人口ボーナス期で見る有望市場は

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『人口ボーナス期で見る有望市場は

中長期的な視点から有望市場を特定する上で、人口
総数とともに生産年齢人口比率や老年化指数などとい
った年齢別人口構成を検証することが重要だ。

例えば
米国はヒスパニック系の人口増などが寄与し、他の先
進国と比較して市場拡大への期待値は優位にある。

アジアのそれは国ごとによって異なる。今後はイスラム
諸国、長期的に見ればアフリカ諸国も重要市場となり
得る人口構成が形成されると見込まれる。

人口ボーナス期で開拓市場を特定

経済の高成長を支える要件の一つとなるのが人口ボ
ーナス期だ。

人口ボーナス期とは、総人口に占める生
産年齢(15歳以上65歳未満)人口比率の上昇が続く、
もしくは絶対的に多い時期、若年人口(15歳未満)
と老齢人口(65歳以上)の総数いわゆる従属人口比
率の低下が続く、もしくは絶対的に少ない時期を指
す注。

生産に携わる人口が増加することで経済の労働
供給力を高めることが成長につながる。

また、高齢者
の比率が低いこの期間は社会保障費なども抑制しやす
い。

消費面では働く世代の拡大により住宅費や消費支
出全般の増加が見込まれる。

従って、各国・地域の今後の人口構成を鳥瞰するこ
とは、中長期に戦略的に開拓すべき市場を特定する上
で重要な材料となり得る。

国連は「世界人口見通し(WPP)」の中で、2100年
までの世界の年齢別人口を長期予測している。

従来5
年ごとの予測だったものが、「世界人口見通し2012」
(14年4月改訂)からは毎年の予測に変更された。


のとおり、同統計を用いて人口ボーナス期を算出し、
主要国の人口ボーナス期を3色で色分けした。

灰色は
① 「従属人口の比率が低下を続ける局面」、薄緑色は
② 「従属人口比率が低下、かつ生産年齢人口/従属人
ジェトロ海外調査部国際経済研究課長 椎野幸平
ロが2倍以上の期間」、緑色は③「生産年齢人口/従
属人口が2倍以上の期間」である。

②期間は人口ボー
ナス期が最も活発化する時期と位置付けられる。

表中にある老年化指数は、若年人口に対する老齢人
ロ比率(老齢人口/若年人口)を示す。数値が高いほ
ど高齢化が進展していることを表す。

米国は高齢化進展に歯止め

主要国・地域の人口構成を見ると、先進国の中では、
日本は05年に既に人口ボーナス期(緑色の③期間、
以下同じ)が終了(薄緑色の②期間は1992年に終了)
し、従属人口比率は15年で39%、30年にはほぼ
43%と、先進国平均(39%)よりも高くなることが見
込まれる。

加えて、日本の老年化指数は15年2.1、30
年2.5と先進国平均(1.4)よりも高く、先進国の中で
も少子高苗令化が特に進行する。

一方、米国は14年まで人口ボーナス期が継続した
(②期間は08年に終了)。

老年化指数は30年でも1.1
にとどまり、先進国の中では高齢化の進展がゆるやか
な点が特徴だ。

出生率の高いヒスパニック系などの人
口増により、高齢化の進展が抑制されるとみられる。

東欧・ ロシアを除く欧州は10年に人口ボーナス期
が終了(②期間は99年に終了)。老年化指数は15年
1.2、30年1.6と日米の中間に位置する。

アジア諸国の人口構成は多様

アジア地域は各国の人口構成が多様である。

中国を
見ると、34年まで人口ボーナス期が継続する(②期
間は10年に終了)。

しかし、老年化指数は15年の0.5
から30年には1.0と上昇、新興国平均0.4を大きく上
回り、新興国の中では高齢化が急速に進展する。

ASEAN全体の人口ボーナス期は41年までと、中
58 2015年3月号ジェトロセンサー
AREA REPORTS

国よりも長期に継続する。

うち、先進国と同等
の所得水準にあるシンガポールでは28年に人
ロボーナス期が終了し、30年には老年化指数
が1.4と欧州(東欧・ロシア除く)並みとなる
見込みだ。

ASEAN各国の中で高齢化が早まるのがタイ
だ。

タイの人口ボーナス期は、31年(②期間
は14年に終了)に終了する。

特徴的なのは、
老年化指数が30年に1.4と中国を上回り新興
国の中で急速に高齢化が進展する国の一つにな
ると予測されることだ。

今後、成長制約のー要
因となることが懸念される。

今後、本格的な人口ボーナス期を迎えるのが
インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィ
リピンである。

インドネシアは44年、マレー
シアは50年、ミャンマーは53年、フィリピン
に至っては62年まで人口ボーナス期が継続す
ると予測される。

老年化指数も30年の時点で
はいずれも0.5以下となる見込みだ。

加えてインド、バングラデシュ、パキスタン
が、長期の人口ボーナス期を迎えることになるく

これら3力国は人口の絶対数が多いことも魅力
で、15年時点でインドは13億人、バングラデ
シュ、パキスタンは2億人に迫る人口を抱える’

