BHP・アングロ大再編 地政学にらんだ巨額M&Aに
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2800E0Y4A420C2000000/
『2024年5月7日 5:00
オーストラリアの資源大手BHPグループによる英アングロ・アメリカンに対する388億ドル(約6兆円)の買収提案は、およそ10年ぶりの資源メジャーの大再編だ。
地政学リスクへの対応や脱炭素といったキーワードが満載で、日本企業も需要家である川上資源の寡占に対する対策など難易度が高く投資銀行バンカーたちの腕の見せどころだ。低迷してきたM&Aマーケットの復調に金融業界も期待を寄せている。
BHP―アングロの
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『BHPや市場はアングロが複数のビジネスを抱えるために割安に評価されるコングロマリットディスカウントの状態に陥っているとみている。株価も競合に比べて低迷していた。
BHPは買収を機にプラチナや鉄鉱石部門を分離させる。主な狙いは世界の脱炭素に不可欠な銅の持ち分の拡大だ。電気伝導率の高い銅は、再生可能エネルギーやEV(電気自動車)に欠かせない。生成AI(人工知能)で電力消費量の負担も増える中で、銅需要が膨らむ。2社合わせると世界シェアは10%にのぼるという。
上場資源企業はリスクの高い鉱山をゼロから開発することに積極的ではなかった。ロンドンで鉱物資源に投資するアピアン・キャピタル・アドバイザリーのマイケル・シャーブCEOは「過去10年にわずか1つの銅鉱山しか開発されていない」という。「例えば各国政府が掲げるようなスピードでEVを普及させるには40年までに、3カ月に1つのペースで銅鉱山の開発に取り掛かる必要がある」と主張する。』
『アングロの筆頭株主は7%前後を握る南アフリカの政府系ファンド「パブリック・インベストメント・コーポレーション」で買収合戦のカギを握りそうだ。
南ア発祥のダイヤモンド、デ・ビアスグループを傘下に抱えるアングロは南アフリカと関係が深い。BHPもかつては南アに足場を持つ「ビリトン」社との統合を経ており、経営の出自は近しい。
「規模を考えると丸ごと対抗できるのは中東の政府系ファンドぐらいしか思い浮かばない」とロンドンの資源業界のベテランは話す。アングロは虎の子「デ・ビアス」の売却の検討に入っているとの観測もあり、これに中東ファンドが興味を示す可能性がある。』
『このほか、中国勢の動きも注目だ。アフリカ市場で先行してきた中国は、鉱物資源の確保にも積極的だった。先進国の資源会社は脱炭素の観点から石炭権益の取得には及び腰になるが、インド勢はこうした権益にも興味を示す可能性もある。』
『鉱物資源分野はいまや経済安全保障の大きなテーマの一つ。「中東を含む新興国勢が触手を伸ばすとなると米国政府の出方も気になる」といった声も資源関係者から聞かれた。
アングロが世界中に持つ資源開発のジョイントベンチャーでは、支配権変更があった場合についての「チェンジ・オブ・コントロール」条項がついているとみられる。ジョイントベンチャーを組む日本の総合商社にも「先買い権」が発生してくるケースもありそうだ。
とにかく規模が大きくその影響は世界に及ぶ。金融機関は鉱物資源の争奪という地政学の構図も踏まえた助言が求められる。
BHPは今回、UBSとバークレイズを買収助言のアドバイザーに指名した。アングロは米独立系で飛ぶ鳥を落とす勢いのセンタービュー・パートナーズとゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーをすでに雇い入れた。23年のM&A手数料のトップ10のうち半分はすでに売り切れ状態だ。この2社陣営にいないバンカーたちは必死に汗をかいて対抗案を検討している。
(ロンドン=山下晃)』