【アメリカに付くか、傍観者になるか】イスラエルvsイランで湾岸アラブ産油国が迫られる“選択”
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33783
『2024年5月16日
ウォールストリート・ジャーナル紙は、イスラエルとその後ろ盾の米国とイランとの緊張対立が今回のイランのイスラエルに対する報復で高まっているが、さらに高まるならば、これまで極力、巻き込まれないようにして来たペルシャ湾岸のアラブ産油国もどちらに与するか選択を迫られるであろうという解説記事‘Israel-Iran Confrontation Forces Gulf Powers to Choose Sides’を4月16日付けで掲載している。要旨は次の通り。
(TomasSereda/gettyimages)
サウジアラビアをはじめとするペルシャ湾岸のアラブ産油国は米国の地政学上のライバル寄りの立場を取ることを避けて来た。しかし、イスラエルとイランの大っぴらな衝突ではどちらを取るか強いられるであろう。
サウジとアラブ首長国連邦(UAE)は、米国とイスラエルが(イランの)ミサイルやドローンを迎撃するために両国の領空を使用することを拒否しているが、もし、イスラエルとイランの衝突がエスカレートし、米国を巻き込むならば、サウジとUAEは、米軍がこの両国からイランを攻撃することを認めてイランによる報復のリスクを取るか、イランにすり寄って傍観者の立場を取るかの厳しい選択を迫られるであろう。
今のところ、イランは米国を標的とせず、米国もイスラエルの報復に参加しないとは言ってはいるが、(イスラエルと)イランとの直接対決に米国がより深く関与すれば、湾岸協力会議(GCC)諸国が立ち回われる範囲がますます狭まることになる。
これまでGCC諸国は、米国がイランに対して強硬措置を取る場合に降りかかる火の粉への恐れと米国がイランに接近して彼等が米国に見捨てられる恐れとの間で揺れ動いて来ているが、近年、サウジとUAEは、イランとの対立緊張から宥和に舵を切っている。
サウジは、イランに対して経済協力と投資を提案することでイランがガザの衝突をより広範な衝突に転化することを抑止しようとしている。ここ数週間、サウジとUAEの政府関係者は、イスラエルとヒズボラの緊張緩和のためにヒズボラの関係者とも会っている。なお、サウジ政府高官によれば、ムハンマド・サウジ皇太子は、サウジ経済を改革する彼の野心的な計画の妨げになるとして戦争を望んでいない由である。』
『4月14日の(イランの)攻撃に対して米国、欧州、アラブ諸国の軍が協力したことは、米国とのパートナーシップの潜在的な価値を示したが、GCC諸国がイラン絡みの攻撃に晒されているにも関わらずGCC諸国とより正式な安全保障条約を結ぶことに対して何年もの間、米国がきちんと対応して来なかったことで、GCC諸国は米国のためにイランの砲火を浴びることを躊躇している。
CIAの元対テロ・ユニット長は、何カ月もの米国とフーシー派の手詰まり状況の後、4月14日の攻撃は中東でイランが米国と対等な勢力となることに近づいていることを示しており、米国がイランの軍事力を破壊しようとしても成功しないリスクがある、「そのことは域内の米国の同盟国によって認識されることとなろう」と述べている。
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ネタニヤフの狙いと誤算
まず、イスラエルとイランの報復の応酬だが、4月19日にイスラエルが限定的な報復を行い、イラン側が自重する姿勢を見せたことから、今回の衝突は終息する可能性が高まっている。しかし、イスラエルがイランの核開発を自国に対する脅威と見なしている限り、今後もイスラエルとイランの小競り合いは続くことになろう。
今回は辛うじて免れたが不測の事態が起きるリスクは無くならない。しかも、これまでの両国の応酬は核科学者の暗殺など非公然のものだったが、今回の出来事で公然化してしまい、より大規模な不測の事態が起きる可能性が高まった可能性がある。
さらに、今回の緊張の直接のきっかけとなったのはイスラエルがイラン大使館を空爆してヒズボラとの連絡役の革命防衛隊高官を暗殺したことだが、これは明らかにやり過ぎの挑発で、ネタニヤフ首相の個人的な事情が絡んでいると考えられる。つまり、辞任すると汚職問題で収監される恐れのあるネタニヤフ首相が、危機的状況を続けるため、政権維持のためのラファへの侵攻作戦が米国の反対で行き詰まっている中、イランとヒズボラを挑発してヒズボラからの報復を促し、ヒズボラの脅威を口実にレバノン侵攻作戦を画策したのではないか。
しかし、イランはネタニヤフの意図を読んで敢えてヒズボラを使わず、イラン本国からドローンと弾道ミサイルで攻撃したものと思われ、これはネタニヤフ首相にとり大きな誤算だったと想像される。保身のため危機を続けなければならないネタニヤフ首相は、再びガザ正面での紛争拡大を狙うであろう。』
『今回、イランがイスラエルの報復に自重したのは、ガザ情勢を巡って関係に亀裂が入っていると思っていた米国が全面的にイスラエルを支援し、米軍との衝突のリスクが高まった事。イスラエルが領空外から核施設の防空システムを攻撃する能力がある事で肝を冷やしたからであろう。
高まるイラン核開発の脅威
今回の危機は、これで収拾に向かうとみられるが、ガザの衝突に国際社会が気を取られている間にイランの核開発は進んでおり、早晩、放置できない段階に至るであろう。その時に本当の中東の危機が始まる。
GCC諸国はイスラエルとその後ろ盾の米国とイランの間の軋轢に巻き込まれたくないが、これまでは米国の安全保障上の傘を信じて、イランと対立的な関係を維持してきた。しかし、米国の中東からアジアへの米軍の再展開が進む中、米国の安全保障の傘は閉じられようとしたので彼等は動揺してイランとの関係改善、自国の軍備の増強、ロシアや中国との関係強化に走り出していた。しかし、昨年の10月以来のガザの衝突により、当面、米軍が中東から撤退するのは困難となった。
米軍の再配置は、日本の安全保障にとっても無関係ではない。米軍が全世界的にアジアに再展開しようとしたのは、台頭する中国の脅威に対抗するためであるが、ウクライナ問題、そしてガザ紛争で米軍のアジアへの再展開は困難になっている。日本、韓国、台湾の自助努力がより求められるであろう。』