア軍が入っている。

 昨年夏のクーデター以前は、ニジェールはアフリカでの米国の民主主義振興努力の象徴で、反テロ戦略の基盤だった。米国が支援した大統領は軟禁され、クーデター指導者はワグネルと共働している。

 「通常」であればニジェールは重要でないだろうが、今はそうではない。ニジェールへのロシアの浸透はより幅広い文脈で繰り返されている。

 リビアから南アフリカまで、プーチンは米国と西側の失敗に乗じ鉱物資源を手に入れ、西側の安全保障計画を複雑化し、制裁破りの能力を高めている。ワグネルは、英国の東インド会社以来最も成功した半官半民の傭兵会社で、フランスへの広範な憎しみと西側が支援する政府が弱体なことに乗じてきた。彼らは、金、ダイヤモンド他の鉱物資源で富を築き本国のパトロンに供給してきた。

 プーチンにとりアフリカ戦略の利益は明白だ。ワグネルの活動は数十億ドルを生み出し、内いくらかはプーチン周辺のオリガルヒに流れ、ウクライナ戦争遂行も助けた。そして、採掘活動とアフリカ全土の政府との関係は資金洗浄と制裁逃れを可能とし、プーチンの戦争継続を更に支援した。』

『どうして西側はこれほど不運なのか。この地域ではビジネスが難しいからだ。政府は弱体で、国境は不確定、市民社会は分断されている。加えて、地域のほとんど全ての者は植民地時代の宗主国であるフランスを憎んでいる。

 しかし、米国がアフリカを人権活動と民主主義振興の実験場にしてきたことも原因だ。最近までアフリカは米国ビジネスや安全保障部局にとり重要性が低かった。

 米国の投資は少なく、軍計画策定者にとりアフリカはインド太平洋他の地域に比べ重要性が低かった。アフリカ政策はNGO他の活動家のもので、米国国際開発庁(USAID)は不釣り合いな影響力を持ってきた。

 これは不幸だ。なぜなら、サヘルには民主主義の持続可能な振興の条件がほとんどないからだ。結果この地域での米国の活動は、不透明な民主主義と達成不可能な開発目標の追求に費やされてきた。

 悪い人権政策は非生産的のみならず残虐たり得る。この地域の問題の多くは2011年の西側のリビア内戦介入に遡る。この愚かな行動は、リビアに10年以上の悲惨な状況と戦争をもたらし、サヘルに多量の武器が流入しカダフィがテロリストに課していた制約を緩めた。

 西側外交官とNGOの30年の開発協力と民主主義振興と人権活動は、ワグネルの全盛を招いた。期待と計画とは異なる。

 バイデン政権はアフリカ政策を再考すべきだ。西側が過去の間違いから教訓を学ぶまでは、ワグネルの流入は続く。

*   *   *
米国だけの問題ではない

 ウクライナ戦争を闘う中で、ニジェールで起こっていること(米仏の撤退とワグネルの浸透)は戦略的に重要だとのミードの視点には賛同できるが、対応ぶりについては、若干意見がある。

 まず、アフリカ問題への対処は第一義的には米国ではなく欧州がやるべきだろう。米国が能力的には引き続き世界唯一最大の超大国であるにも関わらず、問題解決への対処・関与の意思が急速に減退している現状を考えれば益々そうである。

 米国は限られた「やる気」の使い先について優先順位をつけながら考えていくべきだが、アフリカの優先順位は高くないだろう。

 先の岸田文雄首相の訪米の際の議会演説でのメッセージの通り、米国には引き続き戦後米国が主導してきた世界的秩序維持のために働くことが望まれる。しかし、米国はそれを一人でやる必要はなく、インド太平洋であれば、日本・豪州・韓国他の同盟国が支援するし、アフリカであれば、北大西洋条約機構(NATO)のパートナーである欧州諸国が支援すべきで、米国はそれを欧州に要求する正当な権利があるはずだ。』

『 旧宗主国の人気がないというのはよく理解できる。しかし、NATOは東(ロシア)と南(アフリカ難民・テロ問題)の両方に対処することになっているのであり、今は東が中心であるとしても、南をいつまでも疎かには出来ない。

 さらに言えば、NATOではなく、欧州連合(EU)をベースとした欧州の安全保障協力は進んできている。旧宗主国が表に立つことなく、欧州としての共同対処軍を作ることは出来るはずだ。
制裁ではなく、支援を

 第二に、まさにミードが指摘するように、優先目的とアプローチを変える必要があるのではないか。民主的に選ばれた政府が弱体で、国民に対して基礎的なサービスさえ提供できないようであれば、クーデターが起こるのは止めようがない。

 換言すれば、現在世界を見渡せば、「民主主義を装う権威主義」は数多く存在している。ロシアの例を見るまでもなく、いわゆる「選挙独裁」は世界に蔓延しているのだ。

 そのような中で、選挙により民主的に選出された指導者云々と言っても空虚に聞こえるだけだ。まず、クーデターが発生した場合には、民主化への工程表を示さなければ、その国に対する安全保障面での支援が出来なくなる、という米国の法制度は変える必要がある。

 クーデターが起こるような脆弱な政府のある国に対してこそ、民生のための支援は強化すべきなのだ。次に、悪いことをやったら制裁するという考え方を基本的に変え、良いことをやれば報われるというポジティブなリンケージにすべきだ。

 ニジェールについては、ウランをイランに輸出するかどうかという深刻な問題があるが、この点では、ニジェールがウランをイランに輸出したら安全保障協力をストップするという脅しではなく、対イラン輸出を思いとどまるなら、米国(又は欧州諸国)がウラン他の採掘と販売に協力する(民間企業が投資する)ということが望ましい。ニジェールのウランのほとんどはフランスが輸入しており、フランスが出来ることは大きいはずだ。』