改正入管法が施行 難民申請中の強制送還が可能に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA021IE0S4A600C2000000/
『2024年6月9日 5:00 (2024年6月10日 7:24更新)
難民認定の申請中でも強制送還できるようにする改正出入国管理法が10日、施行した。申請手続き中は送還を停止する従来の規定を改めた。3回目以降の難民申請者が「相当の理由のある資料」を提出しなければ、強制送還の手続きに入る。
「相当の理由」には紛争の発生など本国の情勢に変化があったなどが挙げられる。提出の様式に定めはなく口頭の説明でもよい。
法務省によると、国外への退去が確定しても出国を拒む「送還忌避者」は2022年末時点で4233人に達した。21年末の3224人のうちおよそ半数が難民認定の申請者だった。
同省は在留資格を失った外国人が日本での滞在を延長するために難民申請を続ける点を問題視してきた。
審査にかかる時間が長期化すると、本来保護すべき人を迅速に救済できなくなる。10年に難民認定の申請者に、申請から半年後に就労を認める運用を開始したことで、就労目的とみられる申請が急増した。17年に申請がおよそ2万件を数えた。
その後は一律に就労を認める運用をやめ、18年には明らかに難民に該当しない理由で申請を出した場合は在留資格を制限する運用を開始していた。
かねて日本は難民受け入れの少なさを指摘されてきた。23年は8184人分の申請を処理し、難民認定したのは3.5%の289人にとどまった。不認定後の再請求で認められたのは14件にすぎない。
日本は1981年に難民条約に加入した。日本弁護士連合会は22年9月、政府が難民条約の「国際的な解釈基準から乖離(かいり)して、行政・司法が極めて限定的な独自の解釈を用いている」との意見書を出した。
そもそもの認定基準が厳しいことに加えて、申請中の強制送還が可能になれば、母国で迫害の対象となる恐れのある人を保護できなくなるとの批判もある。
今回の改正法では、入管施設への収容の代替措置として出入国在留管理庁が認めた監理人が監督するもとで生活しながら強制送還の手続きを進める措置を導入した。
逃亡の恐れがあるかなど3カ月ごとに収容の必要性を検討する。監理人は入管庁の求めに応じて報告する義務がある。怠れば罰則の対象となる。
ロシアの侵略を受けるウクライナなど紛争地から逃れてきた人たちを「準難民」として認定し受け入れる制度も盛り込み、すでに施行した。難民に準ずる「補完的保護対象者」として扱う。
補完的保護対象者には難民と同様に定住者の在留資格を与えたり、国民年金を支給したりする。就労の制限もない。永住許可の要件も緩和された。日本に来たウクライナからの避難民は24年5月末時点で2000人超いる。以前は政府が特別に滞在を認めたり生活費を支援したりして対応していた。
小泉龍司法相は5月28日の記者会見で、改正法について「保護すべき者を確実に保護し、ルールに違反した者は厳正に対処する。日本人と外国人が尊重しあうバランスのとれた共生社会の基盤をつくるという考え方によって成り立っている」と説明した。
政府は当初、21年の通常国会で法改正を目指した。名古屋出入国在留管理局で収容中だったスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが21年に死亡した。問題視した野党が猛反発し、政府・与党は提出した改正案を取り下げた。
23年の通常国会で再び審議され、与党や日本維新の会、国民民主党などが賛成し成立した。衆参両院は難民申請の規定で施行後5年をめどに必要な改定を検討することを盛り込んだ付帯決議を採択した。
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吉田徹
同志社大学政策学部 教授
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ひとこと解説
日本の難民認可率の低さは、難民条約の厳密な解釈にある。これが補完的保護と同様の制度で難民認定をしている他国との大きな数の違いを生み出している。現在でも、難民不認定に対する不服申し立ては追加事由がなければできないから、運用が大きく変わる可能性は低い。ただ、何れにしても難民受け入れに消極的である国であることは間違いない。申請者の中には難民資格以外でも在留可能な者もいるため、30近くもある在留資格を簡素化し、体系的な「移民政策」をきっちり打ち立てることが重要だ。
2024年6月9日 18:57 』