長期的にはアフリカ市場に魅力

アジア地域以外では、メキシコ、ブラジルが
現在、本格的な人口ボーナス期を迎えている。

中南米
地域全体では33年まで継続する。

同様に、中東地域
もトルコ、イラン、サウジアラビアなどが本格的な人
ロボーナス期に入っている。

トルコは37年、イラン
は44年、サウジアラビアも49年まで継続する。

そして、長期的な視点から注目されるのがアフリカ
諸国だ。

30年前後から本格的な人口ボーナス期を迎
えることが予測される。

南アフリカ共和国は25年、
エジプトは33年から、それぞれ②の期間に入るとみ
られる。

アフリカ全体では人口ボーナス期が89年ま
でゆるやかに続くようだ。

世界主要国の人口構成を概観すると、いくつかの特
徴が見られる。

第1に、先進国の中では米国の人口ボ
ーナス期が他の先進国より長く、かつ高齢化の進展が
主要国・地域の人口ボーナス期
(単位:万人、%)
人口 (2015 年) 老年化指数 人口ボーナス(薄 緑色期間)終了年 人口ボーナス (緑色)終了年
15 年 n年 “年 40 年 ”年
日本 12,682 2.1 2.3 2.5 2.8 2.9 1992 2005
米国 32,513 0.8 0.9 1.1 1.2 1.2 2008 2014
欧州(東欧・ ロシア除く) 45,062 1.2 1.3 1.6 1.9 1.9 1999 2010
フランス 6,498 1.0 1.1 1.3 1.5 1.5 1989 1989
英国 6,384 1.0 1.1 1.3 1.5 1.5 2007 2007
ドイツ 8,256 1.7 1.8 2.2 2.6 2.6 1986 2007
東欧•ロシア 29,250 0.9 1.0 1.2 1.4 1.5 2010 2022
ロシア 14,210 0.8 0.9 1.1 1.1 1.2 2009 2025
アジア(日本除く) 398,473 0.3 0.4 0.6 0.8 1.0 2014 2038
中国 140,159 0.5 0.6 1.0 1.5 1.6 2010 2034
韓国 4,975 0.9 1.1 1.7 2.4 2.9 2013 2025
ASEAN 63,186 0.2 0.3 0.5 0.7 0.9 2024 2041
シンガポール 562 0.7 1.0 1.4 2.0 2.5 2012 2028
タイ 6,740 0.6 0.8 1.4 2.0 2.4 2014 2031
ベトナム 9,339 0.3 0.4 0.7 1.2 1.6 2016 2041
インドネシア 25,571 0.2 0.2 0.4 0.6 0.8 2026 2044
マレーシア 3,065 0.2 0.3 0.4 0.7 1.0 2040 2050
ミャンマー 5,416 0.2 0.3 0.5 0.7 0.9 2029 2053
フィリピン 10,180 0.1 0.2 0.2 0.3 0.4 2050 2062
バングラデシュ 16,041 0.2 0.2 0.3 0.6 0.9 2032 2051
インド 128,239 0.2 0.2 0.3 0.5 0.6 2040 2060
パキスタン 18,814 0.1 0.1 0.2 0.3 0.5 2047 2072
中東•中央アジア 40,011 0.2 0.2 0.4 0.5 0.8 2035 2045
トルコ 7,669 0.3 0.4 0.6 0.9 1.3 2022 2037
イラン 7,948 0.2 0.3 0.5 0.8 1.3 2031 2044
サウジアラビア 2,990 0.1 0.2 0.4 0.8 1.2 2034 2049
中南米 63,009 0.3 0.4 0.6 0.8 1.1 2022 2033
メキシコ 12,524 0.2 0.3 0.5 0.9 1.2 2027 2037
ブラジル 20,366 0.3 0.5 0.7 1.1 1.5 2022 2038
アフリカ 116,624 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 2089 (灰色)
エジプト 8,471 0.2 0.2 0.3 0.4 0.6 2041 2048
南アフリカ共和国 5,349 0.2 0.2 0.3 0.4 0.5 2044 2070
世界 732,478 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 2013 (灰色)
先進国 125,959 1.1 1.2 1.4 1.6 1.6 2013 2014
新興国 606,519 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 2015 (灰色)
注1:中位推計。先進国と途上国の定義は国連の定義に基づく
注2:灰色:従属人口(若年人口十老齢人口)/総人口の比率が低下を続ける局面。薄緑色:従属人口比率が低下、
かつ生産年齢人口/従属人口が2以上の期間。緑色は生産年齢人口/従属人口が2以上の期間
注3 :老年化指数は若年人口に対する老齢人口比率(老齢人口/若年人口)を示す
資料:”World Population Prospects: The 2012 Revision”(国連)を基に作成

遅いことが見込まれること。

第2に、アジア諸国の人
ロボーナス期は国よってばらつきがあり、今後、人口
ボーナス期を迎える国でかつ人口総数が1億人を超え
る国としてはインドネシア、フィリピン、インド、パ
キスタン、バングラデシュの5カ国が挙げられる。


3に、世界全体ではイスラム圏で今後、人口ボーナス
期を迎える国が増えることだ。

アジア地域では、イン
ドネシアやマレーシア、中東地域ではトルコ、北アフ
リカ地域ではエジプトなどがこれに該当する。

第4に、
長期的にはアフリカ諸国で本格的な人口ボーナス期を
迎えることが見込まれる。 83

注:人口ボーナス期をどう定義するかについては、以下三つの考え方が
ある。

①生産年齢人口が継続して増え、従属人口比率の低下が続く
期間、

②従属人口比率が低下し、かつ生産年齢人口が従属人口の2
倍以上いる期間、

③生産年齢人口が従属人口の2倍以上いる期間。

ジェトロセンサー 2015年3月号59 』