中国、国家安全を徹底 天安門事件から35年
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM079US0X00C24A5000000/
『2024年6月4日 5:00 (2024年6月4日 8:34更新)
中国で民主化を求める若者らを当局が武力で鎮圧した1989年の天安門事件から4日で35年となった。国家安全を最優先する習近平(シー・ジンピン)指導部は海外で著名活動家の監視を強め、国内ではスパイ行為の摘発へあらゆる手段を駆使する。外資企業のビジネスにも影響が出ている。
▼天安門事件 1989年6月4日、中国・北京の天安門広場に人民解放軍が突入。民主化を求めて広場や周辺に集結していた若者らを排除し、多数の死傷者を出した事件。党総書記を務め、学生運動に同情的な立場を示していた胡耀邦氏が同年4月に死去したことをきっかけに起きた。中国本土では最大のタブーとなっており、毎年、発生日は厳戒態勢が敷かれる。…
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『スマホやパソコン検査へ規定整備
中国当局は5月下旬から国内で事件の遺族や過去に民主化運動を支援した弁護士らに対する監視や移動制限を強め、追悼活動の封じ込めを狙う。SNSなどのネットを中心に情報の統制も徹底している。
スパイ行為の定義を広げて取り締まりを強化した改正「反スパイ法」の施行から1年となる7月1日、法執行の手続きを定めた規定を施行する。この規定にはスマートフォンやパソコンなどの電子機器の検査を盛り込んだ。
具体的には、国家安全機関は緊急時に責任者の許可を得た上で警察証などを提示すれば検査できると定めた。改正反スパイ法にも同様の内容が含まれていたが、SNSなどでは、外国人や中国人が中国入国時にスマホやパソコンなどの検査を受ける可能性があるとの見方が広がった。
スパイ摘発などを担う国家安全省は5月下旬にSNSの公式アカウントで「ばかげた主張」などと批判し、一部の西側諸国は中国人の入国に際して強制的にスマホの検査などを実施する事件が日常的に起きていると反論した。
相次ぐ研究者「失踪」、海外で活動家監視
中国では日本の大学で働く中国人研究者が一時帰国時に失踪する事案も相次いでいる。神戸学院大は3月、胡士雲教授が23年夏から消息不明だと明らかにした。4月には亜細亜大の中国籍の范雲濤教授が23年に一時帰国して以降、消息不明になっていることが分かった。
中国に19年に一時帰国しスパイ容疑で拘束された北海道教育大の袁克勤・元教授が反スパイ法違反の罪で懲役6年の実刑判決を受けていたことも5月に分かった。吉林省長春市の中級人民法院(地裁)が今年1月末、実刑判決を下したとされる。
中国ではスパイ容疑での邦人拘束も多い。当局は23年3月にアステラス製薬の現地幹部の日本人男性をスパイの疑いで拘束し、10月に逮捕した。中国は14年に反スパイ法を施行して以降、少なくとも日本人17人を拘束した。
中国当局の監視の目は海外にも及ぶ。英警察当局は5月、香港のスパイ活動を支援したとして、香港政府の英出先機関の幹部職員らを起訴した。香港メディアによると、職員は著名活動家の羅冠聡(ネイサン・ロー)氏ら英国に移った香港人の監視や情報収集に当たっていた。
香港政府は経済交流を目的に、ロンドンやワシントン、東京を含む海外主要都市に出先機関「経済貿易代表部」を設置する。20年の香港国家安全維持法の施行を受け多数の民主派が海外に逃れたが、移住先でも監視の影がつきまとう。
中国の国家安全省は3日、英秘密情報部(MI6)に協力してスパイ行為を行った疑いで中国の国家機関の職員2人を摘発したと発表した。2人は夫婦で、多額の報酬を受け取り、中国政府の内部情報を提供したとしている。
同省によると、今回摘発した男性は15年に中英交流事業で英国に留学し、MI6関係者から飲食などで便宜を受けてた。当初はコンサルティングの副業だったが、スパイの訓練を受けて重要情報を収集するようになり、妻も協力するようになったという。
習指導部は米国との対立が続く時代を見据え、14年に中央国家安全委員会を設立した。軍事など従来の安全保障に、経済や文化、科学技術、情報、資源などを含めた「総体国家安全観」という概念を打ち出し、国家安全を広く定義した。
14年の反スパイ法施行を手始めに、15年に社会統制を強化する国家安全法、17年に国家の安全のために国内外の「情報工作活動」に法的根拠を与える国家情報法を相次いで施行した。
米コンサル会社を締め付け
国家安全を何よりも重視するため、影響は企業にも及ぶ。米国などへのデータ流出を警戒し、17年からインターネット安全法、データ安全法、個人情報保護法の「データ3法」を順次施行し、ネット統制を強化した。外資企業は中国拠点と本社との間でデータ共有が難しくなった。
米コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニー上海事務所の従業員を取り調べるなど調査会社を締め付ける。欧米企業は投資の前に事業環境を幅広く調査することが多い。欧米企業の中国法人幹部は「中国での新規投資に必要となる十分な調査をできていない」と指摘する。
中国政府が発表した23年の国際収支によると、外資企業の対中直接投資は2000年以来、23年ぶりの低水準となった。日本の製造業大手の現地幹部は「出張者のスマホやパソコンの中国への持ち込みを厳しく制限するようになった」と打ち明ける。
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益尾知佐子
九州大学大学院比較社会文化研究院 教授
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分析・考察 政治が経済を締め殺す「人災」。中国ではそれが今後ひどくなる一方です。習近平政権は西側諸国が中国国内に「長い手」を伸ばして干渉してくる事態を恐れ、国家安全を名目として国家安全部による企業や軍の活動監視を合法化させてきました。しかしそれは同時に、14億の中国人のバイタリティを締め殺す行為でもあるわけです。パソコンやスマホの中身チェックは、公務員(≒党員)には以前からやってきたのですが、最近はこれを誰にでもやります、と開き直った状態です。
中国は口では自由貿易を推進しますと言ってますが、個人に対する日常的脅迫・強制と自由貿易は両立しません。中国経済の長期的衰退は避けられません。自爆です。
2024年6月4日 9:54いいね
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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貴重な体験談 自分は1988年に日本に留学した。その翌年に天安門事件が起きた。空から天が落ちた感じ。2か月にわたって、ほとんど外出せず、毎日、テレビで天安門から中継をみていた。ある日、南京にいる父親に電話して、父親から北京で何が起きているのかと聞かれ、話そうと思った瞬間、電話が切られた。それは中国社会の現実である。表面的に開放されたようにみえるが、実は限定的な開放に過ぎない
2024年6月4日 7:18 (2024年6月4日 8:55更新) 』